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220.そうね、女子会にはお呼びじゃないね(1)

主人公ではなくゆき視点です。

 私の名前は狩野ゆき。

 今日もいつものように、カズキとミズキちゃんの所へ遊びにきた。帰りはカズキに【ワープポータル】をあけてもらわないといけないけど、グランティル王国へ来るだけならLoU時代の遺産であるマイルーム機能で即来られるようになった。

 おかげで最近の私の体内時計が、グランティル王国時間になっている。彩和に帰ると昼間なのにぐっすりと寝る日々だ。多少どうかと思うけどまあ仕方ないね。


 ちなみに今日はミズキちゃんと一緒に、王都のクエストを受けている。といっても二人だけではなく、とある冒険者たちと一緒だ。

 その冒険者というのは王都冒険者ギルドに所属している4人組。全員が女性で、年齢は16~18歳と私やミズキちゃんと近い。それもあってすぐに打ち解けたのもあるけど、何よりみんな強い。個々の能力だけみてパラメータを数値化するなら、たぶん私やミズキちゃんのが上だ。でも信頼を築いてきたメンバーならではの連携などは、持てる力を何倍にもする。もし私とお姉ちゃんで組んだなら、そこそこいい勝負になるんじゃないかな。


 そんな4人とのクエストを、ここ最近何度か誘われて行っている。今日もお呼ばれしたのでミズキちゃんと一緒に参加したんだけど、


「ミズキの兄カズキの従魔であるヤオじゃ。今日はよろしく」


 私とミズキちゃんに連れられて、今回はヤオちゃんも参加することになった。といっても、とてつもなく強い魔物に戦いを挑みにいくとかではない。これでも私は一等級……こちらでいうAランク冒険者で、ミズキちゃんはBランク、王都の四人はCが三人にDが一人。総合力としてみればかなりの戦力だ。

 スレイス共和国でみたような火竜クラスでも出ないかぎり、そう簡単に全滅はしない。


「よろしく。私はリーダーのアリッサ、主に剣を使うわ」

「私はミレイ。メインは弓だけど近接も得意だよ」

「ヴァネットよ。攻撃系魔法が主体ね。火と風の属性が得意よ」

「フラウです。回復魔法のほか、近接の嗜みもあります」


 四人もヤオちゃんに挨拶をする。予め四人には、ヤオちゃんはカズキの獣魔で、その強さは桁違いだとは教えてある。しかし今目の前にいるのはいるもの女の子姿なので、信じてはくれているんだろうけどどちらかといえば『女子会に妹もつれてきちゃった』みたいな雰囲気になっている。

 とりあえず顔合わせをして、それじゃあ何をしようかという話に。何をといっても、当然『どのクエストを受ける?』という話だ。女子ばかりとはいえ、冒険者ギルドのクエストボード前で遊びの話題にはならないだろう。

 私も最初は女の子ばかりでクエストの物色なんて、殺伐としてるかもと思った。でも改めて思い返すと、ネトゲで女の子ばかりのパーティーで出かけるクエストを選んでる行為って、実体のある世界だとこんな感じなのかなぁ……なんて思ったりした。それ以降はあまり気にしないようになった。まあ、こっちでは王族貴族ならまだしも、冒険稼業の女性に娯楽なんてほとんどないもんね。

 私達と4人組みの女性冒険者、あわせて7人は張り出されているクエストを吟味する。


「どれかよさそうなのはあるかな……」

「今日もゆきさんがいるし、Bランククエあたりにしようよ」

「そうだね。ミズキちゃん、ゆきさん、いいかな?」

「うん、いいよ」

「こっちも問題なし」

「なんじゃ、わしには聞いてくれんのか?」

「ヤオちゃんは無茶苦茶強いって聞いてるから、ここに張られてるクエなんて問題ないでしょ?」

「まあ、それもそうなんじゃがな」


 そんな感じでわいわいと、多少気を遣って声を落とすも華やかに会話が進む。……うん、なんか雰囲気は現実(あっち)の女子会と変わらないけど、内容が魔物討伐クエストの吟味だもんなぁ……。

