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153.そして、旅と生き様は道連れ

「我の負けじゃ」


 そう一言発したヤオは、その姿を現した時と同じように唐突に人の姿へと変化した。元に戻った、というのが一番近しいのかもしれないが、そもそもヤマタノオロチなので“元”はどっちなんだ。

 ともかく勝敗は決した。といっても、なぜか天叢雲剣あめのむらくものつるぎを手にして掲げただけなのだが。


「えっと、ヤオはもう負けってことでいいのか?」

「構わぬ。その(つるぎ)を見た瞬間、もうわしはお主とは戦わぬ……否、戦えぬと本能で感じた。その剣はきっと、何かとてつもない事象が込められているのじゃろ」

「……そうかもしれないな」


 じっと手にした天叢雲剣を見る。神話においてこの剣は、討伐したヤマタノオロチの尾から見つかったとされている。つまりこの剣が現存する=ヤマタノオロチは討伐された、という方式が成立する。だが実際のところ“討伐”は成立していない。かろうじて天羽々斬(あめのはばきり)を手にした者が、ヤマタノオロチに勝った、という曖昧な結果を残したにすぎない。

 その微妙な結末の補填として、おそらく天叢雲剣そのものに、ヤマタノオロチを鎮め屈服させる法則というか、この世界で有効なルールのようなものが備わったのだろう。だからこそ、本能的にそれを感じたヤオは自ら敗北を認めた。


「おおーい、カズキィー!!」

「お兄ちゃーん! 終わったーっ!?」


 遠くからゆきとミズキの声が聞こえた。二人は遠く離れて見ていたのだが、戦闘が途切れ俺達が大人しくなったので終わったと判断したのだろう。

 二人に終わったと声をかけると、聞きたいことがたくさんあるのか興味津々な顔で走ってきた。


「勝負はどうなった! 勝った? 負けた?」

「さっきの大きな大蛇って、ヤマタノオロチだよね!?」

「ずっと遠くから見てたけど、途中凄くてよく見えなかったよ。どんな戦いしてたの?」

「あれ、カズキの武器が変わってない? っていうかなんかソレって草薙剣(くさなぎのつるぎ)っていわれてるヤツじゃない?」

「そういえばヤオちゃんの足って、鞭巻きつけてあるんだよね? 見ていい?」


 二人であれやこれやと一気にまくし立てる。あと、ヤオをヤオちゃん呼びするとか、すげー度胸。

 中身はあのどでかいヤマタノオロチだぞ。物怖じしねーなこいつら。

 でも確かに人間の姿になったヤオは、外見的には十歳くらいに見えるし。ミレーヌや広忠と並ぶと、同年代にしか見えないだろうな。


「それで? 結局どっちが勝ったの?」


 ヤオの足に巻きついた鞭を手にとり、しげしげと眺めながらミズキが聞いてきた。なんかついでに聞かれたみたいえで、ちょっとお兄ちゃん悲しいぞ。


「わしの負けじゃ! それはもうキッパリとな!」


 何故にそんな誇らしげなのかは知らないが、自分が負けたという事に関しては特別わだかまり等を持っていないようだ。

 ヤオの言葉を聞いたゆきは、じっと俺が手にしている剣を見て、何か合点がいったのか「ああ」と呟いて俺の顔を見た。なるほど、ゆきもスサノオの神話を知ってるようだな。

 しかし俺は、一つだけどうしても気になることがった。


「ヤオ、どうして俺と勝負なんて言い出したんだ? 本当は、もっと何か理由があるだろ」


 先程も一度訪ねたのだが、どうにも他に理由があるように思えて仕方ない。なんというか……この、負けて清々しい表情を見せているのは、何かを試したとかそういう類のものじゃないのかと。


「そうじゃな。わしはお主を試してみたんじゃ。悪かったな」

「いや、もしかしてそうかなとは思ったから、それは別にいいんだけど」


 やはり何か試されたのか。アレかな、神話史で自身を討った刀を持つ者としての力量を図りたかったとか、そういうことだろうか。そんな風に思っていたのだが、ヤオの次の言葉で俺は思考停止した。


