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202.それは、興味を惹きつける場所

 スイレス共和国に来て三日目。といっても二日目は源泉の所にいる火竜の件で色々あったので、街の滞在としては二日目みたいな気分だけど。

 とりあえず明日ここを出立することになったので、丸一日滞在できるのは今日までだ。そこで皆に希望を伺ったところ、


 ・この国でないと見れないもの

 ・変わった温泉に入りたい

 ・面白いクエストに行きたい


 といった要望が出た。この国ならではと言えばやっぱり温泉だが、そうなるとクエストとかけ離れてしまうのが難点だ。さてどうしようかと、とりあえず各ギルドに精通しているユリナさんとエリカさんに聞いてみたところ。


「それならば、一つ面白いクエストがありますよ?」

「クエストですか?」


 ユリナさんの言葉に、温泉の希望を出した側の表情が少し残念そうになる。……って、温泉希望したのってミレーヌかい。最年少なのに、えらい渋いチョイスだなぁ。

 だが、そんな表情に気付いてか知らないが、笑顔のユリナさんが言うには、


「実はね、とある洞窟の一番奥、そこに『秘境温泉』と呼ばれる場所があるのよ」

「秘境って、探検とかして見つける幻の地とか、そういう秘境?」

「ええ。まあ、そこは確実にある温泉なんだけど、でも秘境と呼ばれるのはわけがあるの。まず何よりその洞窟の奥は、強い魔物がいるらしいの。生半可な冒険者だと、洞窟の半分もいけずに返り討ちにあうって話よ」

「なるほど。つまり洞窟を突破して最奥に行ける強さがないと、その温泉にはたどり着けないから秘境だと呼ばれるのですね」


 ユリナさんの説明を聞いたミレーヌが聞き返す。普段大人しいのに、温泉のことになると前に出てくるのか。いわゆる耳年増ってことかな。


「そういう事です。その洞窟も中腹あたりまでは、駆け出し冒険者にとっても手ごろな魔物も多いらしく、この街にある冒険者ギルドに所属する者たちがよく行ってるそうです」

「後はアレね。ここの温泉や温泉街が気に入った旅行者が、ある程度腕に覚えがある場合の資金稼ぎとかにも言ってるらしいわね」


 エリカさんが補足説明をする。どうやらその洞窟は、冒険者ギルド商業ギルド両方に色々利益をもたらしているようだ。


「それって、洞窟に入る権利とか、秘境温泉に入る権利とかってどうなんですか?」

「どちらかのギルドで申請して許可証を貰えばいいわ。洞窟へ入るのには権利が必要だけど、温泉に入るかどうかは自由ね。ギルド側としても、たどり着いた人へのご褒美みたいな方針かしら」

「……そうですか。うん、俺は面白いかと思うけど、皆はどうかな?」


 ざっと皆の顔をうかがうも、不満の色を浮かべる者はいない。というか、もう決定でしょという感じで、皆既に洞窟と秘境温泉の方へ意識が向いてるか。


「ではユリナさんエリカさん、ギルドへの申請をお願いできますか?」

「わかったわ。ここからは……冒険者ギルドのが近いかな。私が行ってくるわ」


 そう言ってユリナさんが早速向かおうとする。


「あ、ちょっと待って下さい。ユリナさんとエリカさんはどうしますか?」

「え? 私達?」

「はい。俺達に同行して秘境温泉に行きます?」

「いいの? もちろん、連れてってくれるなら一緒に行きたいけど……」


 そう言って少し表情を曇らせる二人。なんだろう、魔物と戦う危険性とかを気にしてるのかな。


「大丈夫ですよ。二人は洞窟内での戦闘には参加しなくてもいいようにしますから」

「あ、ううん。そうじゃなくて……」


 少々言葉を濁しながらユリナさんたちはフローリア達の方を見る。その視線に何か気付いたのは、フローリアが二人の側にやってきた。


「ユリナさん、エリカさん」

「「はい!」」

「よろしければご一緒いただけませんか? 今の私達はただの旅仲間です。ですのに、昨晩は湯船を共にできませんでした。稚拙なわがままですが、お願いしてもよろしいでしょうか」

「「は、はい! よろこんで!」」


 極上の笑み──ロイヤルスマイルを浮かべたフローリアの説得に、二人は成す術なく素直に頷く。まあ、自国の王女に笑顔で頼まれて断る人はいないだろうな。

 こうして、ユリナさんが冒険者ギルドで許可証を発行してもらい、それを持って俺達は全員で洞窟へ、秘境温泉へと向かった。




 洞窟入り口へとやってきた。

 入る為の権利が必要なため、入り口には対応する人がいた。ユリナさんの話では、あれは両ギルドから派遣される係りの者らしい。ここの魔物は普通は外に出てくることはない。だが、万が一のために入り口には重厚な扉が設えてあり、安全確保のためには緊急でしまることもあるとか。

 入り口を警備している人に許可証を提示する。それが入り口付近の採取許可ではなく、最奥までいける討伐許可なのを見て驚いていた。

 無理も無い。俺やミズキ、ゆきはいい。どう見ても戦闘要員に見える姿だ。だが、上品な服装のフローリアにミレーヌ、メイド服のエレリナ、どうみてもちびっ子のヤオ、観光でやってきた装いのユリナさんとエリカさん。これで最奥を目指すといわれても戸惑うのが普通だ。

