217.そして、煌めく輝きの拳
「キリン……?」
呼びだした霊獣──麒麟。ファンタジー小説の他にも、ゲームなんかにも出てくるため日本では結構知られている幻想種という感じか。
俺達の目の前にいるソレは普通の馬よりもかなり大きく、頭にある角のせいか一見すると一角獣や双角獣にも見える。だがその角やたてがみなどが、青白く光りを帯びている様子がどこか別モノであるという雰囲気を漂わせていた。
そんな麒麟を目の前にしたミズキは、驚きで言葉がうまくでない。
「ああ。この麒麟がミズキの戦闘時の相棒だ。ペトペンやクリン共々仲良くしてくれ」
「……うん、うんっ!」
ようやく気持ちが落ち着いてきて、今度は嬉しそうに笑顔をうかべる。そんな感情を満面に打ち出してミズキが麒麟の傍にやってくる。
「これまでと同じように名前をつけてやってくれ。それで主従契約になるから」
「うん。そうだなぁ……」
この麒麟は元々LoUで用意したデータ形式での召喚獣だ。なのでペット機能の応用から、主従契約は名前を登録すれば完了する。俺とヤオや、フローリアとサラスヴァティはこの世界の魔獣だったので、もうひと手間血での契約も必要だったけど。
「よし決めた! あなたの名前は『キーク』よ。よろしくねキーク」
そう告げると、麒麟あらためキークは前足を折って頭をさげる。そのためミズキの前に角が伸ばされた。それを見たミズキはそっと角に触れる。その瞬間、キークは強い光につつまれてその大きさが普通の馬ほどにまで小さくなった。ゆき達のペガサスと同じくらいだろうか。ミズキにとって丁度いい塩梅に感じるサイズともいえる。
すると今度は後ろ脚もまげて座り込むような姿勢になる。ミズキがどうしたのと聞きながら撫でると、首を背中の方にすこし傾げる。
「もしかして、背中に乗れってこと?」
ミズキの言葉にキークが頷くような動作をする。言葉を発することはできないが、知能の高い霊獣なのでとうぜんミズキの言葉は理解しているのだろう。
キークにそう勧められたミズキは、どうしようという感じで俺を視る。まあ、どう見てもキークの親愛行動だと思ったので乗ってあげなさいと奨めた。
ミズキが背に乗ると、その重さをまったく感じない様子ですっと立ち上がる。今の見た目は普通の馬くらいだけど、実際は結構大きな霊獣なんだよね。馬で言うならばんえい競馬の馬以上かも。
そんな力強い足腰を見せるかのように、そのまますぐに駆けだした。そして案の定、ペガサスやスレイプニル同様に飛んだ。まあ、だからこそなんだけどね。もしLoUの麒麟が飛行能力をもってなかったら、何をミズキに渡すのかもっと迷ったと思う。だってょら、一角獣や双角獣って騎乗条件がいろいろ……アレでしょ。
ともあれ、さほど心配はしてなかったけど空を舞うように駆けるミズキを見て、ほっと胸をなでおろした。しばらくしてると触発されたのか、天馬のルーナにのったゆきが併走していた。俺とヤオは、しばい光景を微笑ましく眺めていた。
「お兄ちゃん、ありがとう!」
空中散歩から帰還したミズキは開口一番ニコニコでお礼を言ってきた。
仲間内ではゆきやエレリナ以上に近接特化のミズキなので、空を駆ける手段というのはとても有意義なものだった。なので何かしら与えたかったのだが、結局遅くなって今になってしまった。遅くなって申し訳ないと思う反面、タイミングとして丁度いいのかもとも思った。
「主様よ。そろそろアレの説明もしてやったらどうじゃ」
「ああ、丁度そのことを考えたところだよ」
「ん? アレって?」
キークから降りて一旦送還する。きちんと指輪に収まるのを確認したところで、俺は説明をはじめた。
「ミズキは魔力保有値がほとんどないが、召喚して使役するくらいはあるのは知ってるよな?」
「うん。ペトペンやクリンを呼んで遊べる程度にはね」
「それでなんだが──」
俺はミズキに渡した拳の説明をする。中に宿した魔力により、爆発的な威力を生み出せる武器というのは先程説明した。そして今回はそれの応用だ。
「この拳に、召喚獣のキークの力を込めてみろ」
「え? そんなことできるの?」
「おそらく可能だ。ミズキの従魔となったなら、その力を込めることが出来るハズだ」
