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160.そして、一つの仮定にたどり着く

 ピラミッドダンジョンの2階奥、そこにある広間へと到着した。ご丁寧に大きな扉が設置されており、おそらくパーティー単位での入場制限がかかっているのだろう。ここがピラミッド上階への審査関門だからというのが理由か。

 とりあえず扉を開けようと手をのばすと、それを感知したのか大きく両開きになる。どうぞ入ってきなさいという事なのだろう。俺は皆の顔を一度ぐるりと見るる中へと足を踏み入れた。




 広間は思いのほか広い。無駄な装飾品などもなく、ただまっすぐ正面には別の大きな扉がある。おそらくはあの扉の奥に上へ通じる階段があるのだろう。

 だが、その扉の前に──いた。

 まるで彫像のように微動だにせず、こちらを睨むように立っているソレは、(はやぶさ)の頭をもった姿をしている。おそらくあれがホルスであろう。

 LoUでのアップデートでは、ホルス等が追加になるという話だけで実データは存在しないので、その姿を見るのは俺もはじめてだった。

 俺達が全員広間に入り、中央へ歩いて行くと背後で音をたてて扉が閉まった。これでおそらく戦闘が終了するまで、出ることも入ることも出来ないのだろう。


 ただ立っていただけのホルスに、まるで意思でも宿ったかのように力が吹き込まれるのを感じる。その背にあった翼を広げると、右翼は強い炎を纏っており、左翼は深い闇色から神秘的な淡い光が漏れている。おそらくホルスの伝承にある、左右の目が太陽と月をつかさどっている事象が翼へと具現化したのだろう。

 その身に纏う魔力の帯は、眩い炎と深い闇を併せ持ったようになっている。


「門番キャラだと思ってたけど、意外と強いのかもしれないな」

「ほぉ、主様もそう思うかや。本気の()には遠く及ばぬが、今のこの姿でいるわし(・・)とならいい勝負が出来そうじゃの」


 そう言ってヤオが俺を見る。要するにこれは『わしが戦う!』と駄々をこねているのだろう。その駄々のレベルがちょっとばかりデカイけど。


「ヤオから自分がとの申し出があった。皆はどうかな?」

「うん、いいよ」

「それでよろしいかと」

「はい、大丈夫です」

「ヤオちゃんがんばれ」

「戦うお姿、拝見させて頂きます」


 一応聞いてみたが、案の定皆ヤオの戦闘を承諾してくれた。ミズキとユキも、間近で見てはいないので興味あるのだろう。


「それじゃあヤオ、お願いしたい。わかってると思うけど、この室内では……」

「大丈夫じゃ。この姿のまま勝負を決めてこれる。それでもお釣りがくるほどじゃ」


 笑顔のまま、だが少し愉悦を混じらせた表情でヤオは進み出て行く。

 一人だけ自分の方へ歩いてくるヤオに対し、当初とは異なる警戒の視線をとるホルス。おそらくは集団戦闘を想定していたのだろうが、後方にいる俺達が一切動こうとしないのを感じて思考を切り替えたのだろう。……もしくは、ホルスがある程度以上強いのであれば、目の前にせまる相手のみで十分自身を圧倒できることを理解したのだろう。

 だが残念ながらホルスは門番としての役割がある。相手が脆弱者だろうと圧倒的強者であろうとも、やることは一つ。守護の為に戦うだけだ。


「さあホルスとやら。遠路はるばるやってきたわしを、少しは楽しませてくれぞ」


 そう言って近づくヤオ。そこに危機感を抱いたのか、ホルスの翼から炎が巻き起こり。そこから複数の火炎弾が飛び出し、ヤオへ向けて放たれた。

 遠くで見ていてもわかるほど、その火炎弾は強力だ。太陽をその目につかさどっているという設計は、やはり侮れないかもしれない。俺達がよく知っている太陽のプロミネンス、あの吹き出す炎ですら1万度という途方もない温度だ。さすがに本当にそれだけの熱量があると、核爆発と同じようになってここに存在すら困難になる。だからそこまでではないにしても、神話における設定がそのまま反映するならある程度は覚悟すべきか。

 そんな一抹の不安を抱えて火炎弾が迫るヤオを見ると、右手をそっと構えて


「ほれっ!」


 ぶんっと音を鳴らしながら自身の前を水平に走らせる。すると今まさに着弾かと思われた火炎弾が、すべて跡形もなく消え失せた。右手に握った鞭で、その火炎弾を消したのだ。砕くとかそういった方法でなく、鞭が火炎弾に触れるタイミングで、それ以上の圧倒的な魔力で火炎弾の在り方を打ち消した。

