22.それは、威圧の心は女心
8/31は更新なしです。次回は9/1予定となります。
リアルで仕様をあれこれ検討していたが、時計を見るともう昼になっていた。適当に昼食を済ませた後、少しだけ休憩をしてインする。こちらの時間はまだ午前なので、こっちで昼ごろになったら少し抜けて腹ごなしをしたほうがよさそうだな。
こっちで気になる事は2つ。
まずはGM.カズキのログアウト位置。あの時はそのままフィールドで抜けてしまい、カズキと入れ替わる様に見える行動をしたが、折を見てフローリア様の所へ移動させておくほうが良いだろう。
そしてもう一つ気になること。あの騒ぎを引き起こしたのは、おそらくあの場に倒れていた人物だろう。あの者が、その後どうなったのかを聞いておきたい。
そうなるとまずは王都外へ出て、フィールドの様子を見るの先決か。
そして人目がなさそうであればキャラチェンジをして、そのまま王城のフローリア様の所へ行くと。
もしフローリア様がいれば、おそらく原因というか首謀者というか、そのあたりの話も聞くことができるであろう。
思い立ったが吉日だ。
とりあえず【インビジブル】で不可視にして家をそっと出て行く。別に悪い事をしてるつもりはないが、ミズキに見つかるとややこしい事になりそうだしな。
王都の外へ出て、GM.カズキがログアウトした付近を見てみる。
デーモンロードを跡形もなく消してしまったので、事後処理というか現場検証的なこともなく、既に普段の様子を見せているただの平原だ。
幸い、今は誰もいない。素早く王都の外壁の影にかくれてログアウトする。
そしてそのままインで帰還。
即GMの機能で姿を不可視にして、周囲を警戒するが人影はなし。そんまま続けて座標移動で王城まで向かう。
フローリア様の部屋のバルコニーに降り、中を見てみるとフローリア様がいた。
相変わらず不可視状態でも見えているようで、俺がやってくるのを見て驚いた表情を浮かべる。
そして、そっと笑顔を浮かべてくれた……が、すぐに半目でじーっと睨まれた。
「こんにちは、フローリア様」
「……こんにちは、GM.カズキ様」
「え、えーっと……」
「…………」
わかりやすい。とってもご機嫌斜めだわ、状態です。
「今は私が呼ばない限り、誰も来ませんのでおかけください」
「あ、はい」
言われるがまま席に座る。ついでに不可視も解除しておく。
ちらりとフローリア様を見るが、なにか今までみたことない不機嫌そうな表情でこっちを見ている。
なんというか……出荷されていく豚をみるような目というか、そこに感情の機微が感じられない目をしてらっしゃる。
「あの、フローリア様?」
「……何ですか?」
「その、怒ってらっしゃいますか?」
「…………怒られるようなことをされたのですか?」
「いえ、そんなことは……」
こええよぉ。
フローリア様ってこんなキャラだっけ?
いや、そうじゃないな。ベースがLoU用に設計したNPCかもしれないが、その後色々と成長していく過程によって変化していくんだろう。
ということは、最初に会ったときにくらべ、色々と思考や感情に変化を呼ぶ出来事があったということなんだろう。
俺が対応に困っていると、フローリア様は小さく……でも結構深く息を吐く。
「……先程」
「え?」
「先程、一緒に居た女性は……どなたですか?」
「え? 一緒に?」
一緒にいた女性?
フローリア様じゃなくて?
他にだれかいたっけ?
「先程、私が騎士団と城へ戻る時、その……腕を組んで仲良くしていた方ですっ」
「あー……」
「誰なんですかっ!?」
「あ、あれはミズキ……妹です」
「妹……」
フローリア様が呆けたように呟く。
「妹……」
「はい」
「妹……」
「えっと、大丈夫ですか?」
なんかいきなり『妹』としか呟かなくなってしまった。なんか妹に思い入れでもあるのかな? 俺の知らない新手のシスコンとかじゃないだろうな。
「ふふ、何がですか?」
「そ、そうですか」
「そうですよ、うふふ」
こわいよ。今日のフローリア様どうしちゃったんだ。
なんかヘンなバグでもあったか。でも未実装キャラなのに不具合ってあるのかな。
というか、ミズキが妹だってわかったとたん、態度が軟化した感じもする。
そういえばミズキのやつ、フローリア様が王女だってのに随分失礼なことしてたな。もしやそれで不機嫌だったが、ミズキが俺の妹だったから御咎めなしとか……そういう事でか?
