128.それは、ありえない筈の必然で
俺は今、冒険者ギルドの一室にいる。ここは気密性が高く、内密な話や特別な来賓があるときなんかに使うらしい。らしい、というのは俺は今迄つかったことないからだ。
ではなぜ、俺は今回よばれているのか。それは──
「ねえ、カズキくん。どうやってこの魔輝石を手に入れたの?」
……こういう理由なんだろうな。
ユリナさんの様子から、どうもこの魔輝石ってのはとても貴重なものらしい。以前、浄化の魔石で色々話した時も結構貴重だと話していたが、今回はその比じゃないほどのようだ。
「どうって……普通に討伐したらドロップしたんですけど」
俺の言葉に、驚きと困惑の顔をするユリナさん。そんな顔されても、本当にソレだけだし。
「あ。正確にはサンドワームを仕留めたのはゆきですよ」
「ゆきさんって、さっき一緒にいた子よね」
「はい。今はミズキたちとあっちでしゃべってますけど」
「わかったわ! ちょっとカズキくんは待っててね」
そう言うとパッと立ち上がってあっという間に部屋を出て行ってしまった。会話の流れ的にゆきを呼びにいったのだろうが、なんとも行動力あふれる人だ。
しかたないのでソファに座って待つことにした。少しするとドアの向こうから足音が複数聞こえてきた。どうやらゆきを連れてきたようだ。
「お待たせカズキくん」
「カズキ、なんか私も呼ばれたんで来たけど……」
「お兄ちゃん、なんかやったの?」
「何もしてないよ」
……何故かミズキも居た。しかもいきなり失礼なこと言ってるし。
戻ってきたユリナさんが向かいにすわり、ゆきとミズキがそれぞれ俺を挟むようにして座る。なんかおれ、捕まった人みたい。何もしてないけど。
「それじゃあ、改めて聞くけど……どうやってこの魔輝石を入手したの?」
「その前に一ついいですか?」
「ええ、何かしら?」
「その……魔輝石ってなんですか?」
そう、魔輝石。これって何だろうか。名前からして魔石の上位アイテムっぽいんだけど、何が違うのか知らないんだよな。さっきの反応からしてユリナさんは知ってるっぽいけど。
「……ふっ。なるほど、そういう事ね。魔輝石を知らないから、そんなにも落ち着いてのね」
何故か納得顔をされた。なんだろう、こっちの世界じゃ普通に知ってるものなのかな。
「そうね。普通に冒険者してても、目にする機会が無いのが大半よね。ミズキちゃんや、そちらの……ゆきさんですね。二人も知らないのかな?」
「うん、知らないかな」
「はい。私も知りません」
「わかったわ。まず魔輝石の説明をするわね。これは──」
ユリナさんの話では、魔輝石はやはり魔石の上位アイテムだった。ただし、単純に上位アイテムと呼ぶにはあまりにも性能も希少性も差があるシロモノとのこと。
特に希少性価値は高く、有用な魔輝石一つで国が傾く、下手すれば滅ぶほどの金が動くとか。ちなみに、この『分解の魔輝石』は過去に例がなく、文字通り値が付けられないものだとか。
では何故、この魔輝石がこんなにも貴重なのか。それは、入手するための手間がおそろしくかかる上、それでいて入手保障がないから……らしい。
入手の手間がかかる理由は、この魔輝石がどうやって出来るものかが関係してくる。
まず魔輝石をもっているであろうと目されるモンスター、それは『特変種』と呼ばれるモンスターであること。これが第一だとか。
『特変種』は正確には『特殊状態変異種』というらしく、いれゆるMMOとかで言うところのレアモンスターの中でも特殊なヤツらしい。通常種のステータスが変化して、特性が異なるものを一般的に亜種とか変種と呼ぶらしいが、それより更に変異したものが特変種らしい。
特変種は俺が予測したとおり、その特性などが通常種と反転していたり、大幅に強化されて別モノ近い存在になっていたりするとか。
その為、通常種を狩り目的としたパーティーでは、たとえ出会えてもまったく歯が立たずに涙を呑んだという報告が山ほどあると。それならば装備を整えた討伐パーティーならばどうだ……という話なりそうだが、ここで奇妙な現象が発生する。何故か少人数パーティーでないと、変異種は姿を見せないらしいという報告が上がってきているのだ。つまり、余計な装備を充実できない小規模パーティーは変異種との遭遇可能性があるが、十分な装備を用意可能な大規模パーティーはまず変異種と遭遇出来ないらしい。
