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124.それは、まだ見ぬ姿へと至る

 レジスト共和国に到着し、入国チェックを受ける。といっても俺もゆきもギルドカードを提示するだけで完了だ。このカードはそう簡単に偽造出来ない──という設定になっている。そこのところはこの世界でもしっかり反映されているようだ。


 入国して大通りをゆきと歩いていく。周囲には沢山の家屋があり、ここで生活をしている人々を実感することができる。


「……なんかぱっと見の感想だけど、高い建物が全然ないのね」

「その通りだけど急にどうした。それはLoUでも同じだぞ」

「そうなんだ。あの時は街の構造を、こんなしっかり見たことなかったもんで……」


 きょろきょろと周りをみながら歩くゆきが、まるでおのぼりさんだ。


「建物全体が低く、最高でも二階建て止まりなのは、ここが砂漠の国だからだ。ヘタに高いと風にまう黄砂などで、家屋へのダメージ蓄積が過剰になるからな。ほら、沖縄は台風が多いから、基本的に家屋構造が特殊だったりするだろ。あれと同じコンセプトでここは設計されてるんだ」


 他のところは知らないが、ウチで製作していたゲームはこういう部分に無駄にこだわった。たとえば川を一つとってみても、幅や流れの速さをきちんと考慮したりしている。その地域の雨の降り方と、それによる降水量による増水の様子。そして濁流による川の氾濫等が発生しないような設計にする。変にカーブの多い川になんてしたら、実際の川であれば即氾濫をおこして水害の餌食だ。そうなってないからこそ、川がずっと流れている……という考えで、地形設計もいい加減には済まさない。


「ここの宿ってどの辺りにあるの?」

「基本的に宿ってのは、目立つ場所に用意するようにしてる。だからこの中央の大通りを歩いていけば、そのうち宿をはじめとした人の集まる場所になっていくよ」

「そっか。彩和の旅籠(はたご)とかもそうだし、城へ続く道まわりに店が集まってるもんね」


 そして道なりに暫し歩いていくと、先ほど話したように徐々に人の数も増え、露店なども多くなり活気にあふれる通りになってきた。この辺りの雰囲気はグランティル王国の中央大通りと同じだな。


「あった、あれだな。LoUでは一応宿っぽい建物は用意したけど、MMOではあんまり意味がないからな。こちらの意図通りの建物が宿になってるか心配だっけど」


 一応こちらが宿として用意した建物が、きちんと宿として機能していた。宿を確認したので、少しばかり視線をめぐらせてみると……冒険者ギルドもあった。


「とりあえず宿だ。旅行者や冒険者にとって、時に宿は飯より優先」

「そうね。私も“飯より宿”ってどこかで聞いた覚えあるもん」


 などといいながら俺達は宿へ入った。




 宿の中は別に普通だった。内装や家具が、今まで見てきた国とはまた少し違う雰囲気ではあったが、宿としての機能には違いはない。応対も迅速丁寧で、すぐに部屋をとれた。

 部屋はあたりまえだが別々。一応隣り合った部屋にはしてもらったけど、行き来するには廊下に面したドアから出入りするしかない。


 ゆきと別れて其々の部屋へ。とりあえず考え事をしたいと思ったのでベッドで横になる。

 この国の様子だが、良くも悪くもイメージ通りだった。砂漠の国と聞いて想像するイメージが、だいたいそのまま反映されている感じだ。その分知らない国だが、安心できるというのも事実だ。

 このレジスト共和国は、LoUでも初期から用意された場所であり、最初にLoUを設計ていた段階ではグランティル王国などと同様の古参国だ。そのため開発側のイメージなどがほぼ完全に反映されてるのか。

