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213.そして、出来上がった武器へ

 エルシーラに連れてこられたのは、これまた別の洞窟だった。とはいえ徒歩で直ぐの場所なので、王都内で言うならば東側から西側へ行くくらいの感じだ。

 ちなみにマリナーサはここでエルフの里へ戻ることになったので、ポータルをあけて送り届けた。ちゃんと分かれる前に、皆がまた一緒の旅行を望んでいることも伝えておいた。

 洞窟へ入るとダークエウルフの集落と同じように広間に出た。そこには何人か背丈の低い人らしきものが。ドワーフだ。


「おうエルシーラ。どうした?」

「ギリムはいるかしら。彼へ武具製作の依頼をした人を連れてきたんだけど」

「ああいるぞ。というかギリムの場合なら、居ない事の方が珍しいだろ」

「そうだな。あいつが出歩いてるときは、足りない素材を調達しにいくときだけだ」


 そういいながら酒をあおるドワーフたち。エルフと仲が良いってのが、俺達がよく目にするファンタジー物とちがうけど、本来は別に仲が悪いってわけでもなんだっけ。

 武具作成をしてくれるギリムさんとやらが居ることを確認すると、エルシーラが礼を言って広間を横切っていく。俺達も会釈をして続くが、なんか勝手知ったるという感じだな。

 別の通路を進んでいくと、前方になにやら注意書きの看板のようなものがあった。書かれている文字は俺の知らないものなので、ドワーフとかが使っているものなんだろう。

 その看板をエルシーラさんはスルーしていく。おそらく立ち入り注意看板なんだろうけど、彼女は関係なく入れるってことなんだろうな。

 そして到着したのは、いかにも武具店&工房といった雰囲気の部屋。


「ギリム! いるかしら?」


 カウンタの奥にむかってエルシーラが呼ぶ。聞こえてないのかと思い、もう一度エルシーラが呼ぼうとしたとき。


「なんじゃ。いま珍しい素材の研究を……エルシーラか。ん? 後ろの者達は……」

「こんにちは。今日は以前依頼した武具を取りに来たのよ。この人達がその依頼者よ」

「ほぉ、お主らがラピスアンタレスを倒したのか」


 そう言ってこっちをじっと見える。一瞬鑑定スキルみたいなものでもあるかと思ったが、どうやらそうじゃないらしい。純粋にこっちの力量を推し量っているといったところか。


「……ふむ。依頼された素材での武器はできておるぞ。少し待っておれ」


 そう言ってカウンタの奥へ行ってしまった。それからすぐに戻ってきたが、小さな袋を一つもったいるだけだ。この世界での収納魔法の袋だそうな。

 袋からアイテムを取り出してカウンタの上へならべていく。ならべながらギリムが話をする。


「アンタレスの甲殻は、硬度もじゃが魔力伝達がすぐれておる。今回作った武器は全て、使用者が魔力を流すと威力などが上昇する。これはラピスアンタレス特有の素材機能だ。たとえばこの剣」


 そういって一番最初に置いた剣を手にとるギリム。いわゆるノーマルソードだが、刀身も柄も美しく仕上がっており、そういう方面に疎い人でもかなりの業物じゃないかと思う品だ。


「こうして魔力を少し流すようなイメージをすれば……」

「あっ、なにか光り始めましたね」


 じっと刀を見ていたフローリアが声を出す。武器云々だと興味ないかなと不安だったが、そんなこともなさそうで一安心だ。


「うむ。こうなっていると普段とは比較にならないほどの切れ味が発揮されるようになる。たとえばこの鉄の棒きれにソードの刃を触れさせてみると……」


 ──カラン。


 置いただけにみれたソードの刃が、豆腐にでも包丁をおろしたかのような切れ味を見せた。


「こんな感じじゃ。ホレ、あんちゃんもやってみるか?」

「はい、剣に魔力をそそぎこめばいいんですね……」


 ギリムさんから受け取ったソードは、初めて握るのに手になじむ。その事にも感動しながら、言われた通りに魔力を流しこんでみる。その瞬間、ソードから眩いばかりの七色の光が噴出した。


