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126.それは、定番と意外性の定義

「それじゃあ予定を変更して……というか、本来の目的である『分解の魔石』を入手するため、サンドワーム討伐ということでOK?」

「うん、いいよ」


 レジスト共和国の西口をでた先にある砂地にあるピラミッド。そこから一つ西隣のエリアは、一面広大な砂漠になっている。これをずっと西に向かっていくと、途中砂漠では貴重な川が流れており、そこを更に西へ向かうと砂漠洞窟への入り口がある。

 今回は二つのダンジョンの間にある砂漠フィールド、ここでサンドワーム討伐ということだ。


「でも、サンドアームってアレだよね。そんなに大変なことなの?」

「ん? ……ああ、そうか。ゆきもLoUプレイヤーだったから勘違いしてるんだな」

「勘違い?」

「ああ。俺達がLoUで見たサンドワームは、この世界じゃアースワームって呼ばれてるんだ。見た目や性質はLoUのサンドワームと同じらしいが、俺が倒したいのはソレじゃない。アースワームの上位種で、しかもレアモンスターってのがサンドワームというらしい」


 出発前にギルドにユリナさんから聞いた話をする。ユリナさんは冒険者ギルドの受付だけあって、モンスターの特性や生態など詳しく把握している。流石に王都のギルドで受付をやってるだけはあるな。


「となると、何をどうしたらいいのかな」

「まあとりあえずは延々とアースワームを倒していくしかないだろう。これがゲームなら『何匹アースワームを倒した事によりエンカウントフラグが立った』とかあるかもしれないけど、実際問題そんなことはないだろうから」

「そっか。じゃあまずは延々と雑魚狩りだね」


 まずやれることはソレしかないだろう。サンドワームに会えるかどうかは運まかせだから。何もしてないよりはマシだという、そういった単純な理由でおれたちは隣のフィールドへ移動した。




 ピラミッドエリアの隣の砂漠。やってきた最初の印象は『とにかく広いのに何もない』だった。

 足元には砂漠特有の黄砂があり、空を見上げると舞い散る黄砂砂塵でフィルターがかったような濁り気味の空。これは宿にもどったらしっかり風呂に入って砂埃を流さないとダメだな。

 前方遠くの方は、砂塵などによって途中で視界が途切れている。まあ、この辺りの表現はシェーディングの影響だから仕方ない。

 じっとしてても仕方ないので、無作為に進み出てみる。延々とフィールドを歩いていれば、適度に端に到達するだろうから、それを繰り返して様子をすればいい。もし変に迷っても宿屋前にポータルで戻ればいいだけだ。


 そんな訳で俺達は様子見を兼ねてアースワーム狩りを始めた。

 といっても、こいつに関しては何の手間もない。LoUでいうサンドワームと同じという認識なので、普通に生息地帯の砂漠を歩いていれば、勝手に向こうから寄ってくる。だいたいモニタ版画面ほど……実距離なら数メートル以内に近づけば、こちらの歩く振動が地中に伝わり感知されるらしい。

 近寄ってくる場合、ご丁寧に鎌首をもたげるようにして寄ってくるので、そこに攻撃を当てるだけで十分だ。砂漠にいるモンスターでありながら火に弱いので、火属性で攻撃して燃やしてやればそれだけでいい。また毒耐性もないので、一度毒状態にしてやればすぐに毒ダメージ蓄積で死亡してしまう。毒状態や炎焼状態にすると、途中砂に潜っても地表にエフェクトが漏れるので見てると面白かったりする。


 実際にゆきも、毒の状態異常効果を付与した苦無(くない)を投げつけ、地中にもぐったアースワームから毒エフェクトがもやもやと出た後、断末時に地表にでてきてくてっと倒れるのを見て笑っている。時々「くすっ、ユニーク」とか呟いてるのは何かのネタかな。


 こんな感じで比較的のんびりと砂漠を横断していると、前方が少しだけ様子が違って見えてきた。おそらくはこのフィールドの境目で、川が流れているところまできたのだろう。アースワームを倒し、俺達は川の方へ行った。

 そこには砂漠の川とは思えないほど、綺麗な青く輝く川があった。LoUでも川があったけど、ここの川ってこんなにきれいな色してたのか。水辺には流れに沿うように草も生い茂っており、気温もこの川沿いだけは随分涼しく感じるほどだ。


「あ、かわいい~」

「ん? ああ、川辺の動物か」


 向かい岸では、なにやら小動物が水を飲みにやってきていた。リスみたいなウサギみたいな、おそらくはこの世界特有の生き物だと思う。こちらに気付いたようだが、別段逃げるでもなく水を飲んでその後浅瀬で水浴びをしている。うん、かわいいね。

