131.それは、一瞬の光の矢の如く
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現実世界での軽い息抜き&買い物を済ませた後、ログインしてレジスト共和国へ戻ってきた。今度はミズキも同行しているので、それに関しては初訪問だな。
気持ち的に今日は、もうダンジョン等にもぐる区分ではないので、街をのんびりと観光してみようかという運びとなった。
さき程まで向こうの世界を観光したばかりなので、こちらの観光はどうなんだろう……と思ったのだが、意外や実際見て回っていると二人ともとても楽しそうにしている。
要するに雰囲気効果が高いのだろう。知らない国の知らない街というだけで、そこに不思議な高揚感が芽生えてくるのだ。あと、お祭りの屋台と同じ効果もあるかもしれない。屋台ってのは基本同じようなものがそろっており、たこ焼きだヤキソバだと定番でありながら、非常に人気が高い。そういったありふれたものでありながら、そこにあるという事で意味や価値が出る店ってのもあるのだろう。
今度は定番のアクセサリー露店に見入ってるようだ。……よし。
「二人とも。なにか気に入ったのあったら買ってあげるよ」
「いいの?」
「これくらいならいいよ。すきなの選びな」
「やった! それじゃあね……」
瞳の輝きを一段上げて並ぶアクセサリーを見る二人。そんなやりとりを見て、露店の店主は微笑ましそうにこっちを見てくる。はは、ちょっと恥かしいかも。
二人はじっくりと吟味した結果、二人ともヘアピンにしたようだ。ミズキは赤い石がついたヤツで、ゆきの方は青い石がついている。この石は微量の魔力があり、付けた人の意思で簡単に取れないようになるらしい。冒険者がお洒落をするため用に、少々動き回っても大丈夫な仕様だとか。
一応二人にこれでいいのか聞いてみた。最初は指輪とかを熱心にみてた気がしたけど。
「だって、指輪は後でもっとすごいのもらえるから。ねえゆきちゃん」
「そうそう! 私たち全員分、がんばってね!」
そんな切り替えしをくらった。まあ、言われるかもって気持ちが少々あったけどね。先のデパートではジュエリーコーナーの前を避けて歩いたんだけど、今回はうっかりしてたな。
そんなやりとりをニヤニヤした店主の「まいどありぃ~」という声に見送られて、次の観光へと足を進めたのだった。
「ん? あれは何かな?」
「なんだろう。人だかりが出来てるけど……何かの見世物かな」
近付くにつれ罵声や声援が飛び交うような空気になってきた。どうやら闘技ショーのようなものをやっているようだ。剣を模した木を手にした男が、闘技区画内で相手を翻弄していいる。
すばやく立ち回り的確な攻撃をあてながらも、相手の攻撃は一切受けず交わしている。しだいに動きが鈍ってきた相手の肩当に強力な一撃を落とす。
「ぐあっ……ま、まいった!」
「そこまで! バトルマスターの勝利ーッ!」
その声に周りの観衆からもわぁっと声があがる。どうやらこの催しはレジストでは恒例で、観客も楽しみな娯楽としてみているようだ。
「さあ、次の挑戦者はいませんか~!」
付き人兼アナウスをしているらしい男性が、次の対戦相手を呼び込む。たしかに先ほどの動きを見るだけで、十分な戦闘技術があるなというのは理解できた。でも……
「バトルマスター、ですか」
「大きく出た名前ね。確かにそこそこ強そうだけど」
ゆきとミズキがその名前に反応する。まあ、俺も少しはそんな気分になったけど、あまりそういう事を口にするもんじゃないぞ。そう思ったのだが。
「そこのお嬢さん。バトルマスターを見てそこそこ強そうとは、随分と腕に自信がおありと見た」
「へ? 私?」
突然声をかけられて驚くミズキ。まさか呟くように漏らした声が、聞こえているとは思わなかったのだろう。