「な、なんじゃ!? 何がおきておる!?」

「カズキ! これは一体……!」

「い、いや、ただ魔力を注ぎ込んだだけで……」


 言われたとおりにやっただけだが、眩しくて目が開けられないほどの閃光が室内を照らす。これどうしようかなと思っていると、


「主様よ。とりあえず眩しいから手放しておくれ」

「あ、ああ」


 俺の返事もきかずにヤオが剣をとりあげる。途端、光はおさまって元の洞窟内の景色が見える。まあ、ちょっとだけ網膜に光の残像がのこっているけど。

 ヤオはその剣をそのままカウンタに戻す。その音で、放心していたエルシーラの焦点が戻る。


「カ、カズキ! なんですかあの魔力は! あなたは何者ですか!?」

「いや別に。普通の人間だよ」

「普通の人間が、あんなとてつもない魔力を保持してるわけありません!」

「まあまあ、エルシーラさん。カズキですから」

「そうじゃぞ。主様じゃからのう」

「……そう、なんですか」


 どうにも腑に落ちないという表情をするも、フローリア=聖女に言われてしまっては、エルシーラたち種族はこれ以上何もいえなくなってしまう。


「……驚いたな。あんだけの力があるなら、アンタレスとか倒したって不思議じゃねえわい」

「そ、そうですか? まあその話はおいておいて、他の武器も見せてください」


 なんか俺が何者だ話にで発展しそうだったので、強引だけど話題を切り替えた。まあ、他の武器にも興味があるってのも本心なんだけど。

 カウンタにおいてある武器は、


 ・剣

 ・双短剣

 ・戦棍

 ・槍

 ・弓

 ・拳


 後はブレスレットのようなリングも置いてある。それらを見ているとギリムさんが補足してくれる。


「あー……防具の方はもうちょっと待ってくれ。素材がいいから、思ったよりも時間をかけてやってしまってのお」

「ええ、いいですよ。急かして質を落とすなんて、作るほうも買うほうも本位ではありませんから」


 返事をしながらも俺達の目は、皆カウンタの上にある武器に向いている。

 この双短剣──ツインダガーは、忍者である狩野姉妹向けか。そういえば双短剣だから2本のところ、4本あるな。


「この戦棍は……もしかして、私ですか?」


 驚きの混じった声をあげるのはフローリア。まあ俺達のパーティーで、切断武器じゃなく殴打武器を装備しそうなのって、聖女でもあるフローリアだけだよな。でも……


「でも、こんなに重そうな武器、私では持ち上げることすら…………えっ」


 折角なのでと手を伸ばして握り締めた後、フローリアはまるで棒切れでも持ち上げるかのようにスッと戦棍を持ち上げた。その手にはまったくと言っていいほど力強さを感じない。だが、彼女の小さい白い手は、間違いなく戦棍を握り、掲げている。


「その戦棍には使用者の魔力で、重量を軽減できる機能があるんじゃよ。それもあのアンタレスが持っている能力の一つじゃ。あのでかい化け物が、細い足で躯体を支えている秘密はそれじゃよ」

「そうなんだ。じゃあ別にフローリアがいきなり怪力女になったわけじゃないんだ」

「カ、カズキ! 何を言うんですか!」

「ぐぉ……ちょ、強い硬い重い! 全然軽くないじゃないか!」


 フローリアが気軽にペシっと叩くようにした戦棍。一瞬嫌な予感がしたので全力で受け防御をしたら、案の定凄い衝撃がつたわってきた。何コレ、全然女の子が振り回してる威力じゃないよ。


「ほぉ……上手なもんじゃのぉ。そのお譲ちゃんは当たる瞬間に魔力を切ったのじゃろう。つまりぶつかる瞬間だけその戦棍本来の重さが伝わってきたんじゃ。いや、まさか説明するまえに使いこなすとはのぉ」


 面白そうに笑うギリム。俺今かるく殺されかけたんじゃないのか? ジト目でフローリアを見るも、露骨にこっちを見ないようにして鼻歌を口ずさんでいる。……ギリムさん知ってる? あれ聖女なんだぜ。


 気を取り直して他を見る。槍も2本あるが、別に両手に持つってわけじゃないだろう。となればこれも狩野姉妹か。ん? 姉妹で槍か……なるほど。


「この槍は狩野姉妹が、ペガサスに騎乗したときの武器か」

「そうですね。私も乗せていただきましたが、騎乗したまま振るう武器としは基本ですが相応しいかと」


 そういやエルシーラは、火竜の洞窟でペガサスに乗ったことがあったな。

 そして次の弓なんだが。


「これって、弓……なんだよな?」

「ふむ。じゃが弦がはってないぞ」

「あの、少しいいですか?」


 俺が手にとってヤオと見ていると、エルシーラが口を挟んできた。どうやら少し手にしたいようなので差し出す。それを手にして、弓本体を手にして構える。まるで弦があるかのように。


