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233.それは、伝えたい気持ちの姿

 ヤマト洞窟の調査をした後日。俺は久々に自室のPCのネットで色々と調べ物をしていた。

 とりあえず洞窟に関しては階層によりB~Cランクのクエスト扱いになり、ボスだけは場合にによってA以上もありえるという見解だ。ちなみに洞窟を探索した翌日、一人でちょろっと洞窟外を一通り調べてみたが、やはりオーク種の集落があり、オークキングとオークヒーローといった種族ボスもいた。洞窟よりもさらに南西へ進まないと出会うこともないので、一応区分けしてクエスト管理もできそうだ。

 そんな訳であの辺りに関しての調査は終了。なので今日は──


「カズキー。この辺りなんてどうかなぁ」

「ん、どれどれ……」


 側でノートPCをいじっていたゆきが呼ぶので、その画面をのぞきこむ。今俺とゆきは、現実(こちらの)世界で今度の北海道温泉旅行の予定を考えているのだ。

 行き先は北海道温泉のド定番登別だが、当然ながら俺は行った事がない。だが、ゆきは生前家族旅行で行った事があるとか。それに俺に比べれば、多少はそちらの知識もあるので、ネットでの情報を参考にすればある程度の絞込みもできるだろうと。

 そんな感じでゆきには、皆でいけそうな温泉宿を探してもらっている。出来れば露店風呂もあるといいなぁという希望込みで。


「なるほど。駅からは普通にタクシーでも使えば十分な距離だな」

「でしょ? でも、本当に大丈夫? あっちの世界のカズキはGMだったり運営だったりで、お金に関しての不安とかはないだろうけど、こっちでのカズキって実はお金持ち?」


 少しだけ不安そうな目を向けるゆき。まあ、いきなり7人で温泉旅行に行くことになり、その費用全てを出すといったら結構な額だろうと。


「んー……、まあぶっちゃけると、以外にお金持ち……かな?」

「本当に? ゲーム開発とかって儲かるの?」

「いや、LoUで設けたってわけじゃないよ。もちろん運営中は利益を出そうとはしてたけど、自分が費やした労働と収益を比較して、とても黒字だったとはいえないけどね」

「それじゃあどうやって?」


 先ほどの不安そうな目と違い、少しばかりキラキラとした目を向けてくる。なんだよ、お金儲けに興味津々か。といっても、ラクして出来ることじゃないし、誰でも出来ることでもないぞ。

 俺はノートPCを少し操作して、いくつかインストールされているアプリ一覧を表示する。


「ゆきはこのあたりのアプリ、知ってるか?」

「えっと……ああ、これは知ってる。あとコレも、こっちとか便利だよね。スマフォにも同じのを入れてたかな」

「そうか、ありがとう。この今ゆきが言ったヤツ、全部俺が作ったアプリだ」

「へ? …………ええええっ!?」


 驚いているゆきを見て、ちょっと鼻高々な気持ちになる。だがまあ、すぐにゆきが疑問をもって聞き返してくる。


「で、でもこれってほとんど無料アプリだよね? その……儲かるの?」


 よく聞かれる質問だ。普通なら結構曖昧にするけど、ゆきに聞かれたから答えておくか。


「このアプリ自体は無料だから、儲かることはないよ。でも所々に広告はいってるでしょ? これで多少は収益がある。でも──」

「でも?」

「この無料アプリは、どちらかというとお小遣い稼ぎのようなもの。実はちゃんと有料のソフト開発とかもしてるんだ。こっちは個人名義で昔からやってることで、どっちかといえばゲーム会社よりもソッチの方がメインの収入源だったりする」

「へー………」


 言われてもピンとこないようだ。まあ、こういった分野での話は実感わかないのもわかる。

 目に見える商品ではなく、プログラムというデジタルデータを金銭でやりとりするのは分かりにくい。きちんとゲームパッケージみたいに形になっていれば、お店で商品としてやりとりするから実感あるけど。


「そんなわけで俺のリアルマネー、実は結構えげつないことになってるんだよ」

「……マジで?」

「マジで」


 俺の言葉にじっと目をそらさず見てくるゆき。しばらくそうしていたが、はぁっと息を吐いて緊張が抜けたように椅子にもたれる。


「わかったわ。じゃあ今度のこっちでの旅行、全面的にカズキに甘えてもいいのね?」

「ああ。変な制限とかなく、自由に皆に楽しんでもらうのが目的だからな。そして、できたら現実(こっち)にはあるけど異世界(あっち)にはない施設とか、温泉に関する部分での感想を教えて欲しい。ヤマト領の今後に役立てたいから」