 俺達もしばし水に手をひたしたりして、安らいだ時間を過ごした。ネトゲでいうなら、ちょっとだけ離席して余所事をしているような感じか。

 しばしの時間をすごしていると、いつしか向こうにいた動物もいなくなっていた。


「よし、じゃあ今度は戻る感じで横断していくか」

「了解だよ」


 俺達も狩りを再開する。

 この世界は経験値蓄積による成長という概念はないので、こんな風に一つのフィールドを延々めぐって経験値かせぎをするという人はまずいない。というか、そういう行動をとるという考え方が無いと思う。

 もし延々と回るとすれば、今の俺達のように何か目的のアイテム目当てということになる。ただ、その非効率さからどうしても敬遠しがちな行動なので、結果アイテム供給不足が出てくることもある。今回の目的である『分解の魔石』もその一つ。


 それにまあ、必要だからってのもあるけど、俺がこういった延々とアイテム掘りをするのが結構好きなんだよな。RPGとかでも十二分に経験値を稼いでから進むのが好きで、ヘタをするともうクリアできるほどに成長しているのに、まだ中盤にも到達してないなんて事もよくあった。


 雑談をしながら気楽に何十匹目かのアースワームを討伐した時、ふと何かを感じた。何か足元が揺れるような、そんな違和感を。


「カズキ、今……」

「ああ。もしかして……」


 そう言葉を発した瞬間、足元の揺れが強くなった。いや、これは揺れじゃない。


「離れろ!」


 思わず叫び横にとぶ。ゆきも同時に反対へ。

 間髪入れず足元の砂が盛り上がって、そこから一回り……いや、三回りは大きいワーク型モンスターが出てきた。見た目の恰好はにているが、あきらかにアースワームとは違う。


「これがもしやサンドワームか?」

「それっぽいよね。明らかに違うもん」


 思いのほか早く出てきてくれた。でも、これくらいでエンカウントするなら、そこまで魔石が希少になるだろうかという疑問もわく。こいつじゃないのかな?


「とりあえず倒してみれば早いか」

「そうね。単純だけどソレが一番かも」


 まずは普通に攻撃……と思ったのだが。思いのほか足元が不安定だ。さっきまでのアースワームはほぼゆきにまかせてたし、力を籠めて地面を蹴る必要もなかったから気付かなかった。

 一方のゆきはちゃんと把握しているのか、この路面条件でも素早く動いていた。

 ──だが、いまいち芳しくない。

 サンドワームはその見た目にそぐわず、思ったよりも俊敏に動く。一応こちらを補足しているので、常時頭部はだしているのだが、砂中にある胴体も素早く動いて捉えられない。


「それだったら……【ファイヤートラップ】」


 ゆきが地面にトラップをまいて、炎の絨毯を作り出す。アースワームが炎に弱いのだから、その上位種であるサンドワームにも有効だと考えたのだろう。先程ピラミッド内でやったように、そのトラップの中央にゆきは立ち、誘導によるダメージ付与を試みる。

 だがすぐに気付いた。予想していた効果が出ていない、と。

 サンドワームは火の絨毯の中を、まったく意に反さず自由に移動してきた。そこがもえていようがお構いなしに突進してきて、逆にゆきがトラップ範囲外にはじきだされてしまった。


「くっ! 全然燃えた形跡がない……」


 はじかれたゆきを追って、トラップ有効範囲から出てきたサンドワームには外傷はまったくない。これは予想外だった。俺もゆきも先程ピラミッドでやったトラップ連携で、簡単にカタがつくと思っていたのだから。しかしこれはあまりにも意外。ここまで無傷だと、むしろ“火属性だから”ダメだったのではと思うほどだ。

 ……火属性だから、か。

 自分の考えをもう一度思い起こして、そういう仮想を組み立てる。そして自分がLoUを設計しているときの方向性とかを思い出す。たしかこのサンドワームはレアモンスターだったな。ならばその特性は……


「ゆき!」


 意外な苦戦を強いられているゆきに声をかける。


「これをつかってみろ!」


 ストレージから別のアイテムを取り出して投げる。実際のLoUだとアイテムの受け渡しは、交換ウィンドウを開く必要があるけど、この世界では手渡し可能。これは楽だ。

 俺が投げたアイテムを手にとり、それを確認したゆきの顔が驚きにそまり、そしてニヤリと笑う。


「なるほど、そういう仕組みだったのね」


 鎌首をさげて叩き潰そうとするサンドワームの攻撃を、最小限の動きで横にかわすゆき。同時に手渡したアイテムを地面に投げつけて叫ぶ。


「【フリーズトラップ】!!」



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