113.そして、思い出したこと
目指すは一路レジスト共和国……なのだが、一応道に沿って移動しているため、まずは中継地であるメルンボス交易街へ向かっているところ。
道中どんな感じになるのかなと少々危惧はしたが、いまのところはゲーム談義に花が咲いていた。
話題にするゲームはLoUは勿論だが、各種MOやMMOだったりする。
向こうからすれば開発側のことを色々と聞きたいらしく、俺としてはプレイヤーの直生な声がものすごく参考になる。
「……それじゃあ『忍者』っていう上位クラスは、元々実装予定だったんだ」
「そうだ。でもまあ、あんな感じでサービス終了しちゃったからな。そういう仕様だっていう痕跡は内部データにはあるけど、実データとしては実装されなかった」
「それじゃ私達の職カテゴリは、当初の想定とは違ってたりする?」
「どうだろ。元々忍者は実装済みだった暗殺者と同じ様に、盗賊の上位職の予定だったからな。……というか、俺この世界であんまり上位職の冒険者って見てない気がする」
「そうなの? 彩和にいる侍は上位職?」
「多分そうだな。戦士の上位職の騎士と同じ派生っぽいけど。でももうこの世界だと上位転職という認識があるのかどうか。なりたいなら自分で目指す、的な」
「そっか。私も盗賊になってから忍者になったわけじゃないし」
そう言ったきり、暫しの間とくに会話もなく道を進んでく。
別に話題にこまったとか、そういう事ではない。いくら会話好きでも延々二人で話してると、時々途切れることってのはあるもんだ。
だがまあ、ゆきは結構おしゃべり好きなのだろう。まったりとした沈黙時間はそう長くは続かない。
「そういえばカズキ、この子……」
「ん? このスレイプニルか?」
「そうそう。この子って名前つけてないの? スレイプニルって名前じゃないよね。私のルーナでいうところの、“ペガサス”って事でしょ」
「まあな。もともとこのスレイプニルは俺のアカウントがスタッフアカで、通常キャラでも一部有効になっているデバッグモードや特殊コードでの使役をしてるだけなんだ。だから俺のペットじゃないから、正確には名前を付けられないんだよ」
「ふーん。なんかあれだけ周囲の人が召喚獣に名前つけてるのに、この子につけないのはそういう事だったんだ」
そう言いながら軽快に駆け抜けるスレイプニルの鬣をなでる。心なしかスレイプニルも気持ちよさそうにしているように見える。
「そういえばゆき、広忠とそのペットの……名前なんだっけ?」
「雪華よ、シロブンチョウの雪華。とても仲良しよ」
「そっか。喜んでもらえてるならなによりだ」
「喜ぶもなにも、すっごいわよ。今までろくに外に出られなかった反動か、雪華をいろんなところで見かけるもの。よく私の所にもきて、そのまま呼ばれるわ」
そう言ってケラケラ笑う。ペットの小鳥をちょっとしたメッセンジャーにするのは、フローリアのアルテミスと同じだな。
「そうそう。それでこの前ね、場内の庭でならばという条件で、広忠様をルーナに乗せてあげたのよ。いつもは雪華の視界だけで見ていた世界を、少しだけ自分の目でみせてあげたわ。最初は少しこわがっていたけど、すぐに目をキラキラさせて喜んでくれたわ」
「……なんか、ゆきが広忠のお姉ちゃんみたいだな」
「私もちょっとそんな事思ったけど、でもダメだよ。相手は君主様なんだから。そういえば、次ミレーヌ様が遊びに来るのはいつなのかってよく聞かれるわ。近しい年頃だし、もっと会いたいんでしょうね」
「そうだな……うーん……」
そういう話を聞くと、やっぱり色々と考える。実際ゆきもエレリナさん──ゆらさんと会いたいだろうし、その逆もしかり。十兵衛さんも遠く離れていては不安もあるだろう。
「どうかしのた?」
「いや、領地整備とかおちついたら、また何か便利な道具とか作ろうかなって。できるだけこの世界の魔石をつかって、ちゃんと世界のルールに則った上での道具をと」
「そうなるとやっぱり転移のドアとか欲しいかもね」
「……考える事はみな同じか」
