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238.そして、ヤマト領地の準備は進む

 正式に公爵位を持ち、カズキ・ウォン・ヤマト公爵として、新領地であるヤマト領の領主になって半月ほど経過した。

 その間に、王都民への発表などもあったが、やはり一番の話題はフローリア王女との婚約であった。とはいえ、王都民にとって俺とフローリアの仲は、実は周知の事実のように知れ渡ったいた。なんせ憩い広場をはじめとして、いたる場所で俺はフローリアと一緒に過ごしているのを目撃されている。俺自身も最近Sランクに昇格した冒険者としても認知されている。なので王都民としては、


「やっと発表されたんですね。おめでとうございます!」


 という感じでの受け取られ方が多かった。おまけに中には、


「では次はミレーヌ様ですね。ミレーヌ様との発表はいつですか?」


 などどいう事を聞いてくる人も。実際王都でのんびりしている時は、ミレーヌやエレリナ、ミズキやゆきとも一緒にいるのだが、一番懐くように抱きついてきたりしてるのはミレーヌだったからな。

 その辺りの順番やタイミングは、ヤマト領が正式に開かれてからだ。まあフローリアとの結婚もそうなんだけど。


 ……で、そのヤマト領。

 仮名で“ヤマト洞窟”としていたが、領地の正式な発表を気に正式な名称となってしまった。

 またヤマト領地の川岸、西側に関してだがそこも大々的にヤマト領となることになった。そちらは未開拓な森林がかなりの規模で広がっており、今まではグランティル王国の領土であったが、今回ヤマト洞窟のさらに南西にみつかったオーク種の棲み家付近までをヤマト領という事になった。

 これにより洞窟と、その周辺に関わるクエストはヤマト領に出来る冒険者ギルドで、自由に管理することが可能となった。それに関しては、先立ってユリナさん同行で洞窟も行ったおかげで、既にどの程度の規模のクエストが基本クエストとして提示できるかなどの見積もりをしているらしい。

 ちなみにこの拡張した西側部分だが、ヤマト領に沿って流れる川の対岸から森林手前までの部分をバフォメットの守護範囲にしてもらっている。というのもヤマト領の東側は、かなりの範囲でバフォメットが守護しているため、めったに魔物は出ない特性があるのだ。洞窟の方までひろげきってしまうと、そちらで可能なクエストにまで影響がでてしまと思われるからだ。なのでヤマト領で受けられるクエストは、西側にかける橋をわたって森林へ向かうのが基本となる。

 そんなヤマト領へ、およそ20日ぶりほどに行ってみたのだが──


「領主様、こんにちは」

「あ、ヤマト公爵様」

「こんにちは、公爵様」


 などと領主とか公爵とかしっかり認知されており、元々基礎工事時期から世話になっている業者さんは無論、将来こちらに移住してくる予定のある宿屋や食堂の人達、しいては王都からきた旅人などからもそう呼ばれるようになった。

 今日は一人できているのだが、以前よりも向こうから率先して声をかけてくることが多い。おまけに大半の人がちゃんとこちらを向いて丁寧に挨拶をする。やはりまだ慣れないが、もう今後は本当に慣れていかないといけないのだな。


 領内に走る王都とミスフェアを結ぶ道はほぼ整備されおわり、その道沿いにある施設も基礎工事が終わっている状態だ。その中でもいち早く仮設施設をたてていた宿と食堂は、既に本運営可能なちゃんとした建物が建っていた。その区画では魔石を使っての上下水道も整備されており、実際に工事関係者だけじゃなく旅の者達へも使用をさせていた。

 とりあえず宿屋を見てみようかとそちらへ足を向けたとこと。


「カズキさんっ!」

「え? ミレーヌ?」


 宿屋の入り口から小柄な女の子が、満面の笑みを浮かべ駆けてきてそのまま抱きついてきた。相手がミレーヌだとわかったのでもちろん受け止めたけど、え、なんでいるの?