 とりあえず話し合いながら、ようやく一つのクエストに目星をつける。


「じゃあ皆、コレでいいかな?」


 アリッサさんが手にしているクエスト記載用紙には『王都の南西森林におけるオーガの調査と討伐』とかかれていた。元々LoUでの設定を引き摺っているらしく、この世界でも王都の南西にある森林はオーガが割りとまとまった数いるとの事。この世界のオーガは単体ならCランククエストだが、この森では複数体が一度に現れることが多いので最初からBランク設定されている。


「うん、問題ないよ」

「こっちも大丈夫」


 もう一度記載内容を確認し、全員が問題なしとの言葉。なのでアリッサさんは受付にクエスト申請をしようとしたのだが。


「なんだ、女ばっかりでBランクだと? 俺達が手伝ってやろうか?」

「は?」


 申請しようと用紙を出したタイミングで、隣から男が話しかけてきた。といっても、本当のところは急に(・・)ではない。先ほどアリッサさんがクエストボードから用紙を選んだあたりから、ずっと私達を見ていた事に私は気付いていた。たぶんミズキちゃんとヤオちゃんも気付いている。アリッサさんたちは……どうかな、微妙だ。


「いやなに、このクエストじゃちょっとばかり荷が重いんじゃないかと思ってな。なんなら俺達が手伝ってやってもいいんだぜ」

「…………はぁ」


 男の言葉からは、まったくもって親切心を感じない。私はフローリア様やミレーヌ様みたいな魔眼はないけど、相手の声色で会話意図の方向性を察するくらいは出来る。それを信じるなら、この男は手助け目的で参加を言ってるわけではないようだ。


「悪いが戦力は十分なんだ。申し訳ないが遠慮するよ」

「……はぁ? 戦力は十分だと? こんな女ばかりのうえ、子供までいるのにか?」


 そういって馬鹿にしたように私達を一瞥して、最後にヤオちゃんを見る。そこには完全に相手を下に見るだけの意図しか見当たらない。まあ、このギルドでヤオちゃんの実力を知ってる人なんていないだろうけど、Bランクのミズキちゃんがいるのにこの物言いは不快だ。

 あとまだ王都の冒険者にはあまり認知されてないが、私は一等級冒険者、こちらでいうAランクだ。あまりこういう事を口にしたくはないが、ここは私が……と思ったんだけど。


「はいはい、私の目の前で揉め事は止めて下さいね」

「ユ、ユリナさん……」


 パンパンと手をたたいて、にらみあう男とアリッサさんの間に割り込む。あ、ヤオちゃんの実力知ってる人が一人いた。少々あっけにとられている私に、こそっと笑みを見せるユリナさん。そういえば王都ギルドではサブマスターも兼用してたっけ。旅行のときも色々お話したけど、年齢以上におちついた大人の女性だったな。


「アリッサさん、用紙を見せてください」

「あ、これです……」

「はい。ああ、なるほど……はい。問題ありませんね。ではアリッサさん達にミズキちゃん、ゆきちゃん、ヤオちゃんの7名で受注ですね」


 さくさくと受注を受理して、発行しようと手続きを始めるユリナさん。そこであわてて先ほどの男が割り込んできた。


「お、おい、ユリナさん。このクエストにこんな女子供だけで行かせていいのか? なんなら俺達が一緒に行って……」

「一緒に行って、何をするつもりですか?」

「……え?」


 ユリナさんが男の言葉をさえぎる。まさかとめられると思っていなかったのか、男が驚いて固まる。


「……言い方が悪かったですね。彼女達の実力であれば、このクエストでお釣りが出ます。そこへあなた方が入りますと効率も落ちますし、クエストも失敗する可能性が出てきます」

