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125.そして、予定は最初の目的へ

「ピラの大型アップデート……?」


 俺の言葉を聞いてゆきが不思議そうな顔をした。結構なLoU廃プレイヤーだった自分が、まったく知らない情報だった事に驚いたのだろう。


「そうだ。実はけっこうなアップデートが予定されてて、それによりピラダンが再び活性化する見込みだったんだけどな」

「でも変にアップデートしたら、低レベル聖職者のレベル上げが困難になるんじゃないの?」

「その辺りも十分考慮してあるから大丈夫。まずあのピラダンって、階層が2階までだろ? ピラミッドの外見に照らし合わせて不思議に思わなかったか?」

「んー……予想してたより階層が無いなと思ったけど、運営の手抜きかなって」

「………………」


 ちょっとショック。ユーザーにはそんな風に受け止められてたのか。


「実は、エンシェントマミーのいた場所。あの後ろに上の階へと繋がる階段があるんだ。それは守護ボスを倒したパーティーのみ行けるようになる仕組みで、以後ピラダンへ入ろうとするときにショートカットで行けるようになる仕様だったんだよ」

「へぇー。でも、エンシェントマミーなら左程強いわけじゃないから、ちょっとした人数いれば低レベルパーティーでも突破できちゃうんじゃないの?」

「……忘れたのか? さっきの冒険者たちの話」

「さっきの話? たしか入ってすぐの所にエンシェントマミーが……あ」


 どうやらゆきも気付いたようだ。位置固定のボスモンスターが、こんな入口付近に湧いた理由を。


「エンシェントマミーはボスはおろか、階段を守護するボスですらないってこと?」

「そうだ。大型アップデートで、階段を守護するボスはホルス。そして進んで行った先、ピラミッド最上段で待っているボスはオシリスとイシスだ」

「……エジプト神話モチーフのモンスターだ」


 名前を出しただけで、エジプト神話だとわかるあたり流石だな。こちらとしても、ディティール説明が省けて助かる。


「ピラダン3階以上では、出てくるモンスターも格上になる。リッチやワイトなどの、上位アンデッドになるから基本的にソロでは困難になるし、低レベルキャラじゃ一撃で終わりだ」

「それじゃあ、さっき逃げてきた冒険者とかだと……」

「一発喰らえば瀕死、もしくは死亡だろうな。まあ、エンシェントマミーから逃げてるくらいだから、強いパーティーに紛れ込んでホルスを撃破でもしないかぎり、上の階へ行くこともないから大丈夫だろ」


 後はLoUの場合は、基本レベルが一定以上じゃないと入れないっていう設定もあった。この世界の人間でレベルという内部パラメータはなさそうだが、ゲームと違って気軽に死に戻りが出るわけじゃない。慎重になるだろうから、その辺りでバランスが取れてるんだろう。


「……どうする? 私達二人で行っても大丈夫なボスなの?」

「何とも言えないな。元々アップデートで実装されるオシリス達は、その時点でのトッププレイヤー向けに調整されてたから結構強い仕様だった。ここに居るのがそれを反映しているなら、二人だと不確定要素が多過ぎる。俺がGMキャラに切り替えたら、途端にヌルゲーになるけど……それは嫌だろ?」

「まあね。せっかくLoUに実装されなかったモンスターとやるなら、ちゃんとやりたいってのが正直なところかな」

「そうか。……じゃあ入口付近のエンシェントマミーだけ倒して、俺達は本来の目的に出かけるか」

「本来の目的?」


 ゆきは何ソレという感じで小首をかしげる。まあ、最初に少し言っただけだからすっかり忘れてるのだろう。そもそも、なんでここに来たのかというと。


「サンドワームが持つ『分解の魔石』だ」

「ああっ! あはは、もちろん覚えてるよん。うんうん」

「……そのごまかし方するヤツ初めてみたぞ」


 ベタベタなごまかしをするゆきをジト目で見てやる。いい塩梅でゲームキャラみたいだな。

 とりあえず立ち去る前にエンシェントマミーを倒していこうか。行きがけの駄賃ってヤツだ。

 入口付近に多数の冒険者が集まっているが、それを避けて進んでいく。


「お、おい、あんたら! 今入ってすぐの所にエンシェントマミーが居て……」

「ああ、知ってる。ちょっと行って片付けてくるから待っててくれ」

「え? 片付けてくるって、おい……!」


 呼びとめるような声を聞き流して、俺とゆきはピラミッドの中へ入っていった。




 中にはいり数メートルほど歩いただけで、すぐに周囲が暗い雰囲気になる。ここも他にもれず、ピラミッド内部の石組通路を表現したテクスチャの影響だろう。まったく日の光があたってないハズなのに、明りをつけずとも十分見える。


 そのまま通路をさらに10メートルほど進むと、通路が曲がっているのがわかる。距離的にピラミッド外周にあわせて曲がっている箇所だ。

 そちらの方から、何かを引きずるようなズリズリという音が聞こえてくる。それとボス特有の空気というか、エフェクトというか。そういうのが曲がった通路先から漏れてるように感じる。


