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236/397

236.そして、負けるわけがない勝負

 2つめの勝負を言い渡された。召喚獣による勝負だ。

 なんというか、相手の貴族嫡子……特にグラニスのフラグがぺきんぱきんと、片っ端から折れまくりの状況だ。何においても負ける気は無いが、よりにもよって召喚獣ときたもんだ。


『ヤオ。待機状態のままでいい。聞こえてるか?』

『……おお、なんじゃ主様か。もう用事とやらはすんだのかえ?』

『その事なんだが──』


 俺は念話でこれまでの経緯を話した。その中でも、グラニスから召喚獣での勝負を持ちかけられた話を聞かせた瞬間、『ほっほぉ~』と楽しげな声が聞こえた。顔は見えないけどニヤニヤ顔が目に浮かぶ。

 召喚獣での勝負ということで、場所を先ほどまでいた広間から城内闘技場へ移動。俺達以外にもフローリアや国王様王妃様は無論、審判のフリッツさんにローグマイヤさん、その他ギャラリーの人々もほとんどやってきた。

 闘技場には俺とグラニス率いる嫡子達、そしてフリッツさんが立っている。

 フリッツさんが俺とグラニスを見て、さっと右上で掲げて叫ぶ。


「これよりフローリア王女との婚約をかけ、召喚獣勝負を開催する!」


 わあっと闘技場周囲の客席から完成があがる。囲まれた状況での歓声は、それだけで聞くものを無駄に緊張させるものだ。そのため向かいにいる嫡子達の大半も、雰囲気に飲まれそうになっている。唯一グラニスだけは強くこちらを睨んでおり、周りの声など耳に入ってない様子だ。どうやらフリッツさんの勝負開始の声もきこえてなかったようだが、審判のために後ろに下がったフリッツさんを見てようやく開始を知ったようだ。


「ヤマト公爵。先ほどは遅れをとりましたが、今回はきっちりと勝たせていただきます」

「あ、うん」


 どう返事をしていいのかわからず、曖昧な返事で返してしまう。

 それを見たグラニスは笑みを浮かべ、懐から今度は赤い魔石を取り出した。


「……我の呼び出しに応じよ。(いで)よ、サラマンダーッ!」


 叫ぶグラニスの前に広がった魔方陣の中、炎の塊が出現する。すぐさまそれは人より少し大きいほどの炎となり、最後に姿を変えてそこに呼び出された。


「見たか! これが俺が従えている炎の精霊、サラマンダーだ!」


 その声と共に闘技場内に、驚きの声が響き渡る。それにより、また気を良くしたグラニスが勝ち誇った顔でこちらを見てくる。

 ──だが。俺は……いや、正確には俺とヤオは、かなり呆れ顔で目の前のソレを見ていた。ヤオの顔は見えないけど、絶対に今の俺と同じ表情をしているはずだ。


『なぁヤオ。これって……』

『うむ。まごうことなき“火トカゲ”じゃ』


 そう。今目の前に召喚されたコレは、何処をどうみても炎の精霊サラマンダーではない。というか、精霊ならたとえ下級でも普通は人間に見えないから。フローリアやミレーヌみたいな魔眼持ちで、その存在を看破できる素質があるなら見ることも可能だろうけど。あとはヤオみたいなかなりの上位種で神獣クラスなら、見えるからその力を借りるとか。

 まあどっちにしろ、今目の前にいるのはサラマンダーではない。


「ヤマト公爵、いかがなさいましたか?」

「いや、まことに申し訳ないのだが……」


 とりあえず事実を教えてあげたほうがだろう。まあ、場所が場所だけに公開処刑だけど。


「それ、サラマンダーではないよ。ただの火トカゲ……珍しいけど普通のモンスター」

「…………は? 何を言ってるんだお前は?」


 俺が負け惜しみでも言ってると思ったのか、全く取り合おうともせずに一笑に付した。

 ただ、周りの観客は先ほどの魔輝原石の事もあり、俺が何を言おうとしているのか興味があるようで静かになる。頃合をみはからって俺は言葉を続ける。


「まず、もし貴方が呼び出したモノが精霊であったのなら……それは我々人間には見えません」

「世迷言を……。見えているではないですか」

「ですから、それは見えている時点で精霊ではないのです」

「なっ、なぜそんなことが分かるんだ!」


 徐々に余裕がなくなり、ついには噛み付いてきた。んー……煽り耐性というか、メンタル弱いな。


「何故と言われても……その通りだから、としか。今ここにエルフがいれば、精霊については詳しいのでちゃんと明言してもらえるのですけどね」

「つまり、確固たる証拠もなくこちらに文句を付けたということだな。よもや私の召喚獣サラマンダーを見て、怖気づき話をすりかえようとしているのではあるまいな」


 ダメだこりゃ。貴族だからとおだてられて育った典型かな。俺みたいなプログラマー職の人間はかなり理屈バカなんで、こういう人種にはとことん言葉での暴力を浴びせて心を折ったりとか得意だけど、それはあまり今後の俺には望ましくない人間像だよな。まあ、さっくりと話を進めるか。