「なっ…………」


 男が絶句する。その様子を見て思わず軽くヒューっと口笛が出てしまった。少し離れた場所でこっちを見ていた冒険者に睨まれた。あぶないあぶない。


「アリッサさんたちはCとDランクの混生ですが、パーティー戦闘総合ではBランク以上の戦果が出せることは実証澄みです。ミズキちゃんはBランク、ゆきちゃんは彩和の冒険者組合規定の一等級……こちらでいうAランクですよ」


 私がAランク相当だとユリナさんが言った瞬間、ギルド内のざわめきの質が変化した。男もそれを知らなかったのか、驚いた顔で私を見る。んー……その目、信じてないなぁ。なんかすごい下っ端悪役みたいな人なんで、関わりたくないんですけど。


「そういう事ですので、お引取り下さい」

「……ちっ」


 ユリナさんの言葉で男は悔しそうに立ち去る。出て行くのかとおもいきや、先ほど私を睨んだ男達のところへ向かった。どうやら仲間らしい。

 改めてアリッサさんが手続きをする。その間、少し気になったので横目で男の同行を確認する。仲間らしき人のところへ戻った男は、なにか呟いているようだ。当然声は聞こえないのだが、私が彩和で得た(すべ)はこういう所で発揮される。


『……どうせアレも兄のおこぼれでBランクになったんだろうが』


 聞こえてきた。どうやらミズキちゃんの事を言ってるようだ。兄ってカズキだよね。カズキもここじゃ有名なんだ。でも、ミズキちゃんの実力は知られてないんだな。


『そしてあの見慣れない冒険者、Aランクだと? どうせまともなギルドのない弱小国が、見栄えのために上げたランクだろ』


 おーおー、私の事かなこれは。ずいぶんと吼えてくれるじゃない。そのくらいにしてよね。あんまり言われると思わずぶん殴っちゃうかもしれないから。


『あと、何だあのガキは。どうみても冒険者じゃねえのに、クエストの頭数に入ってやがるし。どういうコネを使ってるんだくそっ』


 まあヤオちゃんは冒険者じゃあないけどねぇ。どっちかというと反対側の存在だったからね。いまとなっては大切な仲間なんで、いろいろ言われてるの聞くとちょっと腹立つけど。


「ゆきちゃん、行くよー」

「あ、はーい」


 ミズキに声を掛けられたので、遠くの声を拾うのを切りあげてギルドを出る。そしてある程度はなれたところで、皆に先ほど自分が聞いた話を教えた。

 当然皆不愉快な表情になる。だが、ここでなんとヤオちゃんも聞いていたことが判明した。聞いていた内容はほぼ同じだが、ヤオちゃんはギルドを出る直前まで聞いていたとのこと。そこで最後に、


「あの男共じゃが、わしらが出て行くのを見ながら『出て行ったな、少し離れて追うぞ』などと抜かしておったぞ」


 とんでもない発言を。

 要するにあの男と仲間たちが、私達の後をつけてきているということだ。

 それを聞いて思わず振り返りそうになるが、最初にこの話をしはじめたときに『絶対に振り返ったり周りをさぐるような行動をしないように』と取り決めていたので、とっさに我慢をする。

 私達は何食わぬ顔をして、王都の南側にある正門へ歩いていく。結構はなれているが、確かにこちらを見ている感覚を受ける。ずいぶんとお粗末な尾行だ。

 とはいえ、王都内はもちろん外へ出てもしばらくは何もしてこないだろう。もし何かちょっかいを出すならば、森林へ入ってある程度進んだくらいだろう。そこで音や声を出しても、森林外まで届かないくらいの場所というわけだ。


「んー……皆、どうしようか」


 何気なく会話をしているような感じでアリッサさんが意見を求める。さすがに声は聞こえてないだろうけど、会話する雰囲気で怪しまれないようにするため普段の会話のようにしている。