「そうです、貴女です。見たところ冒険者のようですが……どうです? 挑戦しますか?」
バトルマスターと呼ばれた男も、ミズキを見る。そして手にした木剣を振り、かかってこいとのアピールをする。それを見て、ミズキが俺の方を見た。決定は俺にゆだねるということか。
「いいぞ、行って来い」
「うん!」
返事をするや否や、その場から跳躍して一気に場の中央へ降り立つ。とたん、周囲の観客からわれんばかりの大歓声が飛び交う。その声に笑顔で両手をふって返事をするミズキ。
そんなミズキをみて、バトルマスターが声をかける。
「はじめまして。私はバトルマスターといいます。お名前を伺っても?」
「ミズキです。よろしくお願いします」
そう挨拶をしてペコリと頭をさげる。その様子に、笑みを浮かべるバトルマスター。バカにした笑みではなく、普通に楽しそうな笑みだ。
「随分と肝が据わっているお嬢さん……だッ」
言葉を言い切ると同時に、一瞬で間合いをつめて木剣を振る。流れるような剣の動きは、ミズキの顔の前でピタリと寸止めでとまる。
一瞬の静寂。──そして大歓声。
無言でバトルマスターが剣を引き、もとの位置へ戻る。その様子をみてアナウンサーが声をかける。
「今のでバトルマスターの実力がわかったかな? さあ、どうします? 挑戦しますか?」
「んー……挑戦してもいいけど……」
「どうします? やっぱり辞退しま……」
「やめろ」
アナウンサーの言葉をバトルマスターが遮った。怪訝そうな顔をむけるアナウンサーへ、バトルマスターは神妙な声をかける。
「この子……いや、ミズキ殿は強い」
「え? でも、さっきのバトルマスターの攻撃に全く反応してなかったじゃないですか」
アナウンサーの疑問の声に、周囲の観客もうなずく。そうか、あの場を理解できたのは俺達以外には、あのバトルマスターって人だけか。
「先ほどの俺の一撃。ミズキ殿は最初から最後までしっかりと見ていた。俺が試しにと寸止めすることを含めて、全部だ」
「なっ……!?」
驚くも、半信半疑という表情を浮かべる。とはえい、そこにいる誰もがバトルマスターがそんな冗談を言うとは思っていないのか、先ほどの盛り上がりから一転、静かな空気が漂っていた。
それを崩したのは、やはりバトルマスターだった。
「ミズキ殿。まずは失礼な不意打ちを謝罪したい」
「いいよ。あれくらいなら、不意でもなんでもないから」
ミズキの言葉に観客から、まったく違うざわめきが漏れる。まるでミズキの言った言葉が、意味がわかるけど意味がわからん! とでも叫ぶような、そんな困惑の空気だ。
「先ほどのが“あれくらい”ですか……。まいりましたね、これは届きそうもないかも」
バトルマスターの方は困惑しながらも、嬉しそうな声色が発音に混じっている。
「ならば……こちらの木刀を使わせていただきます」
そう言って取り出したのは──
「あ、あれは……」
「知っているのかゆき!」
「いやいや、カズキが知らないわけないでしょ。あと、そのネタするのね」
「一度言ってみたかったセリフの上位だかからな」
などとバカ話をする視線の先、バトルマスターが取り出したのは木の鞘に納まった刀だ。一度抜いて、その中身が木刀であることを見せると、もう一度鞘に納めた。
「……本気で、相手いたす」
収刀した木刀を腰に構え、腰をおとす。左手で鞘を持ち、右手はすぐに柄を握れる場所。
間違いない、抜刀術だ。
「速さで勝てないと判断したから、後の先をとる抜刀術にかけたのね」
「そうだな。だが──」
構えた相手をみすえ、ミズキが木剣を構える。
「──行きます」
呟くと同時にミズキが踏み出し──同時に──男は崩れるように倒れた。……何もできずに。
「──だが、抜刀術は“抜刀”できなければ意味が無い」
男の後方へ駆け抜けたミズキが振り返り、木剣を高く掲げる。
「勝利!」
一拍おくれて、今日一番の大歓声がミズキを取り囲んだ。




