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224.そして、調査と疑惑の始まり

 では早速、予定通りにヤマト洞窟(仮)へ向かうことに。

 なので今俺達は、領地西側の川の前にいる。将来的にはここに橋をかけるのだが、今現在まだここに橋はない。なので対岸にあらかじめ設置しておいたポータルへ移動する。対岸といっても10メートルも離れていないから、足元と向こう岸の2ヶ所にポータルが出現しているのが見て取れる。こんなに至近距離で使用したのははじめてかも。

 とりあえずさっくりと向かいへ移動。ちなみにこの川も領地範囲で祝福地となっているので、こちらの地域も川沿い付近は魔物避けが動作しているっぽい。ただ、これより先の森林は別だ。

 森林の方を見ているフローリアがつぶやく。


「アレが過去の調査隊が目印にした大木ですね」

「だな。あきらかに1本だけ大きい」


 うっそうと生い茂る樹海の中、1本だけ飛び出るような大きな樹がある。ここから目測で、500メートルほど歩いたくらいだろうか? ただそうなると、実際に森林の中を歩いてみると体感で1キロ近く感じるかもしれない。地形によりどうしてもまっすぐ進めない場合もあれば、魔物が出れば消耗も激しい。

 今回は、そういった普通の冒険者(・・・・・・)がどう感じるかを確認するのが目的だ。そうじゃなければ洞窟前にポータルを設置して、いきなり移動すればすむ話だから。


「とりあえず、あの木に向かえばいいんだよね?」

「ああ、そうだ。随分と大きいから、森林の中からでも見ることは出来るけど……」


 そう言ってちらりとヤオを見る。


「わしがおるんじゃから、方向を間違えるようなことはないぞ」


 自身満々に言う。まあ、それにかんしては間違いないだろうな。

 さてまずは洞窟の前まで森林を進むのだが、当然この森林も既に洞窟へ向かうクエストに含まれている。なんせ森から出てこないで、ずっとこちらの様子を伺うようにしているヤツらがいる。こういった森林にはいってすぐの場所に出るのは、ウルフやゴブリンといったEランクの駆け出し冒険者御用達魔物だろう。

 ……と、思っていたのだが。

 前方で待ち構えていた魔物だが、遠目ではゴブリンの集団だと思っていたんだけど。


「……アレはオークか?」

「そうね。でも正確にはハイオーク、上位種よ」


 ユリナさんが正解を教えてくれる。っていうか、森林入ったばかりのすぐの場所にハイオーク?


「ねえユリナさん。ハイオークって、こんな森の隅っこに群れるような魔物だっけ?」

「いいえ。どちらかといえば、森林の最深部に自分たちの住処をつくる傾向が強いわよ」

「という事は……」

「ええ。この森や洞窟にいるの魔物は、私達の知識常識よりも強い魔物がいる可能性が高いわね」

「ほっほぉ~」


 ユリナさんの言葉に緊張が走る──と思いきや、あからさまに喜ぶヤオ。なるほどそうですか、という感じで飄々としているフローリアとミレーヌ。表情は変わらないものの、握る拳を軽くわきわきさせて気持ちが高ぶっているのを隠せないミズキとゆき。一見まったく変化がないようにみえるエレリナも、どこか嬉しそうな気配がにじみ出ている。

 あれ。少しばかり懸念したのって俺だけ?

 無論俺達がどうこうという話じゃない。後々ヤマト領での洞窟クエストを発足した際、無駄に難易度が高いとクエストに挑む冒険者が居ないんじゃないかっていう心配故だ。

 まあ、森林の浅い部分にハイオークがいるなら、それを対象にした低ランククエストも考えておくか。でもハイオーク集団の討伐だと最低でもCランクか。まあ初心者がいきなり中継領地へクエストに来るなんてこともないだろう。

 俺が色々考えてる間に、先頭にいたミズキとゆきがハイオークたちと戦闘を開始した。といっても、二人にとってはハイオークもゴブリンも変わらない。さくっと一撃で終わりだ。


「カズキさん、私も戦闘に参加してはいけませんか?」


 ミズキたちが鼻歌まじりに無双しているのを眺めていると、背後からミレーヌがせがむように言ってきた。確かにミレーヌの武器が“弓”という観点からして、これから入っていく洞窟よりも屋外フィールドのほうが合っていると感じたのだろう。


「んー……とりあえず、もうちょっとだけ様子しててくれないか?」

「そうですか……」


 明らかに気落ちするミレーヌ。フローリアとミレーヌは、戦闘行為においては俺が褒めたことがないのでそういう賛辞も受けたいらしい。意味もなく殺伐と魔物狩りをしたい訳じゃなくほっとした。

 しかし最年少のミレーヌが落ち込んでるのは心苦しい。なのでしかたなくちょっとだけネタ晴らし。


「ミレーヌ、いいかな?」

「……はい」

「ミレーヌの持ってる魔弓から打ち出せる矢は、普通の矢とは違うのはわかってるよね。こういう屋外で広範囲に撃つのもいいけど、普通の弓矢では不可能なほど精密な射撃……それがその魔弓だと可能なんだ。当然矢のコントロールはミレーヌの力量次第だけど、その効果をできれば普通は矢を撃たない洞窟で見てみたいと思ってね。だから、ミレーヌにはちゃんとやってほしいことがあるよ」

「そうなんですね……。はい、わかりましたっ。ではカズキさんの指示を待ってます」


 そう言ってわらって可愛く敬礼をする。うん、見た目のマネっこだから正確な敬礼ポーズではないけど、そんな事どうでもいいくらいかわいい。なんかアレだよね、可愛いは正義って安っぽい言葉なのに真理だよね。


