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234.それは、蒼然たる授与と発表なり

基本的に本作は、いわゆる「ざまぁ」系の展開は稀薄にしておりますが、今回は人物の立場云々を考えてどうしてもある程度の騒動にはなるだろうという考えのもと話が進みます。過度に酷い展開には今後もしませんが、今回と次回は少しだけそういった要素を感じてしまうかもしれないことをあらかじめ記載しておきます。

 王城へ呼び出された。別に悪い事をして出頭命令をうけたとかではない。

 新たな領地の整備が進み、正式に領地名に『ヤマト』と命名されると共に、俺にとっても大きな変化があるのだ。

 ──そう。爵位を授かることだ。

 当たり前だが、いくら新しく小さいとはいえ領主となるなら爵位は必要。普通であれば平民である人間が、いきなり爵位を得るにはそれ相応の……いうなれば国を強固支える功績でも打ち出さねば不可能だ。だが俺の場合、色々な要素があってそれはすっかり満たしている。

 まず、王都冒険者としての地位だが、いつのまにかSランクになっていた。通常キャラの“カズキ”はAランクだったのだが、これまでの行いや今後を考慮して昇格したらしい。

 そして次に俺個人の人間としての評価だが、これに関しては以前国王様と王妃様に会った際、直々にフローリアを頼まれている。またこの世界での“GM=神の御使(みつか)い”という事も認知されており、王室関係者からは「ようやく受けてもらえるか」と言われるほどだ。


 そんな訳で俺は今日、正式に爵位を授かるために城へやってきた。城の守備騎士やメイドたちは、既に俺が幾度も訪問してきているのを知っており、尚且つ王命により周知しているので軽い挨拶を交わして通り過ぎていく。

 だが問題は、今日の爵位授与が正式なものであり、城の謁見の間で行われることだ。

 なんせそこでは、理解を示してくれている王族や城の人達だけじゃなく、色々としきたりに細かい貴族も多く来るとのこと。

 まあ当然か。新規に用意される領地は、グランティル王国とミスフェア公国を繋ぐための中継となり、その価値も未明ながら確実に両国の結びつきを強くする重要拠点。その領地を治めることになる人物が、はたしてどんな者なのか皆興味深々なのだろう。おかげで俺は柄にもなく緊張している。


 あと、もう一つ大きな発表が。

 役位を授かった後、正式に国王よりフローリア王女との婚約が発表される予定だ。同時に、現在ミスフェア公国の領主であり国王の弟、アルンセム公爵の娘ミレーヌとも婚約することも発表される。

 正直、俺の人生でこんな状況は初めてだ。

 嬉しいか嬉しくないかで聞かれれば嬉しいのだが、そういう次元の話じゃないんだなぁと軽く現実逃避してしまう自分がいたりする。

 ともあれ、城内の控室となっている応接間で、今は着々と着替えさせられている。一応授与式では、爵位を授かる者として恥ずかしくない服装でという事らしい。……もちろん今日だけだよ。


「カズキ様、お待たせいたしました。謁見の間までご案内します」


 準備を終え、あとは待つばかりだなと思った所へ使いの騎士がやってきた。あれ、アデルさんじゃないか。そういえば副団長になったとか聞いたな。

 ついでなので謁見の間までの道中、少しだけ会話をした。こういう場合、規律正しく何も話さないものかと思ったが、国王から直々に俺の案内を言い渡されたようで、とてもきちんとした返事をしてくれた。

 まず今回集まった貴族方だが、領主に関しての報告は問題ないだろうとのこと。既に先んじて、王室が強く推薦する人物が領地を治める事を知らせてあり、今回の領主認定に関して不平を漏らすことは、王室への反意だという事案になりかねないとか。


 ただ、問題はもう一つの方。

 フローリアとミレーヌの婚約。特にフローリアはこのグランティル王国の第一王女。一人娘であり、他に兄妹がいないのであれば、当然王位継承権はゆるぎない物。いってしまえば、その王位を狙って、フローリアを射止めんとする貴族も少なくはない。というか、普通であればいて当たり前だ。俺達の感性からすればあまり気分の良いものではないが、王族というものはそういうものであり、貴族間での競争争奪はあってしかるべきなのだろう。

