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187.それは、旅の休息と心の決起

2/22追記:急務により2/22~24の更新をお休みします。次は2/25(月)の予定です

 陽射し穏やかな道を、俺達が乗る2台の馬車が進んでいく。

 今までの旅路では、高速移動可能な召喚獣を使っての移動が主だったが、今回は一般的な旅というものを実感するため、普通に馬車にのって移動するという方法をとっていた。

 旅の道中はどんな感じだろうか……と多少の危惧はしたが、皆話好きなのか車内での会話が途切れるようなこともなく、和気あいあいという感じで進んでいた。

 そんな様子をみて、ふと気になったのは御者の二人。御者技能をもっているとはいえ、延々と一人で馬車を操舵しているのは退屈なんじゃなかろうかと。


「ちょっとエリカさんの所へ行ってきます」

「はい、わかりました」


 俺の言葉にフローリアが頷く。一人御者席に座ってるエリカさんを気遣っての事だと、察してくれたのだろう。

 馬車の進行方向にある内ドアを軽くノックする。そして外へ出ると、そこは御者席だった。


「どうしたの。何かあった?」

「いいえ特には。ただエリカさんが暇じゃないかと思って」

「あらそう? ありがとうね」


 嬉しそうにお礼を述べると、視線はまたすぐ前方へ向く。そんなエリカさんの隣に座る。


「エリカさんて、馬車の運転とかできたんですね」

「それはそうよ。商業ギルド員なら、馬車の運転くらいは出来ないと」

「聞きました。あと、ユリナさんと一緒にいろんな技能を習得してることも」

「あら、そんなことまで」


 そう言って笑うエリカさんは、随分と楽しそうだ。やっぱり一人で御者席っての気をつけないと。そうなると2号車のユリナさんも同様だろう。そんな事を考えてるとエリカさんから話してきた。


「もう少し進んだから、リーベ湖という(みずうみ)があります。そのほとりで少し休憩を取る予定になっていますので、そこで今度は2号車の方への乗車と、そちらの御者のお相手をお願いできますか?」

「え……あ、うん。それはいいけど、えっと……何その言葉づかい」

「うん、今のは一応『業務』の一貫としての意見具申だからね。今回の旅において、同行する私達はフローリア王女やカズキくんに雇われた身。だから仕事に関しては、けじめをつけないと」


 なるほど、仕事だからと。そういえば二人ともギルドでもかなり信頼があるとか。こういった部分での生真面目なところが、信頼されてるってことだろう。


「わかった。でも仕事に関係ないときは普段通りにしてね。俺もミズキもびっくりしちゃうから」

「りょうかーい。私達もそのほうが気楽だしね」


 そう言いながらも微妙な力加減をした手綱さばきで馬車を操舵する。あたりまえだが、こっちの世界の道ってのは舗装されてないから凹凸も激しい。だが、馬車の中にいたときにも思ったが、非常に乗り心地が良い気がする。


「……馬車での揺れとか振動とか、そういった部分が思ったより小さい気がする」

「んー……多分この馬車のせいだろうね。馬車の車輪部分に、振動を吸収して揺れを抑えるような構造の部品がついてた気がする。あと、この馬も優秀だね。走行する馬からの馬車への振動とかほぼないし、なのに力強く駆けるから予定よりスムーズに進めてるよ」

「そうなのか……。車体にサスペンションみたいなもんがついてるのかな?」


 エリカの言葉におもわず呟く。こっちにサスペンションとかの知識がどれだけあるかしらないが、馬車への揺れ伝達を抑える醸造ってのは面白い。宿についたら一度馬車をちゃんと見せてもらおうか。……宿についたら、か。中継街の宿なら、当然馬車を待機させておく施設も必要か。基本的に旅人はほぼ例外なく馬車にのっているはずだ。なら、人が宿で寝泊まりするなら、その間馬車や馬を待機させる施設も用意しておかないといけない。現代世界でいうところの『駐車場』だな。もっとも、馬もいるから、手間度合は随分と大きいだろうけど。

