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141.それは、静寂を型成す一振り

 最後にきて、まさかのボスモンスターそろいぶみ。LoUでは見ることのできない光景に、少しだけ気分が高揚したりする。

 さて、どういう手順で討伐していこうかと思考を巡らそうとしたとき、くいくいと袖を引かれる。なんだと思って横をみるとミズキが、こっちをじーっと見てる。あ、なんかおねだりする時の仕草だ。


「お兄ちゃん、ちょっと……いいかな?」

「……なんだ? これから戦闘になるんだから、手短にたのむ」


 そう言うと、ミズキは笑顔を浮かべながら少し迷って言った。


「えっと、お兄ちゃんがその……本気で戦う所が見たいんだけど……ダメ?」

「…………は?」


 一瞬ミズキの言ってる意味がわからなかった。そして、改めて考えてみると……いや、わからん。


「俺が本気で?」

「うん。その、前にデーモンロードが出たときとか、初めてエレリナさんと手合せしたときとか」

「あー……そっちの意味での本気(・・)か」


 なるほど、やっとわかった。そういえばミズキには教えたけど、あまり見せた覚えがないな。


「ねえカズキ、どういうこと?」

「つまりだ、ミズキはGMの俺の戦う所が見たいって言ってるんだよ」

「そうそう、それ! そのじーえむってヤツ!」

「あぁー、なるほど」


 ズビシッと指をさしてにこやかに言うミズキと、得心がいったわーと呟くゆき。ただ一人よくわかってないエルシーラだったが、俺が“本気で戦う”という言葉にはいくらかの興味をひいたようだ。

 まあ、目の前に二対もボスモンスターがいるのは、少しばかり面倒って気もするな。多少広い空間とはいえ、洞窟内で暴れるのには不適だろう。


「わかった。それじゃあ通常ボスのネイビーを俺が倒すから、残りのラピスは三人で頑張ってみろ。すみません、それでいいですか?」


 方針を考えてエルシーラに確認をとる。


「あ、ええ。片方を受け持っていただけるのなら、非常に助かります。終わり次第すぐに助力に向かいますので……」

「エルシーラさん、大丈夫ですよ。お兄ちゃんが、本当に本気ならすぐに終わりますから」

「……それほどに……」


 仕方ない。とりあえはまず、キャラを切り替えてくるか。

 前方で出方を窺っている二対のアンタレスを見ながら、そっとログアウトをした。






 画面にキャラセレクト画面が表示されている。これでGMを選んでインすればいいのだが、少しだけ調べものをしておく。

 とはいえ、一応覚えていることの確認だ。あのアンタレスたちはどちらもちゃんとLoUにいるモンスターだ。そのHPはネイビーを「1」とするなら、ラピスは「1.66」となっている。なぜそんな端数なのかというと、設計段階で“基本HP+(基本HP×2÷3)”という上乗せがされているからだ。別に1.5倍でもよかったのだが、なんとなくでこうなった。

 各種属性耐性などを見ても、一律でラピスが高くなっている。といっても、少し手数を増やせば何の問題にもならないだろう。

 それじゃあ戻るとするか。インして、ネイビーを倒して、あとは三人とラピスの戦闘を見学だ。

 少しばかりのわくわくした気持ちを抱え、選択キャラを切り替えて俺はログインした。






「「「!?」」」


 戻った瞬間、三人が目を見張って驚きに息を呑む。……ああ、そうか。いつもと違ってキャラチェンジしてるから、外見もかわったんだった。

 白を基調として輝く鎧をまとった姿は、LoUでのGMキャラの象徴でもあった。


「お兄ちゃん、だよね? 以前ちょっと見たことある気がするけど、こんなにじっくりは初めてかな」

「私もこうやってじっくり見るのははじめてかも……」


 ミズキとゆきが驚きながらも、それ以上の興味を携えた瞳で見てくる。だが事情をまったく知らないエルシ-ラは、ただただ驚いているだけである。


「カズキ殿ですよね……これはどういう……」

「まあ、説明は後にしますので。とりあえずは──」


 前方にいる二対のアンタレスのうち、ネイビーを見据える。そしてGMキャラが基本的に装備している武器を手にする。

 天羽々斬(あめのはばきり)──日本神話に出てくる有名な刀だ。一番有名なのは、ヤマタノオロチを退治した刀として名をと轟かせていることだろうか。


「あれがGM専用武器、天羽々斬……」


 後ろからゆきの嬉しそうな声が聞こえてきた。見たこと無いレア武器をみた時の反応だな。武器自体の存在は、攻略本や攻略サイトで見たことがあるのだろう。


「さて、ネイビーアンタレスよ。出てきた早々悪いが、打ち取らせてもらうぞ」


 このGMの白い鎧と天羽々斬を手にしたせいか、言い回しが少々仰々しくなってしまう。力あるものとして、揺るぎない態度でいないとダメと自分に言い聞かせているからだ。

 言葉が通じたわけじゃないが、明確にタゲられていると認識したのか、ネイビーが両爪を高々とかかげて体内から共鳴音を発する。発生器官を持ってないので鳴き声は出せないが、体内の空間で空気振動で共鳴音を出してそれを鳴き声のように鳴らす事ができる。その音はまるで怒りにも威嚇にも聞こえる。

 だが、それだけのことだ。普通の人なら委縮するかもしれないが、当然GMには効かない。

 ゆっくりと近づいていき、そして刀を鞘から抜く。


 ──一振り。


 ネイビーの真正面に立ち、上段の構えから素直に振り下ろす。

 力はいらない。ただ、素直にまっすぐ振れば、それでいい。

 振り下ろした後も、爪と尻尾をかまえたままモンスターはこちらを威嚇する。

 それを見て、俺はくるりと回れ右して戻っていく。

 そんな俺とモンスターを交互に見て、困惑している三人の顔が見えた。

 次の瞬間。

 背後から何かが崩れて地面にひれ伏す音が聞こえた。

 何がおきたのかは見なくてもわかる。


「……すご」


 誰かの漏れた呟きの声が、突如訪れた洞窟の静寂に飲み込まれるように消えていった。



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