「お久しぶりです、カズキ──いえ、ヤマト公爵様」

「ちょ、エレリナっ。いままで通りカズキ呼びしてよっ」

「ふふっ、冗談ですよ。でも、こういった公共の場では、公爵呼びしたほうがよろしいかと思いまして」

「あー……、まあそうかもしれないか」

「もちろん、将来は名前で呼んでなんら問題ない状況になるかと思われますけどね」

「え、あ、いやそれはその」


 少しばかりからかうように言うエレリナに、少しばかり困ってしまう。そんな俺達のやりとりを見て、ミレーヌが頬をふくらましてこちらを見る。


「カズキさん? 私に抱き付かれているのに、そんなにエレリナがいいのですか?」

「あ、いや、そういうのじゃなくて……」

「すみませんミレーヌ様。ヤマト公爵は自分の想いに素直なんですよ」

「ちょっ、エレリナ、何を言ってるの!?」


 めずらしくちゃかすようなエレリナの発言に驚く。だが、その笑顔は楽しんでいるのがよくわかり、思わず声も尻すぼみになる。

 そしてそんなエレリナをみるミレーヌは、むーっとふくれながらもすぐ「ぷっ」と破顔し、エレリナもニコリを笑顔を返して二人で笑いあう。あー……からかわれた。


「ひさしぶりですねカズキさん」

「だね。といっても20日ほどじゃないか? というか、なんでヤマト領にいるの?」

「カズキさんがフローリア姉さまと婚約発表して、それでかまってくれなかった寂しい私は、ついつい愛しい人の思い出の場所へと足を向けてしまいまして……」

「いやいや、なんか俺ヒドイ人ぽくない? そんなじゃないよね? ね?」


 無論からかわれてると分かっているけど、年下の女の子にそういわれるとどうも落ち着かない。それにまあ、フローリアとの婚約を含めた色々で、皆にあえなくなっていたのは事実だし。


「冗談ですよ。単純にカズキ様が急がしく会えない寂しさを紛らわす為、将来自分達が住むことになる地を見ておきたいと思い足を向けました。今ならまだ建物も少なく、領地の端々まで見渡せますので、聞いていたお話などを元にどこにどういったものを、という構想を私が勝手に思い描いていたりしただけです」

「そうなのか。会えなかったのはごめんね。でも、その構想は俺も聞いてみたいな」


 俺一人での構想では、はやり男性向きというか俺向きというか、老若男女わけ隔てなく向き合った構成にするのは難しいだろう。単純に若い女の子とか奥さんが喜びそうな施設ってだけでも迷うし。


「エレリナも、何か領地構想であるなら言ってくれ。まだ大半が基礎工事が終わっただけで、十分考えを反映させることができるから」

「わかりました。何か思いつきましたら報告します」


 そう言って頭をあげるエレリナ。うーん、こういう公共の場にいるときは、エレリナからの対応はこういう上下関係がわかる問答になってしまうんだな。とりあえずしばらくは仕方ないか。


「それで、ミレーヌは何か思いついたこととかある?」

「はい。この道なんですが……」


 そう言って、領地の中央で東西に走る道を指差す。王都とミスフェアを繋ぐ道と交わるヤマト領の大事な十字道の横棒だ。その両端には、エルフの里の神木からもらった苗木が増えられており、このヤマト領を守護する祝福の樹となっている。


「この東西の祝福の樹ですが、旅人達の間では既に話題になってます。両方の樹にお参りをすると、その旅では加護を授かり無事に目的地に着ける──と」

「ふむ。まあ、この樹は特別だからな。あながち本当の事なんだろうけど」

「それでですね、旅の者達が東西の端にある祝福の樹を両方お参りする事を、この領地では習慣づけてみるのはどうかと。例えばこの道の両脇にいろんなお土産屋や飲食店をだし、ただ道の端にある樹にお参りをするだけじゃなく、その移動過程にも意味をもたせてみるとか」


 そう言ってどうでしょうかと俺の顔を見る。実際のところ、俺もそれに関しては考えてはいたが、よもやまだ11歳のミレーヌにそう進言されるとは少々驚いた。

 そんな俺を見ていたミレーヌは、魔眼の影響なのか俺の考えになんとなく気付いたようだ。


「私が進言するまでも無く、カズキさんは既に考えていたようですね」

「いや。確かに考えていたけれど、こうやってミレーヌからも言われたことで、自分のやりたかったことに一層の自信がついた。これで正式に計画を進められるよ。ありがとうミレーヌ」


 そう言って笑顔をむけるミレーヌを優しくなでる。それで少しばかり翳ってた顔が、満面の笑みになって返ってきた。うん、やっぱりミレーヌは笑っている顔が最高にかわいい。


 この後、三人で祝福の樹をお参りした。まだ小さい領地だが、やはり往復するとなるとそこそこの距離がある。これはお参りだけした人を対象にした、両端と中央付記に定期停車する馬車のような乗り物を用意して、運営してみるのも手か。いや、停車駅をもう少し増やしてもいいな。お参りだけする人、特定の店に行きたい人、じっくり道をあるいていたい人。それら全てにちゃんと意味があるのだろうから。

