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127.そして、輝きが追加されてました

 ゆきの声と共に発動したトラップは、瞬時に地表を氷結絨毯へと変化させる。

 頭部でゆきを押しつぶそうとしたサンドワームは、そのトラップ展開を裂ける術はなく、自ら体当たりをするように体を押し付けてしまった。

 そして──変化はすぐに現れた。

 先程まで、地中であろうと何の抵抗も感じさせず縦横無尽に移動していたサンドワームだが、突如動きが鈍く……というか、ほとんど動かないほどの状態になった。


「これって……もしかして、もの凄く効いてる?」

「……多分」


 ワーム系モンスターは知性などはなく、基本的に本能で活動するタイプだ。なのでこの鈍った動きがフェイクだなんてことは無いだろう。


「それなら!」


 勝機を得たりといわんばかりに、ゆきはサンドワームに刀を振るった。動きが鈍いとはいえ、その太い図体は当然簡単に切り落とせるものではない。だが、そんな事はお構いなしに瞬時に数ヶ所に刀による切り傷をつける。よく見ると切り傷に何か仕込んでいるようだ。

 何ヶ所か刀傷をつけると、もう一つトラップを取り出す。


「【ファイヤートラップ】」


 サンドワームの足止めをしているフリーズトラップを上書きするように、ファイヤートラップを発動させた。

 その瞬間──サンドワームの体のあちこちから、激しい爆発が起こった。

 ゆきが刀傷に仕込んでいたのは、爆発力の高い火薬……粉末爆弾だ。サンドワームの表面を氷結化させることにより、行動力を抑えるのは無論だが、同時に表面の柔軟性を奪い刀による斬撃の効果アップも兼ねていた。そして、そこに粉末爆弾をしこみ、最後に炎で一気に爆発させたというわけだ。

 対処法がわかれば、なんてことはない。ちょっとだけ図体のでかいワームだ。

 こうしてサンドワーム討伐は、思いのほかあっけなく完遂した。




「……それで。どうやって弱点を調べたの?」

「どうって、普通に考えただけだぞ」

「どういうこと?」


 聞かれるかなぁとは思っていたが、当然のように質問された。まあ、別段ごまかすようなことでもないので、その種明かしをする。


「まず、あのサンドワームはLoUの物とは別物だという認識はいいよな。となると、いわゆる亜種とか変異体とか、そういった類の物だと区分けするのは、MMOとかじゃよくある事だよな」


 俺の言葉にうんと頷く。まあ、この辺りの認識は多かれ少なかれ似通ったものだ。


「そうなった場合の特徴だが、運営側視点から大きく2パターンに分かれるのが普通だ。まず1つ目は、通常種とほぼ同じ系統で各種ステータスがそのまま強化されているパターン。要するにアースワームの図体がでかくて、各ステータス数値が強化されてるだけという場合だ。この場合、多少手間が増えるが討伐方法は基本的に変わらない」


 無言で肯定するゆき。ここまでは理解しているよ、という意思表示だ。話を続けよう。


「それに対して2つ目は、各種の弱点属性などを反属性に変化させている場合。その場合、通常種に行った手段は無効化され、討伐手段が一気に不明瞭となる。その実、単純に弱点が反転しているようなものだが、通常種との戦闘で半ば思考停止ぎみに討伐していると、そういった発想すら出てこない場合が多い。この世界の冒険者は、基本としてワーム種は炎で焼くという方針なのだろう。俺達の様に使用者にダメージが返ってこないトラップは持ってなだろうし、そもそも設置型トラップの種類も少なく性能も低いようだ」

「……そういえば、私はLoUのおかげで【フリーズトラップ】を普通に使ったけど、こっちでは見た事なかった気がするかも」

「おそらくこちらの【ファイヤートラップ】も、俺が使うやつより数段性能が落ちるだろう。言い方は悪いが俺が持ってるヤツは『こういう効果を発動する』という概念が、物理方式を無視して具現化したチートアイテムだからな」

「そんなチートアイテムで傷つかないのなら、モンスターの設計概念より弱点反転している……と推測して、【フリーズトラップ】を寄こした、ってこと?」

「そういうことだ」


 簡単に言えばゲームなんかでよくある、モンスターの使い回しでの差別化手法の基本だ。色を変化させたり、サイズを変えたり。そこに亜種だ希少種だという区分けをあたえ、攻撃属性や有効属性を変化させるとか。この世界でもその法則が成り立っているなら、素直に炎の逆で氷では……という事だ。

 目の前に横たわる大きなワームの死骸を見る。まあ、いくら大きくても問題ないんだけど。


「【解体魔法(アナライズ)】」


 解体特化の特殊魔法で、あっさりと部位を解体。ゆきは「何ソレずるい」とか言ってるけど、まあこればっかりは仕方ない。俺以外にも使えるようにすると、ちょっと世界への影響度合いが怖いからな。

