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157.それは、親愛な友の理

 城へ着くとそこには、既に俺達を待っていた使いの者がいた。その者に案内されて以前のように城内を進んでいくと、向こうから見覚えのある男性がやってきた。


「皆さんお久しぶりです」

「お久しぶりです。ええっと、どちらでお呼びすれば……」

「城内では正信で大丈夫ですよ。ここは松平広忠(まつだいらひろただ)様の城ですから」


 そうにこやかに返答したのは、世間的には広忠の影武者を務めている男性本多正信だった。実際の広忠は、まだ10歳の少女故に行っていることだが、それを知っているのは城の者以外にはほぼいない。


「広忠様はお元気ですか?」

「はい。広忠様も皆さまとお会いするのを楽しみにしておりますよ」


 待ちきれないとばかりにミレーヌが声をかけた。たしかにしっかり者ではあるが、自分以外が皆年上のミレーヌにとって同年代の広忠様は本当に大切な親友なのだ。


「ではご案内致します」

「わかりました。ほらミレーヌ、一番先に行っていいよ」

「は、はい! ありがとうございます」


 嬉しさ爆発の顔で案内に付いて行くミレーヌ。尻尾があったらぶんぶん振ってるんだろうなという状況が手に取る様に見える気がした。




「お待ちしておりました皆様」


 以前と同じ場所で、俺達を迎えてくれた少女。優雅に礼をしながら、楽しそうな雰囲気が顔に声にと毀れている。


「広忠様!」

「ミレーヌ様!」


 お互いの顔を見るや否やかけよって抱き付くほどに近づく。そのまま両手をとりあってにこやかに笑顔を交わす。なんとも微笑ましい光景ではないか。よきかなよきかな。

 しばし二人で再会を喜んだあと、ミレーヌに手をひかれ広忠様がこちらへ来た。


「皆様お久しぶりです。ご壮健のようでなによりです」


 改めて丁寧にお辞儀をする。立場は君主だが、雰囲気からしてお姫様って感じなんだよな。


「此度は急なご訪問、ご迷惑かと思いましたが是非と思いお伺いいたしました」


 フローリアが礼を返して返答する。一応(おおやけ)の挨拶として、王女であるフローリアに最初は言葉を交わしてもらうようにしている。


「とんでもありません。皆さまでしたら、いつでもご歓迎したします」

「恐れ入ります」


 フローリアの言葉に合わせ礼をする。それを見てミズキ達も頭をさげる。

 その様子をみて、フローリアと広忠が軽く笑みを交わす。


「では堅苦しいのはここまでです。皆さま、よく来てくださいましたっ」

「いえいえ。急な訪問なのに、ありがとうございます」


 一応公式な挨拶云々は終わり、ここからは“知人”として交わす時間だ。なので俺達も普段通りに振る舞うことになる。ただ、今回は前回とは違うことがある。


「それで広忠様今回来ました訳ですが……ヤオ」

「うむ」


 呼ばれたヤオがこちらにくる。別に後ろで待っていたわけではなく、初めてみる城内の様子を興味深げにキョロキョロしていたのだ。

 やってきたヤオを見た広忠様は、夢見により予め知っていたその姿をまじまじと見つめる。


「お初にお目にかかりますヤマタノオロチ様。松平広忠といいます」

「うむ。わしはヤオと呼ばれておる。そなたもそう呼んでくれると嬉しいぞ」

「はいヤオ様、今後ともよろしくお願いします」


 見た目の年齢が近しいせいなのか、それとも広忠様が元々しっかりしてるのか、ヤマタノオロチであるヤオにも物怖じせず挨拶を交わす。その様子を傍でみているミレーヌも相まって、とても国の行く末を導く城の中とは思えないほどほのぼのした雰囲気があふれている。




 その後も和やかな空気は続いた。

 もともと広忠様は、ヤオの存在については予見していたので、大筋を理解しての確認をするだけ。そしてヤオも人々に悪意を見せぬうえ、今は俺と主従の関係に落ち着いているので、間違っても彩和へ(あだな)すこともないと納得してもらえた。

