2.それは、夢……じゃない?
続けて第2話です。
まだ設定説明みたいな展開で進んでます。
「もうっ! いったい何処に行ってたの!?」
そう言いながら、私怒ってますと声でも顔でも態度でも、存分にかもし出しながらこっちに歩いてくる女の子。彼女はこのLoU内で、俺のキャラ『カズキ』の妹キャラである『ミズキ』だ。
ただ……実は、ミズキがここに居るのはおかしいことなのだ。
「え、えっと……なんでミズキはこんなところに?」
「はぁ~!?」
俺の疑問に対しミズキは、明らかに不機嫌度合いを増して睨みつけてくる。だが、実際におかしいのだ。 そもそもこの“妹キャラ”だが、こんな屋外を歩けるハズがない。なんせ妹キャラを持てるのは、ゲーム内にてマイホームを購入できたプレイヤーが、“マイホーム内限定キャラ”として、両親や兄妹姉妹キャラを獲得できる。そして、そのキャラはマイホーム内でのみ活動するNPCであり、ショップ内の店員NPCのように持ち場を離れることは不可能なのである。
しかし、俺の妹であるミズキは屋外にいる俺の目の前にいる。……夢だからその辺りの設定とか、無視して都合よく出来てるのかな?
色々と思考してる俺に対し、ミズキは怒り半分呆れ半分で口を開く。
「まさか忘れた、とは言わないよね? 今日で私は15歳だから、ギルドで冒険者登録するって言ったでしょ?」
「あ、ああ……そう……だった、な?」
えっと、そういう流れなのかな? 多少状況を把握しながらの会話だったせいか、ミズキに疑いの眼差しを向けられてしまった。そうか、ミズキってこんなキャラだったのか。
「もう。いいから、早く行こっ」
「あ、お、おい」
状況に戸惑っている俺を無視し、さっと手をつかまれてなかば引っ張られてしまう。その手の感触も、なんか柔らかくて妙にリアルに感じる。
(なんか……俺の夢なのに、俺の意志とか無視してどんどん話が進んでないか?)
だが繋がれた手と、意気揚々と俺の前を歩くミズキを見てると、まあコレはコレでありか……とも思えたりしなくもなかった。
「ユリナさーん、登録に来ましたーっ」
結局俺の手をつかんだまま、ずんずんと歩き続けて気付けば冒険者ギルドに到着。
歩きながら周囲を見てきたが、どうやらここはLoUの中心となるグランティル王国で間違いない。
(そうなると、ここがグランティル冒険者ギルドか)
「あら、ミズキちゃんにカズキくん。相変わらず仲がいいわねぇ」
「え? ……っと、な、何を言ってるんですかっ!?」
受付嬢のユリナさんの言葉を聞いて、慌てて自分の手が俺をつかんでいることを思い出すミズキ。あわてて繋いだ手を離すが、それを微笑ましい目で見るユリナさん。
「こんにちは、ユリナさん」
「ふふ、こんにちは」
改めてユリナを正面から見てみると、通常のゲーム画面では見たことがない正面からのアングル。おそらくは企画当初に作成した、メイン&サブキャラのイメージイラストの記憶が投影されているのだろう。ミズキもそうだが、思いのほか自然なビジュアルだなという印象を受ける。
ちなみにユリナは、ゲームキャラのカズキより2歳年上の25歳。
(結婚適齢期かな? あ、でも相手とかの設定はこっちがしてやらんと何も進展しないのか)
目が覚めたら、LoUのキャラの関係性をまとめて、色々と進展させていくのも悪くないかな等考えたりしていると、本来の目的の当事者であるミズキが手続きを始めた。
「じゃあユリナさん、ギルド登録の手続きするね」
「ええ、いいわよ。それではコレに色々記入をして下さい」
仕事ということなので、ユリナさんの言葉使いが業務向けになった。これってキャラ設定の性格とか、そういう部分が反映してるのかもしれない。というか、俺そんな細かい設定まで全部把握してたかな。
ミズキとユリナさんのやり取りを眺めながら、漠然とそんな事を考察をしているうちに、段々と頭の隅から“まさかそんなワケ、ないよな……”という考えが湧き出してくる。
──これって、よくある“異世界転生”なんじゃないのか?
