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218.それは、天空を射貫く者なり

追記:2019/03/29投稿分はお休みとします。次回は2019/03/30の予定です

 ギリムに作ってもらった武器をミズキとゆきに渡した翌日、今度はミスフェアに来た。もちろんミレーヌとエレリナにも武器を渡すためだ。

 もちろんアポ無し訪問ではなく、昨晩伺って都合を聞いてある。約束の時間に行ってみると、既に二人とも待っていたのでそのままポータルでヤマト領へ。昨日と同じようにヤマト領の近くで、武器の使い勝手を試してもらうためだ。

 とりあえずヤマト領にきたので、東西にある祝福の樹にお参りをする。特別緊急な用事でもないかがり、ここに来たらそうするように心がけている。

 領地の東側から川沿いの西側へ歩いている時、工事作業が進む光景をみたエレリナは、


「もう、主要施設の基礎工事も始まっているのですね」


 地面の基礎部分はおおよそ完了し、主要道路沿いの建物用の土台工事が進んでいることを口にする。この世界は夜間工事の設備もなく、仕事といえは日が昇ってから沈むまでが基本だ。無論ここでも変わらないのだが、業者たちが宿泊できるための施設を最初に設けたおかげが、有効時間で無駄なく作業が進められている。また仮説で用意した食堂も、ヘタな街食堂よりよほど好評らしく作業をしている人たちのヤル気を手助けしているらしい。

 おかげで当初の予定よりも随分と作業が進んでいるとか。もちろん早いけど手抜きなどということもなく、いわゆる耐震設計とか強度とかも太鼓判の結果になっている。


「これなら思ったよりも、早く中継街として稼働できそうですね」

「そうすれば領地運営も可能ですので、それを見越してカズキが頑張らせているのでしょう」

「もうカズキさんってば。そんなに私と一緒に住む日が待ち遠しいのですか?」

「……あれ? なんでそんな話に」


 二人に言わせると、俺が早く皆と一緒に住みたいがために、各種作業をがんばってすすめているとのこと。別にそんなせかしているつもりはまったくないんだけど。……え? 一緒に住みたいんじゃないのかって? いやまあ一緒になれたらより毎日楽しいだろうけどさ。

 まあ、そういう意図で指示はしてないけど、気持ち的には的外れってわけでもないので、そのあたりは適当に濁して西側の祝福の樹のところへ。

 同じようにお参りをする。既にどちらにも二礼二拍一礼を記した看板があり、当然俺達もそれにならってお参りをする。工事関係者さんもよくお参りしているけど、同じように二礼二拍一礼でのお参りをしてくれている。ここでのお参りの基本になってくれるといいな。


 お参りをして、近くの開けた場所まで移動しているとき、ずっと気になっていたらしくミレーヌが質問をなげかけてきた。


「今日はヤオさんはどうなされたのですか?」


 そう、実は今日はヤオはいない。まあもし本当に呼ぶ必要があれば、一瞬で呼べるけど今日はそのつもりがないことをヤオ本人にも伝えてある。


「ヤオは今日、ミズキやゆきと一緒に王都の女性冒険者チームに混ざってクエストしてるよ」

「そうなんですか? 華やかそうですね」

「……ゆきもですか? あの、あちらの冒険者たちにご迷惑をかけてはいませんか?」


 俺の返答を聞いたミレーヌよりも、流れで聞こえてしまったエレリナの方が心配そうな顔をする。なんか、手のかかる妹をもつ姉って感じだ。というか……ゆきってこんな心配のされかたするのかよ。


