221.そうね、女子会にはお呼びじゃないね(2)
今回もゆき視点です
時間を少しだけ遡ることに。
ヤオちゃんが「始まったようじゃぞ」と呟くと同時に、さっと鞭が伸びて私達の手に絡みつく。あまりのすばやさに声もあげれなかったのは幸いだった。次の瞬間、
『皆、声をあげるでないぞ』
と声が響いた。以前体験した鞭を通しての感覚共有化だ。私とミズキちゃんはすぐ理解したが、あとの4人は軽く困惑した視線をおくってくる。
『四人とも落ち着いてく下さい。これはヤオちゃんが鞭を通じて話が出来るようにしているんです』
私の声も皆に聞こえたようで、かすかに頷きながら少しだけ安心した表情をうかべる。だが、次の瞬間周囲にいかにも不自然な空気が漂ってきた。それが何かすぐに察しがついた。即効性の神経麻痺作用の気体──毒ガスだ。さすがにちょっとまずいかもと思ったが、頭の中にヤオちゃんの声が聞こえた。
『案ずるな、この程度造作も無いわ』
そういわれた瞬間、一瞬手にまきついている鞭から何かが伝わった気がした。私だけじゃなく、ミズキちゃんのアリッサさんたちも感じたようだ。
『ヤオちゃん、今何かした?』
『うむ、今……っと、その前に皆ゆっくりと地面に倒れろ。ゆっくりじゃぞ』
とりあえずその言葉に従い、皆ゆっくりと倒れこむ。そうしてから気付く。今自分達が全然麻痺にかかっていないと。だからこそ、だますためにわざわざ倒れたんだと。
『もうわかっておるかと思うが、お主達に麻痺毒への耐性向上をした。こんな脆弱な毒では身体の拘束どころか、瞬き一つ止められんぞ』
そういって口角をあげて笑うヤオちゃん。もうこの顔見るだけで軽く相手に同情するレベル。とはいえ、まずはきっちりし返してからだけど。
こうして麻痺にかかったフリをして寝そべっている間に、周囲のガスも消えて足音が近付いてきた。男達の下卑た笑い声が近付いてきて──アリッサさんが、リーダーの男をぶんなぐった。
それを合図に全員が何の影響もみせずに立ち上がる。その展開についていけなく、ただ思考が慌ててまとまらない男達に私は言い放つ。
「さあ、お仕置きの時間だ!」
この後の展開は、書き連ねるのも馬鹿らしくなるほど一方的だった。なぜって? それは相手が単純に弱すぎるから。私やミズキちゃんはもちろん、アリッサさん達の息の合った連係になすすべなく瞬く間に地面に打ちのめされる男達。合計十数人の男達は、今地面に転がされた状態でヤオちゃんの鞭で縛られている。おっ、縛るのに使ってない鞭が2本あるから人数は14人か。
「……で。こやつらはどうすればよいのじゃ?」
「そうだねぇ。とりあえずは王都の戻って、正門の守備兵に話を通してひきわたしにいこうか」
「なっ……」
アリッサさんが最もな意見を述べると、縛られて地面にころがされている男たちがざわめく。
「お前ら一体何を……」
「何を、じゃないでしょう。後をつけてきて麻痺ガスまで使っておいて」
「なっ、なんでそれを……」
わかっていたけど、あっさりと自供までしてしまう。というか、この世界ってテレビとかで推理物を見たりできないから、こういう会話駆け引きのレベルが著しく低いんだよね。トーク力のある人は、上手くたちまわって利益につながる仕事したりするんだろうな。
「とりあえず王都に戻ります。ホラ、さっさと立って」
「へっ、生意気な」
「誰がてめえらなんかに従うかよ」
拘束されながらも、まったく反省の色を見せない男達にちょっとだけムカつく。でも私はなにもしない。そんでもってミズキちゃんも、アリッサさんたちもなにもしない。
なんせ──
「おい、馬鹿者ども」
「な、なんだこのガキ偉そうに」
「変な鞭で縛りやがって、さっさと解きやがれ」
あ。ヤオちゃんに悪態ついちゃった。おまけに鞭を“変”とか言ってるし。
