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132.そして、神速と絶技の競演武

 あの後、再びレジストの街散策を堪能した俺達は、日が暮れる頃合で宿に戻った。

 この街の宿屋はどこも料理が上手いと聞いていたが、俺達が泊まる宿もそれに漏れず上手かった。パエリアの様なライスの上に、これまたカレーのようなものがかかったものだったが、カレーというよりもとろっとした煮込み料理のようで、たびの醍醐味は料理だなぁなどと呟いてしまった。

 食事を終えてのんびりした時間の中、なんとなく昼間の事が話題となった。


「ねえミズキちゃん。ぶっちゃけミズキちゃんって、どのくらいの動体視力があるの?」

「どれくらいって……どうなのお兄ちゃん」

「何で俺に聞くんだよ」


 とは言いながらも、折角なので説明することにした。二人には既にミズキが特別な存在で、普通ではありえないステータスを保有していることも知っている。まあ、その仕組みに関してはゲームの実動プログラム知識が必要なので、かいつまんで話しているけど。


「実際のところ、ミズキは視力を含め全身の性能がずば抜けている。こっちの世界の人間がまともにやりあったら、勝敗の前に触れることが出来たら凄いってレベルのステータスだしな」

「ええ……何それ、純粋培養チートキャラって事?」

「言い方はどうかと思うが、まあそんな感じだ」

「……よくわかんないけど、今のって多分私褒められてないよね?」


 むーっと睨みながらも、ミズキの文句は続く。


「それに私は強いみたいな事、お兄ちゃんはよく言うけど……私お兄ちゃんに勝ったことないよ?」

「そりゃまあ、な」


 腐ってもミズキにとって俺は創造主だ。その仕組みに関しては一番理解している。……と言いたいところだが、正直ミズキの成長には驚いている。もし本気で組み合ったら、そろそろ負けそうだとも思ってる。

 それは仕方ないのだろうが、ちょいと恥ずかしい。そう思って話題を変えることにした。


「そういえばミズキとゆきって、組手とかやったことあるのか?」

「んー……無い、よね?」

「だね。やっぱり居住地が離れてるから、気軽に手合せとかしないもん」

「……だね」

「……うん」

「…………」

「…………」


 何の気なしにふった話題だったが、思う所があったのか二人が互いを見て黙り込む。どうしたのかなと思って、聞こうとした時。


「ちょっと、興味あるかな」

「奇遇だね。私も同感」


 そう言うと立ち上がる二人。そしてこちらを見る。……まさか。


「お兄ちゃん。ゆきちゃんと試合がしたい」

「カズキ。ミズキちゃんと手合せを願います」


 ……やっぱりか。

 でも正直な所、俺も興味あったんだけどね。言いだしっぺだし。




 こうして、やってきたのはレジストの冒険者ギルド。建物外観はやはり国風にあわせているが、内部の作りなどはどこもよく似ている。彩和の冒険者組合もそんな傾向だった気がする。

 中へ入り、とりあえず闘技場を借りる手続きをと思い、受付の方へ行こうとしたとき。


「おお、昼間の方々ではないか」

「ん?」


 声をかけられたので、そちらの方に視線を向ける。そこにいたのは、


「昼間は感服しました。私はジンライといいます」


 昼間のこともありバトルマスターとは名乗らず、おそらく本名であろう名前を告げ丁寧にお辞儀をしてきた。……お辞儀? それに名前からして……


「彩和の方ですか?」

「おお、わかりますか。そちらもお連れの方が彩和の方がそうですかな」

「はい。ゆきといいます」


 同郷の者ということで、ゆきも両手を前にして丁寧に礼をする。

 話をきけばジンライさんはここの冒険者ギルドの所属で、彩和の人間ではあるがもう何年もここレジストで生活しているとか。

 なら色々と聞きやすいと思い、ここの闘技場を試合で使いたいと話してみた。ミズキとゆきの試合をしたいのだと告げると、それは面白そうだと自ら率先して受付へ話をつけにいってくれた。