 とりあえず、ヤマト領に立てる宿泊施設は、相応の馬車や馬を管理できる施設も併設だ。そんなことを考えていると、再びエリカから話しかけてきた。


「そろそろ、先程お話したリーべ湖です。車内のフローリア王女方へもお伝え下さい」

「分かりました。……なんかエリカさんにかしこまられると不思議な気がするね」

「……私だってカズキくんに丁寧な対応とか、なんかこそばゆいわよ」


 そう言いながら、御者席にあるレバーを数度引く。それと同時に後方からベルの音らしきものが数回聞こえてきた。


「……今のは?」

「2号車のユリナに合図をおくったの。停止時や用事があって止まるって合図用の鐘ね」

「ねるほど。馬車が複数だとそういう仕組みがいるのか」


 電話や無線がないから、当然何かしらの連絡手段がいるのか。御者が一人じゃなければ、馬車の後ろにまわって手でもふって合図をおくればいいんだろうけど。


「んじゃ戻って皆に教えてくるよ」

「お願いね」


 エリカさんの声を背中に聞きながら、おれは馬車の中へと戻っていった。




「うぉーっ、これは生命力に満ち溢れた湖じゃのぉー」


 湖のほとりに立ったヤオは、嬉しさを押し出したような顔をして言った。そうえば、ヤオはいろんな系統の力とかを感じ取れるんだったな。

 同じ様に精霊を感じられるエルフ二人も、ここにいる水精霊──ウンディーネと何やら言葉を交わしているようだ。

 他の人達も湖の水に触れてみたり、思い思いに休憩をとっていた。だが、そんな中にエリカさんの姿がない。あとユリナさんも。

 もしかして……と思い馬車の方を見ると、二人はそれぞれ馬車の点検をしている最中だった。それもそうかと思ったが、二人にも少し休んで欲しいと思い馬車の方へ向かった。


「ユリナさん、エリカさん。点検とかおわったら、その後でいいから必ず休憩してね。後俺でも手伝えることあるなら何か言って」

「うん、ありがとう。それじゃあ……」

「そうだね。この子達……」


 そう言って二人が馬車の馬をそっとなでる。


「この子達も湖で少し休ませてあげていいかな?」

「もちろん、まかせて」


 俺がそういうと、すぐに馬からハーネスを外して手綱だけにする。それを両方俺に手渡された。どうしようかと思ったが、さすが王家の利口な馬。俺が手綱を持っていることを理解しているのか、引っ張らずとも俺が歩きだせば一緒についてくる。なのでそのまま俺は湖ほとりまでやってくることができた。

 湖すぐそばまで来たところで、俺に気付いたヤオたちがやってきた。


「主様よ、この湖の水は命にあふれた良い水じゃ。その馬らにも飲ませてやったらどうじゃ?」

「そうなのか? それじゃあ飲んでみる?」


 そう言って水の側までいって、ひと掬いして飲んでみる。……すごい。湖というよりも、どこかの清流の湧水みたいな感じだ。俺が水を口にするのを見ていた馬たちも、試しにと湖の水を一舐め。そして、気に入ったのかその後何度か水を飲んだ。

 本来はこんな事を馬車の馬にさせるのはご法度だろうが、ヤオが言ってるのだから問題はない。というかどう見てもプラス効果しかないだろ、この場合は。

 水を飲んで一息ついた馬は、また俺の近くへ戻ってきた。その様子をみていたヤオが何か思い付いたように俺に言ってきた。


「主様よ。その手綱を少しばかり外してやってはくれぬかや」

「これか? 別にいいけど……」


 ヤオに言われたとおり外してやった。まあ、利口な馬だしいきなり逃げ出したりはしないだろうけど。そう思って見ていると、二頭は最初戸惑ったような雰囲気をみせるも、すぐに水辺近くに映えている木のところへ行って、そこで膝を折ってしゃがみ……寝そべる様にした。


「あの馬らは利口じゃからな。手綱が繋がっている間は、主様の傍にいないといけないと理解しておったじゃよ。だから少し外してやれば、本当の休憩をとってくれるんじゃ」

「なるほど」

「まあ、それもあの二頭が本当に利口じゃからだな。普通の馬でそんなことしたら、一目散に逃亡を図られてしまうぞえ」


 かかかっと笑うヤオは、心底楽しそうな笑顔をうかべる。どうもヤオは生き物すべてが好きっぽい。

 木陰で休む馬たちをもう一度みて、俺はもう一度湖の水へそっと手を差し入れる。……冷たくて気持ちがいい水だ。

 ヤオが言うには命が溢れる良い湖だということだが。


「ここは昔からかわりませんね」

「本当に綺麗なままですね」

「え? マリナーサにエルシーラ?」


 いつの間にか傍にマリナーサとエルシーラがいた。ただその言葉の意味するところ、昔からこの湖を知っていたということだろう。


「二人はこの湖を知ってたんですね」

「はい。ここの湖の水はとても綺麗ですので、集まる精霊たちもとても楽しげなんですよ」


 そういってマリナーサはそっと水を両手ですくう。その水の上で、なにかきらきらと光が舞っているのが見えた。おそらくあそこにウンディーネとかの精霊がいるんだろう。

 綺麗な水辺に集まる精霊か。


「ヤマト領にも、ウンディーネとか集まってくれたら嬉しいんだけどな」


 思わず俺はつぶやいた。もしそうなれば、そこは水の綺麗な場所であるとのお墨付きをもらえるようなものだから。

 そんな俺の呟きを聞いた二人は、一瞬ぽかんとした後くすっと笑う。


「何言ってるんですか。ヤマト領にはもうウンディーネいますよ」

「え? い、いつのまに? というか、なんでわかるの?」

「この子が……」


 そういってマリナーサは手のひらを前に差し出す。俺には姿が見えないが、光の粒子が波打つのと、なにか涼しげな気配は感じる。


「この子が教えてくれました。新しい祝福の地──ヤマト領にたくさんの仲間が遊びにいってると。どうやらヤマト領は、さっそく精霊たちの集まる場所になりはじめたようですね」

「そっか。それは……嬉しいな」


 まさかの報告に嬉しさが募ると同時に、新たな責任や使命も感じた。人間だけじゃなく、精霊たちの場所にもなるヤマト領。本当に、いろいろやっていかないとと、改めて気を引き締めた。



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