「…………先程といい、どうも最近カズキの愛情に偏りを感じます」

「は? な、何を言ってるんだフローリアは」

「アレじゃろ? いわゆる“ロリコン”というヤツじゃろ」

「…………はあああっ!?」


 ヤオの口からでた言葉に驚きを隠せない。え? 今コイツ“ロリコン”いいやがったか? この世界でロリコン? どういう語源だ成り立ちだ。──いやまて。

 俺は前方できゃっきゃしながらハイオークを討伐しているゆきの隣へ。滅多に使わない全力移動だ。


「おいゆき。ヤオにロリコンとかの単語を吹き込んだのはお前か?」

「あ、カズキどうしたの? っていうか、そういう話が出たってことは、カズキってそうなの?」

「ちがわいっ」


 脳天にチョップでもくらわせてやろうかと思ったが、一瞬早く身をひるがえして距離をあけるゆき。そのまま近くにいたハイオークを盾にするように身を隠す。ならばその盾がなくなれば隠れられないだろう。そう思って、ミズキの跡を追ってかたっぱしからハイオークをぶちのめしていく。だがゆきも流石に忍者だけあって、身のこなしは見事なものだ。ハイオークを倒している瞬間、わずかな隙をみてどんどん逃げる。それを追ってまた討伐、をくりかえしていると。


「お兄ちゃん、もうハイオーク全部倒しちゃったよ! ……主にお兄ちゃんが」


 多少憮然としたミズキの声で動きが止まる。気付けばけっこういたハイオークが全て倒れていた。

 多少想像していたのと展開は違うけど、まあ洞窟の外は準備段階だからと自分に言い聞かせてフローリアたちを見る。だがそこにはじとーっとカズキを見るフローリアと、表情は変化ないはずなのにあきらかに何かしらの警戒視線を向けるエレリナ、そしてなぜか目をキラキラさせてこっちを見るミレーヌがいた。やおが追加で余計な事を吹き込んだようだ。


「まあまあカズキ。こっちの世界じゃ別に悪い事でもないんでしょ?」

「そういう話じゃねえんだよ。というか、前提が間違ってる」


 深いため息をつくも、当然その心を組んでくれる人はいない。微妙な心持の俺のところに、ユリナさんがやってきて言った。


「カズキくん、お父さんお母さんを悲しませちゃだめよ?」


 はい、そうですね。近所のお姉さんの忠告ですね。




 道のり調査が、妙な感じで進行したまま洞窟へ到着。洞窟の入り口は結構広く、一般的なパーティーがやってきても、縦一列でないと入れないといった感じではない。

 だがそれは、逆の見方をすれば結構大型の魔物でも入れるということだ。先程戦ったハイオークは無論、もっと大柄で数メートルの巨躯であるオーガやトロールでも軽々と入れる広さだ。さすがに本来の姿に戻ったヤオは無理のようだが。


「ではこれより、洞窟の本格的な探索へ行く。外にいるのがハイオークということで、この中の危険具合は少々未知数だ。大事に至るほどではないと思うが、警戒は常に怠らないように」


 俺の言葉で、先程までのちゃかした雰囲気は一掃し、真剣な顔で頷く。


「特にヤオは、必ずユリナさんの隣で護衛をしてくれ」

「心得た。わしが横にいれば何の問題もないぞ」

「はい。宜しくお願いしますね」


 ヤオに向かって丁寧に頭をさげる。20代半ばの女性が10歳ほどの女の子に頭をさげる光景。見た目としてはシュールだは、その実年齢を暴けば輪をかけてシュールだったりもする。


「じゃあ行くよ」

「分岐とかあったらカズキよろー」


 ミズキとゆきが先頭で進む。その後ろに俺がいて、次にフローリアとミレーヌ。その後ろにヤオとユリナさんがいて、最後にエレリナがしんがり。……こういう場合、ゆきが先頭に行くと自然エテリナが最後尾になることが多い。この調査がおわったら、少しエレリナの希望を聞いてあげたりするか。


 とりあえず、入ってすぐの所に数匹のハイオークがいた。それを先頭の二人がさっくりと叩き伏せると、その先にある暗がりより狙う気配があった。

 何が、ということは俺にはわからなかったが、


「オークアーチャーじゃな」

「ミレーヌ!」

「はいっ!!」


 ヤオの言葉でとっさにミレーヌを呼ぶ。その呼ぶ声にかぶせるような元気な返事がきこえ、瞬間背後から何本かの光の線が洞窟奥に跳んで行った。その先から悲鳴や物が貫かれるような音がする。だがそれも、すぐに止み先程感じた気配がまったくなくなった。


「ふふっ、やりました! やりましたよカズキさん!」

「あ、ああ、なんか凄い手馴れてる気がするんだけど……」

「ミレーヌ様は弓を頂いて依頼、ずっと密かに特訓をしていましたので」


 驚く俺にエレリナが教えてくれた。そういえば、そんな事を聞いたきがするけど……にしても、随分見事というか。エレリナが知っているってことは、彼女も特訓につきあったってことか。


「カズキ、どうでしたか私?」

「うん、本当に驚いた。すごいなミレーヌは」

「あっ……えへへ~」


 満面の笑みで見上げるミレーヌを褒めてその頭を撫でてやる。ひょっとしてミレーヌ、弓──というか魔力制御の才能がかなり高いのかもしれない。そんな事を思いながらやさしく撫でている俺は、ふと場違いに静かな気配と視線に気付いて周りを見る。

 そこには先ほど以上にジト目を向ける面々と、「案件事項ですなぁ」と笑うゆき。おいおい……と思ったけれど、いつしかミレーヌは嬉しそうに抱き付いていた。

 なんかこう、もうどうにでもなぁ~れって気分だった。嫌われるよりはいいか……と。




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