 そうなると2つのダンジョンもそう思ったほうがいいな。

 まあ、特にピラダンは序盤ダンジョンだから、妙なトラップもないし事前準備もいらないか。

 そんな事を考えていたとき、ドアをノックする音がした。


「カズキー。私だけど、ちょっといいかな?」

「ああ、今開ける」


 一応ドアのカギはしめるようにしてたので、立ち上がりドアの鍵を外す。すると俺が開ける前に外からゆきがドアをあけて入ってきた。


「おじゃましますー。部屋は同じだね。周囲の飾りとかが多少違ってるだけか」

「いかにも一般的な宿ってトコだな。それで何か用か?」

「用がないと来ちゃいけないの? って言うとなんかイベントっぽいよね」

「イベント好きかよ」


 俺が窓際の椅子にすわると、ゆきはベッドに腰掛けた。まあ椅子は一つしかないからな。


「用事っていうか、一応の確認をね。ピラダンのモンスターとかそういうのの確認」

「ああ、なるほど。俺も今丁度それを考えてたところだ」

「じゃあ丁度いいね。でもピラダンって基本的に一次職が行く場所だよね」

「そうだな。それも主に聖職者系がレベル上げする場所だったかな。動きの遅いアンデッド系が多いから、神聖魔法の攻撃手段を活用するところだ」


 基本的にアンデッド系が溢れるピラダンは、神聖魔法が活躍する場だった。攻撃のみならず、回復系魔法もアンデッドによっては、ダメージをうける攻撃魔法になってしまう。しかもピラダンに出るモンスターは、蝙蝠やヘビでさえアンデッドという設定になっており、出会いがしらに片っ端から神聖魔法をぶっぱなしていくという乱暴な手法も有効だった。

 まだ序盤で攻撃手段の乏しい聖職者キャラは、時々同種キャラであつまってパーティーを組み、ピラダンの中を神聖魔法で突き進む遊びをしていたりもしたものだ。出会うモンスターが片っ端から浄化されていく様は、見ていて哀れに思えるほど爽快だったけど。


「そうなると……注意するべきは、ボスだけ?」

「だな。あそこのボスは2階の祭壇にいる、エンシェントマミーか」

「序盤ボスだけあって、ソロでも楽に討伐できるボスだったね」


 ピラダンの2階には祭壇の間がある。そこにはボスのエンシェントマミーがいるのだが、祭壇の間に入らなければおそってくることはない。つまり経験値稼ぎに来た一時職でも、そこに入らなければ問題はないのだ。


「それじゃあ早速行ってみる? あそこなら特に準備もいらないでしょ?」

「まあな。それにもし準備が必要でもストレージに全部入ってる」

「私もそうね。この……」


 ゆきが指にはめた指輪を視線の高さにまでもってくる。


「指輪につけてもらったストレージが便利すぎ。すっごい入るもん。LoUの時の倉庫みたい」

「まあな。ストレージもそうだが収納とかアイテム関係は、ユーザーからの要望案件が多くて大変だったからな」


 整理の仕方がどうとか、一覧形式がどうとか、色々な要望がひっきりなしに送られてきた。

 それらを全て叶える事は当然できない。だから吟味して、実現可能なものでメリットのある事から順次実施していったのも今では思い出だ。


「それじゃあ、さくっと行ってエンシェントマミーを倒してこよう!」




 レジスト共和国の西側を出て、すぐのところにピラミッドがある。外観的には普通の四角すいで、何階層かになっているように見えるが、実は2階まででボスもそこにいる。

 そんなピラダン前には……おおっ、結構人がいるな。

 LoUのように放置キャラが溢れているってことはないけど、休んでいる人、何やら話し合いをしている人、露店を出して商売をしている人、などなど。


「ここはちょっとLoUっぽいね」

「ああ、そうだな……ん?」


 周囲の様子を見ていた俺の目に、あわててピラミッドから出てきた冒険者たちが見えた。何かあったのだろうか。

 ピラミッド前からある程度距離をとってから、その冒険者たちはは地面にへたり込む。そのまま愚痴を言い出したので、思わず聞き耳をたててしまう。


「ちくしょう。まさか、あんな近くにエンシェントマミーが湧くとは思わなかったぜ」

「そうだな。さすがに入ってすぐの角にいるんじゃ、今日はもうあきらめたほうがいいか」

「とりあえず誰かが倒してくれるのを少し待ってみるか」


 ……何? エンスエントマミーがすぐそこに出た? どいうことだ?

 ゆきも話が聞こえたようで、困惑した目でこちらを見てくる。エンシェントマミーは祭壇で待ち構えているボスであり、間違っても徘徊するモンスターではないはず。それじゃあどうして。

 そう考えていた時、何かひっかかるような気がした。

 何だろう、何か気になる。

 何かを忘れていないだろうか…………あ。


 ──瞬間、俺の中で答えが出た。


「ゆき」

「何?」

「大事なことを思い出した」

「何を思い出したの?」


 俺は一つ溜息をして、そしてゆきの目を見て言った。


「ピラミッドダンジョンには、未実装の大型アップデートがある」


 やれやれ。気軽なお散歩のハズが、ちょいとばかり手間なクエストにランクアップかな。



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