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235.そして、負けられない勝負

 フローリアの婚約者の座をめぐっての勝負という話になった。まさかの展開だ。

 なのにフローリアは、面白そうだと全力まっしぐらな笑みを浮かべてるし、両親である国王様と王妃様は、微笑ましい半分苦笑い半分の笑顔で娘を見ていた。いやいや、とめてくださいよ。


 まあ自分で言うのもなんだが、この世界においての勝負となると負ける要素がない。国王様や王妃様などの王族関係者には、俺はGMという呼び名の神の御使いだと思われているが、実際のところこの世界構築の基礎であるLoUを作った存在で、極論をいえば神と同意だ。フローリア達許嫁やヤオといった身近な人物はその辺りまで知っているので、こんな無茶な事を言い出したんだろうけど。


 ……ともあれ勝負なんだが。

 てっきり普通に試合でもして決めるのかと思ったが、どうやらそうではないらしい。無論そういった方面での勝負もあるようだが、他にも色々と競ってフローリアにふさわしい者を決めるとの事。

 さて、どういう方針なのかな……と思ったが、どうやら俺vs7人の貴族の嫡子らしい。うん、侍じゃなくて貴族嫡子。だからなんだってわけじゃないけど、見たところ1人がメインであと6人がサポートの取り巻きみたいだな。

 どうしたものかなぁと考えていると、騎士団長のフリッツさんがやってくる。この人、最初はちょっとした諍いがあったけど、根っから王家に忠実な家臣で、当時もフローリアを本当に心配したけっかでの事だった。あの後も何度か顔を会わせたりして、今ではすれ違うときに挨拶を交わすくらいの仲だ。

 そんなフリッツさんが俺と嫡子たちの間に立つ。どうやらこれから行われる勝負事での、公正な審判ということだろう。


「まずは、この勝負に参加する者達についてだが……」


 そう言ってフリッツさんは嫡子たちのほうを見る。ああ、なるほど。既に俺と7人との勝負だと理解しているのか。ならそれをもっと明示しておくか。


「騎士団長。発言よろしいでしょうか」

「はい。ヤマト公爵、何でしょうか」


 うっ、ヤマト公爵ってなれないな。フリッツさんも少し笑ってるような気がするぞ。


「よろしければこの勝負、私1人対あちらの方々全員という形式にしていただけますか?」

「なっ……なんだと!?」


 驚きの声をあげたのは向かい合った嫡子たち。フリッツさんは「ふむ」と一言もらすだけで、俺が言い出すことをある程度予測していたようだ。


「そして、もし私が一度でも何か負けたら、それで私の負けとして下さって結構です」

「き、きさまっ! 我らを侮辱するのか!」


 あまりにもナメたハンデの申し出に、先程とは違う色の怒りを視線に乗せてきた。

 だが、ここは思いっきり知らしめておかないと、今後もこういった事が何度もあったら面倒だし。


「侮辱なんてとんでもない。ごく当たり前の事実を言っているだけだ」

「……ふざけやがって。いいだろう、そちらが申し出た条件を受けよう。それで負けたからと言って、後で撤回などしないでくれよ」

「そちらこそ覚悟をきめてくれ。その人数で挑んできて、俺に負けたとあったら今後恥ずかしくて外もあるけないぞ」

「っ! ……ふんっ」


 散々に煽りまくってみた。あまりこういう行為は苦手だが、ゲームや小説で出てくるやられ役へ投げるセリフとかを参考にした。まあ、こんな破天荒な事する人が少ないのか、あんな言葉でもかなり相手への挑発にはなったようだ。

 それと同時に周囲のギャラリーへの戒めでもある。ここまで言って、そのまま俺が勝ったりしたら今後は絡んでくるような人も出てこないだろうと。

 俺たちの言い合いがおさまったところで、フリッツさんが俺と嫡子たちを見る。そして、ざっと右手をかかげて宣言する。


「ではこれより、フローリア王女との婚約をかけた勝負を開催する!」


 その声に、周囲のギャラリーは城内隅々まで響くほどの歓声をあげた。




 まず最初の勝負は、裕福度合を競う勝負だった。

 いきなり地味な勝負だなぁと思ったが、貴族が誇るバロメータといえばまずは“富”か。でもどうやって見せればいいんだろうか。こっちはGMキャラのせいで、お金に関しては常に倉庫でカンストされてるんだけど。まあ、だからといって湯水のごとく使うと経済破綻するから、その事を知ってるのはやはりいつものメンバーだけだが。

 そう思っていると、勝負相手の嫡子の中でいつもリーダー的なふるまいをしている人が前へ出てきた。


「知っているとは思うが、改めて自己紹介をさせていただく。アンダート伯爵家の長男、グラニス・メルク・アンダートだ」


 そう言って丁寧にお辞儀をする。今まで何度か口汚く罵倒してきたけど、正式な勝負ということで居住まいを正したのだろう。……後、当然だけど知らない。

 俺も名乗り返したほうがいいのかとも思ったが、よくよく考えると今日ここにいる人は俺の爵位授与をはじめとした発表を見に来た人で、逆に知らない事が無礼だったりするか。そう考えているうちに、目の前の嫡子──グラニスは、手にさげた袋より魔石を取り出す。ん? あれって……。