最初の違和感は、あまりにもリアルな感触だった。次に臭覚。視覚……ビジュアル面では、色々想像したものや、設定資料がより繊細な状態で目に映ったともいえなくも無いが、自分の知りうる範囲を超えた感触などはとても夢だとは思えないものだった。
本来『夢』というのは記憶の整理だと聞いたことがある。だから俺はそこに現れるものは、決して自分の知識範囲内に納まっていると解釈している。もし夢の中で自分の知らない出来事が起これば、そこで記憶の食い違いが出て目が覚めてしまう……そう思っている。
だが、実際にはどうだろうか。今だに俺は夢──LoUの世界──にいる。夢、だと思っている世界にいる。
俺って、ここに来る前は何をしてたんだっけ? ああ、そうか。自室で実稼動してたLoUのサーバデータを繋げて、インしたんだっけ。
じゃあ何か? 俺は自室のPCの前で死んじまったのか!?
自分でも、今顔面が蒼白なのが手に取るようにわかる。おまけにきっと汗もかいてるんだろうな。
あわててシステムメニューを呼び出す。即座にメニューがスライドポップするが、この数フレームすら煩わしいほど焦りが感情を支配している。先ほど確認したメニューをもう一度見る。
(あった! ログアウトボタンはあるッ!)
神にもすがる気持ちで震える指先をメニューに伸ばし……そっと[ログアウト]をタッチした。
「………………はっ!?」
何か意識が切り替わったような感覚を受け、狼狽したまま周囲を見る。そんな俺の目に飛び込んできた景色は……、
「俺の、部屋……だ…………」
そう、そこは慣れ親しんだ俺の部屋だった。一人暮らし用の1ルーム賃貸。その一角にあるPCデスクに向かって座っている状態。要するに先ほどLoUにインする前の状態だ。ということは、
「やっぱり、夢……だったんだな」
ようやく安心感を持って、大きく息を吐く。ずいぶんとリアル……というか、現実感の溢れる夢だったなと。なんかへんな日本語だが、そう言い表すのが一番ピッタリな気がする。
目の前のPCを見ると、キャラ選択画面でカズキにカーソルが合っている状態だ。なるほど、キャラ選択する直前で寝落ちしたんだな。
ともかく、これで理由がわかった。面白い夢も見れたし、なかなか楽しい時間だった。だが、こうして無事に目が覚めるのであれば、もう少しリアルなLoU世界を堪能していたかったなとも思う。
そんな少しばかり贅沢なわがままを胸に、気持ちを切り替え改めてLoUをはじめようとした俺の目に飛び込んできたのは。
> “カズキ”がログインしました。
> グランティル の 冒険者ギルド へ移動しました。
> “カズキ”がログアウトしました。
画面下部にあるログメッセージだった。
「これって……」
そこに書いてある文章はすぐに理解できた。俺のキャラ“カズキ”がログインして、冒険者ギルドへ移動して、ログアウトしたという内容だ。そう、ただそれだけの事。
だが、今の俺にとってそれは“ただそれだけ”では済まされない。
寝落ちしながらも、キャラを選択して“ログイン”するだけならまだ理解もできる。
だが、その後で“冒険者ギルドへ移動”して、さらには“ログアウト”まで行っているのだ。移動は勝手には出来ないし、なによりメニューを開いて選択しなければログアウトも出来ない。自動タイムアウトはオフにしてるし、何よりその場合は違うメッセージが表示される。
だが、表示ログに書かれている内容は、明らかに意図的に行動しないと表示されない内容。そして、これは先ほどまで見ていた夢の中で、自分がやっていた行動そのままだ。
(まさか、さっきの夢は……実際に起こったことなのか?)
しばし呆然とログメッセージを見るが、追加メッセージが表示されることなく見慣れたキャラ選択画面と、聞きなれたBGMが流れているだけ。
それをじっと見つめながら、今度は別の考えが浮かんでくる。それこそ、夢物語ではあるが、こんな業界にずっといるとついつい夢見がちになってしまうのも、無理からずことなのかもしれない。
──もう一度ログインしたら、またあの世界に行けるのか?
