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139.それは、幸運の恩恵と知る

 クインネルを討伐した洞窟広間で少し休憩した後、再び探索を開始した。とはいえ、既に十分すぎる素材を手にしたこともあり、無理に藪をつつくような事をしなくてもいいかもという雰囲気でもある。

 しかし「せっかくだから一番奥まで行ってみるか」という興味優先の発言で、とりあえず最奥まで行ってみることになった。もしそこにボスモンスターのネイビーアンタレスがいなくても、探索は終了となり帰還するという事になった。

 そんな訳で最下層へ向かう道をエルシーラ先導で向かっているのだが。


「……なんか、おかしくないか?」


 理由がわからないが、どうにも違和感が拭えないので声に出して聞いてみる。


「私は初めて来たからよくわかんないかな」

「んー……私も何かおかしいような気はするけど、特には」


 ミズキは初見でわからない、ゆきは何かおかしい気もするけど、という感想だった。しかしエルシーラの返答は違った。


「おかしい……といいますか、出てくる魔物の偏りに違和感があります。私はこの洞窟にもよく来ますが、今日の魔物は普段より偏りが大きいです」

「偏りが大きい? 具体的にはどういうこと?」


 立ち止まって振り返り答えるエルシーラ。その表情は、少しばかりの困惑が見える。


「簡単に言うと……そうですね、『希少種』とよばれる普段はあまり見かけない個体が多いかも」

「『希少種』? ああ、レアモンスターか」

「ええ。先程のグランドアント・クインネルもそうですが、ここまでの道中に出てきた魔物にも希少種もしくは亜種が多く含まれていました。一番遭遇数の多いケイブアントも、普段は数十匹に一匹いるかどうかの亜種が、数匹に一匹は混じっているほどに」


 なるほど、違和感はソレか。元々MMOのみならずオンラインゲームってのは、レアモンスターに出会いにくい傾向にある。それはオフラインでも同様と思われがちだが、リセットしたりフィールド移動したりすることにより出現情報をキャンセルすることが出来るゲームも少なくない。

 例えばオフラインのゲームをプレイ中、『ここから先へ進むとモンスターが出現するが、そのモンスターは一定確率でレアモンスターになる』という状況だったとする。そして進んでいくと、モンスターが出現するのだが、ここで実はモンスターが内部データとして確定していない場合もあるのだ。その場合、リセットするなり場所移動するなりして、先程までいた場所から戻ってくると当然情報はクリアされる。しかし、フィールドから一旦帰還するような魔法が存在するゲームの場合、一度帰還した後すぐにフィールドに戻ってくると、データを取り扱うプログラムの仕様上“モンスターの出現”から再度行われる場合がある。要するに、その手間を惜しまなければ何十何百と往復して、出現モンスターをレアモンスターにするという強引な手段がオフラインゲームには存在する。


 では、オンラインではどうか?

 当然ながら答えは「ノー」だ。オンラインではデータは全てサーバで管理している。モンスターが出現した時には、既にサーバのデータベースには出現した(・・)と記録されており、その事実を塗り替えることは不可能だ。

 なのでこれは、必然としてレアの出現率が高くなっていると考えるしかない。だが、そんな要因がここにあるのかというと……。


「……ひょっとして」

「ん? カズキ、どうかした?」


 ゆきを見た時、ふと気になることが脳裏をよぎる。これは一つの可能性だが、状況的に見て納得できる答えにたどりつくかもしれない。


「ちょっとゆき、いいか?」

「うん、いいけど」

「あっ……」


 返事をまたずしてゆきの手を掴む。それを見たミズキが何かに気付いたのか、あわてて俺の服をつかんだ。まあ、いいか。ともあれ即ログアウトをした。






「お兄ちゃん! いきなり何っ!?」

「いや、お前は勝手についてきたんだろ。なんでついてきた」

「だって、ゆきちゃんと急に二人きりで……」

「大丈夫だって。今のカズキはゲーム、というか洞窟攻略のことで頭いっぱいだから」


 よしよしとミズキをあやしながら、ゆきは軽いジト目でこっちをみる。……なんか俺が悪いみたい。


「それで? わざわざログアウトしてきたってことは、何か確認したいことでもあったの?」

「まあな。えっと、ちょっと待っててくれ」


 俺はLoUを起動しているPCとは別に、スリープ状態でスタインバイさせているPCを起動する。すぐに画面が表示されるので、LoUのデータベース確認用ツールを起動する。画面に小窓が開き、そこにIDとパスワードを入れるボックスが表示された。