 こうして思い付きだったミズキとゆきの試合は、とんとん拍子に準備が進んでいった。




「……ゆき殿と言ったか。あちらもかなりの腕前とおもうのだが」

「わかりますか?」


 たしかにゆきも結構……いや、かなり強い。キャラとしても強いのだが、俺と同じようにLoUでの戦術応用がきくのは、特別な強みだ。まあ、今回の試合ではトラップ系アイテムなどは不可なので、そういった部分で抜きんでることはないけど。


「彼女の帯刀を見れば、あれがどういう戦いをする者の構えなのかわかります。昼間はミズキ殿と手合せいただいたが、あれがゆき殿であっても同じ結果になっていたでしょう」


 悔しいと言うよりも、楽しげな目を二人にむけるジンライさん。純粋に強いってことに憧れているのだろう。


「それでは両者、前へ」


 試合開始の合図をするのは、ジンライさんと一緒にいてアナウンサーをしていた人だ。名前をカゼミツさんといい、こちらも彩和出身らしい。ジンライさんとは昔馴染みの古い仲間だとか。

 カゼミツさんの声で、二人が闘技場中央で相対する。二人とも笑顔を浮かべているが、既にやる気十分なのはつたわってくる。


「ゆきちゃん。久しぶりに本気を出せそうだから、手加減しないよ」

「そうだね。こっちも全力で行かせてもらうよミズキちゃん」


 楽しそうな顔とは別に、本気の想いを乗せた言葉を口にする。そして──


「はじめッ!」


 カゼミツさんの開始の声が響く。そしてすぐにカゼミツさんは後方へ下がり、闘技場の壁外まで退避した。事前に俺がそうしてくれと言っておいたからだ。昼間のミズキの強さを見ているので、俺の進言に素直に従ってくれた。

 だが、そんなカゼミツさんとは対照的に、二人は構えただけでその場を動かない。

 両者とも刃を落とした訓練用の武器を手にしている。ミズキは片手剣、ゆきは短剣を2本。


 いつまでこの緊張が続くのか……と思った瞬間、動いた。

 時間にして瞬きをするだけの、文字通り“瞬く間”にミズキがゆきに肉薄した。ゆきが(まばた)きをする一瞬に生まれる“生物が絶対に持つ隙”をついたのだ。この方法で接近されると相手は何もできずに負ける。ミズキの得意な戦法だ。


 ──だが。

 肉薄して振ったミズキの攻撃は空を切った。そこにゆきはいなく、脇をぬけて振りぬいた手へ逆に斬撃をくわえようとして……離れた。


「なっ……速い……!」


 横でみてたジンライさんが声を漏らす。かろうじて、肉薄し一瞬の攻防が展開されたことが見えたのだろう。おそらくジンライさん以外の人には、超スピードで走り寄ったミズキと、それから離脱したゆきとしか見えてないだろう。

 離脱したゆきの立ち位置は、先程ミズキがいた場所にほぼ近い場所だ。ひょっとしたらミズキとゆきが、一瞬で入れ替わったように見えた人もいるかもしれない。


「あの二人はいったい……。ミズキ殿の速さははやり驚いたが、ゆき殿のあの動き……」


 純粋な速さならミズキに軍配があがる。あの速度は文句なしに特別だ。だが、その速度を出せるだけの動作をする場合は、どうしても単調になる。複雑な動作を織り交ぜると、その速度を出すための負荷が何倍にも膨れ上がる。

 対してゆきの動き。速度では劣るも、LoUでの知識とこの世界で十数年重ねた努力の日々は、当然実を結んで力となっている。先程のミズキの攻撃をかわしたのも、これまでの経験則が大きい。ミズキが来るタイミングと、狙ってくるであろう自分の隙、そして空気や筋肉のわずかな揺れを見て、一瞬後どこに何がくるのかを理解して避けた。


「……うん、二人とも互角ってところだな」

「互角ですか。カズキ殿は、お二人のどちらが勝たれると思いますか?」


 ジンライさんの質問に、俺は少しだけ考えようとして……うん、その必要はないか。


「そうですね。俺は──」


 俺は、二人のうち片方の名前を告げる。それは……。



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