156.そして、約束せし訪問へ
投稿が遅くなりました。次は1/19の20:00と、普段通りを予定しています。
いつものメンバー+新たにヤオを加え、総勢7人で彩和へ行くこととなった。
だが、毎度のことだがこちらの大陸と彩和では、およそ10時間ほどの時差がある。こちらで正午頃に訪問でもしようものなら、彩和では夜の10時となってしまう。なのでこれまた恒例の、現実世界で時差調整をすることにした。
その際フローリア達に、ヤオが俺の転移に追随できることも知られてしまった。別に隠すつもりもなかったのだが、ずるいですーという視線がチクチクしてちょっとつらい。
……だが、“ヤオが同行する”という余波は、その程度ではおさまってくれなかった。
俺の部屋で少なくとも時差感覚を呼ばないため、10時間ほど滞在するのは決定事項だ。なのでヤオにもある程度の説明をして、皆と一緒にいてもらったのだが……その好奇心の見通しがあまかった。
興味をもったヤオが、つい手にとって弄ってしまったのだ。──テレビのリモコンを。
おかげでリビングにあったテレビが表示され、ゆきをのぞく全員が「!?」と驚愕の目を向けた。
そこからの質問攻めには辟易した。途中でゆきもテレビを知っていると認知するや、ゆきも矢面にあげて質問の絨毯爆撃だった。……後でちょっと睨まれたし。
おかげで本来なら、こちらに来た時間の大半を睡眠に割り当てるはずが、半分以上をテレビ観賞に費やすと言う事になった。さすがに彩和への訪問に影響が出ると強く言い、なんとか切り上げさせたが、その際に今後頻繁にテレビを見せるよう要請をうけてしまった。なんか若い少女たちが、ダメな大人まっしぐらな生き方を模索してるようだ。
ともあれ、妙な波乱があったものの、時差感覚を埋める10時間を経過した後、俺達は向こうへもどり彩和へと出発した。
「おお、この空気の感じ……戻って来たのじゃな」
王都の庭より【ワープポータル】で彩和へ出ると、ヤオは嬉しそうに深呼吸をして言った。
「空気の違いがわかるのか」
「当然じゃ。やはり自分に縁ある土地の空気はすぐにわかる」
グランティル王国を発ったのが夜の10時くらいだったので、いまこちらは朝8時といったところか。でもって場所もいいので、そのまま大衆食堂で朝ご飯をいただくことにした。
この彩和の和食文化は、新領地には絶対導入すべきだな。まあミスフェアにもいい和食店があるから、そのあたりを色々都合つけるように心がけるか。
とりあえず皆で朝食をとる。ゆきとエレリナ以外の皆も、いつのまにか箸が随分上手になった。ヤオは……まあ、普通に使えるか。
朗らかな感じで朝食をいただいて、少し休んだら出発しようかと思っていると。
「あっ! あれは……」
ふと視線を外へ向けていたミレーヌが、何かに気付いて立ち上がり窓の方へ。あわててエレリナもついていくが、ミレーヌはすごくいい笑顔で窓際に行く。そしてそこから手を伸ばして、
「やっぱり。こんにちは雪華ちゃん」
伸ばした手に一羽の白い小鳥──シロブンチョウが乗った。それは松平広忠様の召喚ペットだ。おそらくは雪華の視点を借りて、広忠様もこちらを見ているのだろう。つまり俺達がこの彩和に遊びにきたに気付いたということだ。
「ふふっ、こんにちは」
手乗り状態になっている雪華にフローリアも挨拶をする。そして、
「ほらアルテミス」
そう言いながら自身の手を伸ばすと、そこにはフローリアの召喚ペットである白インコがいた。すぐ隣に寄せてやると、ピピッと鳴きながら体をこすり合って親愛の挨拶を交わした。王族の少女二人の掌で、二羽の白い小鳥がじゃれあっており、思わずその光景を優しい目で見てしまう。
