123.それは、新領地の為となる
メルンボス交易街を出た俺達は、今度は西へ向かって走っている。無論レジスト共和国へ向かうためだ。エルフの里の件は、現状ではこれ以上どうしようもない。何かあったときは多少の縁だと考え手助けはするつもりだが、とりあえずは待ち状態だな。
「カズキ、まずは二人でピラダンジョンの探索だよね」
「そうだな。以前そういう約束したから、まずはピラだな。その後、皆が合流できそうなら、またピラでもいいし砂漠洞窟でもいいぞ」
「んー……まあ、次の事は後で考えようか」
とりあえずは二人でピラミッド攻略だ。まあ、ピラミッドダンジョンは結構早い時期に実装され、内容も特に卑しいトラップもない。そろそろグランティル王国を出てみようと考え、少し慣れてきたプレイヤーが次に来るのがピラミッドという感じだ。
なのでまあ、二人で見物がてら適当に流してもクリアできるレベル。
それに対し、地下に広がる洞窟ダンジョン。こちらはもう少し高レベルのプレイヤー向けだった。サービス期間中にあった大型アップデートの一つで、元々レジスト共和国の西側にあった砂漠が、さらに西側に広がりその中ほどに地下の洞窟が実装された。
ピラミッドがミイラやスケルトンなどのアンデッド中心だったのに対し、地下洞窟はサソリやトカゲ系など地下地盤に生息するモンスターが実装されていた。後々実装されたこともあり、こちらの方が難易度が高くなっている。
また、こちらはピラミッド前のように沢山のキャラで溢れることもなく、入り口でキャラを放置などしていたら側にポップしたモンスターに襲われるのがオチだ。結果、準備万端なプレイヤーが挑むダンジョンという位置づけになっていった。
「ねえカズキ」
「ん? なんだ?」
レジストのダンジョンについて考えてたら、ゆきが話しかけてきた。相変わらず移動はスレイプニル任せなので、別に話しかけられたからどうだってこともないのだが。
「ピラダンってちゃんと覚えてる? 私も最初の頃は通ったけど、どうせ行くなら地下洞窟ってシフトしていったから、正確に覚えてるかって聞かれるとね」
「まあ、俺はどちらかといえば仕様として覚えてるけどな。だからピラミッド内の地図とか、そういった部分では迷うことはないと思う」
「それもそうか。でもまあ、ピラなら間違っても負けるような相手いないよね」
「そりゃまあな」
そんな普通の会話をしながら、黙々と俺達はレジストへ向けて進んでいった。
数時間後。延々と走っている間も、景色を眺めながら適度な会話をしていた。いうなれば長距離列車での移動に近いものがある気がする。とはいえ既に夜明けを向かえ、感覚的にも朝食タイムだ。なので一旦進行を止めて俺とゆきはログアウトしてきた。
「もう何度もやってなれてきたけど、これって他の人から見たら最高にズルだよねぇ」
朝のワイドショーを見ながら、トーストにマーガリンを塗って食べているゆき。俺を除けば皆の中では一番俺の家の設備を活用してるよな。マーガリン以外にも色々乗せて、本当に自由だな。
「まあ、こればっかりはな。だからといって、誰かに遠慮する言われもないしな。これからもこのやり方での休憩はずっと続けてくぞ」
「わかってるわよ。私だってそれにこれからも便乗するつもりだもん」
トーストの最後の一切れを口にいれて、残ったカフェオレを飲む。はい、ごちそうさまですな。
リビングで室内をじーっと眺めていたゆきが、ある場所を見て何かを思い出したように声をあげた。
「そういえばカズキ。以前なにかインスタント食品を作るとかいってなかった?」
「ああ、言ってたぞ。俺がやりたいのはインスタントのラーメンだ」
ゆきの視線は戸棚にある買い置きのカップ麺に向いていた。以前密かに考えていた異世界インスタントラーメン計画は、こちらの知識もあるゆきにも話したことがあった。