「……わかりましたよ。それでは、さっさと勝敗を付けましょう」

「はははっ、観念したようだな。ではこの勝負──」

「ヤオ、出てきてくれ」


 グラニスの声を聞き流してヤオを呼び出す。


「ふむ、ようやくの出番かの」


 俺の前に突如出現しゅるヤオ。その姿はいつもの人間スタイル。いきなり闘技場の真ん中に、10歳ほどの女の子が出現して周囲はざわめく。審判のフリッツさんも驚いているが、一番驚いてるのは目の前でその原初を見ている貴族の嫡子たちだ。


「なっ、なんだお前はっ!?」

「なんじゃと言われても、わしは主様の召喚獣じゃ。だから呼出しに応じて出てきたんじゃがの」


 腕組みをしてフフンっと不敵な笑みを浮かべる。その自信満々な瞳に気おされ、一瞬たじろぐもすぐに気持ちを落ち着かせて俺の方を見るグラニス。


「ヤマト公爵、私からの申し出は“召喚獣”と言ったはずです。こんな、どこの馬の骨ともわからぬ児女を呼び出すとは、いったいどういう了見ですかな?」

「……まあ、そう思われても仕方ないか。ヤオ、あの姿になってくれ」

「了解じゃ。では……よく見ておけよ、若造どもよ──」


 そう言ったヤオの周囲に一瞬風が渦巻く。その中でヤオが光りにつつまれた次の瞬間──


「なっ……なんだこれはああああああっ!?」


 グラニスの絶叫が闘技場に響き渡る。背後にいる嫡子たちも驚きの声をあげる。傍にいたフリッツさんは、日頃の精神訓練のおかげか声こそあげなかったが、口を大きく開いて驚きを隠せない。

 観客席からもとてるもない悲鳴のような声があがっている。むりもない、なんせ今目の前にいるのはヤオの本来の姿──八岐大蛇(ヤマタノオロチ)なのだから。

 闘技場の中央にドドンッと出現した多頭多尾の大蛇。その圧倒的姿を前に、闘技場内は客席もふくめ軽くパニック状態だ。……ちょっと、刺激強すぎたかな。

 そう思っていた時。


「狼狽えるな、静まりなさいッ!」


 一際大きな声が闘技場にひびく。その声により、闘技場内でおきていた喧騒がピタリととまる。

 声の方を見ると、貴賓席らしき場所にいるフローリアが立ち上がっていた。あそこから声を出したのだろうが、あの響き方を見るに魔力を乗せて聞いた者を落ち着かせる声を飛ばしたのだろう。勝負の前に鼓舞してステータスをあげたりするアレと同じ原理か。

 静かになった闘技場を見て、フローリアが着席する。それに倣うように、みな先程までいた場所へと戻り座りなおす。

 驚いていたフリッツさんも、ようやく視線を俺に向ける。お互い召喚獣を呼び出したので、形の上では勝負開始可能なのだが……という表情だ。


「改めて紹介します。こちらが私の召喚獣である八岐大蛇、名前をヤオと言います」

「……こっ、こんな……こんなの……」

「いかがいたしますか? そちらの希望通り召喚獣での勝負をしてもかまいませんが。とはいえ……」


 俺はちらっと視線をグラニスの召喚獣に向ける。そこにはわかりにくいけど、平伏してもう何もしませんという姿勢になっている火トカゲがいた。

 まあ、同じ爬虫類であっても、普通のモンスターと神獣とか霊獣と呼ばれる存在では、本当の意味で天と地ほどの差がある。


「そちらの召喚獣は、もう戦う意志がなさそうですが」

「なんだと! おい、何を伏せているんだ! 戦う気がないのか!」


 主であるグラニスに叱咤されるも、まったく動こうとはしない火トカゲ。もはや本能的な部分で、主よりも目の前にいるヤオの方が優先すべき相手だとわかっているのだろう。


『主様よ、少しよいか?』

『うん? どうした』

『この目の前の火トカゲじゃが、我の力でこの若造より解放してやってもよいか?』

『できるの?』

『無論じゃ。やはり同系統の種族が、このような者に従っているのは耐えられぬのでな』

『わかった、ヤオの思うようにしていいよ』


 俺の言葉を聞いてヤオは、その視線をひれ伏す火トカゲに向ける。じりじりとそちらへ進む姿は、人間であれば一歩また一歩と、死刑宣告が形となってにじりよってくるようなものだろうか。