「というわけじゃから、カズキよ。今日からお主はわしの主様(あるじさま)じゃ!」

「…………は?」


 ビシッと俺を指さし不敵に笑うヤオ。そこに計算も打算もなく、ただただ純粋に「どうじゃ!」という意思しか見受けられない。


「ええっと……何で?」

「何でも何も、わしに勝ったのじゃからそれを従えるのは規則じゃろう」

「いや、そんな話初耳なんだけど」

「うむそうか。ならば今言っておくぞ。我に勝ったのじゃから、我を従え我の主となれ!」

「事後承諾!? いや事後押し付けだ!」


 主となれってどういうことだよ。そもそもヤマタノオロチはモンスターだぞ。


「ヤオ。それってお前が召喚獣として、俺に従うってことか?」

「ふむ……それでもかまわぬが、出来ればわしは常にこの姿で居たいと思っているのじゃがな」


 この姿というのは人間の姿か。まあ、本来のデカイ姿をされたら居場所がないもんな。


「……確認したいが、ヤオは別に人間と敵対したりする気はないんだよな?」

「無論じゃ。先程も申したように、人間と争うより共に居た方が楽しかろう」

「まぁ、それなら……いいのかな?」


 なんとなくミズキとゆきに視線をうつす。別に許嫁を増やすわけじゃない。あのヤマタノオロチを召喚獣として、自分の配下にするのだから。


「いいんじゃないかな。ヤオちゃんは素直そうだし」

「そうだね。これまでも嘘を言ってるようにも見えないし」


 二人とも特に反対はしない。というよりも、先ほどの感じからして既に友達レベルの関係だと思っているんじゃないのかな。なら親しい仲間が増えるのは嬉しいことかもしれん。


「わかった。ならば今から俺とヤオは主従の関係だ」

「うむ。重々承ったぞ。よろしくな」

「ああ、こちらこそ。……主従の関係を結ぶのに、何か決まり事とかあるのか?」

「おおそうじゃった。すまぬが主様、指をさしのばしてくれぬか?」


 そう言われたので右手を前に出す。ヤオがその手を取り、


「主様、少しだけチクリとするが我慢しておくれ」

「わかった……っ」


 ヤオが中指をそっと口に含み、そしてチクリと痛みがきた。おそらくは牙を立てたのだろう。そこから血を吸うように口をもごもごとして、すぐに指から口を話した。

 なんとなく噛まれたあたりを見てみたが、既に傷口らしきものは無くなっていた。


「これで主従契約完了じゃ。これでどこに居ても主様はわしを呼び出せるぞ。それに……」


 そこで言葉をきったヤオ。しかし、


『聞こえるか主様』


「わっ!? な、何だ!?」

「ん? どうしたのお兄ちゃん」


 突然頭の中に響くように聞こえたヤオの声に、思わず驚いて声をあげる。目の前のヤオはじっとこちらを見ていただけなのだが。どうやら今の声は俺にしか聞こえなかったらしく、ミズキたちは不思議そうな顔を向ける。


『驚かしてすまぬな。これはわしと主様のみに聞こえる声じゃ。思考することでお互いに声を届けることができるのじゃ』


「そういう事もできるのか」


『うむ。主様も何かこちらに送ってみるがいい』


「わかった。ええっと……」


 どういう感じだろうか。今こうやって考えていることが全て筒抜けってことか? それとも相手を意識して思考することで送れるのかな。とりあえずヤオへ……


『改めてこれから宜しくたのむ』


『はは、無論じゃ。何を丁寧な事言っておるのじゃ』


『そうか。ともかくよろしくな』


『こちらこそじゃ』


「……えーっと、二人ともどうしちゃったの?」


 いわゆる念話をしていたら、ゆきがおそるおそる声をかけてきた。そうか、他の人には話してることわかんないんよな。


「ああ。今ヤオと……あれだ、“念話”で話してたんだ」

「え、念話!? そんなことできるの?」


 ふむ。さすが念話って単語も問題なく通じた。


「ああ。さっきの主従契約で、お互いなら出来るようになった」

「いいなぁ~。この世界って電話とかないから、近くに話し相手居ない時寂しいんだよね」

「ねえゆきちゃん、ネンワって?」

「念話ってのはね……」


 ヤオを挟んでミズキとゆきが姦しく話してる光景をみて、おおきく伸びをする。

 よし! とりあえずこれで冒険者組合の特別依頼の調査は完了だろ。まあ、どう説明するかは帰りすがら考えていこう。


「それじゃあ組合に戻って報告にいくぞー」


「うん」

「ほーい」

「よくわからんが、了解じゃ」


 さてさて、どこまで説明したらよいのやら。



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