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169.そして、開拓の第一歩となりて

 ピラミッドの攻略旅行から帰ってきての翌日。俺とミズキ、それにフローリアとヤオの4名は、先日の話の通り新領地へ向かった。

 とはいえ移動は【ワープポータル】で一瞬だ。今回は道中を楽しむつもりはないし。

 ポータル位置は新領地の側に流れる川辺。川から水を引く予定なので、そのおおよその位置にポータルは接ししてある。


「んー……いい所じゃなぁ」


 現地到着の開口一番にヤオが言う。おもいっきりのびをして、そよぐ川風を全身で受ける。


「この辺りは植物だけじゃなく、土も、風も、どれも生きているの」

「へぇ、そんなこともわかるのか」

「あたりまえじゃ。それに……」


 ニヤリと愉悦まじりな笑顔を浮かべるヤオ。むむ、これはちょっと何か悪巧みか? そんな事を思い警戒したのだが、その答えはすぐに向こうからやってきた。


「──ナルホド。覚エノアル気配ト、知ラヌガ見過ゴセヌ気配ヲ感ジ見ニ来タノダガ、オ前達カ」

「あっ、こんにちはー」

「お久しぶりです、バフォメットさん」


 やってきたのはこの地を守護してくれている、いわゆる盟友のバフォメットだ。その肩には子バフォがちょこんと座っている。


「どうも。お疲れ様です、と声をかければ妥当なのかな?」

「気ニスルナ。我ラニ上辺ヲ取リ繕ウ必要モナカロウ。……ソレヨリモ」

「ああ。こちらが……」

「ヤオじゃ! よろしくな」


 そういって手を腰にあてながらバフォメットを見上げ挨拶をする。その表情は、何かを見つけた子供のようにキリキラしている。


「ばふぉめっとダ。ソシテ、コレガ我ノ子供ダ」


 それだけ言うと、すっと目を細めてヤオを見る。まるでその内に秘められた力を値踏みするかのような空気を漂わせる。


「強イナ、オ前」

「ぬしこそ、隠してもわかるぞえ」


 どこか楽しそうにする両名。そんな雰囲気とは別に、フローリアとミズキは。


「こんにちは子バフォちゃん」

「はい、こちらをどうぞ。好物だと窺いまして」

「ワハッ、蜂蜜ダ、アリガトー!」


 受け取った蜂蜜のビンをかかげ、太陽の光でキラキラする容器を嬉しそうに眺める子バフォ。フローリアのどうぞ、という言葉にわくわくしながらちょろっとすくって舐める。


「オイシイ! オイシイヨっ」


 はしゃぐ姿はまさに子供。そこに人間とか魔物とか、そんな区別はない。

 ただ好きなものに喜ぶ、純粋に生きているだけのありのままがあるだけだった。




 しばしの交友時間を設けた後、俺達はバフォメット親子と共に領地予定地へ。

 既に大まかな区画整理の準備が済んでおり、王都からミスフェアへ向かう道の両脇が、結構な広さで整地されていた。まあ、整地といっても大きな岩や木などを除去して、更地にしてあるだけなんだが。

 スレイプニルを呼び出して騎乗して飛ぶ。空から領地を眺めると、自分の感覚で思っていたよりも広いなという印象を受けた。更地でこの広さだ、建物が立ち並んだ状態だと感覚的にもっと広く感じるハズ。


「うん、とりあえず把握できた」


 降りてきた俺はフローリアたちにそう告げ、バフォメットの方を見る。


「これからいよいよ整地を始める。ただ、その前に俺がこの地に色々と施工をする。なのでこちらが許可をするまでは、区画内には入らないようにしてほしい」

「心得タ。モトモト領地ニハ入ッテイナイカラ安心スルトイイ」


 まあ、基本は周辺の森林守護だしな。この地まで守護してくれてるのは、いわばついでだ。


「カズキ、それでどうやって整地を進めるのですか?」

「ああ、それはだな──」






 バフォメット親子と別れた俺達は、その足ですぐログアウトした。

 ミズキとフローリアは連れてくる必要なかったが、一応視察の途中なので一緒にいてもらった。二人からの異論もないようなので一安心。


 さて、ここからちょっとお仕事だ。

 まずは先程スレイプニルに乗って、上空からスクリーンショット撮影した画像を取り出す。思いのほか画像でも、整地の境目がわかりやすくていい塩梅だ。

 その画像にツールで、分かりやすく太線で区画や、中央の道、そばの川などの境界線を描き込む。

 そしてメーラーを開いて、一つの宛先を選び新規文章を簡単に描き込む。そこに先程の画像と、とあるドキュメント文書を添付して送信。

 ──よし。後は少し待つか。


 自分の作業が終わりリビングへ行くと、三人そろってテレビを見ていた。エレリナほどではないが、何度かいじっているうちに色々と家具の使い方を覚えたようで、特にテレビに関してはゆきをのぞけば、フローリアが一番理解が進んでいるっぽい。


「お疲れさまカズキ。用事は終わったのですか?」

「ああ。えっと……何見てるの?」

「そうそう! 聞いて下さいカズキ! この男、酷いんですよ」


 そう言って指さすテレビでは、昼ドラが流れていた。よくある男女間のもつれを描いた、短編ストーリーっぽい内容だ。物語もド定番な感じで、男が内緒で何人もの女と浮気して……という物らしい。


「本当にこの男は……何故こんなにも隠れてお付き合いしてるんでしょうかね」

「そうだよね。ちゃんと全員顔を会わせて紹介すればいいのに」


 ……ん?


「大体女の方も、自分以外に誰と付き合ってるのか確認を怠るのは愚策ですわ」

「自分が惹かれた相手なら、他の人も同じような感情を持つ可能性を考慮しないとねぇ」


 ……ああ、そうか。考え方の基礎が違ってるんだ、この世界とあっちとでは。

 こちらでは……というか、ここ日本では当然一夫一妻なのだが、向こうではそうじゃない。貴族や裕福な身の上の者は、養えるのであれば一夫多妻はあたりまえの世界だから。


「そういえばカズキは、こちらの世界には恋人とかおりませんの?」

「そういえば聞いてなかった! どうなのお兄ちゃん」

「いや、いないぞ。お前たちに会うまで、そういう事に興味なかったからなぁ」


 そう言うと、二人はあからさまに安堵した表情を浮かべる。今度はヤオが聞いてきた。


「主様は先程何をしておったのじゃ? 何か手紙らしき文を書いておったようじゃが」

「て、手紙ですか!?」

「誰に、誰宛てに出したの!?」


 とたん表情を切り替えて迫る二人。この様子だといわゆる恋文系と勘違いしてるな。


「何を勘違いしてるか想像はつくが……領地に関するアドバイスを得るための手紙だよ」

「領地の……」

「アドバイス?」

「ああ。さっき領地の上空で撮影した絵と、領地の立地条件データをまとめた資料をそえて、俺の知り合いで建築基礎工事に詳しい人間に意見伺いの手紙をだしたんだ。以前からそういう質問を投げかける事は伝えてあったから、あと数時間もすれば領地開拓基礎に関しての最適かつ有効なアドバイスをもらえる手はずになっている」


 そう伝えて俺は冷蔵庫からお茶を取り出して飲む。

 なんだろう。一息ついた気分だけど、ようやく領地に関しての本格的な作業が始まった気がした。

 とりあえずメールの返事待ちだな。それなら……


「返事待ちで時間があるから、どこか出かけるか?」

「「賛成~!」」

「なのじゃ!」


 今日も俺の周囲はにぎやかしく、華やかで、楽しい。



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