「キークの力を、込める……」
騎乗の祭、いちど外して腰に提げていた拳を改めて見る。そこには元々あった青い輝きが煌めいていた。その両の拳を手装備してそっと目を閉じるミズキ。
「キーク。この拳にあなたの力を込めることできる?」
呟くように問いかけると、すぐに変化があらわれた。青々と煌めいていた拳の内に、青白い閃光の粒子の様なものが瞬き始めた。その変化を感じたミズキは、目をあけて自分の拳を見る。
「この光……キークの光だよね……」
拳の中で煌めく光。その拳をミズキが見ていると、段々と強く輝き始める。
「ホレ! その力を打ち出すイメージをして、拳を空に撃ってせよ!」
「え!? ヤオちゃん、いったい何を……」
「いいからやってみよ、この馬鹿弟子がっ」
「っ!! はい、師匠! 行きますっ!!」
ヤオより弟子呼びされた瞬間、瞬時に構えをとって拳を引く。そして軽い深呼吸。
……俺の後ろでゆきが「俺のこの手が光って──」とか言ってるが無視無視。
「はぁああああ…………やあああああッ!!」
少しかがんだ状態から、上空へ斜めに拳を繰り出す。その瞬間、拳にまとわれた青い輝きが、空気を焦がすほどの熱量をまといながらはるか空へ打ち出された。強力な雷撃の弾だ。雷を司る霊獣である麒麟の力を、拳にこめて打ち出したのだ。
「す、すごい…………あっ!」
拳の魔力を打ち出して、少し方針したようなミズキが驚いた声をあげる。なんだと思ってミズキを見ると、驚いたように自分の拳をみていた。
「今、ほとんど魔力を打ち出したと思ったのに、いつのまにか魔力が充填されてる……」
言われてみれば、先ほどの攻撃直後はあきらかに輝きが抜けたこぶしが、既に攻撃前と同じように光が煌めいていた。
「ふむ。お前の召喚獣が、主の為に次の魔力を補充したのじゃろう」
「な、なるほど。ありがとうございます師匠」
ヤオが説明をしてやると、背筋を伸ばして礼をする。ふむ、武術講師をしているときはこの師弟モードなんだな。
そのままヤオは近づいていき、拳を眺めたりして講習風景のようになる。
そして後ろにいたゆきは少々メタい事をいいながら、俺の横に来て。
「しっかし、すごいねさっきの。なんか超長距離攻撃が可能なスタンガンみたいじゃない?」
「電撃弾だからスタン効果もあると思うが、それ以前にアレくらったら無事じゃいられないだろ」
「そうだね。原理は違うけど、あれこそ超電磁砲って呼びたいね」
「そうだな。あえて呼ぶなら超電磁拳ってとこか」
「お、いいね」
そう言ってゆきがミズキのところへ行き、とびついて抱きつく。そして俺との会話から、先ほどの攻撃をレールブローと呼びたいとかそんな事を言い出した。ミズキとしては、対して命名にこだわるつもりはなかったようなのだが、
「技っていうの名前をつけて意識することで、常に安定した強い技がだせるようにもなるんだよ」
という謎の理屈で、そのまま押し切られて“レールブロー”と名付けられてしまった。まあ、それで不都合があるわけでもないのでいいか。
この後、もう撃たないので魔力を戻してとミズキが言うと、キークがそれを理解したようで拳から光が消えた。一見アンタレス甲殻で作った拳、という状態に戻ったところでミズキは今度はストレージへしまった。普段からぶらさげるのは邪魔だからな。それに腰には昔俺がやった刀がずっとあるし。
とりあえずこれで今日やりたいことは終わった。
そう思っていたのだが、最後にミズキとゆきからフローリアの新しい召喚獣の事を聞かれた。そういえばサラスヴァティ──元ヒュドラの事は話してなかったか。
ヒュドラとの経緯、そして苦しみからの開放とフローリアとの主従契約についての話をした。
二人もフローリア同様、すでにヤオで心身耐性が培われたのか、多頭大蛇と聞いても嫌悪する雰囲気が微塵も感じられなかった。
もうそういのは平気なのかなーと思い、ゆきに「頭にクモがいるよ」って言ったらすっごい絶叫をした。すぐに冗談だと言ったら、本気の涙目でしかられた。ついでにミズキに軽くスタンパンチをくらった。レールブローの弱い版で、痺れるパンチ攻撃だとか。まさか妹の最初の攻撃を受けることになるとは……。