「了解。じゃあその事は、しっかりと皆に話して徹底しておくね」


 そう言ってゆきはノートPCに向き直る。再びなにやら検索を開始するが、それとは別になんでもないようにふと口にするのは。


「後は私の、こっちのお墓参りをしないとね」


 あまりにも事も無げに言うので、返事ができなかった。それに気付いたゆきは、こっちを見て笑う。


「あはっ、本当にもう大丈夫だよ。この前しっかり泣いたし、それにちゃんと決心もした。今はどちらかというと、どのお墓に納めてくれたのかなっていう興味が一番かな」


 そう笑う顔に陰りは一切なく、本当に無理をしている様子はない。

 だが、ノートPCを弄っていた手がとまる。そして姿勢を正してこちらを見る。


「カズキ、少しだけいいかな?」

「……うん」

「聞いて欲しいの、私の……告白」


 告白と聞いて、一瞬そういう話かとも思ったが、今ここでって気持ちもわく。だが普段見せる明るい笑顔とは違う、何か真摯に伝えようとするゆきの表情で、何もいえなくなる。


「最初、あの世界に転生したことを自覚したと……嬉しい気持ちと、悲しい気持ち、そしてどこかやるせない憤りみたいな感情でごちゃまぜだったわ。嬉しいのは、また生きていられる事とこの世界がLoUに良く似た私の好きな世界だったこと。悲しい気持ちはもう家族や友達に会えないこと。そして……」


 少しだけ言葉をきったゆきだったが、そこで声をあらげたりないたりすることもなく、また普通に話しを続けた。


「そして憤りは、どうして自分がこんな可笑しな事にまきこまれてるのかってことだった。もしここがLoUならば、実際のゲーム同様に未来が無い世界なんじゃないのかって。実際あの世界で生きてみて、人々は普通に歳を取るし、お年寄りは老衰もする。事件事故で無くなる人もいるし、私の取り越し苦労なのかとも思った。でも……」

「……でも?

「なんていうか、こう……“(いろ)”がなかった。何かをやって達成したとき、たしかに充実感は感じたし、綺麗な風景や植物を見て、心に感じるものがあったけど……自分が何かに打ち込めるとか、そういった深い部分での気持ちを感じることがなかった。それが多分、この世界がLoUと同じ造りモノで、どこか数値で管理されたデジタルでモノクロな世界だからだと思ってた。そう……思ってた」


 じっとみるゆきの表情が、ふっと柔らかくなる。


「あなたが──カズキが来るまでは」


 そう言って微笑む。その笑顔は、愛しむ心というものを感じさせる笑顔だった。


「カズキが私の前に現れてからは、何をするにしてもとにかく楽しいの。そして、同様に悲しくもなるし、怒ることもあった。ただ状況に合わせて行動する……そうね、プログラムで動くんじゃなくて、自分の本音で動いてるという気持ちになったの」


 ゆきは立ち上がって俺のところまで来る。そして膝をついて、俺の手に自分の手をかさねる。


「ありがとうカズキ、私に光を……心を届けてくれて」


 そう言って少し背伸びをして──キスされた。

 少し驚いた。でも、それ以上に心が満たされた。だからしばらくそのまま、唇を交わしたままに。

 しばらくして、そっとゆきが唇を離す。ようやく嬉しいとか恥かしいとかの気持ちが湧くが、目の前に満面の笑みをうかべるゆきがいて、それを見たら何もいえなくなる。

 それでも何か言わないとと思い、なんとか言葉を口にする。


「えっと、その、ありがとう……」

「ぷっ! なんでそこでカズキがありがとうなのよ! なぁに~? 私にもっとキスしてほしかった?」


 一転今度はニヤニヤ笑いを浮かべてわきをウリウリしてくる。うん、一瞬前に見たあの微笑みは幻だったのかな。


「はぁ……ゆきってさぁ……」

「ん? 何なに?」

「精神年齢的には幾つって思ってるわけ?」

「私? んー、そうだねぇ……」


 今のゆきは17歳だけど、たしか生前事故でなくなった時は22歳と記事にあった。ならばあわせると39歳だが、当然その事を言うと猛烈に反論される。ただ、いろんな会話ややり取りから、どうにもその筋が一番しっくりくるんだよねぇ。


「まあ、色々あるけど……」

「けど?」

「もちろん、17歳です!」


 そう言って軽くポーズをきめる姿からは“きゃぴ”という擬音が聞こえてきそうだ。

 そんなゆきに抱く感想は、やはりこれしかないだろう。……おいおい。



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