「……一度だけ警告してやる。わしの言葉に従え、この屑どもが」
「はぁ? 何をえらそ……ぐぁああ!?」
瞬間、ヤオちゃんの正面で悪態をついていた男が宙を舞う。そして少し離れた地面にべちゃっと叩きつけるように落とされる。いきなりの事で男達は無論、私達も「へ?」という表情になる。
だがヤオちゃんはそれを見ながら、平然と歩置けている男達に言う。
「どうやらお前らを守備兵に突き出すことにきまったようじゃ。ホレ、さっさと歩け」
「お、おい、今のは……なあっ!?」
眼前の出来事に思考が追いつかない男が、質問をしようとした瞬間また宙を舞う。今度はちゃんと見えた。ヤオちゃんの鞭が、男をつかまえたまま大きくしなって離れた位置に叩きつけているのだ。
「さっさと歩けと言うておるのじゃ。それともなんじゃ、おぬしらもアレと同様に叩きつけられながら王都に戻りたいのかえ?」
「い、いえ! 自分で歩きます!」
その言葉でようやく事態を把握した男たちは、あわてて立ち上がり王都の方へ少し移動した。ちなみにたたきつけられた二人も、そちらの方向にいる。つまりヤオちゃんは、“自分で足で歩け。そうしないなら叩きつけながら戻るぞ”と言っているのだ。
ようやく理解して自力で移動を始める中、一人だけまだ座り込んでヤオちゃんを睨む男がいた。最初に声をかけていたこの集団のリーダーだ。
「なんじゃ。お主は叩きつけられて進むのを望むか」
「……なんだよテメェは、悪魔か」
懲りずに悪態をつくが、何故かヤオちゃんはさきほどのようにすぐたたきつけない。どうしたんだろうと思ったら、呆れた様な目で相手を見ていた。そして一つ大きなため息をつく。
「……覚えておけ若造。わしはな──」
そう言った瞬間、ヤオちゃんの周囲の空気が変わる。ただの風圧ではない、魔力の風がふくような現象がおきる。私とミズキちゃんはその光景に見覚えがあった。アリッサさんたちは、ただただ驚いているが彼女達の所は何故か空気の乱れがおきてない。
そのかわり鞭で縛られた男たちは、全員少しもちあげられて地上数メートルほどのいちに掲げられる。
到達に起きた風はやみ、そこには──
「我は悪魔などではない。八つの頭と八つの尾をもち、災厄をも打ち砕く蛇じゃ」
本来の姿、八岐大蛇の姿を見せるヤオちゃんだった。
「ひ、ひぃ……」
「くわれる、くわれるっ」
「失敬な。お主らの様な不味そうな者誰がくらうか」
怯える男達にヤオが憮然と言い放つ。いつのまにか男達をしめつけているのは、本来の姿である大蛇の首や尻尾になっている。私は経験ないけど、あれはさすがに心にくる拘束だな。
この姿を見せると、さすがにリーダーの男も顔に恐怖の色しか浮かべなくなった。とりあえず全員が大人しくなったところでヤオちゃんが人型に戻る。
じゃあ改めて戻ろうかと思ったとき、つんつんと後ろから肩をつつかれる。振り返るとおっかなびっくりの表情をしたアリッサさんたちだった。
「どうしたの?」
「えっと、その……ヤオさんはその、私達を食べたりなんて……」
「なんじゃ? 食べて欲しいのか?」
「ちがいますっちがいますっ! 食べてほしくありませんっ!」
怯える彼女達にニヤニヤ顔で意地悪いことをいうヤオちゃん。楽しそうだね。
「安心するがよい。お主らはミズキの友人じゃろ。わしが何かするようなことはありはせん」
「そ、そうですか……」
「何より、そんな事をすれば主様に怒られてしまうわ。そんなのは後免蒙るわい」
「えっ……ヤオさんの主って……」
「うん。お兄ちゃんだよ」
ニコッと笑顔を向けるミズキだが、4人にとってはあのヤオが大人しくいう事を聞く人物ということで、カズキに対しての認識がおかしなことになっている木がする。いや、別段おかしいことではないのか。カズキって、口では『無闇な世界改変は綻びが生じる恐れがある』なんていいながら、結構色々と好き勝手やってるし。まあ領地政策はかなりこっちのルールでやってるみたいだけど。
