158.それは、信じる心が力となって
彩和での久しい再会と、より強い絆の結びつきを経て帰路へとついた。
といってもいつもの様に時差を考慮しての、現実世界を通過してのワンクッション帰還である。久しぶりに全員そろったうえ、スケジュールも合致した。なのでいよいよ砂漠の国レジスト共和国、そこのピラミッドダンジョンへ突撃……と、なるハズだったのだが。
今現在、ヤオを含めた全員が現実世界の俺の家、正確にはリビングのテレビの前に集結している。
そしてその視線は、一人の漏れも無くテレビ画面に釘付けとなっている。いまの時刻は夕方で、テレビでは色鮮やかな戦士に変身した女の子が、悪と戦うアニメの再放送が流れていた。いわゆる日曜日朝にやっているアレだ。
だが、そのテレビを前にある種異様な光景がひろがっている。
「……………………」
全員が無言でじっと凝視しているのだ。ときおり、息を呑むもしくは吐き出すような呼吸音は聞こえるが、意味のある言葉が出てくることはない。
画面の中のヒロインが技を放ち、そして悪が消え去り平和が訪れる。そんなどこにでもあるような、普通が彼女達にとっては一代スペクタルなのだ。
終劇──エンディングが流れて、ふと画面から漂ってくる雰囲気の変化に気付いた誰かが、壁の時計を見る。以前時計の長針が上または下を指す時刻が、テレビ番組が切り替わる事が多いという事を覚えていたのだろう。
「……終わったみたいですね」
フローリアの呟きに、全員から「はあああ~っ」と大きな息が漏れる。リビングに漂っていた、妙な緊張の空気がほぐれ、続けて今度は一人また一人と今見た番組のことを話し始めた。
やれ悪のやり方がずるいだの、女の子達が生き生きしてるのがよく伝わるだの、あの変身と技が格好良すぎるだの、少しばかりディープな内容に聞こえなくもない会話がはかどっていた。
ことのはじまりは、今回彩和へ向かう時に偶然ヤオがいじったテレビのリモコン。これによりリビングにあるテレビが、特殊な映像を表示する機器だと皆にばれてしまったことからだった。そのことを追求された俺とゆきは、色々説明した後定期的にテレビを見せるようにという約束を取り付けられた。
その流れもあって、今回帰還する際に一度現実に戻ってくるので、そこでさっそく視聴会と相成ったわけだ。
こうして番組が終わったあと、次の番組までは各種CMが流れているのだが、当然それらも興味津々で眺めている。一応番組とCMとの区別などを説明したので、今流れているのは宣伝活動用の映像だといことは理解してくれている。それでも今までみたことない映像の数々に、皆会話をしながらも視線は外さない。
「……いやぁ、皆すっかりテレビにはまったね」
隣にきて小声でそうつぶやくのはゆきだ。さすがに皆ほど急激なのめりこみをしてないので、時々放送中もこちらを気にしてくれたりはしてくれている。
「まぁ、わからんでもないけどな。こうなる可能性もあったからだまってたんだが……」
「もう少し警戒して、テレビの元スイッチを切るか、リモコンを隠しておくべきだったね」
ゆきは笑いながら視線をテレビに戻す。そこにはまた別のアニメがはじまっていた。皆にとってはニュースよりも、こういったアニメとかドラマの方がとっつきやすいのかもしれない。いわゆる、劇でも見ているそんな感覚に近いのかもしれない。
「とりあえず、これが終わったら止めるか。ほどほどにしないと明日に響くしな」
「そうだね」
そう話して俺達は視線をテレビにもどす。その会話の間中、他の皆はずっとテレビを真剣に見ていた。
なんか、今ならわかるなぁ。ずっとテレビを見てると親に小言を言われた感じ、アレだな。
翌日──といっても、現実で一眠りして時差調整をした後の、ログインにて。
俺達はレジスト共和国へやってきた。
「おおっ、これはまた彩和はおろか、王都とも違う風の匂いを感じるのう」
「ミレーヌ様、この国は乾燥しやすいので屋外では水分補給をこまめに」
「ありがとう。エレリナ、あなたもね」
当然ながらの初訪問のヤオはテンションあげあげだが、流石エレリナさんは下調べができているのか、主であるミレーヌをしっかり気遣っている。
「先日、中継街のメルンボスには少し行きましたが……ここはやはり暑いですね」
そういって空を見上げるのはフローリア。そういや前エルフの里へいったときも、時間的には夜だったしかなり違うんじゃないかな。
「それでお兄ちゃん、今日私達が行くのは……」
「おう。前々から言ってた、ピラミッドのダンジョンだ」
「ピラミッドに山頂アタックだね!」
「いや、外は登らないから」
ゆきの妙な意気込みは却下して、俺達はレジストの西側の砂漠へ。そこはすぐ近くに大きなピラミッドがあり、今回そこをじっくり探索する予定だ。
