117.そして、森人の里へ
昨日の投稿に本日回のサブタイトルを付けていたので、昨日側を修正しました
「それで、エルフの里へはどうやって行くんだ?」
とりあえず俺は、案内役のマリナーサに聞いてみた。ゆきとフローリアも俺と同じ疑問をもっていたみたいだ。
「えっと、私が先導しますのでついて来て頂ければ」
「すまない、聞き方が悪かったな。移動手段は何かなという意味だったんだ。馬だとかそういう……」
「ああ。徒歩ですよ」
「徒歩ぉっ!?」
俺だけじゃなく、ゆきとフローリアの声もあわせて三重奏のハモリが響いた。俺達はあわてて口をおさえる。いくら貿易街とはいえ、今はもう深夜を過ぎている。騒がしいのは迷惑だからな。
「徒歩って、今からどれだけ時間をかけるつもりなんだ」
「あの、私は明日も出席しなければならない用事がありますので……」
俺とフローリアが困惑していると、マリナーサは笑顔をうかべて言う。
「大丈夫ですよ。すぐ近くですから」
「すぐ近く?」
「はい。エルフの里は“遠く思えし近きもの”です。昔からすぐ側にありますが、神木の古代エルフによってその存在は秘匿されていましたから」
「……今更だが、そんな場所に俺達を連れて行っていいのか?」
そういう場所って、意味があって隠れ里になっているんじゃないのか。そんな場所へ外部の、しかも別種族である人間を入れてしまっていいのか。
「大丈夫ですよ。そもそも私が外に出てきた理由は、聖女とよばれる方をお連れする為ですから。その聖女の仲間であるお二方も、当然お客人としてご招待します」
「やった! ありがとうございますマリナーサさん」
「いえいえ」
エルフの里の正式な客として招待うけたことに、ゆきは大いに喜んでいる。まあ俺も、結構楽しみではあったりするだけど。
「それでは皆さん。あまり私から離れないでついて来て下さい」
そう言って歩き出すマリナーサ。その後をフローリア、俺、ゆきの順でついていく。俺が最後のほうがいいんじゃないか? とゆきに聞いたのだが「こういう場合はいつもお姉ちゃんが一番後ろなので、今日は私がやります」とのこと。まあ別に隊列に作戦があるわけでもないからよしとした。
マリナーサに続いて進むこと数分、貿易街の南側の門に来た。俺達が入ってきたのは北門で、砂漠の国であるレジスト共和国は西門の方から進む必要がある。
今回エルフの里へいくためには南門から出る必要があるのか。門で手続きをし、身分提示をして外へ出る。その差異相変わらずフローリアの身分確認で、担当者が驚き狼狽するという場面が見られる。グランティルではもう門の兵士だちも慣れてしまい、こんな光景はついぞ見たことがなかったと実感する。
門をでてその先にある南へ向かう道を進む──と思いきや、すぐ道に向かって左手、方角でいうと東側の森の方へ向かった。
その森へ入り少し進んだとき、
「この森は、一体……?」
フローリアが驚きの声をあげた。俺とゆきは何も見えないが、フローリアはその魔眼で何かを見ることができたようだ。
「さすがは聖女です。もう少し進んだ所に、神木の古代エルフから紡がれた結界があります。私がいれば問題ありませんが、そうでない場合はこの森の別の場所に無作為に跳ばされます」
「つまりエルフ同伴でなければ入れないと?」
「基本的には。私達に認められた者はその限りではありませんが、元々外部との繋がりが稀薄な種族ですので、エルフの里に来る人間はほとんどおりません」
歩き進むマリナーサが立ち止まる。こちらに振り向いて、
「これより結界を通り抜けます。特に危険はありませんが、感覚のするどい人は何かを感じるかもしれませんので注意して下さい」
そう言って歩き出す。離れないように俺達はついていくが、一瞬フローリアの歩みが鈍る。だが、すぐさま意を決したように歩き出しマリナーサのすぐ後ろに追いつく。
