165.それは、いつか叶う約束へ
次回分(1/28)の投稿遅れます。申し訳ありません
「……二人とも、お疲れ」
「はい、無事目的を遂行いたしました」
「うん……」
戻ってきた二人へねぎらいの言葉をかける。それに対してゆら……ではなく、エレリナはいつもの調子で返事を返してきたが、案の定ゆきはどこか暗い感じがする。
イシスの持つ特異な力──真名を知られた者は支配をされる、という事象へ抗う為にゆきは、自身を狩野ゆきではなく転生前に生きていた時の菅野雪音だと言い聞かせ、自分へ向かう束縛を跳ね返して討ち取ったのだ。
それ故に、今ゆきの心情はかつての事柄で不安定だった。色々あったがふりきれ、それで終わったものだと思っていた記憶を呼び起こしたのだ。やはり整理しきれない気持ちが溢れてしまう。
以前ふっきれたと言っていた。本人もそうだとは思うが、やはり人の心は単純じゃない。自分自身の本心だって理解できないのがあたりまえなんだから。
「ゆき、ごめんな」
「えっ……」
既に涙はとまっていたが、頬にうっすら残る涙の後を見たら、俺はゆきをだきしめていた。
つらいことを、酷いことをお願いしてしまったという遺恨が自分の中からぬぐえない。
だから……という訳ではないが、前々から考えていたことをゆきに打ち明ける。
「一度一緒に行こう。ゆきの……菅野雪音の生まれ育った所へ」
「え!?」
俺の言葉に驚いて顔をむける。それを見て俺は言葉を続けた。
「前々から考えていたんだ。もし必要なら一度いくべきだと。別に現実の両親に会ったり話したりする必要はない。ただ、そこへ行くことに意味があると思ったから」
「私の故郷……」
ポツリとつぶやいてしばらく下を見たまま動かなくなる。だが、皆わかっているから声をかけない。今ここで最初に言葉を発するべきはゆき本人なのだと。
「……そうだね。本当の意味で、気持ちの整理をつけないとね」
そう言って、少し弱々しく感じたがニコリと微笑むゆき。それを見て俺も皆も、一様に緊張が解けるのがわかった。
「よしっ! ならば皆でゆきのあっちの世界の故郷へ行こう。皆いいかな?」
「もちろん!」
「賛成です!」
「楽しみです!」
「感謝します」
「面白そうじゃな」
「……ありがとう、みんな」
満場一致で可決したゆきの故郷訪問。その返答にゆきも、先ほどとは違う温度の涙が目に浮かぶ。
その目でこちらを見てくるので、少し照れくさくなって思わずちゃちゃを入れたくなった。
「それじゃあ、ちゃんとお参りいかなといけないな」
「……ん? ど、どこに?」
微妙に涙ぐんだゆきが、不思議そうな顔を向ける。それを見て少し意地悪い顔をして答える。
「無論。ゆき──いや菅野雪音さんのお墓参り」
「ひっどっ! そりゃあるだろうけど、なんかさあっ!」
俺の言葉にギャーギャーとわめきポカポカたたいてくるゆき。それを見たエレリナさんは、苦笑しながら俺にしっかりと頭を下げて見せた。
「えーっと、それじゃあ探索の再開をします……」
ちょっとばかりゆきにボコられて小休憩をした俺達は、いよいよ最上階である6階へ来た。イシスを討伐すると案の定元の広前へ転送された。そして、入ってきた入り口は硬く閉ざされており、向かい正面の扉が開け放たれた。つまりもう後戻りは出来ない、進むのみ……という事に。
その先の通路にあった階段で、6階へとやってきたのだった。
最上階は5階同様、目の前には一本道の通路があり、その正面に重厚な扉があるのみだ。
もう疑う余地は無いだろう。あの扉の向こうに、このピラミッドダンジョンのボス・オシリスが待ち構えているのだ。
「フローリア、オシリスについての神話等の事で、何か知ってることはないか?」
「それなんですが……結果からのべますと、戦闘時における特筆すべき事は見当たりません。元々生産の神として奉られた存在で、豊穣の神と呼ばれたイシスとともに人々に愛された存在です」
「……そうなのか? なんか良く見るビジュアルでは、汚れた包帯をまいたミイラを見かけるけど」
色んなゲームで見かける絵柄としては、オシリスもマミーも単にミイラ男としか思えない感じだ。とても生産の神様って雰囲気じゃないけど。
「それはきっと弟であるセトに暗殺されたのち、イシスらによって復活した後の姿ですね」
「そんな経緯があったのか。暗殺って物騒だけど、よく復活できたもんだな。その頃のイシスってのは、もう始祖の魔女と言われてたのかな」
「かもしれません。セトによってバラバラになったオシリスを、ほぼ集めて復元復活させたというのですから、それはもう始祖として間違いのない存在だったとしか」
結構物騒な内容を淡々と話すフローリア。まあ、ここも現実世界よりは物騒ではあるけど、神話の話って基本ドロドロ展開多いんだよな。あと、少しだけ気になることもあった。
「オシリスはほぼ集めて、なの? じゃあ復活してもどこか欠損してたんだ」
「は、はい。そうですね」
「あまりそこに関しては聞いたことないな。どこが欠損してたのか知ってる?」
「あ、え、えっと、その……」
何故か急にフローリアが顔をあからめて、モジモジしはじめる。どうしたんだ?
「その、ですね。その場所は、その……」
「うん」
「その、だ、だん、だんこ……」
「あー! オチン……」
「どっせーーーーいっ!!」
フローリアの言わんとしたことが理解できたのち、分かりやすい名前で言おうとしたら、とてつもない掛け声とともに頭にすごい衝撃がきた。ものすごい本気キックだ。
無防備に俺はおもいっきりゆきのツッコミをうけて軽く気絶した。
うん、元気になってくれてなによりだ。ははは……。




