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154.それは、夢見た結末となりて

 調査という名の特別依頼を終え、あとは冒険者組合に報告をすれば終わり。なので俺はキャラをGMから通常キャラへ戻すため、一度ログアウトした。

 いつものように登録したログアウト命令を口にする。即座に実行され、次の瞬間視界に映るのは見慣れた俺の部屋。

 さきほどまでの賑やかしさが、一瞬で静かな一人部屋特有の空気になってしまう。


「おおっ!? カズキよ、なんじゃここは! お主の秘密部屋かや?」


 ──いや、どうやらそうじゃないらしい。

 またか? またなのか!? お約束もほどほどに……ちょっとまて。

 さっきの戦闘中に使ったショートカットコマンドは『//cc』。これは一瞬でキャラを通常の“カズキ”とGMキャラの“GM.カズキ”をトグルで切り替えるコマンドだ。

 そして今使ったのは、それではなく『//singleout』。俺に誰も触れていない=連れて行かない状況、という条件が成立しているときだけ、ログアウトが実行される命令だ。

 つまり俺が誰かを連れてくるハズが無い。無い……ハズなのだが。

 ゆっくりと振り返ると、そこには興味津々に部屋の中をきょろきょろ見渡している……ヤオがいた。


「目に映る物が初めて見るものばかりじゃが、なんとも不思議な気配のする場所じゃな。先程までいた場所では、どこへいっても強く感じた生命の響きがかように弱く届いてくるぞ」


 言ってる事はよくわからんが、単語の端々から想像するに『都会は自然が少なくて生気が感じられない』という事だろうか?

 いや、今はそんな事よりもだ。


「なんでヤオがここに居るんだよっ!」

「は? お主は何を言っておるのじゃ」


 この世界にヤオが居る事も疑問だが、それ以上に『どうやってこっちの世界にやってきたのか』という事が一番の疑問だった。今回の場合、過去のようにログアウト時に服をつかまれていたりしても、条件判定プログラムではじかれて、単純にログアウトを失敗するだけのはずだ。ヤオ自身が、ミズキやフローリアと同様にこちらに来られる存在であったとしても、今回来ることは不可能だったはずなのだ。

 プログラムに穴でもあったか? いや、いくらなんでも単純な条件判定文だったハズ。そんなミスはありえない……と俺が思考を巡らせていると、


「わしと主様は主従の契約をむすんだじゃろう。ならば、主様が別次元へ転移してもそれについていくのは当然の行いじゃと思うのだが」

「えっ……お前、もしかして自分でログアウトについてきたのか?」

「“ろぐあうと”がこの次元転移だというのならば、肯定じゃ」


 まじかよ。ヤオは自分の意志で俺のログアウトについてきたらしい。

 少しばかり混乱してきたが、今すべきことは早々に再度ログインして、ヤオを異世界(むこう)へ戻すことだろう。


「わかった。えっと、後で色々教えるから、もう一度むこうの世界へ戻るぞ」

「もう戻るのか? こちらはまるで存在の法則が異なって、色々興味深いのじゃがのう」

「ともかくもどるぞ。ちゃんと説明してから、また改めて連れてきてやるから」

「おお、そうか。まあ主様の都合もあるじゃろうし、そうしようかの」


 改めてという約束をして、ともかく俺はキャラを戻してログインをした。




「……っと、GMから戻ったんだ」

「おう。あまりGMの姿は平時で見せるものじゃないからな」

「そうだね。冒険者組合に行ったときと全然違う恰好になってたし」


 姿恰好をいつもの方に戻し、俺達は依頼の調査報告のため冒険者組合へと戻った。

 今回の顛末について、どう説明したものかと考えたが、下手にごまかすのも愚策という結論になり、できるだけ正直に話すことにした。まあ、GM云々に関してはそれっぽくぼかすことになるけど。


