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191.それは、小さくも期待の味わい

「ようこそ、霧の街ミストへ」

「ご苦労様です。こちらが馬車2台分の通行証明です」

「はい、確認します……大丈夫です。お通り下さい」


 朝食後半日ほどかけて移動し、日が傾きはじめる頃合いで俺達は街にたどり着いた。ここはミスフェアからスレイスへ向かう途中、中継街となっているミストだ。

 王都とミスフェアの中継街の予定になってるヤマト領と同じという感じか。それ故に色々と参考にすべき部分も多いかと思い、一日ここで宿泊することにした。


 とりあえず宿を一泊分取った。部屋割りに関しては唯一の黒一点である俺だけ一人部屋。あとはペアになってもらい二人部屋という形にした。それぞれフローリアはミズキ、ミレーヌはエレリナが同室となり、身辺警護に関しては一人してある。そうなると残りのペアは自然とヤオとゆきになるが、元々彩和出身というべきヤオと、転生知識をもったゆきの組み合わせはベストなのではないかとも思えた。


 宿を出て街の賑やかしい方へと足を向けてみた。

 商店が立ち並ぶほか、たくさんの露店もならんでおり、旅移動の中継街だなぁという雰囲気に満ちていた。以前レジストへ向かう時に寄ったメルンボス交易街。あそこは名前通り“交易”に大きな目的を置いた街なので、そこほど活発な商売人の姿は見えないが、それでもミスフェアとスレイスを結ぶための重要な拠点であることには違いない。

 気楽に散策気分で道を歩く。なんかほどよい活気が心地よい。


「……いい街だな。ヤマト領もこんな感じになるんだろうか」

「それは主様の頑張り次第じゃろうな」

「そうだな。俺がどうしたいかで……え?」


 何気に呟いた声にどこからか返事が返ってきた。おどろいて横をみると、いつのまにかヤオが一緒に歩いていた。


「いつのまに……」

「先程じゃ。主様が一人で出かけたので、どこへ行くのかとついてきただけじゃ」

「そっか。別に目的なくこの街を見て回るだけなんだけど……一緒に来るか?」

「無論じゃ!」


 わはーっと笑顔で手をにぎってくる。人ごみが激しいわけでもないので、手をつないでなくてもはぐれたりはしないだろうけど、まあ気分的なものだろう。ヤオはこっちの姿でいるときは、思考言動が小さい子に近しいものになっているような気がする。素直でかわいいからいいけど。

 再び、今度はヤオと二人で気ままな街散歩だ。歩きながら他愛もない会話をする俺達。


「そういえばヤオはゆきと同室だったか。ゆきはどうしたんだ?」

「あやつは王女達によばれてなんか話をしておったぞ。なんでも『カズキ嫁会議』とか言っておったな」

「あー……それまだやってたのか。改めて耳にすると恥ずかしいな」


 軽い羞恥プレイ気味な話をきかされながら、ちょくちょく立ち止まって屋台などを見て行く。いくつか見ているうちに、ふと王都の大通りに並ぶ屋台などとは違うことに気付く。


「……なんか、どの屋台にも保存がきく商品があるようだな」

「そりゃそうだぜあんちゃん。この街に来る客ってのは、間違いなく旅の途中だからなぁ」


 俺のつぶやきが聞こえたのか、近くの屋台のおじさんが笑いながら教えてくれた。


「ここで美味いものを食べて行ってくれるのが一番だが、急いでる人たちにはそうも言ってられねえ。なら保存がきくものを買ってもらって、道中で食べてもらえればってなぁ」

「なるほどね……。でも、一度買って出発したらもう返品もできないでしょ? そういうのを利用した悪質な詐欺まがいの商売とかしてる人とかいないの?」

「おいおいあんちゃん。そんな事してるヤツがいたら、同じ商売人の俺達も信用を失ってもんだろ。当然そんなバカな奴はしめあげてつまはじきさ。まあ、そうなるって皆しってるからそんな奴いねえけどな」


 そう言って豪快に笑う屋台のおじさん。自分たちで規律管理をしている自治の活動なんだろう。立派だなとは思うが、可能なかぎり街側からの支援や補助もあったほうがいいか。だが、そういった支援が過剰だったりして、本来のやる気を削減したりしないようにもしないといけない。このあたりの塩梅が難しいところだな。

 とりあえずおじさんには色々話を聞かせてもらった。商人側の考えを知れて有意義だったというのもあるが、話している間中ずっとヤオが物欲しそうに串焼きを見ていたので、最後に何本か購入した。俺は1本だけ食べたがヤオが残り数本すべてたいらげてしまった。まあ、俺とちがって食欲がかなり旺盛なようなので宿の食事にも問題はないだろう。