「ゆき。ここにLoUやってた時のIDとパスを入れてインしてくれ。覚えているか?」

「大丈夫だよ。えっと……ここね」


 ゆきがキーボードに手を乗せたタイミングで、一応視線を画面から外す。俺が見ていても問題はないのだが、やはり生理的に他人のパス入力画面は見ないようにしているので。


「……ん、合ってたみたい。入れたと思う」

「どれ。……ああ、大丈夫だな」


 俺達のやりとりをミズキは後ろから覗き込むように見ている。まあ、あっちの世界には文字を打ち込んで操作するインターフェイスなんて存在しないもんな。


「それで、後はどうすればいいの?」

「ゆきの使ってたキャラ……この場合は“ゆき”か。そのステータスを表示して欲しい」

「わかった。えっと……あ」


 ふとゆきの手が止まりマウスカーソルも停止する。


「ん? どうかしたか?」

「ううん。なんでもないよ。うん……」


 少し寂しそうな表情をして、ゆきはキャラクター“ゆき”の表示されている枠をクリック。普通のゲームならこれでフィールドインなのだが、これはデータベース閲覧用ソフトなので情報が表示されるだけ。

 画面にゆきのステータスが表示されるのだが、ゲーム内での表示とは違い隠しパラメータや普段表示されてない小数点以下の数値も見える。


「うわぁ……“ゆき”のパラメータって、詳細はこんな風になってたんだ……」

「まあな。これを見るといろんなサイトやらで議論されてた、ステータスとの色んな因果関係もわかるんじゃないか?」

「そうだね。パラメータが小数点以下があるなら、成長やダメージの補正やブレの数値にも色々説明が付くね」


 久々にみたマイキャラのステータスが嬉しいのか、食い入るように見るゆきのよこから画面を見る。そこに表示されているステータスは、かなり熟知した特化型のアサシンだった。中でも──


「やはり幸運(ラック)値が飛びぬけて高いな。クリティカル特化型のアサシンか」

「うん、そうだよ。必要な速度(スピード)筋力(パワー)を割り振って、残りは全て幸運に振るくらいの感じで仕上げてたからね」

「防御やHPは防具や装備品まかせか」

「そうそう。だから結構いい防具とか装備してたよ」


 戦闘に置いて幸運値は、攻撃のクリティカル発生に関わってくる。幸運値が高いと、それだけクリティカルが発生しやすくなり、算出結果がある一定値以上になるとほぼ全部がクリティカルとなる事も。そうなった場合、攻撃ヒットエフェクトが派手になり、周りからも喝采されるのがLoUではよくある光景だった。

 ただ、戦闘において幸運値の恩恵はもう一つあった。これは一応“隠し要素”として公表はしてなかったが、実際に遊んでいたプレイヤーたちには公然の事実と認知されていた。それは“ダメージ無効化”である。極まれにモンスターの攻撃を受けた際、キラキラとエフェクトが出てダメージが入らない場合がある。この現象自体はどんなプレイヤーでも見た事があるが、これに幸運値が関わっていることは最後まで公表されなかった。これも幸運値が高いほど発生確率は上昇するが、さすがにクリティカルのようにほぼ毎回発生するほどには至らなかった。


 ──そして。

 主に戦闘に置いて効果を発揮する幸運値だが、実際のところ色々な部分で影響を与えている。

 今回のレアモンスターのエンカウント率の高さは、ずばりゆきの幸運値にあると見ていいだろう。無論このLoUの“ゆき”と、今興味津々でステータスを見てるゆきは別の存在だ。

 だが、以前ゆきがセカンドキャラである侍のスキルを使用した。当初はLoUでの経験があったから、スキルの存在を知っていたのだと考えていた。無論、それもあるだろう。だが今となっては、ゆきには“ゆき”だけじゃなく、そのセカンドキャラの能力なども内包されているのではないかと思えた。ならば、より今のゆきに近い“ゆき”のステータスが影響していたも不思議はない。


 おそらくゆきは、常にレアモンスターやレアアイテムを惹きつけ易いという特性があるのだ。

 その推論を二人に話すと、


「じゃあ私って、歩くレア探知機ってこと? やった!」

「よし、ゆきちゃん。もうさっさと家に引っ越してきなさい」

「えぇー、ミズキちゃん現金すぎる!」

「あはは、ごめんごめん」


 楽しそうにはしゃぐ二人を見ながら、PCを再びスタンバイ状態に戻そうとしてステータス画面を閉じる。そこに見えたのはゆきがLoU時代に浸かっていたキャラ名の並び。

 一番上に“ゆき”とあり、二番目に“雪光”とあった。これがセカンドの侍キャラか。

 まあ、あまりジロジロ見ているのも失礼だなと閉じてPCをスタンバイにしてモニタ電源を落とす。


「よし、それじゃあ戻ろうか」

「うん」

「了解」


 よし、それじゃあログインして洞窟探索の再開だ。あと少し進んだら、残りは最下層だけだな。

 ……あれ?

 そういえば最下層のネイビーアンタレスも、確か……。



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