「あの、フローリア様。先程は妹が失礼な態度で、申し訳ありません」
「いえいえ、全然気にしてませんわ。大切な妹さんですしね。そうそう、妹さんですしね」
「あ、はい」
なんだろう。よくわからんが、深く考えるとよくない気がする。
よし、話題を変えよう。
「あの、フローリア様。先の件……デーモンロードを、おそらくは召喚したと思われる犯人とかについて何か……」
「……はい」
つい数瞬まで微妙な空気が漂っていたが、事件のことを切り出した瞬間に空気が引き締まる。
フローリア様のこういった側面を見てしまうと、自分が10代半ばった頃と比較して少しばかり恥じる。
無論、時代や世界の違いもあるんだけど。
「本日のあの件に関しては、既に調べが入り報告を受けております。犯人は王都南東の広場に倒れていた男性」
「もしかして、倒れていた付近に召喚石を落としていた……」
「はい。GM.カズキ様も見ておられましたか」
やはりあの時倒れていた男か。俺が見た時はすでに息をしてなかったようだが、この様子だとそういうことらしいな。
「詳しい動機は不明ですが、どうもその男を知っている人からの話ですと、少し変わった趣味があったとかで……」
「変わった趣味?」
「はい。なんでも魔石を使用目的ではなく趣味で集めているとか」
「なるほど……。でも、それだとちょっと不思議ですね。自分の趣味で集めていた魔石を、わざわざ召喚石にして使ってしまったら、手元に残らなくなってしまいます」
コレクターの心情ってのは、世界が変わってもたぶん同じだろう。というか、この世界のベースであるLoUを作ったのがゲーム会社の人間で、それの誰もかれもが結構なそっち方面の人間だ。……俺を含めて。ならばコレクター心情なんてもんは重々承知だ。
それなのに、折角集めたコレクションを散財させてしまう動機はいったい……。
「ただ、その人物……どうやら、結婚の約束をしていた女性に逃げられてしまったようで……」
あ。あんまり複雑な理由じゃなさそうだ。
「要するにそれで嫌気がさして、自分の手持ちの魔石を片っ端から召喚石にして、一度に使ったと」
「まだ確証は得てませんが、おそらくはそういう事かと」
「なんってこった。そんな理由で、街一つを混乱させて、あわや崩壊させそうになったのか」
「嘆かわしいものですね……」
……一気に力抜けた。精神的にも老けてしまった感もある。
まあ、世の中の事件ってやつは、往々において動機なんてもんは他者にしてみればどうでもいい事ばかりってのが定石なんだよな。
自分が死んだらもう関係ないからと……そういう考え方ってのは、どこの世界もあるものだな。
「わかりました。色々ありがとうございました」
「いいえ、こちらこそ本当に……この度はGM.カズキ様には大変お世話になりました。重ねて御礼申し上げます」
すっと立ち上がりカーテシーをするフローリア様。
この行動は、お礼はもちろんだが、この話題本日はもう終わりにしませんか? という意味も含まれているのだろう。賛成だ。
「そういえばフローリア様。騎士団と一緒の時、白い馬に乗られてましたね。あの馬が?」
「はい! 名前はプリマヴェーラ、私が10歳の時からのパートナーです」
「そうなんですか。綺麗な馬でした」
「はいっ、それにとても賢くて……大事な家族です」
王族であるフローリア様が、家族だと言うほどに大切にしている馬か。
すべての民に寵愛をむけているのは知ってるが、動物にも愛情を向けているんだな。
そういえば、リアルのデパートのペットショップでも、動物を見て喜んでいたっけ。ペット機能実装の要因の一つでもあったな。
うーん……。
やはり早々にミズキが好きな動物を調べて、せっかくだから実装も検討だな。
となるとやはり手段は……仕方ない、思い切ってやってみるか。