 この後も何軒か屋台を覗いては、時折食べ物を購入していった。といっても俺はほとんど食べず、大半をヤオが満面の笑みで食べ干していた。俺としてはもう少し食べたい気もしたが、屋台のはしごなんてしたら晩御飯がすぐ入らなくなってしまう。こういう場所の宿飯にも興味あるから、しかたなく我慢した。




 宿へ戻ると、俺はすぐにフローリアたちのいる部屋へ向かった。ドアをノックすると、


「カズキですね、どうぞ」


 との声。え? なんでわかるの? と思ったのだが、ドアを開けてみればフローリアをはじめ、いつものメンバーがそろっていた。まあ、全員いれば気配とか足音とか、そういったものでわかるかもと納得。


「おかえりお兄ちゃん。フローリアに何か用?」

「いや、フローリアじゃなくてエレリナに──」

「「「「!!」」」」


 俺がエレリナの名前をだした途端、こちらに向けられた目線に猛烈な圧が加わる。何がどうしたと思っていると、俺の目の前でこれみよがしに声を大にしてヒソヒソと話し始める。


「またエレリナですよ、どう思いますフローリア姉さま」

「そうねミレーヌ。やはり昨晩、私たちの与り知らぬ所で何かあったのでしょう」

「ねえゆきちゃん、エレリナさんから何か聞いてる?」

「ううん、何も、ミズキちゃんこそ、カズキから聞いてないの?」


 あからさまな威嚇……というか、警告? そんな感じの雰囲気を漂わせてくる4人。それに対しエレリナはというと、


「ふふ、カズキったら。ダメですよ、一応私達は序列がないとはいえ、順番的には末席の私を贔屓しては皆が嫉妬してしまいますよ。……うふふ」


 ……なんか楽しそうに挑発気味な発言をしている。そういう意図はまったくないのだが、流れ的にエレリナばかり贔屓しているような雰囲気にされてしまているっぽいぞ。

 エレリナの発言で、目を吊りあげながらこっちを睨む4人。そんな彼女達をどうなだめればいいのかと悩みそうになるも、笑顔を浮かべたエレリナが自分のストレ-ジからアイテムを取り出す。


「冗談ですよ。カズキが聞きたかったのは、コレですよね」

「あ、うん」

「エレリナ、それって……」


 頷く俺とその手元を見ながら、ミレーヌが何かに気付いたような声をあげる。


「ミレーヌ、あれは何ですの?」

「あれはエレリナが作った、インスタント麺です」

「「「インスタント麺!?」」」


 ミレーヌの言葉に、フローリアとミズキとゆきが驚く。ゆき以外の二人も、すでに何度か現実(あちら)でインスタントの麺類を見ているので、その存在は知っていた。だが、それをエレリナが手作りしたと聞いて驚いたのだ。

 その驚く様を見て、エレリナは笑顔で説明をはじめる。


「実は以前より、カズキにインスタント麺の作成をお願いされていまして。小麦粉をベースにした麺を、天ぷらを揚げる要領でより高温にあげることで、このように……」


 そう言いながら手にもっている紙包みをひろげる。そこには油で薄茶色にあげられた麺の塊が。


「あちらで見た鶏ガラスープのインスタント麺に近いものが出来ました」

「それって、お湯をかければいいだけなの?」

「はい。お湯で上げられた麺がもどり柔らかくなると同時に、揚げた油が鳥ガラスープとしてお湯に溶け込みます。それだけでも携帯食としては十分ですが、野菜や肉などを入れますと十分な料理となります」

「このインスタント麺作りは、以前からエレリナに頼んでいたんだ。丁度今回の旅に間に合ったと聞いたので、ならば一度皆で食べてみようかと思って。だからこのミストを出て、スレイスへの途中の休憩で食して見る予定だよ」


 俺の言葉を聞いて、皆の視線がまたインスタント麺へ集まる。実際のところ、この麺だけではそこまで美味しいものではない。携帯食としては十分だが、もろ手をあげて美味いと唸るには足りない。だからまあ、そこは後でのお楽しみにしておくんだけど。


「ねえカズキ。インスタント麺にお湯をそそぐときの器ってどうするの?」


 後で食べると聞いたところで、思うところがあるのかゆきが質問してきた。さすがに一番知ってるだけあって、ごく当たり前な質問だ。


「それなんだけどな……実はちょっとした考えがあるんだ。まあ、それも後でな」


 そう言った俺は思わずニヤリと笑みを浮かべる。

 別に悪だくみをしてるわけじゃないけど、なんかそういう気分になるときってあるじゃんね?



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