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209.そして、牙を差し向ける

「では、そのヒュドラとやらの事を教えてくれ」


 ダークエルフ達に崇められるように扱われていたが、一通り落ち着いたようで本題に入った。

 ヤオの問いに対して口を開いたのはエルシーラだ。


「ヒュドラとは先程の少しお話したように、9つの頭をもつ大蛇です。強力な猛毒を持っており、こことは別の洞窟に棲みついていたのですが……」

「ですが?」

「時々平地に現れては、動物や人、さらには低級の魔物までをも襲います。無論外はあるのですが、これまでは特定の範囲でしか姿を見せず、そこに立ち入りさえしなければ被害を受けることもありませんでした。しかし最近になって、以前では見かけなかった場所での目撃が増えてきました。このまま行動範囲が拡大された場合、ここの集落も危険かもしれません」

「そのヒュドラとは戦ったこと無いのか?」

「いえ、無いというわけではないのですが……」


 俺の質問に、少し影を落とすエルシーラ。何気なく聞いただけだが、思いの外表情が暗くなったので少し驚いた。


「ヒュドラが纏っている臭気……毒を含んだ魔素なんですが、私達エルフが扱う精霊魔法はそれを突破できません。だからといって、無理に物理攻撃をすると反撃は必至となります。今までは襲われないように、縄張り範囲を避けていれば問題なかったのですが……」

「このままでは、遠くないうちに危機的状況に陥る可能性があると」

「はい」


 まあ、相性ってものはあるだろうな。

 それにヒュドラって、神話上の化け物だしけっこう強いはずだ。物語によっては英雄と称されるヘラクレスとの死闘の末、敗れて死んだって事になってるし。……なんか、須佐之男命(スサノオノミコト)に討たれた八岐大蛇(ヤマタノオロチ)の話とよく似てるなぁ。

 とりあえず、俺達はヒュドラを討伐すべくその洞窟へ向かうことにした。




 エルシーラとマリナーサに案内され、そのヒュドラが住むと言われる洞窟へ向かう。繋がっているのかなと思ったが、一度別の出口から地上へ出て別の洞窟へ行くとのこと。


「しかしここんとこ、妙に蛇づいておるのう。湖にいたシーサーペントといい、このヒュドラといい」

「シーサーペント? なんの話ですか?」

「そういえば二人は旅行途中で抜けたから知らないんだったな」


 二人にリーベ湖での出来事を説明する。召喚獣のペトペンの視界をかりて、湖底に遺跡らしきものを見つけたこと。その神殿にペトペンが近寄ると、中からシーサーペントらしき生き物が攻撃をしかけてきたことなど。

 その話をしながら、ふと思い出して二人に聞いてみる。


「そうだ二人とも。エルフの精霊魔法で、水の中で息ができるような……そんな魔法ってないか?」

「水の中、ですか? そうですね……申し訳ありませんが……」

「ウンディーネや、水棲の上位精霊などならば、何か知ってるかもしれませんが……」


 なるほど残念。まあ、そんな都合よくはないか。とはいえ、あの神殿は居住者がいるようだし、無闇につっつくつもりはない。なので思い付いたから聞いただけで、どうこうする予定はない。

 だが、その話を聞いていたヤオが何かに気付いたように声をあげる。


「おお、そうじゃ! あの火竜が言っておった大亀はどうじゃ?」

「なるほど。確かに可能性はありそうだ。あの口ぶりからすれば、古代エルフや火竜と同じくらいの存在らしいからな」


 つい先日偶然名前をしったノース湖の主と呼ばれている存在だ。主がいるというのは有名な話だが、それが大亀だというのはブルグニア山の火竜が教えてくれた確かな情報だ。

 そして、その事を思い出した俺は、もう一つ大切な事を思いだす。


「そうだ! 二人が様子を見に行ったアイスフェニックスはどうだった?」

「はい。強力な結界が張ってありましたので、そこを通じて話をしました。私達が火竜様と話をし、その言葉に偽りが無いと感じられたようで、その後直接お会いして話をしました。現状では何事もなく平穏であるとの事。ですが火竜様が陥っていた事態を説明して、警戒をして下さるようにお願いしました」


 とりあえず無事だと。あの黒い霧に関しては情報がなさすぎるから、あまり関わりたくないので正直ほっとしている。

 そんな状況確認などをしながら歩いていると、前方に洞窟が見えてきた。


「ひょっとして、アレかな?」

「はい、そうです──んっ!? あれは一体……」


 目的の洞窟に到着したものの、何故かエルシーラが表情を強張らせる。見ればマリナーサも険しい表情をしていた。


「二人とも、どうかしたのか?」

「あの洞窟から、異常な気が漏れ出ています」

「それって、ヒュドラの臭気?」

「似ていますが……以前遠くからですが、見た事あるものよりも明らかに強い力を含んでます」


 俺にはその臭気が見えない。だが、目の前にある洞窟は明らかにおかしい。正確に言えば、洞窟の周囲が明らかにおかしいのだ。そこに生えていたと思われる植物は、黒く変色してただれている。中にはどういう原理なのか、溶けてしまったように地面に漂っているものも。


