216.そして、授けるは武器と共に
切っ掛けはどうあれ、現実に来てフローリアとデートをして、その後はヤオも呼び食事をした。まあ、ここまで来たのだからとデパート一階にある洋菓子コーナーで、幾つかケーキ類を購入。のんびりと過ごした結果、帰宅するころにはすっかり夜になっていた。
今回こちらに来た時はお昼頃だった。少なくとも数時間はこっちにいた、ということになるか。そうなると流石に戻った後の時間感覚がずれそうだという話になり、そのまま一泊して調整後に帰ることになった。まあ、それもよくある事なんだけど。
この後は時間つぶしも兼ね、のんびりと自宅で過ごした。買ってきたケーキを食べながらテレビを見ている風景は、どうにも異世界ファンタジーにそぐわない光景だったが、おだやかで良い光景だった。
そして翌日の昼ごろ、俺達はログインをした。
出現場所はドワーフ達が住んでいる洞窟にある、闘技場のようになっている広間。ここでフローリアの言い様に少しあわててしまいログアウトしたんだった。
「カズキ、どうかしました……え? いや、気のせいかな……」
俺をみたエルシーラが何かに驚いたような声を出す。実働時間で一日経過している状態を、なにか違和感として感じ取ったのかもしれない。
「かかかっ、面白かったぞ! よもやわしがこんなに吹っ飛ばされるとなぁ」
ふと見れば壁側から人型に戻ったヤオがこっちに歩いてきている。そういえばログアウトの時、ヤオはまだ壁際に後退したままだったな。そのあたりの辻褄をあわせてくれたようだ。
この時の事はログアウトした時少し聞いたが、フローリアの一撃に随分と感心していた。少なくともここ最近手合せした魔物より、よほど強烈な一撃をうけたぞと満足顔だった。
「さすが聖女で王女様じゃな。これは結婚したら主様も尻に敷かれるかの」
「お言葉ですがヤオ様、既にカズキは王女をはじめとする嫁達には敷かれまくってるかと……」
ヤオのきつい言葉を、さらに補足するエルシーラ。うん、なんかイニシアチブを取られてる事が多い気がするとは思ってるけど。
この後、俺がフローリアの婚約者だと驚くギリムを落ち着かせ、また防具ができたら来るといって工房を後にした。ああいった物造りの場所は見てて飽きないが、それで仕事の邪魔をするわけにもいかない。
一度ダークエルフの集落までもどり、エルシーラと長に改めて挨拶をして帰路に着いた。
無論、先にフローリアを王城に送り届けた。その手には、現実から戻ってきてずっと星座の本が抱えられていたのは微笑ましい。
明けて翌日。
ごくごく普通にこっちの世界での起床をする。
部屋をでてリビングへ行くと、ミズキやヤオが朝食後のまったりした空気の中にいた。とりあえず俺も朝食をと思って席にすわる。
ちなみにこの家にはほかに両親がいる。もちろんミズキ同様にベースはNPCだが、どちらかと言うとよりNPCに近いという感じだ。感情などはあるが、俺が無駄にスペックをあげたミズキとちがい、ごくごく平均的な能力をもっているだけの、かなりまっとうな人間だ。とはいえ、俺やミズキにちゃんと愛情を注いでくれるので、俺の方からも親として接している。
そんな両親だが、父はすでに朝食をすませ自室でのんびりしているらしい。なので今ここにいるのは、俺、ミズキ、ヤオ、そして母……なんだけど。
「すみませんっ、おかわりいいですか?」
「いいわよ、ちょっとまってね」
そう言って笑顔で器をうけとる母。嬉しそうな顔をするその──
「ゆき。なんで朝から人ん家でメシ食ってんの?」
そうなのだ。なぜかゆきがリビングで飯を食っている。それもごくごく自然に。
「いやーちょっと時差のこと忘れててさ。こっちきたら朝になったばかりだったもんで。でもホラ、私って来るのは自由だけど戻るのはカズキにお願いしたいとダメじゃん? なら遅かれ早かれここに来ることになるし、まあいいかなぁ~って来たらミズキちゃんにご飯すすめられて」
「せっかくだもん、ねぇ~」