しばしそんな感じだったのだが、ふとその二人に近づく者がいた。
「ふふっ、なんとも愛くるしい小鳥たちではないか」
ヤオだった。一瞬心の中で「あっ」と声をあげてしまう。ヤオって……蛇、だよな。
そう思うと少しばかり不安だったが、雪華もアルテミスも逃げずじっと愛くるしい目をヤオに向け、何か返事でもするように一鳴きした。
「ははは、そうか。ありがとうじゃな」
どうやら何か褒められたらしい。上機嫌で二羽を撫でるとこちらに戻ってきた。
「えっと、ヤオはあの小鳥たちの言葉がわかるのか?」
「うむ。まあ、言葉というよりも、鳴き声に意味が乗っておるのじゃ。それが頭の中で意味のある言葉になって伝わってくるという感じじゃな。ちなみにあの鳥たちは、わしの強大さを大いに褒めてくれたぞ」
そしてカカカッと豪快に笑った。お気に召したようでなによりだ。
「ではそろそろ城へ向かおうか。雪華を通じて見ている広忠様も、待ってくれてるはずだ」
「はいっ、広忠様に会えるの楽しみです」
ミレーヌが心底嬉しそうに言う。近い年齢だということで、以前意気投合してとても仲良くなったのは俺達皆が知っている。ずっと城から出れない広忠様にとって、ミレーヌは俺達の中でも一番の親友なのだ。
「では雪華。これよりあなたの主である広忠様に会いにいきます。道中今度はうちのアルテミスが同行しますので、よろしくお願いしますね」
そう聞かせると、雪華とアルテミスが頷くような動作をしたのち、すっと飛び上がっていった。
「カズキ。アルテミスを一足先にご挨拶に向かわせました」
「おう。それじゃあ俺達も行こうか」
そうして皆で食堂を出て向かう。そんな中、フローリアが近づいて来てそっと俺の手をにぎる。
「ん? どうしたんだいきなり」
「えっと、道中は時折アルテミスの視界をのぞかせてもらうため、出来れば手を繋いでおきたくて」
「ああ、なるほど。うんいいよ」
「やった!」
許可をもらえたことで、よりいっそうぎゅっと手をにぎられた。すると、何故か反対側の手もきゅっと握る反応がきた。なんだと振り返ると、
「それでは反対は私と握っておいてください。はぐれるといけませんので」
「ミレーヌか。いやでも、ミレーヌはしっかりしてるから、はぐれるとかそんな……」
「迷子になってしまうと大変なので、お願いしますね?」
「…………はい」
何か言い負けた。別に不満はないし、確かに年少の子たちの手を握っているほうがいいかもしれないけど……それでも流石にもうその年齢ではないだろうに。
そうは思ったのだが、俺を挟んでフローリアとミレーヌが目配せをして笑みを浮かべてるので、これ以上はあんまり言及しないほうがいいなと思った。
「……で? お前は何をしてるんだ?」
「わしか? なんじゃ主様はおんぶも知らんのか?」
「……そういう意味じゃない」
「わかっておるわ。まあ、ちょっとした余興みたいなもんじゃな」
そう言って俺の背中に抱き付いて、“勝手におんぶ状態”になっているヤオ。なんだ余興って。
「わしにもよくわからんが、ゆきが……」
「ゆき? ゆきがなんか言ったのか?」
ヤオの言葉をうけて視線をゆきに向ける。だが、何故かこそこそとエレリナの影にかくれて、直視から逃れようとしているように見える。
「よくわからんが、『カズキはきっとロリ好きだからヤオちゃんも抱き付いておいで』と言われた。なあカズキよ、ロリとはなんぞや?」
「…………あいつめ、何を教えてるんだ」
勝手に人をロリ好きに決めつけないでくれ。
あと……“ロリとはなんぞや”と聞かれても返答に困る。
まるで哲学でも問うように聞かれても……なぁ?




