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161.それは、ちょっとしたビックリで

タイトルを変更しました。

旧題:Live on Universe ~転生ですか?いいえIN/OUTです~

 ピラミッドダンジョンの3階にやってきた。

 ……うん、空気でわかる。ここから先は生半可な冒険者じゃ、雑魚モンスター一体の相手で、へばってしまう領域だ。

 なにより2階の門番であるホルスを打ち破れぬ限り、ここへ上がってくることは出来ない。もし仮に、実力が不十分な人物が強いパーティーに紛れて3階へ来たとしても、以降はただ邪魔な足手まといにしかならない程の場所だ。自身の腕に合わない場所へきて、自ら危険に身を晒すなどというのは愚行だ。


「ミレーヌ、ここから先の危険度は段違いだ。予めホルケを呼び出しておいたほうがいい」

「わかりました。ホルケ、お願い」


 声に応じて召喚したホルケは、すぐさまミレーヌの傍に寄り添う。元々強大な力のある神獣なうえ、神聖魔力を保持しているミレーヌが一緒なので十二分な抑止力になるだろう。

 だが、それでもここから先に出てくるのは、下の階のように魔力余波だけで追い払えるほどの小物ではないようだ。

 いつしか通路の向こうから、人間よりも二回りも三回りも大きな影が近づいて来ている。近くにくるにつれ、通路内の乏しい灯りに映し出される姿が見えてくるのだが。


「あれは……ミノタウロス?」

「だな。正式にはミーノータウロスって伸ばすんだけど、言いにくいからミノって呼ぶよな」

「あ、そうなんだ。牛肉のミノとは関係ないんだ」

「あるわけあるか。あれって牛の胃だぞ」


 ゆきとの馬鹿話の間にも、ミノタウロスは近寄ってくる。数は2体ほどいるが、その1体で先ほどのホルス相当の強さを感じる。


「……確かギリシャ神話の怪物でしたね」

「なるほど。地中海を挟んだ反対側か」


 フローリアの言葉で、ミノタウロスが比較的近い場所由来のモンスターだと気付く。その獰猛な姿や躯体のイメージで、オーガやトロールみたいな存在と混同しがちだが、元々はミーノース王の子なんだよな。

 それじゃあ、誰が相手をしようか……と思った時。


「カズキ様。ここは私に行かせて頂きたいと」


 進言してきたのはエレリナだった。率先して前に出てくる性格じゃないと思っていたのにめずらしい。ミレーヌの護衛でホルケが傍にいるから安心してるのかな。

 特に問題もないし、他からの反対もなく、目の前のミノタウロスはエレリナに任せることにした。一人で大丈夫かなとゆきを見るも、何も気にしてない様子なのでそのまま任せてみた。

 すたすたと特に気にする様子もなく、エレリナはミノタウロスの所へ。対してあちらは警戒した状態で、手にした斧をしっかり握りしめてエレリナを見ている。

 エレリナは皆の中では身長は高い方だ。でもそのエレリナでさえ、ミノタウロスの腰くらいまでしか高さはない。威圧感としては、圧倒的に受け身になってしまう程だ。

 だが、そんな大柄なモンスターでも十分な高さをこの通路はもっている。両手持ちの斧を上段にかまえても問題なく振るえるほどの高さだ。うむ、考えてるそばからそのミノタウロスが斧を振りかぶった。そしてそのままエレリナの方へたたき下ろす。斬りおろすというより、刃物がついてる打撃武器でたたきつぶすという方が近いほどの威力だ。叩きつけられた床に斧がめりこみ、その振動がこっちにつたわる。


「うむ。ほどよい腕っぷしじゃな」


 腕を組み笑みをうかべうんうんとうなずくヤオ。別にミノタウロスを応援しているとかではなく、単純にエレリナとの力量差に気付いているので呑気に感想を述べているだけだ。


「まずは一つ」


 そう言って突き刺さった斧のせいで、前かがみになったミノタウロスの首をはねる。突き刺さった斧を引き抜こうとした姿勢のまま、一回ビクッと体が跳ねるようにしたのち、何の意識も持たないオブジェとなった巨躯はばったりと横に倒れ崩れた。

 あまりにも鮮やかに切り伏せた事に、俺もさすがに驚き感心した。ミノタウロスはその見た目通り、かなり強靭な体を有している。そのためたとえ首とはいえ、そんなやすやすと跳ね飛ばせるとは思っていなかったから。

 だから今気付いた。エレリナの手に握られている、その──正宗(まさむね)に。


「あれは正宗か? いつのまに……」

「先日彩和で広忠(ひろただ)様にお会いした時です」


 俺の呟きに対して隣から返事がきた。その声はミレーヌ。


「そうなんだ。全然知らなかった」

「うふふ、カズキ様を驚かせてみようと広忠様が私とエレリナに進言したんですよ」


 やったね大成功! みたいな顔で、にっこりと笑みを浮かべるミレーヌ。そうか、それでエレリナはミノタウロスとの戦闘に名乗り出たわけか。見るとエレリナがこちらを見て、かすかに笑みを漏らした。それにミレーヌが反応してかわいく手を振り返す。ちょっとしたドッキリ企画だったわけね。