おそらく今フローリアが通過したところが、結界の境界なのだろう。俺の目には特になにも見えないので、気にせずそこを通り過ぎ──
「むっ」
思わず声をあげてしまい、あわてて口をふさぐ。幸い誰にも聞こえてなかったようだが。
ただまあ、少し驚いた。俺の視界に表示されている縮小マップの表示が、一瞬で切り替わったのだ。要するに結界の力で全然違う場所へ跳んだのだろう。だが先に跳んだはずのフローリアを、跳ぶ前の俺が普通に後ろから見ていた。この辺りは、エルフの結界が気付かれないようにという、仕組みが成せる事なのかもしれない。
「っ……」
後ろからゆきの、少し息をのむような声が聞こえた。おそらく結界を通りすぎた時、何かを感じ取ったのだろう。結界を通り過ぎてしばらく歩くと、まるで昼間かといわんばかりに穏やかな日差しの元へ出た。
「皆さん無事に結界を通られました。しかし、全員結界の境界に気付かれたようですね」
「まあ、私たちは少しだけ特殊なので」
フローリアが笑いながら言葉を濁す。まあ、特殊ってのは本当だしな。
「後はこの道をまっすぐいけば里の入り口です」
そういうと、もう先導の必要はないからとフローリアの隣へいくマリナーサ。すでに結界の中でもあるし、基本的に安全な場所なのだろう。
「しかし、ここはどこなんだろうなぁ……ん?」
「どうしたのカズキ」
マップ画面には俺達4人を中心に、周囲の森林地形が表示されている。だが、表示されているのはそれだけじゃない。少し離れた場所に、俺達を囲んで4つほどマーカーが表示されている。色が黄色なので敵味方不明だ。
「なんか少し離れて囲まれてるんだけど」
「えっ!?」
俺の言葉に、前を歩いていたマリナーサが驚く。そして目を閉じて何かを呟く。それは呪文詠唱のようにも感じたが、先程名前を口にしたときの感覚にちかい。もしかしたらエルフが使う精霊の魔法とか、そういった類を口にしたのかもしれない。
「本当だわ。ごめんなさい、里の者達が警戒して見てるのね」
「警戒?」
「ええ。里が今こんな状況だからよ。外にでた私を人間が脅して里に来たという可能性を危惧しているのだと思うわ。まったく、心配ないからって言ったのに」
むーっと口をとがらせるマリナーサ。里に帰ってきたということで、言葉や表情に感情が少し強めにのるようになったようだ。
「ならまあいいけど。でもまあ、4人で囲むように見られてるのはちょっと……な」
「え! 人数や場所がわかるのですか!?」
「ふふ、カズキにとっては普通のことですわよね」
なぜかフローリアがドヤ顔する。……なんでよ。
「まったく、ごめんなさいね。──みんな! この人たちは大切なお客様よ! あなた達がいることもバレてるわ! 先に戻ってお客様のこと伝えておいて!」
怒鳴っているわけではないが、何か声に魔力的なものをのせて発したのだろう。その後すぐ周囲にあったマーカーが里の方へ消えていった。
「もう大丈夫よ、皆里の方へ行ったみたいだから」
「そのようだな」
「しかし、よくわかったわね。私はエルフだから注意して探せば気付くけど、あなたは普通の人間でしょ?」
「あ、いやまあ」
言葉に困っていると、フローリアとゆきがくすくす笑っている。
「カズキは少しばかり特殊なんです。特殊で、そして特別な人なんです」
「そうそう。カズキは色々規格外なんで、やることなすこと気にしちゃダメですよ」
「……えっと、そうなんですか?」
「ノーコメント」
俺の返事にゆきがまたクスリと笑う。今の笑いは「こっちの世界でその言い回しするんだ」という意味での笑いだな。
その後数分ほど歩いて行くと、徐々に集落のようなものが見えてきた。
横並びで歩いていたマリナーサが、一歩前にでて後ろ歩きをしながら俺達を見る。そして、
「歓迎します。あれが私達、エルフの里です」