「ふむ、そういうことですか。なら……」


 そう言った瞬間、弓に弦が出現した。それをエルシーラがつまみ後方へ引く。矢をかけてない弓の弦を引いていく光景は不思議だが、なにより弓がまったくしならないのも奇妙に見える。そんな弓をしっかりと引いた瞬間。


「!? 矢が出た!?」


 いままで何もなかった場所に光る矢がかけられた。それを見たエルシーラは、ゆっくりと弦を戻す。すると先ほど現れた弓は消え、最後に弦も消えてしまった。元の状態に戻った弓をエルシーラが返す。


「ギリム、これは魔弓(まきゅう)ですか」

「はっはっは、さすがに一発で見抜いたか。おうよ、それは魔弓だ」

「えっと、魔弓ってなんですか?」


 とりあえず知らないので二人に聞いてみる。俺だけかと思ったけど、フローリアとヤオも何かなという感じで話を聞く姿勢だ。


「魔弓というのは、今見せたように魔力の弦を引き、魔力の矢を放つ武器です。通常の弓矢と違い矢を用意する必要がありませんが、当然代用するための魔力を消費します。ですが、消費魔力は思いのほか多く、一般的な攻撃魔法を使えるなら、そちらを使用するのが常識となっています」

「つまり、この武器は普通は使われないって事?」

「基本的には。ですが、何か事情により大きな魔力量を有しながらも、それを魔法として使用できないといった人がいる場合はとても強力な武器となります」


 そういわれて俺はおもわず考え込む。膨大な魔力を保持しているのに、それを魔法として使えない。そんな境遇の人物がもしいれば……いれば…………あ!


「そうか、ミレーヌなら!」

「はい、ミレーヌですわね!」


 俺とフローリアが呼ぶ名前が重なる。ミレーヌは膨大な魔力を有しているが、ある理由でそれを魔法として行使できない。これまではその魔力をただ蓄積しただけだったが、最近はホルケを召喚して多少は消費している。だが聖女素質もあるミレーヌにとって、ホルケを召喚して出しておくのに消費する魔力が、自動回復する魔力で追いついてしまう。結果的に何かをしたという実感は抱いたこと無いだろう。

 ミレーヌは基本ホルケが一緒にいるが、もしものために自衛できる武器があったほうがいい。そして、もしこの魔弓が扱えるなら非常に有効だろう。

 魔弓をカウンタに並べ戻し、最後の武器を見る。


「これは拳……つまりナックルだよな」

「……ふむ。これはミズキじゃな」

「え? どうしてですか?」


 拳を見たヤオはなんの迷いも無くミズキだと言う。俺はなんとなくイメージできるが、フローリアはわかってないようだ。ヤオが説明をしたそうにしてるので、そのまま話が始まるのを待ってみた。


「ミズキの武器は、なんといってもあのスピードじゃ。あの速度で振るわれたら、ある程度の強さ以下じゃと何を握らせても大差ない。しかし相手が技術巧者だったりすると、もうスピードだけでは勝てぬ」


 ミズキとゆきが、レジスト共和国でのなりゆきで試合した時を思い出す。スピードは完全にミズキだったが、結果としてはゆきが勝った時のことを。


「あとミズキはスピードが速すぎるゆえ、武器を扱える速度の調整がヘタじゃ。剣にせよなにせよ、型にはまった振りはそつなくこなすが、戦いでの応用となると粗末なもの。一流の剣士が刀を自分の手の様に扱うというが、ミズキは手にするものが剣でも槍でも棍棒でも同じじゃろう」


 そう言ってカウンタにある拳を手にとり、自分の手にはめる。


「じゃがこの拳は違う。“自分の手”を“自分の手の様に扱う”ならば話は別じゃ。ミズキの全力を出し切る武器はこの拳じゃな」

「そうか。じゃあその拳を装備して、またヤオが指導してくれるか?」

「ふむ、かまわぬぞ。またあの出来の悪い弟子を指導してやるかのぉ」


 そう言って浮かべる笑顔は、どこかとても楽しそうだ。

 さて。そうなるとあとじっくり見てないのは……


「このブレスレットは何でしょうか?」


 フローリアがそっと掴み、掌に載せてみる。

 今更だが、仮にも王女がそんな無警戒に物に触ってもいいかなぁ。さっきの戦棍もそうだけど。

 だが、そのブレスレットを手にするフローリアを見てギリムは楽しそうな表情をする。


「それはだなぁ……よし! お譲ちゃんちょっと装備してみるか?」


 楽しそうな顔をするギリム。

 イタズラをする子供とかじゃなく、何か自分の発明を皆に聞かせたい……そんな雰囲気の顔だ。

 まあ、既に信用してるからいいけどもね。



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