 その辺りを考えながら、とりあえず今日はこれで戻るということになり、俺は王都へ帰ることにした。ミレーヌはどうするかと聞いたが、このままもう一日すごして明日ミスフェアに戻るとか。ならば明日また来たほうがいいかと聞いたのだが、


「大丈夫ですよ。ホルケと一緒に楽しく帰りますので」


 と言われた。ああ、そうか。ホルケとかダイアナでやってきたのか。なら日帰りも可能だし、なにより安全だ。なので俺は安心して王都へ戻ることにした。

 ミレーヌもだいぶ特異な立ち位置が普通になってきた感があるかもしれんな。




 戻ってきた王都では、相変わらず色々なおめでとう挨拶で迎えられる。もう既に何日か経過したし、かなりの人に祝われたけど、まだまだ言われるのかな。

 そんな事を思って向かったのは、王都の商業ギルド。冒険者ギルドへはよく顔を出すが、こちらはあまり行ってない。だが、今後を考えるとこちらもかなり行くことになるだろう。

 そう思って建物の中へ入ると。


「あっ、カズキくん──じゃなかった、ヤマト公爵」


 受付から呼び止める声が聞こえた。そう、エリカさんだ。

 ここに来たのはあることを聞きたくて来たのだが、エリカさんがいると話しやすいからありがたい。でもまあ、さすがにここでも公爵呼びになってしまい、気恥ずかしい感じが否めない。エリカさんは職業柄こういった呼び名変更とか慣れているらしく、特に含むような様子はみられない。


「お疲れさまです。以前話した事ですが、どんな感じですか?」

「ふふ、すごいですよ。やっぱりフローリア王女との婚約の影響か、発表後はかなり増えてます」


 そういって色々書かれた紙をみせてくる。そこに書かれてりうのは、ヤマト領地への移住希望者のリストだ。領地を開くことは以前より知れ渡っており、少しは希望者がいた。というのも、その希望者は旅行者の話から、ヤマト領の立地や状況を明るいと判断した、先見の明がある人たちだ。

 だが、当たり前だが普通はそう簡単に移住希望なんてしない。王都の人達で、自分達の家が既にあるのならば当然考えるまでも無いということだろう。借家生活をしている人でも、いきなり生活環境の変化に困ると判断して、移住希望を出すようなことはなかなかしない。

 結果、ごくごく一部の人だけしか、当初は移住希望をしていなかった。


 だが状況は一変。

 フローリア王女が婚約し、その相手が領主となれば当然フローリア王女が移り住むという事に。そうとなれば話は違う。王女が棲むべき場所が、不便なはずがない──と。おまけに新領主のヤマト公爵は、実はものすごい財を所有しており、それをふんだんに使っての領地運営をするとの噂が瞬く間にひろまった。おそらくは王城での一件で、沢山の浄化の魔石や魔輝原石を所持していたことから広まったのだろう。

 そこへ旅人たちで話されていた祝福の樹と祝福の地の話、既に魔石で浄化された水により精霊が集う清い場所になっているとの話。そういったことを総合し、瞬く間にヤマト領への移住希望者は増大した。

 人数比率からしてまだ猶予はあるが、話がもっとひろまってしまうとそのうち当初予定していた領地民人数うには達してしまうだろう。

 とりあえずは正式に運営するまで、居住地域の拡張はするつもりはないが、将来的にはたぶん進めることになるだろう。


「それでヤマト公爵。私達が住む場所は大丈夫なのでしょうか?」

「うん、それは心配しないでいいよ。エリカさんやユリナさんは、俺達が住むのと同じエリアに、独身寮とかを建設してそこに……」

「独身寮……独身……」

「ちょ、エリカさん? ここでそんなモードに入らないでっ」


 あわてて声をかけると、すぐさまこちらをキッとにらみつけてきた。うっ、なんか怒らせたかな?


「カズキくんっ!」

「は、はい!」


 うわ、公爵呼びじゃなくカズキ呼びだ。こっちのが慣れてるけど、迫力あるな。


「いいわね? 私とユリナへのあの(・・)件! 期待してますからね!」

「……あ、ああ! はい、もちろんです!」


 エリカさんの剣幕に押されるも、なんとか返事を返して落ち着いてもらった。

 そう──ユリナさんとエリカさんには、ヤマト領へ来た人のなかからよさげな男性をみつけててあげるという話だ。

 一応重要案件だとは思ってたけど、この様子を見るに違う意味でかなりの重要案件なのかもしれないな。



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