歩いてすぐのところにあり、入り口前には往復探索をする冒険者たちが小休憩をしていた。この付近だけ木がふえてあったりして、少し木陰で休めるようになっていたりするのだ。
入り口の方へ歩いていくと、ゆきが思い出したように話しかけてきた。
「そういえば、以前別件でここを通った時、入り口はいってすぐのところまでは行ったんだったね」
「ん? そうなのゆきちゃん」
その話を聞いてなかったミズキが聞き返す。そういえばそこんなこともあったか。その時の事をゆきが皆に説明する。たしか以前はダンジョンボスだったエンシェントマミーが、LoUでいうパッチアップデートで徘徊ボスへ降格したんだったな。それで今までのボス位置はホルスが配置され、その後ろに階段が設置。ホルス討伐パーティーは階段を通過可能なフラグが内部で成立状態になり、以降は入り口からいきなり階段へ通じるショートカットが選べるようになった。ちなみにこれによって新たに設置されたボスはオシリスとイシスだ。今回の目的は、それらボス三体を拝みに行くってのが一番の理由だ。
ちなみに、以前入り口すぐのところだけ行ったというのは、
「ピラダンの1階~2階はね、エンシェントマミーっていう少しだけ強いモンスターが徘徊してるんだよ。それ以外のモンスターは、低レベル聖職者が修練を積むのに適したモンスターばかりなんで、そのために来てる人も多いわけ。ただエンシェントマミーは自由に徘徊するから、たまーに入り口入ってすぐのところにいたりするの。そうしたら駆け出し冒険者や聖職者ではお手上げね。以前きたときはそれを、通りすがりに討伐したってわけ」
「……通りすがりで少し前のダンジョンボスモンスターを倒すって、すごいですね」
感心した様子でフローリアが呟く。
「そうでもないよ。相性がよかったと思うし、それにフローリア様も聖属性で迎撃すれば容易かと」
「なあ、わしはどうじゃ? そのエンシェなんたらは強いのか?」
「いえいえ、ヤオちゃんのが断然強いですよ。なんだったら素手でも余裕の相手です」
「なんじゃ、残念じゃ」
少し残念そうにするヤオ。というか、お前が本気でやれる相手なんてそうそういないだろ。あー……でもそうだな、バフォメットあたりならいい勝負しそうな気がする。
そんな思考をめぐらしながらいくと、なにやら入り口付近に人だかりが。……あれ、なんかこの光景以前も見た気がするんだけど。
とありあえず近くの人にきいてみる。
「すみません、どうかしましたか?」
「ああ、どうやら入ってすぐの所にエンシェントマミーが陣取っていて……」
ビンゴだ。まあ、別にさくっとどかせばいいんだけどね。
それじゃ誰にそれをやってもらおうか。ヤオはあまり興味なさそうだったな。
「カズキ。私とミレーヌで試したいことがあるのですが」
「え? フローリアとミレーヌの二人で?」
「はい」
まさかの申し出。その理由を聞いてみると、二人がもっている聖属性の魔力。これを攻撃に転じての魔法を試してみたいのだとか。
前々からピラミッドダンジョンというアンデッド系の多い場所へ行くと聞き、それならばと二人で話していた事があったらしい。今まで何度か練習をして、最近その形が見えて実用可能レベルになったとか。
「えっと、本当に大丈夫?」
「はい。お任せ下さい」
「私とフローリア姉さま、二人におまかせです」
そう言ってさっさと入っていこうとする。あまりに自然に行ってしまい、止める間もなく見送ってしまった。
「でも、流石に心配だ。ついてかないと」
「そうです、私も」
あわてて後を追う俺と、おなじ心境で追随するエレリナ。無論他の皆もすぐついてきた。
ダンジョンに入るとと以前と同じように、入り口近くの曲がり角付近にエンシェントマミーはいた。そしてこちらに気付くと、まっさきに先頭にいる二人へ向かっていこうとする。
「とりあえず、すぐ援護できるようにしましょう」
「はいっ」
俺とエレリナさんが構える。あまり広い通路ではないので、俺とエレリナさん以外は、さらに後ろで様子見になっている。
近付いてくるエンシェントマミーに向かって、フローリアが右手を、ミレーヌは左手を前に出す。そしてもう片方の手でお互いの手と握り合う。……? どっかでみたような。
「神聖なる光の魂が!」
「邪悪な者を打ち抜く!」
……おい。
「「ホーリー・オーラ・ウェーブ!」」
二人の掛け声とともに、両掌からあふれ出た眩く輝く聖属性の衝撃波。それがエンシェントマミーを貫いて……倒した。
「やりましたよカズキ!」
「見ててくれましたかカズキさん!」
俺は本気で二の句がつげなかった。何この子たち。もしかして、昨日あのアニメを見てた理由ってこれをするためだったの?
……とりあえず、一度外にでてエンシェントマミーは除去したよって伝えてくるか。