「皆様、これをご覧ください! 我がアンダート家に受け継がれし宝──浄化の魔石です!」

「おおおおっ!!」


 ……あー、やっぱりねー。無論俺の反応は鈍い……というか、ほぼ無反応。それに対し、周囲の貴族たちはそれを見てザワザワとざわめきが起こる。

 俺にとって浄化の魔石は、水をきれいにする石でしかないのだが、世間での希少価値はケタ違いなんだっけ。一つあるだけでどれだけの財を有しているのか、と言わしめるほどとか以前聞いた気がする。

 んー……どうしようかなぁ。あ、この前取ったあれなんてどうだろう。そんな事を考えている俺を見て、グラニスはニヤリと笑みを浮かべる。


「どうしましたかヤマト公爵。驚いて声も出ませんでしたか?」

「あー、うん。驚いたかな。まさか浄化の魔石でそこまで自信満々になれるなんて」

「……ほぉ、随分な言い様ですね。では貴方はこれに勝るものを提示できると?」

「勝てると思うんだけど……これです」


 ストレージより取り出して、構えた両手の上に魔輝原石を出現させる。

 突然現れた大き目の魔石にグラニスもフリッツさんも、まわりの貴族たちも驚く。だが、その正体を図りきれないのか、判断に迷ったような声が聞こえてくる。


「なんですかコレは。確かに大きな魔石のようですが……」

「これは魔輝原石と言いまして……」

「まっ! 魔輝原石じゃとおおおおおおッ!!」

「へ?」


 突如、国王様たちの方から声が聞こえた。だが聞いたこと無い声だ、誰だろう。そう思ってそちらを見ると、慌てた様子で豪華なローブをまとった壮年男性がこちらにやってくる。誰かなぁという顔をしていると、傍にいたフリッツさんが、


「グランティル王国の宮廷魔導師、ローグマイヤ殿だ」


 とこっそり教えてくれた。おお、ありがとう。今度何かお礼するよ。

 そんな事をしている間に、その宮廷魔導師ローグマイヤさんは俺が抱える魔輝原石のすぐ側までやってきた。そして震える手を伸ばしこちらを見て、


「ヤマト公爵殿、こ、これに触れてもよいか?」

「どうぞ、ご存分に」

「おおっ、感謝しますぞ!」


 言うが否や撫でたり、臭いをかいだり、思いっきり顔を寄せて凝視したりした。そのうち舐めたりしないかとハラハラしたが、さすがにそれはなくてほっとする。

 しばらく魔輝原石を眺めていたローグマイヤさんは、ようやく深く息を吐いてすっと離れた。そしてゆっくりと、しかし丁寧な礼をする。


「ありがとうございますヤマト公爵。よもや、このような場で魔輝原石に出会えるとは夢にも思っておりませんでした」

「ローグマイヤ殿、この魔輝原石というのはどれほどの価値が?」


 聞こうかどうしようかと思っていると、フリッツさんが先んじて聞いてくれた。おそらくこの場にいる皆は、まったく同じ気持ちだったと思う。


「これに価値などは付けられぬ」

「そ、それじゃあ……」


 その言葉に少し焦りを見せていたグラニスが、嬉しそうな声をあげる。でも今の反応を見てればわかるよね。そういう意味じゃなくて……


「この魔輝原石は、魔石などとは比べ物にならない価値がある。その価値は計り知れぬ」

「なっ……それじゃあ、この勝負は……」

「当然ヤマト公爵の魔輝原石じゃ。そもそも、桶に組んだ水と海の水、どちらが多い? などと聞かれても、答えるのもばかげておるじゃろう」

「そ、そんな……でも、人々の役に立つのは浄化の魔石で……」

「あー。ちょっといいですか?」

「……何だ」


 頑なに負けを認めないグラニスに、さすがに面倒だなと思い少しランクを下げての勝負をすることに。桶と海では違い過ぎて納得できないなら、桶と大量の桶で勝負だ。

 そんなわけで──


「なっ……なんだそれはぁっ!?」

「ほおおお、ヤマト公爵よ。これはもしや全て……」

「ええ、これ全部──浄化の魔石です」


 取り出してみせたのはストレージにたんまり入っている浄化の魔石。既に随分領地に設置しているが、今後のことも考えて備蓄してあるのだ。ミズキに頼んでおいたら、クリンと一緒に無属性魔石を浄化の魔石に作り替えまくってて、手持ちだけでもまだ50以上ある。そのうち10個ほど取り出してみせた。

 その瞬間、勝敗が確定した。正確には、どう言い逃れもできないレベルで確定した。なんかアイテム増殖のバグやチートで勝ったみたいな状況だけど、あらかじめ所持していて勝ったのは本当だからな。


「この勝負、ヤマト公爵の勝利!」


 フリッツさんの勝利宣言で、まわりの貴族たちからは歓声と拍手があがる。どう見ても圧倒的な勝利だ。これで笑みを浮かべてないのは、目の前にいるグラニス率いる嫡子たちと、その家族と思われる貴族のみだ。

 さて、とりあえず勝利をした。これでもうあきらめてくれればいいんだけど……。


「……いいや、まだだ」


 そう言って更に忌々しとばかりに視線を向けてくるグラニス。そして、ふと笑みを浮かべる。何か策でもあるのだろうか。ビシッとこちらを指さして叫ぶ言葉は。


「次の勝負……私は、召喚獣での勝負を申し込む!」


 えー…………と思わずジト目になる俺。

 まさかの展開の後、まさかまさかの展開だ。

 何だ、今度はヤオをも呼び出さないといけないのか。今日は用事が済むまで待機してくれと言っておいたけど、まさかその用事に呼び出すことになろうとは。



この勝負話、もう少しだけ続きます

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