「あの先にいるね」

「そうだな。どうする?」


 別におたがい手こずる相手ではないけど、戦ってみたいとかそういう気持ちは出てきてる。LoUと違っていわば生身で戦うってのは、やってみないとわからない味わいがあるものだから。


「私にやらせて欲しいな。ちょーっと試したいことあるんだ」


 そう言ってウインクをするゆき。そして自分のストレージからアイテムを取り出す。あれは……なるほど、そういうことか。


「それじゃいってきまーす」


 てくてくとすぐそこの自販機に向かう気軽さで歩いて行くゆき。そして角のところで、手をうちならしてモンスターの注意を惹きつける。その様子を見ようと俺が近づいていくと、音に反応してゆきに寄ってきていたエンシェントマミーと取り巻きのマミー数体が確認できた。

 それらがある程度近づいた時──


「【ファイヤートラップ】」


 その声と共にトラップを床に投げつける。瞬時に一辺5メートル四方の炎の絨毯が床に敷かれる。ピラミッドの通路が丁度そのくらいなので、設置した場所は隙間なく壁まで炎に覆われた。

 結構強い炎なので、取り巻きのマミーは数歩あるく内に燃え上がり、黒く崩れおちてしまった。

 だが、さすがにエンシェントマミーはそのばかりではない。体を覆う包帯がかなり焼け焦げたが、少しだけ動きが鈍くなる程度でまっすぐゆきに進んでくる。その速度は思ったよりも速い。LoUでもそこそこの速さに設定してあったが、こう目の当たりにすると思ったよりも速いと実感してしまう。

 とはいえゆきは忍者。スピードの勝負ならば、おそらくオシリスを含めたピラダンの全モンスターでも追いつけないだろう。


「そろそろいいかな」


 しばらく様子を見ながら延々回避していたゆきが呟く。そしてまたストレージからトラップアイテムを取り出す。


「【ポイズントラップ】」


 先程同様に床にたたきつけ、今度はまるっと毒の絨毯へと変化。先程もそうだが、今ゆきが使っているアイテムは今回の旅で初日に俺が譲ったものだ。あれはこの世界のアイテムではなく、LoU製でトラップ効果範囲内でも使用者は効果を受けないという、プログラムの内部処理が具現化してるアイテムだ。だからゆきは先程も今もトラップを足元に発動させているが、まったく回避をしていない。そのためゆきを狙うモンスターは延々とトラップ効果範囲にいるという状況だ。

 おまけに先程の炎に今の毒。これの効果は……


「……効いてきたかな」


 先程まで結構な速度でうごいていたエンシェントマミーが、目に見えて動きが鈍くなってきた。よく見ると足元からすごしずつ崩れていってる。

 元々マミー系、特にエンシェントマミーは毒に対しては耐性が高い。なんせアンデッド、既に死んでいるから。だからまずは炎で取り巻きを一層した。しかしエンシェントマミーは炎だけでは打ち崩せない。そのため、その表面を覆う包帯を炎で一度燃やして状態変化を起こした。そこに今度は毒の効果を付与。これ実はLoUでのトラップ重ね効果なのだ。

 トラップで炎症させた状態に毒トラップで追撃をすると、トラップダメージボーナスが働いて、通常よりも強いダメージが発生する。また、普段毒耐性の強いモンスターにも影響を及ぼす効果があり、高耐性ボスの討伐ではよくつかわれる手法だった。

 もちろんこの効果も、俺がゆきに渡したLoU製トラップだからこそだ。トラップ重ね効果の処理プログラムも、どうやら問題なく発生することを、ゆきは試したかったのだろう。

 やがて身体をまともに保てなくなり、くずれるエンシェントマミー。ちょくちょくゆきが刀で斬ってもいたので、あっさりとかたがついてしまった。

 ついには崩れ落ち動かなくなる。ほぼ同時にトラップの効果もきれ、床には砂の小山と一握りの魔石が残っているだけだった。その魔石を手にとりこっちをみる。倒したのはゆきだから、どうぞというジェスチャーをして譲っておいた。俺なにもしてないもん。




「おお、戻ってきたか。二人とも無事だったか」


 ピラダンを出ると、入口ではさっき声をかけてきた冒険者がほっとした顔で話しかけてきた。本当に心配してくれてたのか。

 ゆきがストレージから、先程手に入れた魔石を出して見せる。


「エンシェントマミーなら倒したよ、ほら」

「えっ!? いまさっき入っていったばかりじゃ……いやでも、この新しい魔石は……」

「本当か? 本当にもう入っても大丈夫なんか?」

「うん。今倒したからしばらくは湧いてこないよ」

「おお! ありがとう嬢ちゃん!」

「よおし、行くぞ皆!」

「おーっ!」


 足踏みをしていた冒険者たちが一斉に入口へと入っていく。すれ違いざまゆきに「ありがとう」「強いね」と言葉を投げてから向かっていく。

 そんな冒険者たちに笑顔で手を振りながら見送っていた。

 少しだけ……LoUで駆け出し冒険者のお手伝いをしていた頃を思い出してしまった。



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