「こんにちはーっ」


 お気楽な声をあげて組合に入っていくゆき。見慣れた光景なのか、それを見てどうこう言う人もいない。受付嬢が顔をあげて挨拶を返す。


「組合副長さんいますか?」

「あ、はい副長なら……」

「あら、どうしたの? 何か不都合でも起きた?」


 副長さんを呼んでもらおうとすると、こちらに気付いた副長さんが奥からやってきた。


「先程の調査以来が終わったので報告に来ました」

「えっ! も、もうですか?」


 ゆきの言葉に驚く副長さん。もしかして日単位での依頼になるとか思ってたのかな。


「はい。それでなんですが、ええっと……」

「続きは俺から言うよ。今回の調査で判明したことなんですが……」


 ここで少しだけ声のトーンを落とす。察しの良い副長さんは、それだけで何か重要な話があると気付いてくれたようだ。


「わかりました。詳しい話は奥でお伺いします。……組合長も同席したほうがよろしいでしょうか?」

「ああ、是非そうして欲しい」

「そうだね。組合長さんもいたほうが良いと思う」


 俺とゆきからの意見により、組合長も同席させての報告ということになった。


「わかりました。ではこちらへどうぞ」


 そう言って応接室へ先導してくれた。一度ヤオをちらりと見たが、どうやらヤオについても報告に関係していると薄々感じ取ってくれたようだ。ここの副長さんは優秀だな。




 応接室で待つことしばし、すぐに一人の壮年男性が入ってきた。


「おお、ゆきくん。久しぶりだな」

「組合長さんもお久しぶりです」


 ゆきが頭をさげる。それにならって俺とミズキも下げる。まあ、当然だがヤオはじっと見るだけで頭をさげたりはしない。まあ、それも含めて追々説明するけど。

 だが組合長は特に気にしない様子だ。俺達の顔を見て、ゆっくりと口を開く。


「そちらが、ゆきくんと今回同行してくれた……カズキくんにミズキくんだな」

「はい」

「そうです」


 そして視線はヤオへ向ける。一見すると自由奔放そうな10歳前後の女の子。そんなヤオをみて組合長は一つ大きく息を吐いて言った。


「そしてそちらが……多頭多尾(たとうたび)の大蛇の化身、八岐大蛇(ヤマタノオロチ)か」

「なっ!?」

「えっ!?」

「ふぁ!?」


 まさかの正解発言に驚く俺、ミズキ、ゆき。副長さんは驚きすぎて息を吸う音が漏れ聞こえた。


「ほほぉ、よく知っておるな。褒めてやろうぞ」


 そして当の本人は嬉しそうに腕をくんで笑みをこぼす。

 驚きすぎてしまったが、なんとか気を取り直して組合長に尋ねる。


「なんで……なんで知ってるんですか?」

「実はだな、先程城へと呼ばれていてな。そこで松平広忠(まつだいらひろただ)様より、夢見(ゆめみ)で予知したヤマタノオロチの存在を伝え聞かされたのだ」

「広忠が……なるほど、そうか」


 それだけで納得した。どうやら広忠の持つ夢見──夢で予知夢を見る力で、ヤマタノオロチの事を見ていたというのだ。そして、その姿は10歳ほどの少女の姿にもなると聞いており、今回の調査以来をしてきた俺達が広忠より聞いた外見に合致した少女を連れてきたと。


「広忠様より、この者は人に害なすものではないと聞いているが」

「む、わしか? 当然じゃ。そんな事をするよりも、共に遊ぶ方がよいではないか」

「……というわけだ。いきなりで信じてもらえるかわからんが、こいつの……ヤオの偽りない本心だと思って欲しい」

「ヤオ、というのがそちらの方のお名前なのですか?」


 ようやく落ち着いたのか、副長がおそるおそる質問を投げかける。


「うむ、そうじゃ。ヤマタノオロチ──などという面倒な名前より、よほど愛嬌があるじゃろ」

「そうですね。その……可愛らしいと思います」

「かかかっ、そうであろう」


  豪快に笑うヤオに、思わず相貌が緩む副長。そんな様子をみて組合長が俺達に聞いた。。


「それで、このヤマタ……いや、ヤオ殿に関してだが、広忠様よりカズキくんに任せて欲しいとの言葉を受けている。どうだろう、お願いできるか?」

「はい、大丈夫です。既にヤオとは主従の契約をしています」

「ほぉ、そうであったか。ならばカズキくん、ヤオ殿のこと宜しく頼む」

「お願い致します」


 組合長と副長が頭をさげる。おそらく広忠よりそう言われており、是非そうしてほしいという意思の表れなのだろう。


「わかりました。元々そのつもりですので」

「そうか、ありがとう」


 改めて礼を言われてしっかりと握手をされた。

 ちょっとした様子見と寄り道のはずが、なぜか彩和で強大な召喚獣と契約してしまった。

 まあ、楽しそうだからいいか。できるだけ早く皆にも紹介しないとな。あと広忠にも改めて挨拶に行っておこう。



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