 だがまあ、これも仕事なのだと割り切って通してくれた。


 洞窟に入って、まずは道なりに歩く。一応分岐地点では、最奥=秘境温泉に向かうための目印があるらしく、迷わないようにはなっているとの事。

 話では日常的に冒険者が来ると聞いていたが、おおよそその通りらしく暫くは他の冒険者と何度もすれ違った。その度に驚かれて不思議な視線を送られた。だが、洞窟内で無闇に他のパーティーに話しかけるのはあまり褒められた行為ではないので、不思議そうな表情を抱えたまま皆通り過ぎていった。


 そんな感じで暫く進んでいくと、道中少し広い空間があり、その中央にある大岩の前に何か看板のようなものが掲げられていた。

 幾つかの言語で記述されており、その中にある日本語での文字を見ると。


『中間地点:この先危険注意』


 とかかれている。どうやらここから先は、出てくる魔物が強くなっているらしい。

 といってもここまで出てきたのは、たまに小型の動物系魔物が少しだけだった。なんせたくさんの冒険者がいて、こちらが手を出す間もなく倒されていくから。

 だけどここからは違うようだ。……とはいえ、それは自分達で倒す必要が出てきた、という話というだけで、苦戦するとかそういう意味じゃない。


「ヤオ、この先も強い魔物はいそうにないか?」

「おらぬな。この辺りでは、あの火竜だけが突出して強いが、あとは烏合の衆じゃ。かろうじて、あの狼藉者が殴り応えのある躯体をしておったくらいじゃ」

「狼藉者って……ああ、ドラゴンゾンビか」


 その話を聞いて、思い出すのは旅行から途中で戻ってしまった二人。今はアイスフェニックスの様子を見に言ってるはずだから、こちらの旅行が終わったら一度話を聞きに行こう。

 そういえばエルシーラは洞窟に集落があるけど、他の洞窟とかってどうなんだろう。好き嫌いとかあるのかな。そんな事を考えて歩いていた時だった。


「ねえ、カズキ。ちょっといいかな?」

「ん? どうしたゆき」


 何かお願いしたそうな顔でゆきが話しかけてきた。


「お姉ちゃんとも相談したんだけど、ユリナさんとエリカさんを、ルーナたちにのせてあげていいかな」

「あ……」


 ふと見ればユリナさんとエリカさんが結構消耗している様子。確かに二人とも、ある程度の冒険者資格を有してはいるが、ミズキやゆき、エレリナに比べると“普通”だ。

 この洞窟の中を準一般人の二人が歩き続けるのは、少々辛い状況だったかもしれない。


「悪い気付かなかった。うん、是非そうしてくれ」

「わかった。おーい」


 俺の了承返事を聞いて、ゆきが二人のもとへ行く。それを見ていたエレリナもそちらへ行く。そしてルーナとダイナアが呼び出された。ユリナさんがダイアナ、エリカさんがルーナに騎乗。

 ちなみにフローリアとミレーヌは、洞窟入って早い段階からホルケに乗っている。それを知ってたのに、二人をそのまま歩かせてたのは不覚だった。

 ともかくこれで、安心して最奥までいけそうだ。道中に魔物も特に問題なさそうだし。

 そして、その予想通りなんの問題もなく進めた。道中出てきたそこそこ強い魔物は、ヤオが指導もかねてミズキに戦い方を教える相手になってしまっていた。


「よし。洞窟内は長物をまともに振れぬ場所も多い。次の敵は、下半身を固定して上半身のしなりだけで倒してみろ」

「わかりました、師匠!」


 ……ああ、まだその師匠弟子関係続いてたのね。

 後で聞いたところ、クエストなどを行っている時は“師匠”と呼んで、日常では“ヤオちゃん”呼びらしい。まあ、楽しそうでなによりだ。

 こんな感じでわいわいと賑やか敷く、かなり場違いな華やかさで洞窟奥へ進み、ついには最奥へ到着。

 最奥にある広間は、幾重にも魔物払いの結界が張られているようで、洞窟に棲む魔物はまったくよってこようとしない。

 この魔物払いの力は、馬車などに付ける魔よけの札より強力だが、ヤオやホルケ、ルーナやダイアナといった神獣クラスの存在には意味がない。だが、この辺りでこれを無効化する存在は、火竜くらいしかいない。なのでここは、ほぼ完璧に安全エリアということなのだろう。


 広間から奥へ続く洞窟を進む。先の方がほのかに明るく光っている。それは光り苔などの植物が発する弱い光ではなく、何かを反射するようなまっすぐな光だ。

 洞窟をでた瞬間、すこしだけ視界が白くなる。ここまでの工程にくらべ、あまりにも光がまっすぐに届いたためだろう。ゆっくりともどっていく視界。そこには──


「綺麗……」

「ですね……」


 ほぅっとため息のような息遣いと、目の前の光景を賛美する言葉がもれ聞こえる。

 周囲の壁全てが蒼い水晶のような柱で蔽い囲まれており、その中心ではうっすら湯気が立ち込める温泉があった。

 場所だけじゃなく、その見た目もそれに相応しい……そう思わざるを得ない光景。

 まさしく、今目の前に広がっているのは──秘境、だった。



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