そんな考えが浮かび、そして消えない。
小説とかで見る、オンラインゲームの世界に入り込んでしまう……そんな、御伽噺の続きが見れる?
そう考えると、知らず間に鼓動が高鳴っていた。顔の筋肉は、緊張と期待で引きつっているようにも感じる。指先も震えるし、膝も心なしか震えているように見える。
改めてマウスを握り締めて、カーソルを“カズキ”に合わせてクリックする。
『カズキ』でゲームを始めますか?
先ほどもここまではいつもと同じだった。……この先だ。
昂ぶる気持ちを抑え「はい」をクリックする。
そして──視界はまばゆい白い光に覆われる。
(これって、さっきと同じ……)
そこまで考えて俺は意識を手放した。
先ほど味わった目が覚める……というか、意識が切り替わるような感じを受ける。そして目の前には、再び先ほど見ていたLoUに酷似した世界。場所はログアウトした場所であり、向いている方向も同じだ。
とはいえ、少し元の世界で時間が経過してしまったはず。ミズキの登録手続きもとっくに終わっている頃だろう。そう思って、受付カウンターを見る。
「……あれ? ユリナさん、ここは……」
「あ、そこは未記入で大丈夫よ」
あれ? まだ全然進んでなさげだぞ。……というか、こっちの世界の時間が、ログアウトから再ログインの間全然進んでないような感じがする。
とりあえずミズキの登録が終わるまで待つことにした。しばらくして、どうやら終わったようだが、登録経過を推察するに、やはり俺がログアウトしている間は時間が停止しているようだ。
「お兄ちゃ~ん、登録おわったよー」
「おう、おつかれさん」
笑顔で嬉しそうにやってきたミズキにお疲れと声をかける。まあ、NPCなんだから気遣い無用かもしれないが、どうにも愛着あるLoUだからNPCでも無下にしたくないんだよなぁ。
「とりあえずお兄ちゃん。パーティー組んで何かクエスト行こう?」
「おいおい、早速だな。大丈夫か?」
そういいながら俺はシステムメニューを呼び出す。[パーティー]から[誘う]を選択して、周囲の人物リストから“ミズキ”を選択。するとミズキが自分のギルドカードを指先でつついた。おそらくはパーティー勧誘の「はい/いいえ」みたいなものが表示されたんだろう。直後にログメッセージが追加される。
> ミズキ が カズキ のパーティーに参加しました。
そして視界の左上に表示されたHP/MPゲージの下に、一回り小さいミズキという文字と、同じく一回り小さいHP/MPゲージが表示された。うん、この辺りはLoUのUIと同じだな。
「それで? ミズキはどのクエストへ行きたいんだ?」
「あ、えっとね。登録したばかりのFランクだけど、お兄ちゃん同行でしょ。だからDランクあたりのを行ってみたいけど……いい?」
別にかまわないと告げると、わっと笑顔を浮かべてミズキはクエストボードの前へ向かった。LoUではあそこは臨時パーティーメンバーを募集するためのボードだったが、この世界ではクエスト依頼も張り出されているようだ。
となると、ここはやっぱりLoUによく似た別の“何か”なんだろうか。単純に『異世界』というには、あまりにもLoUに似ている。なにより、この視界の隅に見えるゲージやボタン類のUIが、単なる異世界転生じゃないという証拠な気がする。
(まあ、でもいいか。いつでも元の世界に戻れるんだし)
システムメニューを出して、メニューの一番最後を見る。見慣れた[ログアウト]というメニューがそこにある。これだけで安心してしまうのも安上がりだな。
(さて。俺もクエストボードに何が書いてあるのか見てみるか)
そう思ってミズキがいる方を見ると、何か少々騒がしい。……なんだ? 何か揉め事か?
「だから、返してって言ってるでしょ!」
何事かと耳を向けた方から聞こえたのは、先ほどまで会話していた声。つまり、ミズキの怒鳴り声。
えー……冒険者登録したばかりで、トラブルかよ。これっていわゆる新米冒険者へのテンプレイベントってやつか? LoUにそんなイベント、設定してないハズなんだけどなぁ。
とりあえず2話投稿しました。
読みやすい書式などを勉強しながらやっていこうと思います。
修正:王国が公国になっていたので修正しました