 ところが、行ってみればポッと出の俺が爵位をもって領主になり、さらにはフローリア王女との婚約をするとなる。その地位をと考えていた者達には、当然ながら猛烈な反発があるだろう。

 だがそれに関しても、ある程度の抑止力がある。例えば王位継承権。フローリアが俺の治める地へ来てしまえば、王位継承権がどうなるという話になりかねない。だがそれは、同時に“まだ健在な国王を差し置いて不敬な”という事にもなりかねない。無論、先を見据えた議論は必要だが、その件に関して国王は「ならば早々にフローリアと子をなして世継をよこしてはくれないか」と笑いながら言われた。これにはさすがに二の句が告げず、その場にいたフローリアも赤面した。以前会ったときも思ったけど、国王の性格はぜったいフローリアのちょっといじわるな部分の原点だよ。

 まあ、そんな訳で少々不安はあるけど……という心境で、いつしか謁見の間に到着。


「カズキ様、これより先は御一人でお進み下さい」

「あ、うん。ありがとう」


 うーん、やはり言葉づかいが平民そのものだ。だけどアデルさんは、謁見の間からは見えない位置で俺に敬礼をしながら笑みを返してくれた。うん、良い人だね。

 ──さて、それじゃあ少しだけ気を張っていくか。

 そう自分に言い聞かせて、俺は謁見の間へと足を踏み入れた。




 爵位の授与、そして新領地“ヤマト”に関しての話は驚くほどスムーズに進んだ。

 既に話は貴族間でも通してあるとはいえ、不穏なざわつきなども一切なく、国宝より正式に発表がされる度に盛大に歓声と拍手があがる。爵位授与とか、領主認定って、こんな賑やかしいものなのか?


 俺が授かった爵位は、なんと『公爵』。その高さに驚きの声もあがったが、その理由は後に控えるフローリアとの婚約も鑑みての事だ。ちなみに正式な名前は、カズキ・ウォン・ヤマトとなった。最初はヤマトじゃなく本名の苗字であるナナオも考慮したんだけど、領地のことを考えてヤマトになった。


 ともかくこれなら無事に終われるかな? ……そう思ったんだけど。


 それは、ある意味予想通り『フローリア王女との婚約』の発表で起こった。

 まさかのサプライズ発表だが、それに関しての評価は先程のように歓迎一色ではなかった。そう、やはり予想通り自分の息子をフローリアの婿にと考えていた貴族たちからの反発だ。だが、当然それを国王自身が口をひらき俺を擁護する。そうなると当然ながら貴族たちは言いよどむも、それでも納得がいかないと引く気配を見せなかった。

 視界に映る国王が、少し深めに溜息をついたのが見える。正直、あの国王様はユニークで面白い。俺とちがって本当にちゃんとした王の器もあると思う。だが、今まさに俺の件を治めようと、国王という名前の権力行使をしようとしている。


「国王様、よろしいでしょうか!」


 謁見の間すべてに響き渡る様に、声を張って国王へ呼びかける。その声はまっすぐと国王へ届き、何かをしようとしていた国王の動きを止める。


「……うむ。発言を許可しよう」


 国王の許しを得て、俺は騒ぎ立てる貴族の方を向く。どうやら、今回の発表で反論しそうな貴族というのは目星がついていたのか、おおかた同じ場所にかまたっている。もしかして、俺がこうやって言い出すのも計算の一つにはいっていたのかもしれない。

 無論、俺もこんな時のために色々考えてはあったけど。


「先程、私とフローリア王女の婚約に対し意見を述べた方、申し訳ありませんが前にお越し願えますか」


 俺の言葉に先程とは違いざわめきがおきる。一部の者は自身で意見を述べていたのかもしれないが、そうじゃなく周囲に釣られてなんとなく不平を述べていた者もいる。だが俺がそう言ったとたん、落ち着かない態度を取る者が増えた。何かアテがあるわけじゃなく、ただ気に入らないなどの感情を乗せていただけの者達だ。