「それって出来そうなの? もしできたらどうするの? 商売?」
「なんだ、随分と気にしてるな。まず出来るかどうかだが、たぶん出来ると思う。俺が作りたいのは麺の鶏がらスープ味の油で揚げるタイプのインスタント麺だ。お湯をそそいで、ほぐしながら表面の油がスープになるタイプだな」
「……チキンね?」
「ああ、チキンだ」
説明だけでどんな商品なのか理解してくれた。これは流石に現代知識があるゆきならではの事だ。
「ついでに野菜や肉の乾燥ブロックを用意し、お湯をそそいで崩して具にするようにする」
「なるほど。麺は基本的に同じだけど、具材で色々変化させるタイプね」
「まあな。おそらくは麺を加工する手段で色々難儀すると思うが、そのあたりはこっちの世界で調べるつもりだ」
まあ作り方の研究は心当たりがある。というか、こっちの会社はソレの手作り体験ができる施設があるからな。そこの揚げる機械とかをじっくり情報集めしてやる。
「それで作ったらどうするの? 冒険者の携帯食として売り出すの?」
「その予定だ。お湯と器があれば誰でも用意できる簡易食だ。中々のものだと思うのだが、どうかな」
「うん、いいと思うよ。まあ実際作ってみないとわからないけど。じゃあソレを作る施設をか、いろいろ探して契約しないとね」
「いや。この商品は、俺の納める領地での特産品にする予定だ」
「へ?」
俺の言葉にゆきが驚きの声をあげる。つい流れで教えちゃったけど、まだ構想段階なんだ。
「ゆきが両方の世界を知ってるから言っちゃったけど、これはまだ内緒な?」
「……皆にも?」
「そうだな。言ってもインスタントラーメンの実感がわかないだろう。とりあえずは内緒だ」
「わかった」
そう言うとゆきはどこか嬉しそうな顔をする。まあ、普通に考えると秘密の共有が嬉しいってヤツなんだけど……その秘密がインスタントラーメンってのが何かアレだ。
「新領地は浄化の魔石をつかった綺麗な水が豊富に用意できる。それをつかって周囲に多くの作物も作る予定だ。それらは素直に食用にもするが、特産品用の加工素材としても使用する。その一つがインスタント麺だ」
「……という事は、それ以外にも色々特産品を考えてるってコトかな?」
「察しがいいな。まだインスタント麺以上に構想段階だが、色々と考えてはあるぞ」
「楽しみだね。早く領地持って移り住もうよ。私だけ一人彩和にいるから、遠いんだよ」
「もう少しまってくれ。それにホラ、マイルーム機能が有効になったんだから、頻繁に遊びにこれるようになっただろ」
「そうだね。それに関しては本当によかったよ」
食事も終わり、俺達はログインをしてレジスト共和国へ向けて出発した。
明るくなって気付いたが、既に周囲の様子がグランティル王国からメルンボス交易街へ行く時とは、随分と様相が違っていた。まず木々や緑が減った。それに反比例して砂地面積が多くなった。
ここがもう既にレジスト共和国へ向けての道だという、明確な証明みたいなものである。かろうじて道だとわかる部分は、踏み固められており馬車や馬の走行跡が残っている。
「そろそろジストかな?」
「そうだな。LoUじゃポタ屋に頼んで即転送だったけど、普通に移動したらこんなにも手間なのか」
「でもカズキはまだいいよ。一度いけば【ワープポータル】できるし」
「まあそうだな。レジストにもポータル設置して、地下洞窟は全員でのりこんでやるか」
とりあえずはまずピラダン、そして宿。そんな話をして走り続けている俺達の前に、ただ伸びるだけの道とは違う光景が徐々に姿を現した。
「みえてきたぞ。あれがレジスト共和国だ」
この目で見るレジスト共和国。はたしてどんなものだろうか。