「しかし広忠様は思い切ったことするな。正宗なんて大切な武器を、エレリナに貸し与えるとは」

「そ、それは……」

「ん? どうしたミレーヌ」


 さっきまでの嬉しそうな顔はそのまま、どこか照れたような表情をするミレーヌ。なんなのかと思っていると、傍で話を聞いていたヤオが会話に参加してきた。


「主様は意外と鈍いのう。あの広忠殿は、このミレーヌ嬢ちゃんの身を案じて、その護衛をしておるエレリナ殿に自身の信頼する武器を貸し与えたのじゃろうて」

「ああ、そういうことか。広忠様からの守り手として託されてるわけだ」

「は、はい。そういう事です」


 照れくさそうにするミレーヌを見て、広忠様とミレーヌがどれだけ信頼厚い仲なのかわかり、おもわずほっこりしてしまった。

 そんな俺達の耳に、なにかが倒れるような音が聞こえた。もしかして……と思い、そちらを見る。案の定二体目のミノタウロスがさっくりと討伐されていた。先程同様に首をはねられて。




「【解体魔法(アナライズ)】」


 倒れている二体のミノタウロスを素材解体する。魔石の他、いくつかの素材になり必要なものだけストレージに収納する。その中の一つを見て、俺は取り出し手にもつ。


「ゆき、手出して」

「ん? 何かいいもの出た?」

「ほい」


 そう言ってソレをゆきの掌に載せる。とある肉塊だ。


「……何コレ」

「ミノのミノだ」

「えー……」


 ジト目で睨まれた。いや軽いジョークやん。

 ちなみに後で聞いてみたが、ミノタウロスの肉は上質な牛の肉とほぼ同じ素材になるんだとか。まあ、名前からして(タウロス)だもんな。

 まあ、それはいいとして。


「戦ってみた感じはどうだったエレリナ」

「そうですね……。確かに力は強いのですが、正面から受け止めるような事がなければ問題ないかと。先のミノタウロスの場合は、斧の自重が見た目以上にあるようで、ミノタウロスもその重さを利用して振り回している様子でした。一度回避するだけで、過分な隙が生じるほどに」

「なるほどね」




 次にであったのはまたしてもミノタウロス。先程と同じで二体いる。

 今度はミズキがやってみたいと言うのでまかせてみた。どんなもんかなと思ったが、先ほどの話を踏まえているのかミノタウロスの攻撃をかわし、そこで踏み込んでの攻撃だった。エレリナと同じように首を一撃ではねての勝利。

 すぐ側で同族が死んでも、もう一体のミノタウロスは気にした様子もなくミズキへ攻撃をする。当然ミズキのステータスなら難なく見切って回避、反撃。二体目もあっさりと討伐完了。多少強くとも、このくらいではあまり差異はないようだ。

 嬉しそうにこちらを見て、笑顔+ブイサインをするミズキ。どうやらゆきに教えてもらったブイサインが気に入ったようだ。そういえば俺が時々スクショ撮ってるときにもブイサインしてたな。




 三回目のエンカウントはヤオが名乗り出た。そろそろ俺かなと思ってたが、好奇心から自分も自分もとせがまれたのだ。

 そのヤオなんだが……まあ、無茶苦茶だな。

 最初に振りおろされた斧を、がっしりと受け止めた。白羽どりとか、鞭でとかじゃなく、刃を素手で。斧がヤオの掌にぶつかった時、聞いたことないような金属同士のぶつかる様な音が響いた。おそらく掌にヤマタノオロチ本来の鱗のような皮膚を展開させ、それを斧とぶつけたのだろう。結果まったく無傷で止めてしまい、そのまま刃を掴んだと。その皮膚硬度もだが、あの勢いでぶつかった斧の勢いを打ち消すってのがもう非常識だな。……ここにもGMのベクトル値クリア処理とかが作用してたりして。

 掴まえた斧をそのまま振り上げて、斧をにぎったミノタウロスごと持ち上げて振りおろし床にたたきつける。逆にミノタウロスが斧を手放してしまうほどの衝撃。おいおい、下の階に冒険者いたら驚くぞ。

 結局その斧を手にミノタウロスへたたきつけて、斧とミノタウロスを一緒に粉砕してしまった。続けて二体目だが、もう気が済んだのかあっさり懐にもぐって下から拳を突き上げた。その力で今度は天井に……とはならず、ミノタウロスの胴体ド真ん中をぶち抜いていた。

 あっさりと絶命して倒れる巨躯をよけながらこっちにきたヤオは、


「主様よ、血がベトベトして気持ち悪いのじゃ」


 あーはいはい。

 まったく、世話の焼けるお子様やのう。



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