ならば……と、小規模パーティーを多数用意して、密な連絡をとってやればどうかという案も出たそうだが、結果として大規模パーティと同じとなったとの事。俺達も、二人だったからこそ出会えたのかもしれない。
おまけに、小規模パーティーで遭遇した時、腕のいい冒険者がいたとしても、この変異種自体が相当に手ごわいらしい。実際のところ、あそこで【フリーズトラップ】を使わなかったら、ゆきの攻撃はまともに入らず苦戦していただろう。最悪、討伐できずに逃がしたかもしれない。
そんなサンドワームに絶大な効果を発揮した【フリーズトラップ】だが、やはりこっちの世界には同等のトラップアイテムは存在しなかった。概念道具というか理念武装とでもいうか、現実側で『こういう動作をします』と位置付けた理論法則無視アイテムは、こっちには存在しないのだ。
そんな強力なモンスターだが、中には小規模パーティーでも討伐する者がいる。ならばその者達ならば確実に魔輝石を入手できるのか? その答えは『ノー』だ。
魔輝石が魔石と違う部分、それは石に込められている力の純度の差。
魔輝石を内包した変異種は、日々力を魔輝石に溜めており、冒険者との戦闘などでそれを激しく消費する。そのため、変異種は自身の中にある魔輝石を、攻撃する力の蓄積器として運用しているのだ。そして、戦闘に時間をかければかけるほど、その力を消費してしまい、ついには魔輝石は魔石と同等にまで浪費されてしまうこともある。
つまり魔輝石を入手するには、それを保持した変異種とエンカウントし、その内部に蓄積された魔輝石の力を引き出される前に、的確な方法で素早く討伐しなければいけない。
そして、この世界の者たちにはそれを実現できるだけの力が不足している。
故に、魔輝石の供給がさっぱりとなり、有用性から希少価値ばかり出てしまうとの事。
「──要するに、カズキくんたちは『普通じゃ出来ない』と思われる事をしてきた、というわけね」
呆れた声を出しながらも聞いてくるユリナさん。
冒険者ギルドの受付ならいろんな人も見てきただろうが、どうやら規格外らしい。LoUだと持ち運びアイテム制限とかかなり緩いから、初見モンスター相手にトラップ連発とか普通なんだが、この世界でそんな戦い方してたら速攻破産なんだろう。
俺達をしばし見つめ、はぁーと深いため息をついた後ユリナさんが口を開く。
「とりあえず、魔輝石を入手した事なんかは、周りの人たちには話さないようにすること。面倒な厄介事やら何やらがおきないとも限らないわ」
「わかった、そうするよ」
助言を素直に受け入れた俺に、少しつかれたような笑顔をみせるユリナさん。なんだろう、いらん心配かけちゃったかな。
「それにしても、どうして『分解の魔石』を取りにいったの? しかも結果として魔輝石で入手してるし。どっかの国の問題とかに首つっこんだりしてないでしょうね?」
そういて俺達を見るユリナさん。微妙に質問が、真実をこすってるあたり流石だ。
「まあ、首をつっこむというよりも、俺の為というか……ははは」
「何をしてるのよ。ミズキちゃん、カズキくんは何をしてるの?」
「んー……それはその……」
困り顔で俺を見るミズキ。
まあ、ユリナさんには今後もこういった感じで世話になるし、話しちゃってもいいか。
「……ユリナさん。内緒の話としてくれますか?」
「いいわよ。職業柄、そういう事も多いから」
「実はですね、近いうちにこことミスフェアの間に、中継の新領地が出来る話は知ってるます?」
「ええ、知ってるわ。といっても多分まだ公になってない話で、ギルドでもギルマスの他には数人しか知らない話だけど……なんでカズキくん知ってるの?」
「実はですね、その新領地の領主なんですが……俺なんです」
「……何が?」
「新領地の領主が」
「誰に?」
「俺に」
「…………」
「…………」
俺の発言を聞いて、しばし考え込むユリナさん。なんだろう、信じてもらえてないのかな?
俯いて考えているので、その表情は伺いしれない。ミズキが横へいってそっとユリナさんの顔を窺う。
「──お兄ちゃん」
「どうした?」
「ユリナさん、気絶してるよ」
ベタだ! あまりにもベタすぎる!