「何が起きているのかわかりませんが、これでは近づけません」

「どうしましょう。一度戻って長達と話をするべきかと……」


 二人はとりあえずこの場を離れることを提案する。まあ、普通はどうだろうな。でもここに居るのは、ヤオなんだよなぁ。


「ふむ。それでは行くとするかの主様よ」

「まあ、そう言うと思ったけどな」

「なっ! 何を言ってるんですか!?」

「いくらヤオ様でも、あの中に行くのは自殺行為ですよ!」


 当然のように歩き出す俺達を見て、悲鳴のよな驚きの声をあげる二人。

 そりゃ、俺だって普通(・・)なら遠慮したい場面かもしれないけど。


「それじゃあ……『//cc』」


 軽くつぶやくショートカット命令。それで俺はGMキャラへと切り替わる。途端、その視界に映るのは触れたくもない、いかにも毒ですよといわんばかりの空気。だがそれも、俺が近寄るだけで霧散する。GMがもってる全耐性効果により、問答無用で打ち消してるのだ。


「なるほど。これが皆が見えている臭気か」

「主様の準備もできたようじゃし、ちいとばかし言ってくるぞ」

「あ、はい……」

「いってらっしゃいませ……」


 臭気をまったくものともしないで進む俺達を見て、二人は驚きを通り越した気が抜けるような声で返事をしてくれた。まあ、心配させておいて行くよりはいいか。




 洞窟の中を歩く。そこそこの広さをもった通路だが、その理由は地面を見れば一発でわかる。蛇の足跡……いや、這い跡? ともかくその跡がついているのだ。それがずーっと続いているのだが、その痕跡からして結構太い胴をしているように見える。

 俺が下の跡を見ながら進んでいると、なにやら軽くステップしたり飛び跳ねたりしながら洞窟を進んでいたヤオが「ふむ」と声を出す。


「どうした。何かわかったのか?」

「うむ。どうやら主様がそっちの姿になっていると、わしも影響をうけて強くなっているようじゃ。ここの臭気、当初思っていたよりもかなり強かったのじゃが、今はまったく何ともおもわん」

「そうなのか?」

「そうなのじゃ。主様がいつもの姿でも、戦う分に不便なほどではなかったと思う。じゃが、今の状態じゃと何の阻害もないのう。我に触れる前に完全に打ち消しているようじゃ」


 そう言って腰にさげた鞭を取り出して数回空を舞わせる。するとそこにあった臭気が霧散した。鞭で打ち消したというよりも、舞っていた鞭が触れたからかき消されたように見えた。


「んー……主様の力は驚きをこして、もう狡い領域じゃな」

「ズルって言われても……」

「別に貶してるのではないぞ。存分な褒め言葉じゃ」


 かかかっと笑いながら鞭を振り回して臭気を霧散するヤオ。なんだかおもしろい遊びをおもいついた子供みたいだが、やってることは随分非常識だ。

 楽しげに鞭を舞わせるヤオを見て、ふと気づいたことを聞いてみる。


「そういえば、ヤオはまだミズキの師匠なのか?」

「無論じゃ。といっても、指導をする時だけ上下関係を付けておるのじゃがな。それ以外の時は普通に友として扱っておる」

「ミズキがヤオを『ヤオちゃん』って呼んでいる時は友人か」

「まあ、そういうことじゃ」


 そう返事をするとまた鞭を舞わせるが、今度は鼻歌を奏でながらさきほどより軽快に舞わせる。どうやらミズキの事も気に入ってくれてるようだ。……ミズキの召喚獣ペトペンを気に入ってるから、ってわけじゃないよね? ミズキ本人も気に入ってくれてるんだよね?

 そんな、不意に湧いた疑惑を抱いた時、舞っていた鞭が動きをとめてヤオの手の中に戻る。


「ふむ……どうやら元凶に到着のようじゃなぁ」


 通路の奥、かなりの広さを持つ空間にヒュドラはいた。

 ただ、その様相は俺が想像していたものよりも──酷かった。

 皮膚は焼けたようにただれ、千切れた様な肉から禍々しい色の液体が漏れ出ている。それはまるで、腐りかけの死体が動いているような、そんな不可解な光景だった。

 そんな不条理な存在が、近づいていくヤオに向け9つの鎌首を擡げて──襲い掛かった。



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