155.そして、揃いし愛しき人ら
追記:1/18に所用が出来ましたので次回更新は遅れるかもしれません
ヤオという召喚獣と契約したが、感覚としては新しい家族が増えたような感じだ。何より他の召喚獣と異なり、言葉を介して人間との意思疎通が可能なので、さっそく他の皆にも会わせることにした。
「なるほど、お話はよく分かりましたわ」
そういいながらも、どこか呆れたような視線を向けてくるのは……フローリアだ。
ここは王城の一室で、俺がフローリアへ会いにいくときいつも使わせてもらっている部屋。そこに今、俺とフローリア以外はミズキとゆき、あとミレーヌにエレリナと全員そろっている。
そして──当然ならがヤオもいる。ヤオを皆に紹介するために、今ここにいるのだから。
「それで。こちらの──ヤオさん、でしたか?」
「うむ、ヤオじゃ。よろしくな」
「このヤオさんは、その……6人目ということでしょうか?」
「……は?」
6人目? フローリアは何を言ってるんだ? ここにいる面子を見てそう発言したってことは……
「いやいやいや、違う違う! ヤオはあくまで契約した魔獣であり、仲間だけどそうじゃない」
「え! そうなの?」
驚いたように言うのはミズキ。お前、ずっと経緯をみてたのにそんな風に思ってたのか。
「すみません、カズキさん。私もそうなのかと思ってました」
「実は私もなんだよね。カズキって老若男女どころか、種族とっぱらいのハーレム野郎かよぉーって思ったりしたよ」
ミレーヌとゆきもそう思っていたと同意する。というかゆきってば、よく老若男女噛まずにいえたな。あと酷い事思ってやがったなこんちくしょうめ。
そこで最後の一人エレリナへ視線を向ける。例にもれず誤解してたのかなと思ったのだが、
「いえ。それ以前にヤマタノオロチと聞かされては、安易な思い込みは無意味かと」
そう言って変な先入観をもたなかったそうだ。さすがに彩和出身で、色々な知識を有しているだけあってヤマタノオロチに関してもよく知っているようだ。流石に、人に害成す存在ではなく楽しいことが好きだということには驚いたようだが。
「そうか。エレリナはヤマタノオロチの事は知ってたんだね」
「はい。我が国に伝わる伝承で知っておりました」
「そうか……神話とかならフローリアも好きだったりするんじゃないのか?」
「神話は好きですが、残念ながら彩和に伝わるお話は見た事ありませんわね……」
そういえばフローリアの祖母は、フランス人で転生者だったな。だからヨーロッパ系の神話とかには明るかったのか。
「それにしても……」
改めてフローリアがヤオを見る。ヤオ本人というよりも、ヤオがいる空間を見ているという感じか。その隣でミレーヌも同じようにヤオがいる場を見ていた。微かに二人の目から魔力を感じる。どうやら魔眼でヤオを見ているようだ。
「ほぉ……二人とも、いい目をしておる様じゃな。面白いものが見えたか?」
「──はい。とても強大で、それでいて華やかな力を感じました」
「私もです。溢れる光がまるで闇のようですが、とても楽しそうです」
二人は己の眼を通して、ヤオの内にある力を感じ取れたようだ。エレリナは文献とはいえ、そもそもヤマタノオロチを知っていたし、これで一応全員におおまかな感じでは説明できたか。
「そういえば、フローリア達のほうの日程はどうなの?」
「私達は無事日程を終えましたわ。なので、これからはカズキたちと一緒に出掛けることができます」
嬉しそうに言うフローリアの言葉をうけ、ミレーヌとエレリナも頷く。これでまた全員で冒険旅行へいけるな。
「そうだ。それならまず、明日は一度彩和へ行こう」
「あそっか。そうだね」
「うん、賛成!」
俺の言葉にミズキとゆきも賛同する。だが、てっきりレジスト共和国のピラミッドダンジョンへ行くと思っていたフローリア達は、不思議そうな顔をした。