 その雰囲気に圧倒され、グラニスが離れる。それにより、完全にヤオと火トカゲだけがにらみ合う状態になった。

 少しだけの間。音もなにも聞こえなかったが、ヤオが何かを伝えたようだった。そして、次の瞬間。

 ヤオの尻尾の一つが持ち上がり──火トカゲを押しつぶした。


「なっ!? な、な、なっ……」


 狼狽えるグラニスの声。息を呑む闘技場内。そこへ俺の脳内にとどくヤオの声。


『とりあえずアヤツの魂を抜き出して、肉体を消滅させた。これで若造との主従契約は消えたじゃろ』

『そうなのか? それでその魂は……』

『後で我の一部を使って体を復元してやり、そこに戻してやるつもりじゃ』

『なるほど。ご苦労様』


 ゆっくりと持ちあがる尻尾の下は。おもいきりたたきつけられてえぐられた地面のみ。そこには火トケガの死体すらなかった。ヤオいわく高密度な魔力で、召喚獣として構成されている身体を消滅させたらしい。なんかLoUになかった仕様がまだまだあるな。

 フリッツさんは何もない地面を見て、そして膝からくずれ落ちるグラニスを見る。

 そして高々と俺の方に手をあげて、


「この勝負も、ヤマト公爵の勝利!」


 そう宣言する。どうみても俺の勝ちではあるが、こういった勝敗の宣言というのはきちんとしておかないといけないからね。




 さてどうだろうか。

 2回ほどの勝負だが、その内容は圧倒的だっただろう。実際観客はこの勝敗の行方を迷っている人なんていない雰囲気だ。

 なのでそのままもうあきらめてもらえると嬉しいんだけど。


「まだだ……まだ、まだなんだっ!」


 それでも諦められないのか、癇癪をおこしたように叫ぶグラニス。後ろにいる取り巻きの嫡子たちも、さすがにもうダメだろうって雰囲気を漏らしているのに。

 だがグラニスはそんな事を気にせず、無理やりだが笑みを浮かべてこちらを見る。


「やはり男と男の勝負は、剣での決着が望ましい。ヤマト公爵よ、この申し出受けてもらえるかな?」


 そういって腰に下げた剣に手をそえる。シンプルながらもきめ細かい細工がはいった鞘におさまったその件は、中々に立派な剣に見えた。


『ほぉ、主様よ。あの若造の持っておる剣は、持ち主と違ってなかなかのものじゃな』


 送還させて待機状態になっているヤオからの念話だ。さきほどの件で呼び出してしまったので、送還させたあとも成り行きを見たい言われたのでそうさせている。

 しかしまあ、いいかげんこれで終わって欲しいかな。


「その申し出を受けましょう。ただし、一つ条件があります」

「条件ですか? ハンデでも欲しいと?」

「いいえ違います。先程までの2勝負、その結果を無かったことにしてもかまいませんので、この剣での勝負を最後にしていただけませんか?」

「いいのですか? こちらとしては願ったりですが」

「はい。何故なら結果はかわらないのですから」

「……その思い上がりが命取りですよ」


 そう言って腰の剣を手に持ち、他の嫡子たちをさがらせる。どうやら一対一を望むようだ。それだけにあの剣に自身があるのだろうか。

 でもこっちだって、別に“思い上がり”ってわけじゃないんだけどな。

 ストレージから俺が一番好きな剣──いや、刀を出す。その為にまずは。


『//cc』


 キャラをGMに切り替える。一瞬にして、純白の鎧に身を包む。そして取り出すは──天羽々斬(あめのはばきり)


「なんだそれは! 卑怯だぞ!」

「何を自分の勝手な価値観を押し付けてるんですか。あなたも魔法でもなんでもいいから、行使すればいいじゃないですか。私はフローリア王女との婚約に、自分の持つ全てを使って挑む。そこに何の問題があるというのか。手加減をする、手を抜く、そんなことをしたらそれは、フローリア王女に対しての侮辱だ!」


 そう言い放ち、俺は天羽々斬を抜き高々と掲げる。

 そのままそっと視線をフローリアに向けると、嬉しそうに笑顔を向けてくれた。少し照れくさかったけど、今言った事に嘘はない。思わずだけど、心から出た本心だ。

 それによって俺も気落ちが昂ったのだろう。天羽々斬をグラニスに向けて出た言葉は。


「俺の女に、手を──出すなッ!」



勝負話はあと1話続きます。

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