「大丈夫だと思いますよ。よく王都に来たゆきは、そのままミズキと出かけて今日みたいにクエスト参加しているみたいですから」

「そうなんですね。それで、本日ヤオさんもそちらに行かれたのは何か理由が?」

「いや別に。朝やってきたゆきがミズキとクエストに行く話をしてた時に「ヤオちゃんも行こう!」と誘って、半ば強引につれていってしまった」

「……申し訳ありませんカズキ。自由気ままな妹で」

「大丈夫、気にしてないよ」


 ことの顛末を教えるとエレリナに頭をさげられた。まあ、かなり自由奔放ではあるけど、転生者としての知識も相まってかなり特別な存在でもあるんだよね、ゆきってば。

 他愛もなく雑談をしているうちに広場に到着。早速ストレージから武器を取り出して渡す。

 エレリナに渡すのは昨日ゆきに渡したものとまったく同じ、双短剣(ツインダガー)(スピア)だ。これの運用に関しての説明もまったく同じ。というか、元々ゆきもエレリナを改めての説明は不要なレベルなんだけど。


 そして今回受け取った武器の中で一番気になっているのは、ミレーヌに渡す魔弓(マジックボウ)だ。その形状や運用もさることながら、はたしてミレーヌがこれを上手に扱えるかどうかと言う事も大いに気になっている。


「この弓を、私にですか……?」


 まさか自分が武器を受け取るとおもっていなかったのだろう。手渡され、両手でにぎった弓をしばし呆然とミレーヌがみていた。それはエレリナも同様で、声には出さずとも驚きの表情はかくせない。


「実はこれ魔法武器なんだ。それで……」

「魔法武器、ですか……」


 俺の言葉を聞いて、少し顔に影を落とすミレーヌ。それをみて同じように表情を暗くするエレリア。ミレーヌは過去にあった出来事により、強い魔力を内包しているがそれを行使して魔法を使う事ができないのだ。その原因を知っているエレリナも、その事になるとどうしても気落ちしてしまう。


「大丈夫だよ。以前ピラミッドダンジョンでも、フローリアと魔法で攻撃したことあるでしょ」

「でもあれは、フローリア姉さまが放つ魔法の補助をしただけで、私自身が魔法を行使は……」

「大丈夫、信じて欲しい」


 確証はないけど、ミレーヌなら大丈夫だという気がする。この武器での魔力運用構造ならば、本人が魔法を使えなくても問題ないはずだ。


「とりあえずやってみよう。いい?」

「……はい。お願いします」


 少しだけ逡巡する様子を見せるも、しっかりと俺の目をみて返事をする。時折見せるこういった凛とした姿勢はフローリアと血族なんだぁと改めて実感する。


「まず弓を構えて……そう、そんな感じで」

「は、はい」


 おそらく今まで弓など握ったこともないのだろう。弓が得意な冒険者などからみれば、なんとも拙い構えであろう姿だ。

 だが、この魔弓は決められた構えで撃つべきものではない。いかに魔力を上手に運用して稼働させるかが必要なのだ。いってしまえばこの武器、弓の形でなくても問題はない。ただそれだと扱う者が“矢を打ち出す武器”としての弓を意識しにくくなる。それもあって弓の形をしているのだ。


「じゃあ今度は弓に弦が張ってあると思って、ゆっくりと矢を構えるようにして」

「弓の弦に矢を…………」


 そう言って、じっと弓を見ながらそっと右手をそえる。そして意識を向けるを、そこにすっと光の線が生まれた。エルシーラが実演してくれたときに見た、魔法で出来た弦だ。


「これは……」

「それはミレーヌの魔力で現れた弦だよ。それをゆっくり引いて、そこに矢があるイメージをして」

「はい。ここに……矢が……」


 ゆっくりと弦が引かれたその瞬間、すっと光の筋が弦にかかるように現れた。これも先日みたのと同じだ。魔法による矢が出てきた。


「この矢は……私が……」

「そう、それはミレーヌが魔力で出した矢だ。さあ、それを思いっきり空へ撃ってみるんだ」

「わかりました。……はぁっ!」


 滅多に聞けないミレーヌから放たれた気合の声。それに後押しされるかのように、うち放たれた光の矢は風を巻き込むかのように空高くへ飛び去った。


「……すごい」

「凄いです、ミレーヌ様」


 俺もエレリナもただ純粋に驚いていた。一発で成功したこともそうだが、その威力も驚かずにはいられない。ただ空へ撃っただけなのに、とんでもない力を秘めているのは見ていてわかる。