俺もそれは考えてみた。転移の能力を持つアイテム。俺は自由にいろいろな場所へいけるが、親しい人達にもある程度自由に行き来して欲しい。そうなるとこの世界にあるもので、似たような効果を出せるアイテムを作り出せないだろうか。……やっぱり魔石だな。魔石の効果に詳しい人と知り合って、どんなものがあるのか一度じっくり聞きたいものだ。
他にも色々と雑談をした。
でもやっぱりいつしか話題はこの世界での事になる。そうこうしている間にも、段々と日が傾いて夕方になってきた。
「そろそろ今日の進行は終わりにしようと思うんだが、どうかな?」
「うん、いいよ。普通の馬の脚なら、既に2日分以上の距離は進んでるし」
「よし。それじゃあ今日はこのくらいにしよう。ご苦労様、今日はもう戻っていいぞ」
「ありがとうねー」
俺達の労いの言葉をうけ、一鳴きするとスレイプニルは送還された。
さて、何もない道でポツンと立ち尽くす俺達。といっても、この後は例の如くである。
「それじゃあログアウトするぞ」
「うん、お願いね」
ゆきの差し出した手をしっかりと握り、俺はログアウトした。
「ねえ、ちょっといいかな」
「いいぞ、どうした?」
あの後、俺とゆきは少し休んだ後夕食をとった。まあ休んだといっても、リビングでのんべりだべっていたわけなんだが。それに夕食といったが、現実時間でいうと少し遅い朝食くらいの感じだ。
食後にまたまったりとした時間を……と思っていたら、ゆきが話しかけてきたのだ。
「以前、彩和でいきなりお姉ちゃんがカップケーキを手にしてたことあったよね。あれって、こっちのケーキでしょ」
「ああ、そうだ。知ってる店だったか?」
「有名なスイーツの店よ。結構各地に支店があって、私も以前はよく食べてたわ」
「ふーん」
「…………」
お店情報を教えてくれたゆきを見る。そこには、何かを期待するような、それでいて「ほれほれ、言うべき事は決まってるでしょ」的な視線を投げてくる。
「えーっと」
「…………」
「行く?」
「もちろんよ。そういう気遣いはまだまだね」
「うぐ」
からかいながらも浮かべる笑顔は楽しげで、そこに不快感は皆無だ。
ケーキも無論楽しみなのだろうが、やはりこの世界が好きなのだろう。未練というわけではないが、自分の人生の中ではまだ現実の世界での生活が長いのだから。
「ほら、ボケっとしてないで連れてってよ」
「わかったよ」
根本的に動くのが好きなのか、早く早くとせがんでくる。元々そんな性格だったのと聞いたら、以前は全然インドア派人間だったらしい。まあ、LoUでも結構な廃人プレイヤーだったようだし。なんせ……
「あああっ!」
「ちょ、どうしたのよ急に」
「以前話してたゆきのマイルームあったよね?」
「うん、データの調整とかって終わったの?」
「あー……それなんだけど、実はとっくに終わってて」
「ええー、まさか忘れてたの? 私結構まってたんだよ」
「ごめん。それでもう一つ言うべきことが……」
「何?」
ジト目でみてくるゆき。ああ、これを報告したらさらに怒られ呆れられるのかな。でもここまで言ったから、言わないわけにはいかんしなぁ。
「その、だな。LoUのマイルーム機能の一つに、マイルームへ転移する機能があるだろ? おそらくそれは、あの世界のマイルームでも有効だ。つまりその……」
「私が望めば、マイルームのある王都へは転移できるってこと!?」
「ああ、おそらく……。でも一方的な転移だし、どうかなって……」
「そんなわけないでしょ! 帰りはカズキにおくってもらえばいいんだし。ってか、そんな大切なこと今の今まで……」
「ごめん、ホントごめん!」
怒りながらも笑顔が絶えないゆき。ある意味これはこわい。
「いいわ、ゆるしてあげる。ただし!」
「な、何だ?」
「今から行く店では、私が満足するまで食べるからね」
「……わかった。程々にしてくれ」
「ふふーん、さあ、行くわよ!」
先程よりさらに何割増しの笑顔で俺の手をひくゆき。
まあ、元々おごるつもりだったからいいけど、これは結構な出費を覚悟するかな、ハァ。