 なのでお堅い話はそれでおしまい。せっかくきたのだからと、俺達は広忠様と中庭へ。中庭へつくと広忠様は既に期待している表情をかくせず、目をきらきらさせている。

 それを見た俺はミレーヌに頷く。はいと返事をしたミレーヌはホルケを呼び出した。


「広忠様、これが私の大切な仲間のホルケです」

「……これがホルケ様……とても綺麗……」


 艶やかな銀色の狼を見て、感動して呟く声が聞こえた。離れて様子を見ていた城の者達も、まずミレーヌが召喚したことに驚き、続いてそのホルケに驚いて言葉が出ない様子だ。


「ホルケはとてもお利口ですので、広忠様からもどうか仲良くして下さい」

「はい。……ホルケ様、はじめまして。松平広忠と申します」


 そっと手を伸ばしすと、ホルケが意図をくんでさりげなく近づいて撫でやすいように姿勢を取る。その毛をそっとふれた広忠様は、始めはおそるおそるといった感じだったが、そのうち抱き付かんばかりに近づいて撫でていた。

 そんな様子を見ていたミレーヌは、そろそろかなと呟く。


「それでは広忠様、今からホルケと一緒に遊びましょう」

「一緒に遊ぶ、というのはどういった……」

「こういう事ですっ」


 広忠様の疑問の答えだと、さっとミレーヌがホルケの背中に乗る。当然ホルケはその程度ではびくともしない。本来の姿でなくとも、ミズキやゆきが乗っても平気なのだから。


「さあ広忠様もどうぞ」


 そう言って手をのばすミレーヌ。いいのかなという表情で、おそるおそる手を伸ばすとミレーヌがしっかりとつかんで引き上げた。


「わっ、わあっ」

「ホルケには特殊な力がありますので、乗ってしまえば落ちることはありません」

「……本当です。こんなに横に動いても、落ちない……」


 試にと広忠様が身体を横に傾けるも、それで落ちるような様子は一切ない。ひととおり安心を確かめると、ミレーヌがホルケにそっと話しかける。


「それじゃホルケ。この庭の中だけで少し走ってもらえる?」


 主のお願いをうけてホルケが軽やかにタンッと駆けだす。そこそこ広い中庭なのだが、軽やかに舞うように走るホルケはあっと言う間に端から端へたどり着く。


「凄いです。こんな事したの初めてです……」

「ふふ、それではこんなのはどうでしょうか? ホルケ」


 驚き喜ぶ広忠様を見て、ミレーヌが軽くホルケを撫でながら声をかける。するとホルケが少し屈むようにしたあと、ジャンプをして……高く飛び上がる。それは“跳ねる”ではなく、文字通り“飛ぶ”。空中に足場でもあるかのように軽やかに空を駆けるホルケ。

 ただでさえ興奮していた広忠様は、まさかの光景に目を白黒しながら嬉しさを顔に出す。


「すごいすごい! 飛んでます! 私いま飛んでます!」

「はい! 私達は今空をとんでるんです!」


 元気よくゆったりと空を散歩している二人の所へ、二羽の白い小鳥──雪華とアルテミスがきて、二羽で広忠様の肩にとまる。

 広忠様にとって空からみた世界は、この雪華のおかげで見ることができるようになった。そんな世界を今、自分の目で見ている。その肩に雪華をのせて。とても不思議な光景で尊い体験だ。


「今日はありがとうございます」

「はい、こちらこそ」


 城の中庭上空にて、他に誰も無い場所で笑顔で礼を述べる。そして、


「ミレーヌ様、よろしければ私のことは“広忠”と呼び捨ててください」

「……わかりました。では私も“ミレーヌ”でお願いします」


 交わされる親友の言の葉。


「承りました、ミレーヌ」

「これかも宜しくお願いしますね、広忠」


 気持ちの良い青天の空、それにまけぬ清々しい笑顔が二つ。それはなにものにも替え難い、想いの形を表していた。



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