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195.それは、望まない再び

 とりあえず俺達は温泉の源泉へ向かうことにした。

 この源泉から流れる川の先にドラゴン──火竜がいるかは不明だが、少なくとも無関係ではないだろうという予感はしている。それはなぜかと言うと──


「ねえエルシーラ、やはりこの川の水……」

「ええ。微量ですが特別な力を感じます」


 流れている川の水を見てマリナーサとエルシーラがそんな事を言ったから。


「特別?」

「はい。ヤマト領の川や、道中立ち寄ったリーベ湖とは違い、その……何か強大な力の側にあったがため、自然と力が付与されてしまったといいますか……」

「つまりこの水……源泉の側に、火竜がいるんじゃないかと思ったと」

「ええ、そうです」


 山のふもとから流れ出る温泉の水を、特別な水路で国へ引いているスレイス。その水路を逆にたどっていけば、とりあえずはふもとの温泉がわいている場所までは行けるとの事。

 なので一応周囲を警戒しながら川の流れにそって、上流というか源泉の方へと進んでいった。


「……少し寒い感じがするだけで、魔物とかの類は出てこないね」

「それはそうじゃろ。ここにはわしと……」


 ミズキの疑問にヤオが答えながら、視線を向けた相手は。


「その神狼(フェンリル)がおるからのう」


 ミレーヌの召喚獣フェンリルのホルケだ。ヤオと同じように低級魔族の虫よけになるので、この旅では基本的にミレーヌの守護として呼び出している。それに今回はもう一つ役目があった。ホルケの張っている風障壁により、俺達のいる場所だけ気温などが緩和されているのだ。もし障壁がなければ、すでにこの辺りは寒冷地並の状況のはずだ。


「こんなに寒いのに、川の水がまったく凍ってないね」

「それもおそらく、水に微量に含まれている魔力というか魔素というか、それが原因でしょう」


 川をみて疑問におもったゆきに、エルシーラが推測を述べる。なるほど、少なくとも普通の水ではないってのは間違いなさそうだ。

 それを確かめるためにも、まずはこの水源の所まで行かなければと俺達は前へと進んだ。

 だが、その終わりはあっけなかった。山のすそ野から水が湧きだしている状況を見てしまったからだ。マリナーサの住む洞窟のように、川の先が洞窟にでもなって山の中に繋がっていると、勝手にそんな想像をしていた。しかし、これでは川沿いに源泉へいくことは出来ないか。


「……となると、山頂の噴火口から降りて行くしかないか」

「え!? そんなこと出来るのですか?」


 エルシーラが驚きの声をあげる。マリナーサも隣で同じように驚いている。


「大丈夫ですよ。えーっと、エレリナはエルシーラを、ゆきはマリナーサをお願い」

「了解です」

「いいよー」


 俺達の会話をきいて「?」となるエルフコンビをしり目に、エレリナとゆきは自分の愛馬を召喚した。とたんに眼前に現れる2頭のペガサス。俺達にはもうなれたものだが、二人には。


「なっ!? ペ、ペガサス!?」

「しかも2頭も!? これは……」


 酷く驚いていた。そしてエレリナたちに催促され、その背中におそるおそる騎乗する。エルフのような妖精族にとって、ペガサスもフェンリル同様神獣として格式高い存在なのだとか。

 あとはフローリアをミレーヌと一緒にホルケに乗ってもらうようにした。少しばかり不満そうだったのは、俺の呼び出すスレイプニルに一緒に騎乗したかったと。

 そんな訳で残りの俺とミズキとヤオは、スレイプニルを呼び出して騎乗。その際に、エルフ姉妹がもう一回驚いていたけど、そろそろ慣れてくれるとありがたいかな。


 ともかくこれで、全員が山頂の火口から山の中へいける。

 俺を先頭に、続いてホルケ、そしてペガサス2頭が並ぶようにして追走することにした。




 やまのすそ野から、一気に飛んでやってきたのだが、山の側面には道らしき道はなかった。要するに、いままでこの山をまともに山頂まで行く人がいなかったのだろう。

 たとえ行ったとしても、普通の人にとっては山頂に大きな噴火口があるのみ。落ちればひとたまりもないし、なによりそれ以外何もにないので冒険者が狩りにくる理由もない。


「さて、今からここを降りていくんだけど……心構えはいいかな?」


 ざっと皆を見渡すが、静かに頷くのみで異論はなさそうだ。


「じゃあゆっくり降りて行こう。ヤオ、一応警戒はお願いする」

「わかっておる。なあ?」


 返事をしながらホルケの方を見る。ホルケも「当然だ」といわんばかりに、軽く返事を吠える。

 比較的ゆっくりと降下する。こういった火山の噴火口とかだと、場合によって人体に影響のあるガスなどが充満している可能性があるからだ。俺達は召喚獣の結界などで一応回避はできるが、そういった注意を疎かにするのは気分的に怖いからな。