「実は今回のヤオとの出会いなんだけど、彩和の広忠様は夢見で先に知ってたみたいなんだよ」
「広忠様ですか!」
思わずでてきた親友の名前に声をあげてしまうミレーヌ。以前会ったときに意気投合し、とても親しくした相手を思っての行動だろう。すぐに自身のあげた声に恥ずかしくなり、すみませんと赤くなってしまったのは逆にほほえましい。
「その広忠様に、ヤオの事をきちんと報告しておきたんだ。当然皆と一緒にね」
そう言ってミレーヌを見る。つまりミレーヌに、彩和の広忠様に会いにいこうと誘っているのだ。
「というわけで、どうかなミレーヌ」
「行きます! 行かせて頂きますっ!」
はいはいはいっと連打挙手する勢いのミレーヌ。まあ、行きたがるとは思っていたけど、この前向きっぷりは凄いな。よほど仲良くなったということだろうか。
さきほどまで程よく大人しかったミレーヌだが、ずいっと前に出てきたことによりヤオの視線がそちらへ向く。すると一瞬驚いたように目が見開かれ、すうぅと今度は鋭くなる。
「……お主、その右手の指輪に、凄まじいものを従えておるな」
ミレーヌの右手の指輪にあるもの、それはホルケ──フェンリルだ。他の皆も召喚獣を持ってはいるが、こと戦闘力に関しては神獣というべきフェンリルには及ばない。その気配というか、力量を指輪のなかにいる状態で見抜いたのだろう。
「わかるのか?」
「当然じゃ。というか、おそらく向こうも指輪のなかからこちらに気付いておるじゃろうて」
その察知能力に俺は純粋に感心していたが、それを見ていたフローリアは「ああ!」と何か気付いたように声をあげた。
「ミレーヌ、少しホルケを呼び出してもらえるかしら?」
「は、はい。おいで、ホルケ」
ミレーヌの呼び出して、すっと姿を見せるホルケ。主のミレーヌによりそいながらも、耳はヤオの方を向いている。それは警戒というよりも興味を示しているような感じだ。
「ほぉ……」
ヤオも感心したように上ずった声を出す。お互いじっと見ているが、そこに不快な空気はなさそうなので一安心。そんな二人に声をかけたのは、ホルケ呼出しを願い出たフローリアだ。
「ホルケ。あちらの方はヤオ──ヤマタノオロチという8つの頭をもつ大蛇です。ヨルムンガンドではありませんよ」
「ん?……ああっ! なるほど、そういう事か」
「どういうこと?」
ホルケに対するフローリアの言葉を聞き、なぜホルケを呼び出して話しかけたのか理解した。案の定ゆきも納得顔をしている。
だが、あまり神話に詳しくないミズキはまだ理解してない。おそらくはミレーヌとエレリナもだろう。
「えっとだな、フェンリルっていうのは北欧神話のロキって神様から生み出された存在なんだが、その時他にも生み出された者がいるんだ。一つはヘルという女神。そしてもう一つが蛇のヨルムンガンドだ」
「なるほど。それでホルケは蛇であるヤオを感じ、何か関係があるのかって興味を示したのね」
「まあ、そんなところだろう。それに気付いたフローリアがホルケに教えてあげた、と」
なるほどと納得してホルケを見ると、ヤオが話しかけて撫でていた。
「わしはヤオじゃ。そのヨルムンなんとかではないが、仲良くしようではないか」
嬉しそうにホルケを撫でるヤオ。それを気持ちよさそうに受け入れて、目を細めるホルケ。どうやら神話級の存在が、周囲を壊滅させて戦う様な事態にはならなそうだ。
「それじゃあ明日は皆で彩和へ、広忠様の所へ遊びに行こう」
「はいっ」
俺の言葉に、その場にいる全員の返事がそろった。そして、続けてホルケが同意をするように一鳴きする。
そういえば広忠様、ホルケの事をミレーヌから聞いて会いたがってたな。今度城内の庭でいっしょに遊んであげてたらどうだろうか。