ともあれ、少しばかりの揉め事を力ずくでねじ伏せて男達を王都まで連れて行った。
時々「もう動けねえよ」と反論するような男もいたが、案の様前方に叩きつけられたあげく、僧侶であるフラウさんにわざわざ回復をかけさせて、改めて歩かされていた。……鬼だ。鬼蛇だ。
そしてようやく王都の正門に到着。
事情を守衛に話していると、丁度見回りできていた王国の騎士団がいたのでそのまま引き渡すことに。
その騎士団員とアリッサさんが話をして、部下の兵士が男達をつれていく。改めて縛り上げて行くが、もう変更する気力もないようだ。
アリッサさんが話を終えてこちらに戻ってくるが、その後ろに騎士もついてくる。そしてこちらに目をむえk他時。
「ミズキさん、ご無沙汰しております」
「え?」
ミズキちゃんに声をかけ、丁寧に礼をする。知り合いなのかなと思ってミズキちゃんをみるも、誰だっけという呟きが。だがそれを聞いて相手の騎士は、軽く苦笑いを浮かべるだけ。
「覚えていませんか? 以前、城の闘技場でお手合わせをしていただいたアデルです」
「お城の闘技場……あーっ! あの時の……」
「はい。その時は有難うございました」
「え? ア、アデル副団長はミズキちゃんと試合をしたことあるんですか?」
話をきいていたアリッサさんが驚きの声をあげる。私としてはこの人が副団長だってことに驚きだ。
「ええ。以前一度だけ手合せをしていただきましたが、結果は手も足もでず惨敗でした」
「……ミズキちゃん、何してんのよ……」
「あはは。でもでも、その後にお兄ちゃんが騎士団の偉い人を倒しちゃってるし、お相子だよ」
「お相子って……というか、騎士団の偉い人って、まさか……」
「はい。ミズキさんの兄であるカズキさんは、フリッツ騎士団長を一撃で気絶させてしまいました」
「無茶苦茶をする兄妹ね……」
話を聞いていた4人は呆れるしかないという表情を浮かべる。
んー……カズキってば、やっぱり私の知らない所で転生転移主人公の俺強いごっこをしてるんじゃないの? まあ私も結構それに近いことしちゃってるけど。
この後、もう少しだけ話してから副団長さんは去って行った。おそらくは取り調べで余罪とかも明るみになるんだろう。
「それで、どうするんじゃ?」
「今回はクエストは中止として、一度依頼を戻すわ。失敗ではなく正式な差し戻しになるから、私は手続きをしにギルドへ戻りますが……あなたたちはどうしますか?」
「特に用事もないので一緒にいきます」
「そうだね、私も」
こうしてクエストの成果はゼロで冒険者ギルドへ戻る。
戻ってきた私達をみて驚いたような、安心したような表情を浮かべる者もすくなからずいた。まあ、正式に発表されたらこんな視線もこなくなるんだろうけど。
「あれ? ユリナさんがいないね」
「奥かな? 一応説明もかねてユリナさんに話したほうがいいよね」
「そうだね。うん、いいよ私達がやっておくから。特に今回はヤオさんには、大変お世話になりました」
「ははは、気にするでないぞ。我とその周りに牙をくけなければ何もせんからのぉ」
「は、はい。無論です」
ヤオの言葉に、尊敬以上の恐怖みたいな感情が見え隠れするけど、まあもう何度か一緒に遊べば慣れるんじゃないかな。
さて、どうしたものか……と思っていると、ギルドの奥から見覚えのある人物が。
「お兄ちゃん!」
「主様よ」
「カズキッ」
私達はこちらに気付いたカズキの所へ走って行った。
わざわざギルドの奥にいたってことは、何か重要な依頼でも受けたのかな? よし、その辺りの話を少し聞いてみようかな。
さあ、次はどこへ連れて行ってくれるの?