「……できました。できました、カズキさん!」

「ああ、凄かったぞ」

「はい! できましたよエレリナ!」

「見事でした、ミレーヌ様」


 嬉しそうにはしゃぐも、すぐにまた弓を構えて弦を張る。そして手を引き矢を出現させて射る。それを何度か繰り返すうちに、一連の動作が流れるように素早くできるようにまでなった。


「すごいなミレーヌは。才能なのか適応力なのか」

「そのどちらも、だと思います。そしてなにより、とても嬉しそうです」


 笑顔で魔法を放つミレーヌを、とても嬉しそうにエレリナが見ている。ミレーヌもだがエレリナも随分と気分が楽になっただろう。


「しかし凄いですねミレーヌ様は。あそこまで連続して撃てる者は、卓越した弓の巧者でもそうそういませんよ」

「まあね。ミレーヌの魔力で矢を作ってるから、矢筒から取り出す必要もないし。動作も最小限で一定だから違えることもないし」

「連続で……魔力で矢を……」


 俺の言葉が聞こえたのか、ふと手を止めてミレーヌが弓をじっと見つめる。何か思い付いたのかと聞こうとした時。


「それなら、もしかして……」


 そう言いながら、ゆっくりと弦を引く。なぜか先程までよりゆっくりと引くが、よくみると弦が随分強く輝いている。魔力を強く込めてるのだろうか? 何をしているのか気になったが、声をかけずに様子をみていると、次の瞬間俺とエレリナは本気で驚いた。


「なっ……矢が……!」

「矢が……何本もっ!?」


 弓を構えるミレーヌの手元、轢かれた弦にかかる矢は1本ではなかった。ざっとみても10本ほどあるように見える。それを携えたまま、弓を上空へむけて……放った。

 ミレーヌが打ち出した光の矢は、打ち出した瞬間は拡散するように広がるも、途中でぴったり併走するようにすべての矢がまっすぐ彼方へと飛びさった。


「できた……」


 茫然と空を見上げる俺とエレリナの耳に、どこかやりとげたようなミレーヌの声が届く。その声の主を改めて見ると、また弦を弾いている。


「もしかして……これならっ!」


 先程と同じように10本ほどの矢を放つ。しかし今回は、ゆっくりと拡散していく矢はそのまま広がっていき、遠くの空へ消える頃には大きな円を描いて消えて行った。


「ふぅ、ふぅ……。どうやら、撃つ時のイメージで、軌道制御が可能なのですね……」


 額に汗を少しうかべ、ミレーヌが楽しそうに呟く。どうやら自分の魔力が、見える形になっているのが至極嬉しいようだ。だが、さすがに始めたばかりなので過度な疲労蓄積が見て取れる。


「あのミレーヌ様、少し休憩したほうが……」

「大丈夫、よ。次は少し多めにして……はああああっ!」


 気合を入れて弓を引く。そして一瞬まばゆい光がはなたれて、そこには──


「うわっ!? 何本出してるんだよ!」

「ミ、イレーヌ様無茶です!」


 構えるミレーヌ手元には、先ほどよりもあきらかに多い20、30……いや、もしかして50本近い光の矢が、光の筒として出現していた。矢も弦もつよい光を放っている。なんかやばくないか? そう思ったのだが……。


「あうっ~……」

「ミ、ミレーヌ様!」


 次の瞬間、弦と矢が全て消える。そしてふらふらと後ろに倒れそうになるミレーヌを、とっさに飛び出したエレリナが支える。

 どうやら急激に魔力を消費してしまい、いわゆる欠乏症に近くなりめまいをおこしたようだ。

 それにしても最後のアレ、もし打ち出してたらすごいことになっていたかも。ミレーヌなら多分運用に慣れれば、昏倒せずに使いこなせるだろう。

 元々は自衛手段の一つとして欲しかったんだけど、ちょっとばかり過剰になったかな。

 まあ、あとはミレーヌの心持に期待しよう。どう転んでも悪用する子じゃないし。



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