 しかし、一応心配していたような事態も起きず、すんなりと一番下までたどり着いた。万が一下降中に噴火でもされたら……という心配もあったが、どうにも完全な休火山らしく、洞窟内での精霊視に長けたマリナーサいわく、火の精霊の存在は皆無だとか。

 そう言いながらも、噴火口の竪穴から横に繋がる洞窟を見て、マリナーサが表情を引き締める。


「一般的な火の精霊はいません。ですが、この先からとても強大な“火”の存在を感じます」

「それが火竜ってことかな?」

「確証はありませんが、おそらくは」

「わしもこちらから感じるぞ、火竜をな」


 そんな二人の言葉に従い、俺達は洞窟の方へと歩いて行く。洞窟といっても、随分と幅の広い横穴だ。天井も高いので、もしかしたらその火竜もここを通っているのかもしれない。というか、出入り口が噴火口ならば、この先は寝床かなにかだろう。なら確実に通過しているだろうな。

 そんな事を考えながら、俺達は召喚獣たちにのったまま洞窟道を進んでいく。


「くっ……くくっ……おるぞ、この先に……」

「ど、どうしたヤオ?」

「この先におるぞ、何か弱ってはいるがとてつもなく強大な力を秘めし物がな!」

「ヤオちゃん、なんか悪い人みたいな顔してるよ」


 嬉しそうに言うヤオを見て、ミズキが普通にひいていた。座る順番が前からミズキ、ヤオ、俺だったのでここから見えないのが不幸中の幸いかも。


 洞窟を進み、そして開けた場所へと出た。

 そこは大きな広間となっているが、洞窟内の道は途切れており、目の前は切り立った崖となっていた。

 だが、その視線の先は向こう側に地面があり、そこに──いた。


「あれが……火竜」

「じゃな。まちがいないわ」


 今までの行程を知らない人でも、一目でドラゴンだとわかる圧倒的な存在がそこにいた。

 崖を挟んだ向こう側の地に、永きを生きてきた神秘の巨躯をもつ存在である火竜。ゲームなんかじゃ結構手軽に出てくるけど、実際にはその存在は神にも匹敵するといわれるものだ。少なくともLoUでのドラゴンは、その存在は至高で崇高なものだった。以前、彩和でドラゴンと戦ったことがあるが、あれはモンスターとしてのドラゴン。今目の前にいるのはそれとは違う、人々が神と同様に崇める存在だ。


「まずは意思疎通を図りたい。俺達だけでいくから、皆はここで待機しててくれ」

「わかりました。カズキ、気を付けて」

「ああ」


 フローリアの気遣いの声を背に受け、俺達がのるスレイプニルだけが浮遊して向こう側へ。まさかこちらへ来ると思っていなかったのか、火竜の意識がこちらに向けられたのを感じる。

 少し不穏な空気となり、火竜から力が漏れ出すのを感じた。それを見たヤオが話しかける。


『安心するがいい、わしらは危害を加えにきたわけじゃないぞ』

『!?』


 ヤオが火竜に話す言葉が俺にもつたわる。どうやら念話をつかって、言葉ではなく意思を送れば会話ができるようだ。


『……何用だ、異国の大蛇と人間よ』

『私達はこの近くの国からきました。用件は──』


 どうやら話ができるというので、ゆっくりと近づきながら話しかける。だが、


「っ!? これは……まさか!」

「ん? どうしたんじゃ主様」

「皆! こちらに来てくれ!」


 俺は振り返って皆を呼ぶ。やってきた皆は、召喚獣から降りてこちらに来た。


「エルシーラ、こっちに来てくれないか」

「は、はい」


 火竜という存在を前に、軽く足がすくんでいたようだったが、俺が呼びかけ隣にいたエレリナに促されておそるおそるやってくる。だが、今の俺はそういった事に気遣いする余裕はない。


「これを見て欲しい」

「はい。一体何を……って、これは!」


 俺の言葉で火竜をみたエルシーラの声が驚き震える。

 それを見て、俺も確証がいった。


「これってやっぱり……」

「はい、これは──」


 火竜の体のあちこちに、不可解な黒い影があった。──否、影ではなく黒い霧だ。

 そう、それは──


「里のご神木にあった、あの黒い霧と同じものです」


 あのエルフの里のご神木──古代エルフにまとわりついていた、あの黒い霧だった。



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