ニコニコっと顔をみあわせて、ねーっとお互い首をまげる。なんかゆきの姉妹はエレリナだけど、性格としてはミズキとのほうが姉妹みたいだな。
とはいえ、別に問題があるわけでもないので、そのまま俺も朝食をとる。多少俺のおかずを三人がつついて、少し減ったけどまあいいや。
そして食事をしながら、昨日ダークエルフの集落へ行った事を話した。エルシーラたちから聞いた火吹き山の状況を報告したあと、ドワーフのギリムに依頼していた武器が出来上がった話もした。すぐさま興味が武器へ向き、すぐ手にしてみたいと言い始めた。
よし、じゃあ今日は武器のお渡し&お試しでもしよう。
そんな訳で朝食後、俺達はヤマト領にやってきた。
といっても目的は武器のお試し等であり、今回は視察が目的ではない。その為の手頃な場所としてやってきたのだ。
単純に闘技場とか道場であれば、各国の冒険者ギルドに王城、ミスフェアの道場ほかいくつもあるが、武器扱いでうっかり爆発的な威力が発揮されると施設にご迷惑がかかる。その威力具合は、あのフローリアで実証済だ。
「お兄ちゃん! 着いたら渡してくれるって約束でしょっ、はやくはやく!」
「そうだよカズキ! どんな武器なのか興味あるんだから」
「はいはい」
ヤマト領近くにポータルで移動してくると、即座におねだりする二人。まあ、気持ちがわからんでもないから、あまりもったいつけるのはやめておく。ストレージにしまってある武器から、二人に渡そうとおもっていたものを取り出す。
ミズキには拳、ゆきには双短剣と槍だ。ちなみに戦棍とブレスレットは、既にフローリアに渡してある。その際、装備したブレスレットを仄かに光らせながら「ふふふっ」と笑みをこぼして戦棍をひょいひょい振り回す姿に、この世界にきて最大級の不安を感じたのは気のせいじゃないだろう。頑張れ俺。
「じゃあミズキにはコレ。そしてゆきにはコレとコレな」
「わっ、何コレすごく軽い……。あ、でも何だろうすごく硬い」
「これはツインダガー? あとはスピアだよね。でも……うん、これも軽くて硬い」
とりあえず二人ともすぐ装備して、素振りしたりして感触を確かめている。
「そうそう。ミズキは後でもう一つ別の物をあげるから楽しみにしておけよ」
「え? 何々!?」
「それは後でのお楽しみだ。まずはその武器の使い方から」
「んーわかった。楽しみにしておくね」
こうして二人に、ラピスアンタレスの甲殻を使って作られた武器の説明をすることにした。
まずミズキに渡した拳。
これもギリムに教わったように、甲殻に魔力がため込んである。とはいえ普段これは使用しない。フローリアに渡したブレスレットと同じで、使用することで爆発的な威力を出す媒体だ。ならばこの拳武器には、そんなに高い性能はないのかといえば、答えはとんでもない。
この左右の拳には、アンタレスの左右の鋏の中でも一番の強度を誇る素材を使用している。その硬さというのも、ギリムが使用する道具で挟みの中でもまだ加工しやすい部分を切り出して、それを工具に加工してそれで何度か切り出してようやく素材にできたほどだとか。その素材は他の武器の先端などにも使用しているが、一番ふんだんに使用したのがこの拳らしい。素材の軽さも相まって、ミズキの最大のウリであるスピードを存分に生かした戦いができるとの事。
次にゆきにわたした双短剣と槍。
これらにも拳で使った素材は刃先に使用しているが、やはり同様に魔力が込められているのが特徴だ。短剣の方がギリムの工房でためし斬りをした剣と同じで、魔力を流し込むもしくは蓄えて有る魔力を使用して、切れ味を大きく上げることが可能だ。拳のように一瞬の爆発ではなく、ある程度の持続で強化するタイプらしい。ちなみに両短剣とも鍔が無いのは、ゆきが短剣を逆手持ちしやすいためらしい。
そして槍。こちらも魔力伝達で切れ味アップなのは同様とのこと。ただ少し面白い機能として、槍の柄から穂先に向けて魔力を収束して打ち出せるとのこと。飛び道具とまではいかないが、見た目の数倍の距離を攻撃できると。元々リーチのある槍で、それはかなりの優位性だと思う。