「とりあえず、クエストは中止しましょう」

「そうだね。だけど……」

「……うん。ちょっと遺憾ね」


 アリッサさんの言葉に、ミレイたちが意見を述べる、まあ当然だけど私も不愉快だ。


「それにしても、いったい何が目的なのアレ」

「おそらくだけどクエストでの報酬の他、色々と脅し取ろうとしてるんだと思う。後は……」

「後は?」


 ミズキちゃんの疑問に、少し逡巡してアリッサさんが答える。


「あの男たち、色々と悪い噂があってね。なんでも若手の女性冒険者が、その色々嫌がらせを……」

「あー……はいはい。そこまでで大丈夫です。すみません言いにくいことを……」


 察した私が言葉を止める。ミズキちゃんもなんとなくわかったようだ。

 にしても、そういう事もするのか。流石にそれは不快だと言葉で言い表す範疇を超えるかな。


「どうするんじゃ? さっさと縛り上げて突き出すのか?」

「そうしてもいいけど、まだ実際には何もおきてないからね。恫喝なり脅迫なりを受けてない状況で縛り上げたら、さすがにこっちの言い訳がたたないよ」


 じゃあとりあえず森林に入っておびき寄せることにするか、という方向に話がまとまり始めた。ただ、当然ながら注意すべきことはある。たとえ来るのがわかっていても、相手がこちらに対して犯罪を犯そうとしているのだ。正直言って怖いと思う部分がある。だが、それ以上にどうにかしないとなぁという気持ちもある。今回はミズキちゃんとヤオちゃんという、とてつもないチート技があるのでやってみようという気になった。

 話をしているうちに森林に到着。当然不自然な様子をみせずに隊列を組んで進む。

 先頭はアリッサさんとミレイさん。次にヴァネットさんとフラウさん。その後ろがヤオちゃんで、最後尾にわたしとミズキちゃんだ。

 ある程度歩き進めたところで、一旦停止して全員休憩をとる。もちろん休憩を取るフリ(・・)だ。傍目にはクエストの最終確認をしているように見えるだろう。

 そんな私達に向けられた視線は、絶えることなくずっと灌がれている。ある意味予想通りだが、もちろん気分は最悪だ。


「これは色々な補償を貰わないと気分が晴れないわ」


 愚痴るミレイさんに皆が同意をして、少しばかり雰囲気が和らいだその時。


「始まったようじゃぞ」

「!?」


 ボソリと呟くようにヤオちゃんが告げる。それにより皆の表情が一変して緊張が走る。何がはじまったのかわからなかったが、暫くすると何か妙な空気が流れてきているにを感じた。

 そして、その気体が何なのか私はすぐに察しがついた。これは──神経マヒの毒ガスだ。おそらく森林での風の流れを調べてあり、私達がいる場所へガスが流れるようにしたのだろう。あっというまに私達のまわりにガスが充満する。

 しばらくすると、ガスは風で流れさってしまう。そこに遠くから無遠慮に近付く足音が複数聞こえた。それがすぐ側までやってくる。


「はははっ、所詮こんなもんだ。何がAランクだ」


 そう言い放つのは、ギルドで邪険にされたあの男だ。どうやらこうやって相手を力ずくで屈服させるような手段をこれまでもとっていたのだろう。

 他にも数人の男達が近寄ってくる。やはりギルドでこの男と会話をしていた冒険者だ。

 どんどん近付き、そろそろ触れるかどうかという距離にまできた。

 ──そこで。


「そろそろいいかしら?」

「……は? ぐあっ!?」


 すっと立ち上がったアリッサさんが、すばやく剣を鞘に納めたままぶん殴った。完全に油断していた男は顔をはたかれてふきとぶ。


 あっけにとられている男達の前で、私達はすっと立ち上がる。

 そう。私達は麻痺なんてかかっていない。かかっているフリをしていただけだ。

 目に見えてうろたえる男達を見据え、私はこれでもかというドヤ顔を決め込んで言い放つ。


「さあ、お仕置きの時間だ!」



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