 解体されて素材別になった死骸の中に、輝く石があるのが見えた。どうやら無事のようだけど、傷付いたりとかしてないかな。

 覆いかぶさっている皮などの素材をどかす。そこにはサンドワームとは異なり、白色の魔石があった。素体が大きかったせいか、魔石もそこそこの大きさだ。ただ……


「なんかこの魔石、随分と綺麗な感じしないか?」

「そうだね。なんか石自体が輝いてるというか……」


 ここにあるから、間違いなくサンドワームから出た魔石だとは思うが、どうにもあのワームから出たにしては綺麗に感じて違和感があった。


「とりあえず収納してみるか。俺のストレージなら、収納した時点で名前を視野確認できる」


 両手でしっかりと抱えようとすると、思いのほか軽いのに驚く。とりあえずそのまま収納して、ストレージを開いてみる。そこには。


  『分解の魔輝石』x1


 という文字が見える。……魔()石?


「どうだった? ちゃんと目的の魔石だった?」

「そうだと思うんだけど……なんか、『分解の魔輝石』って名前になってる?」

「まこうせき?」

「そう。魔石じゃなくて、魔の輝く石と書いて魔輝石」

「そんなアイテムあったっけ?」

「いいや。俺も知らないから、これもこの世界特有のものなんだろうな」


 とはいえ、俺もゲーム開発をして世界設定などを考えた者だ。だからこそ、この流れである程度の予測はたてられる。一番の有力説は、魔石の上位アイテムだろうな。実際この魔輝石、魔石にくらべてかなりの力を秘めているように感じる。だとすれば、本当に目的は達成できたということだが、できればちゃんと知ってる人に話を聞きたいものだ。となると……


「とりあえず王都の冒険者ギルドで聞いてみるか」

「え? 今から行くの?」

「ああ。ここにポータルを設置して跳べばいい。その後はまた戻ってきてもいいし、ここじゃなく宿に行ってもいい」

「……なんか、旅情とかそういうのが微塵も感じられないね」


 転移使いまくりでの冒険ってのは、実際はこんなものなんだろうけど。ゲームではあたりまえのように跳びまくってたが、この世界の人からしてみたら十分無茶苦茶だよな。


「まあ、とりあえず確認だけしてこようか。その後はまた考えればいい」

「そうだね。もしかして、誰か来れるようになってるかもしれないし」


 という流れで、俺達は確認目的で一旦王都へ戻った。




 そして普通に冒険者ギルド。

 中に入り、例の如く物知りユリナさんに聞いてみようかなー……と思っていた時。


「あっ!? お兄ちゃんとゆきちゃん!」

「ん?」

「あ! ミズキちゃん!」


 声のした方を見るとミズキがいた。一緒に数人の冒険者がいるが、皆同じくらいの年代の女の子だ。どうやら冒険者仲間であり、同性友達というやつだろう。


「ゆきちゃーん、こっちこっちー!」


 手をぶんぶん振って招くミズキを見て、ゆきも行きたそうにしている。うん、いいんじゃないかな。


「いいよ。少し魔輝石の話を聞いてくるだけだから」

「わかった。こんちはー!」


 手を振り返しながらミズキたちの方へ歩いて行くゆき。元々賑やかしいのがさらに華やかになった感じだ。それを見て俺は受付の方へ向かう。……本当に、いつもいるんだなユリナさんは。


「……こんにちは、ユリナさん」

「今、いつまで受け付けしてるんだこの行き遅れ、とか思ったでしょ」

「…………まさかまさか」


 思ってないよ、タブン。


「ふんだ。いいわねカズキくんは。色々聞いてるわよ、何人かの女の子を娶る約束してるとか。さっきの子もその一人なんでしょ」

「えっと、今日は聞きたいことがあって来たんだけど……」

「はいはい。どうせ私には仕事しかこないのよ」


 やさぐれてんなぁー……。でもまあ、そのお仕事をしてもらうことが、こっちにとって大事なんだから仕方ないです。


「実は、ちょっと魔石関係でお聞きしたいことがありまして……」

「何かしら? ……は!? まさか、もう『分解の魔石』を入手してきたの?」


 ユリナさんが声をひそめる。彼女曰く『分解の魔石』は貴重なので、それに配慮しての事なのだろう。


「いえ、『分解の魔石』は手に入らなかったのですが」

「まあそうよね。そう簡単に入手できたら誰も苦労しない……」

「『分解の魔輝石』を入手しました。魔輝石ってなんですか?」

「………………」


 俺が質問をした瞬間、ユリナさんがだんまりになる。アレ、なんかおかしい事言ったかな。

 だが、次の瞬間。


「~~~~ッ!? ッ!! ッ!?」


 思わず漏れそうになる声を抑えたのか、あわてて口を両手でふさぎながら目を見開いて、俺を見るユリナさんがそこにいた。

 いや、いくら婚期危うしって年頃でも、女性がそんな顔しちゃダメですよ。



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