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177.そして、激突! ……お隣で

 ひとまず、皆で新領地を見に行くことに決まった。

 行くのは俺とヤオ、ミズキ、フローリア、そしてエルシーラだ。まあ、簡単な視察みたいなものだから、ミレーヌたちには特に声をかけないでおくことにした。

 準備を整えてさくっと領地へ転移。その際、初めて【ワープポータル】での転移を経験したエルシーラは随分と驚いていたようだった。


「ふむ。少し前に地盤固めを行ったばかりだし、まだそれほど変化は……ん?」

「お兄ちゃん、どうかした?」

「なんかあっちの方に建物が作られてるし人が何人か……」

「ああ、あれは王都の建築関係者ですね。既に到着されているようで」


 なるほど、言われてみればガタイの良い野郎どもで、いかにも力仕事まかしとけ系の集団だ。


「じゃあアレは工事期間中の仮設住宅みたいなもんか」

「そうですわね。これだけの敷地を工事するには交代はあるものの、何日も宿泊しての作業となりますものね」


 それもそうだな。工事する人だって、ここである程度の生活環境がないといけない。

 何よりこれから街をつくっていく段階なんだ。宿屋は無論、飯屋も食材の店もないのだから。


「少し配慮不足だったな。必要な物品等は聞いておいて、俺が定期的に訪問して届けるとかしたほうがよさそだな」

「そうして下さるのならば、皆の負担も大幅に減りますね。……ですが、配慮不足だと嘆く必要はありませんよ。そもそも、カズキみたいに瞬時にいろんな場所へ転移できるのがおかしいのですから」


 フローリアに気遣いされた。嬉しいのは嬉しいのだが、少しばかりのショックも受けた。


「その辺りは一度、あちらの責任者を交えて話してみましょう」

「そうだな。それで……」

「む。なんじゃ?」


 フローリアとの話がひと段落したので、今度はヤオの方を見る。俺の視線に気付いたヤオは訝しげにこちらを見返すも、ちょっとばかりわざとらしい感じがする。


「いやなに。ヤオは今から何をするのかなーと思ってさ」

「……そうじゃな。まあ折角なので、ここでミズキに稽古をつけるのも良いかと……」

「はいっ、喜んで!」

「良いかとも思ったんじゃが、その前にわしが少しやりたいことがあるのじゃ」

「やりたいこと……?」


 そんな事を言うヤオの視線を追ってそちらを見る。すると何かが森のなかからやってくる様子がうかがえる。というか、この地で森から悠々やってくる者など心当たりは一つだけ。


「……バフォメットか」


 子バフォを肩にのせ、反対側では大きな鎌を構えているバフォメットが来た。この周囲の森全域の守護者だからこそ、今現在ここに出現したヤオの存在を感知してやってきたのだろう。

 とはえい既に知っている間柄、ついでに顔見せ程度の気安さっぽいが。


「様子ヲ見ニ来タノカ。ソレニシテモ……」

「すまぬな。せっかくじゃから、お主の力を感じてみたくてのぉ」


 そう言ってニヤリと、舐めるような笑みを浮かべるヤオ。その表情は、獲物を前にした狩人ようだが、同時に強い相手とぶつかることに喜びを感じる闘士(ファイター)のようでもあった。


「……ナルホド。ソウイウ趣モ悪クハ無イ。イイダロウ、相手シヨウ」


 バフォメットの方も吝かじゃないのか、あっさりと受諾。というか、なんだこの対戦カード。ちょっとばかりプレミア付きそうないい試合だな。よし俺も存分に観戦を楽しんで……


「ではカズキ。私達は領地工事に関しての話し合いをしに行きましょう」

「……え? お、俺も?」


 目の前に急遽きまった対戦に胸躍らせようと思った瞬間、まさかの物言いがフローリアから。


「あたりまえです。ここの領主は誰だと思っているのですか?」

「あー……うん、俺だけど。でも……」

「自覚があるのでしたら結構です。エルシーラさんはいかがいたしますか?」

「私の集落である洞窟は、内も外も川が通っております。生活と水源が密になっている生活基盤という物に対して、何かアドバイスなどで来ましたらと思いますので、是非ご同行させて下さい」

「だそうですよカズキ。領主なら心構えを見習って下さい」

「……ハイ」


 そんな訳で俺とフローリアとエルシーラは、領地工事の業者さんとの話に向かうことになった。




 フローリアに言われて、工事業者との顔合わせとなった。フローリアは既に責任者とは顔合わせをしているようだが、当然俺とエルシーラは初対面だ。それぞれ『この地の領主となる人物』『生活導線に川がある人物』として、色々と意見を聞きたいという話で紹介された。

 領主になる時に、合わせて爵位を授かることになっているのだが、それらを含めて国王直々に色々と聞いていたようで、こちらに対して懐疑的な態度もなく一安心。


 ならばと、さっそく用水路を経由して引き込む水源に関しての意見を聞くことにした。何か良いアドバイスをうけられたら良いけどと思っていたら、さっそく水を引き込んだ直後の部分での意見が。

 領地の一番上流側へ行き、川から引き込んだ用水路と領地の境目を指さす。


「この部分……用水路から、すぐ浄化の魔石に水を通して生活用水としていますね」

「えっと、これだと何か問題が?」

「はい。これですと、水に溶けた汚れや不浄物は魔石で浄化され除去されます。しかし、水と一緒に流れ込んでくる土や砂といった物質は、浄化の魔石で浄化する対象にはなりません」

「え? そうなのですか! それじゃあどうすれば……」


 困惑する業者だが、エルシーラは慌てずに領地の一角を指さす。そこは特になにも設定してない空き場所となっている。


「たとえばここに、少し深い貯水槽を幾つか造ります。そしてそこをゆっくりと流すことにより、水より重い砂などを沈殿させて自然除去させます。そうして綺麗になった水を、各区画で管理する大型貯水槽へ流して水を確保するようにして下さい」

「なるほど……わかりました。すぐに給水路の改善に着工します」

「お願いしますね」


 なるほど、沈殿による浄化か。そういえば魔石頼りの設計にしてたけど、万能ってわけじゃないんだよな。言われてみればダークエルフの洞窟内の水源も、途中で何度か貯水部があったけど、それってそういう意味だったのか。


「さすがですね。他にも気づいたことがありましたら、是非ともお願いします」

「わかりました。聖女様にはエルフの里を助けて頂いた恩もあります。私なんかの知識でよければご存分に」


 そう言って流暢な礼を返す。その動作一つ一つが流れるようで格好いい。

 その様子に感心していた、その時。


「!?」


 ふと何か強大な力を感じた。かといって何か危険を察知したわけではない。

 ……そう、これはアレだ。

 ここから少し離れた場所で、バフォメットとヤオ──ヤマタノオロチが、軽い本気を出して試合をしているのだろう。

 いかん、見たい。見てみたい。本当の意味での無差別級バトルだ。

 よし、ここはフローリアとエルシーラにまかせて……。


「そえではカズキ……いえ、領主様(・・・)。次の話にいきましょうか?」


 他者の意見を許さない王家の威厳を含む言の葉。

 よりにもよって、フローリアの王家血筋を重々承知させられるタイミングがこれか……。



ここまで基本主人公視点で多少客観視点もありましたが、次回は内容的に完全な第三者視点となります。

今後も場合により、第三者視点や各ヒロイン視点なども書くかもしれません。


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