「いないはずないでしょう。こちらから随分熱心な不満の声があがっていましたよ。あなたですか?」

「い、いや、私は……」

「ではあなたですか?」

「ち、ちがう! 私はなにも……」


 騒ぎの中心付近の人々を、逐一指さし確認しながら呼びかけると、すぐにバツが悪そうな表情を浮かべて脇にそれていく。それを何度かくりかえすうちに、自ら横へ下がっていく人が増え最後には数人の若い貴族だけが残った。

 人数にして7人ほど。その全員が、俺を忌々しげに睨みつけている。どうやらひっこみがつかなくなって、ここに居すわってしまったようだ。この者達の家族だろうか、脇に避けた貴族の中には小声で呼びかけている人もちらほらいる。


「改めてご挨拶を。私はカズキ・ウォン・ヤマト……」

「知っている。先程爵位を受けたなりたてだろう」


 一応と思い挨拶を述べていると、それを一番前にいた若者に遮られた。一瞬「いいのかよ」と思ったが、かなり興奮しているのかこっちを睨む気配が半端ない。


「先程受けたばかりとか、それ以前にあなたは何ですか? 少なくとも私は公爵の位を承りました。この場で公爵以上の地位を有しているのは、王族以外いらっしゃらないようですが」

「くっ……」

「それに……大丈夫なんですか? 先程は国王様の許可も得ず、勝手に発言していましたが」

「あっ……」


 その言葉に顔を青くする貴族の青年。爵位よりも、王前での勝手な発言に関しての方が気になるか。しかしこれじゃあ話が進まないな、しかたない。

 俺は今一度国王の方へ向き、頭を下げて発言をする。


「国王様、いましばらくこの者達を含めた発言をお願いできますでしょうか?」

「ああ、かまわぬ。許可しよう」


 頷く国王の声に、その場にいた青年貴族たちは一様に安堵の表情をみせる。しかし、すぐさまこちらに忌々しいとの視線を向けてくる。……ある意味器用だな。


「ヤマト公爵、いったいどういうつもりだ?」

「……ああ、そうか。ヤマト公爵って俺か。どういうつもり、とは?」


 今までこの世界では『カズキ』としか呼ばれてないし、ヤマトは本名にも含まれないから一瞬反応できなかったよ。そうかぁ、今後はヤマト公爵って呼ばれることも考慮しないとあかんのね。

 そんな事を考えながら、質問を質問で返した。いや、本当にわかんなかったから。


「とぼけるつもりか! どういった目的で、フローリア王女を……」


 その言葉を切っ掛けに他の6人も一斉に言葉を投げてくる。んー……熱意はつたわるが、いかんせん真摯に話すつもりがないらしい。まあ、いってみれば知らない人にとって俺は、いきなり湧いて王女を掻っ攫うド畜生ってところなんだろうな。

 とりあえず相手の言いたい事を言わせてみた。だけどまあ、結局俺が何者なのかわからないからってのが一番みたいで。

 なんかちょっと騒ぎが大きくなりそうだけど、今ここで解決しとかないと遺恨が残りそうだな。

 そんな事を思っていたとき、謁見の間に一つの声が響いた。

 小さいが、とてもよく響き、隅々まで行き届くその声は──



「それでは(わたくし)、フローリア・アイネス・グランティルとの婚約をかけて、皆さんで勝負をされてはいかがでしょうか?」



 一瞬にして静まる喧騒。

 そして、じわじわと広がるざわめき。興味、驚愕、希望、嫉妬。いろんな感情が俺達とフローリアに注がれる。

 ……え。なにその展開。言いたくないけど、この人達と俺って圧倒的な差があるよ?

 呆れ顔でフローリアを見るも、こちらを目があった瞬間「ニコッ」っと、すごくいい──そう、フローリアがすごくいい(・・・・・)笑顔をした。うわぁ……この騒動をイベントの一環みたいにして楽しんでるよ。

 あ。横に居る王様と王妃様もよくみると笑ってる。ひでぇ王族だ。




平民あがり貴族による展開ということで、今回と次回は少しだけドロい話になってしまうかと思います。ご了承ください。

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