 それはあまりにも単純で、それでいてあまりにも馬鹿馬鹿しいほど圧倒的な差だった。

 火の付いたローソクを密閉すると、中の空気がなくなって火が消える現象がある。ならば、もし燃えている火の回りの酸素を一瞬ですべて二酸化炭素に変える事ができたらどうなるか。当然すぐに火は消える。なぜならそこには火が燃える為の理由が、火が“存在するための理由”が無いからだ。

 先程ヤオがやったことはソレだ。相手の火炎弾が、その場所に“存在するための理由”を自分の魔力で完全に消し去ったのだ。

 実に単純で、実に馬鹿馬鹿しい、あまりにも超越した方法だった。


「ふむ……まあまあじゃったかな。今度はわしから行くぞ?」


 今度は鞭を握ってない左手を上に掲げる。その掌に、一つの炎が浮かび上がる。決して大きくはない。だが、その内に秘めた魔力は相当なものだ。


「これは先程お前がわしにぶつけようとした炎と同等のものじゃ。自身でもくらってみるかえ?」


 そういってふわっと頬られた炎は、放物線を描きながらホルスへ向かいとんでいく。

 それを見たホルスから、今度は黒い帯が伸びあがり守護をするように包み込んだ。先程が太陽の力というのであれば、これが月の力だろうか。月の性質が太陽の逆だというのであれば、太陽の力を抑え込む事が出来るのかもしれない。

 ヤオの放った炎が黒い闇の帯に触れると、それに絡め取られるかのように覆われて四散した。やはりホルスは自身の力を抑え込む力量も持ち合わせているようだ。


「なるほど。自身の躾け位ならば可能であるということか。ならば──」


 改めて手をかかげ、再び掌に炎がたちのぼる。だがその強さは、先程とはまったく違う事が一目瞭然だった。派手に燃えているわけでもないし、特別大きいわけでもない。だが、その炎の玉に込められている練り上げた魔力の質が違う。

 それを先程と同じように、なんの衒いも無く放り投げる。そして同じように、黒い闇の帯が絡め取ろうとして──


「──!?」


 言葉を発せぬ門番のホルスが、無いハズの意思を震わせ驚愕したかのような動きを見せる。

 ヤオの放った炎を絡め取ろうとしたその黒い闇の帯は、次の瞬間炎に飲み込まれて消えてしまった。先程ヤオが行った“存在するための理由”の打消しを試みたホルスだが、結果は“理由が存在するため”に打ち消されてしまった。

 そのまま炎はなんの抵抗もなく、まるでバターをホットナイフで斬る様にスーッと突き進み、そしてホルスに触れて──その存在を崩壊させた。

 本当に無茶苦茶な力だ。要するにヤオは、存在を打ち消そうとする力を打ち消したのだ。燃える火を水の中にいれると、水が火を消そうと働きかけるのだが、その水自体を燃やしてしまったという所か。


「どうじゃ主様、皆の者。わしの強さがわかったかや」

「ああ、十分理解できたぞ」

「ふふふ、そうかそうか」


 にこにこ笑顔でもどってくるヤオを迎える俺達。

 褒めながらも俺は、このヤオのあまりにも圧倒的な力がおそらくは自分の、というかGMの力が多分に影響しているんだろうなぁと感じた。


 実際問題、“草案や企画のみで未実装な存在”というのであれば、ヤオもホルスも大きな違いはない。だが、ここまで分かりやすく圧倒的な差がでているのは、その生い立ちだろう。

 ホルスはこの世界にて、流れてきた歴史に置いてそうあるべきと規定された範囲での具現化をした。それがこの結果だろう。

 だが、ヤオは少し違う。そもそもLoUにはいない存在だった。それが俺が天羽々斬(あめのはばきり)を使った事がトリガーになり、結果蓄積された事象によりその存在が確定して生まれたのがヤオ──ヤマタノオロチだ。

 ヤオの出自に影響したのは、世界の歴史ではなくLoU世界で圧倒的な力を有するGM。それ故、生まれ出たヤオも秘める力はそれに順じたものになった。そう考えるのが一番しっくりくる。


「……主様、どうかしたのかや?」


 自分の考えをまとめていたので、少しばかり呆けていたのだろう。どうしたのかとヤオに気を使われてしまったようだ。


「いや、なんでもない。ヤオは強いなぁって」

「うむ! わしはとても強いぞ」


 嬉しそうに笑うその顔には何の意図も感じない。それもGMという存在からの出自という影響なのかもしれない。今にして思えば、初めてヤオの調査依頼をうけた当初の話、人間を襲う魔物を討伐していたという行動も、もしかしたらGMのパトロール任務の影響だったかもしれないな。

 色々と気付き考えることはできた。だが、まず今言うべきことは。


「よし。それじゃあいよいよピラミッド3階へ行こうか」


 俺の呼びかけより、広間には皆の賛同の声が響いた。



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