そんな槍を手にするゆきは、ルーナを召喚して騎乗する。
「うん。やっぱりペガサスに跨ったら槍だよね」
「おっ! わかってるじゃないか」
「もちろん! ちなみにお姉ちゃんにも槍を渡すんでしょ?」
「ああ。やっぱりペガサス騎乗の姉妹は槍をもってないとなぁ」
はははと笑いあう俺とゆき。何の事だろうとミズキとヤオが見ているが、まあこのあたりは現実ネタということで流してくれ。
こうしてミズキとゆきはそれぞれ武器の扱いを練習した。といっても、基本的に使い方は同じだ。単純に魔力による運用で変化があるというだけで。
その辺りの練習は、俺やヤオが手合せをして行った。時々思いっきりがよすぎる攻撃で、地面がかるくえぐれたりとかしたけど、おおよそ扱いに二人とも慣れてくれた。
しばらく武器の練習をして、ほどなくして昼食をとる。
この時はヤマト領で仮店舗出店をして、工事業者や旅行者へ食事を出しているものを味わってみた。まだ設備が十分じゃないにもかかわらず、豊富な水を利用した水流式冷蔵庫とでもいうのか、鮮度をたもっておく方法がとられておりいい感じだ。他にも地中にしまう地下室型倉庫や、大きな器の中に一回り小さい器を入れて隙間にしきつめた砂に水をしみこませての貯蔵容器。そういった工夫で、電気がないのに冷蔵保存した素材での料理がでてきた。
これら幾つかの素材貯蔵法だが、現時点である程度確率したおかげで今後領地を正式稼働したときにも、問題なく実施できるようだ。料理人たちにも好評で、今後こちらに正式に移住してきたいと申し出てくれる人も何人か出てきている。
単純なもので、こうやって評価されると俺もがんばりたくなってしまう。まあ“病は気から”というように、気持ち一つでやる気も湧くってもんだ。
そんな、予想外に新鮮な素材をつかった食事をおえると、ミズキがそわそわした目を向ける。
まあ、何がいいたいのかはわかってるんだけどね。
「あ、あのねお兄ちゃん。お昼ごはんも終わったし、そろそろ……」
「昼寝でもしたいのか?」
「もう、違う!」
顔をこんな風にして→ >< 「わかってるくせにぃー」とわめくミズキ。うん、可愛い可愛い。
「わかってるよ。さっき言ったもう一つの方だろ」
「そうだよ。わかってるなら、ほら、ねえ」
俺が出すものが何か知らないのに、既に絶対の信頼をもって期待してるミズキ。まあ、俺自身もミズキがよろこばないものを出す気は毛頭ないけど。
「実はだな、先日フローリアに戦闘時に召喚できる召喚獣をあげたんだ」
「え!? フローリアに!? 何を何を!?」
ミズキだけじゃなくゆきも興味津々だが、とりあえずその話はあとにすることに。ちなみにサラスヴァティは元々の召喚獣ではないが、フローリアとの主従契約で完全に生まれ変わったので、俺達は同様な召喚獣と認識している。
まあ、今はミズキへわたす方だ。
「ミズキには、この召喚獣を渡すよ」
そう言って俺は一体の召喚獣を呼び出す。激しい雷のような竜巻がおこり、それが収まったと思った瞬間そこに出現したのは。
「これは馬……というより鹿……いや違う」
その姿を見て、おもわず言葉が出ないミズキ。逆に驚きの言葉が口から漏れ出てしまうゆき。
「ほぉ、なるほどのぉ……」
そしてヤオは、その正体に気付いたのか納得顔を浮かべる。
だが二人は、目の前に呼ばれた召喚獣が何かわからない。
「なんか角が生えた馬みたいに見えるけど……」
「ユニコーンじゃないよねこれは、バイコーン……う~ん…………あっ!」
自身の“私のファンタジー幻想辞典”にある生き物をしらみつぶしに照らし合わせたゆきは、どうやら答えにたどり着いたらしい。この生き物って、日本人だと結構知ってるんだよね。
「お兄ちゃん、この子は……?」
まだ答えにたどり着かないミズキが、教えてという目でこちらを見た。ただ、その目がとても楽しそうにもしているので、素直に教えてやることにした。
「これはな……『麒麟』だ」




