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11.それは、望郷との出逢いのように

「GM様……お会いしたかったです……」


 突然のことに俺は、思考回路がショート寸前です。

 探し人にようやく会えたような、とても安堵した表情で頬を少し高揚させて抱きついてる女の子。この子は、グランティル王国の第一王女であり、聖女でもあるフローリア王女だ。

 元々は運営開催の期間限定公式イベントの為に用意されたキャラだが、その日がくる前にサービスが終了してしまった、ちょっと違う意味での“悲劇のキャラ”である。

 俺がフローリア王女を知っているのは、当初の仕様設計段階にて“王国か公国か”というディスカッションをしたことを覚えていたからだ。この時の話し合いで、結果は“王国”となった。理由は単純に、王族設定が無理なくできるためだ。


 そして生まれた王族設定の中、特に念入りに設計されたのはこのフローリア王女。

 年齢は14歳で、第一王女であり聖女の運命を背負っている、聖王女というキャラだ。

 絹のような滑らかな金髪で、蒼と翠のオッドアイは、それぞれ気高き王族の血筋と、清らかなる聖女の資質を併せ持つ証と崇められている……という設定だったハズ。

 もっと他にも色々あったが、さすがに資料を掘り起こさないと覚えてないな。


 そんな開発スタッフでも一番の設定厨が、朗々と書き連ねた設定をもつキャラがこの王女様。

 その甲斐あってか、ずいぶんと可愛らしいキャラなのだが、何故かログインした俺に抱き着いている。


「あ、あの王女様? これはえっと……」

「GM様、そんな他人行儀ではなく、いつものようにフローリアと呼んでください……」


 いつも!? 呼び捨て!? 初めて会ったんじゃないのかよ!?


「と、とにかく一度離れて下さいフローリア様……」

「ふふ、しかたありませんね」


 そう言って笑顔に、ペロッと可愛らしく舌を出して微笑む。……こりゃいかん、破壊力抜群だ。

 恐らくはこのあたりの性格も、練りに練った設定なのだろう。立場ある可愛い子が、少しわがままを言うも、おちゃめなイタズラで笑い流せる範囲の云々とか、そんな設定がありそうだ。


「改めまして。お目にかかれて嬉しいです、GM様」


 俺から離れたフローリア様は、此方を見ながらカーテシーを披露してくれる。おおう、これが本当のロイヤルカーテシーってヤツだな。


「こちらこそ、フローリア聖王女様に会えて光栄の極みにございます」


 どうしようかと迷ったが、相手が王女なので臣従礼で返答しておいた。特におかしい所もなかったようで、変な恥をかかずにすんだ。


「ところで、一体どうなされたのでしょうか。突然のご顕現に、大変驚いております」

「あ、その……」


 突然のGM出現に驚く様は、プレイヤーがフィールドでGMを見かけた時のようで、少々申し訳ない気持ちと楽しい気持ちがない交ぜになったような心境だ。

 とりあえずここは正直に話すことにした。王国の様子を少し見回ろうとしたのだが、少し手違いで王女様の部屋に出て来てしまったのだと。


「まあ、そうだったんですね。でも、これは僥倖ですわ。神に感謝いたします」


 そう言って、そっと神に祈るフローリア様。さすがに聖王女と呼ばれるだけあって、その姿は思わず見惚れそうになるほど惹き付けられる。

 手を組んで祈るようにしていたフローリア様が、ふと何か気付いたように顔をこちらに向けた。


「GM様。貴方様には、GM様とは又別のお名前があるのでしょうか?」


 一瞬「?」となったが、すぐに“カズキ”という名前の事を指し示してるんだと理解した。別に隠すようなこともないだろうし、教えてもいいか。実際のLoUでも、姿を見せてる時にカーソルを合わせられると名前は表示されちゃうしね。


「あります。正式には“GM.カズキ”という名前です」

「GM.カズキ様……」


 改めて名前を呼ばれ、こちらをじっと見つめるフローリア様。しかし、こうして見ると流石の設定厨さんが作り上げただけあって、絵に描いた理想の愛される王女様って感じだな。

 思わず凝視してしまったため、計らずとも見つめあうようになってしまい、慌てて視線を外す。

 というか、色々調べたいことがあったから、こっちのキャラで来たのに。今はちょっとやるべきことがあるから、あまりここに長居もできないな。


「フローリア様、突然の来訪申し訳ありませんでした。この後、勤めがございますので、本日はこれで失礼を致したいと思います」

「そうですか……。わかりました、少し寂しいですが仕方ありませんね」


 名残惜しいが立ち去る旨を伝えると、思いのほか素直に送り出してくれる。わがまま姫ってわけじゃないのは嬉しいね。


「それでは失礼致します」


 そういい残してとりあえず姿を消す。これは元々のGM機能の一つで、プレイヤーから視認できないように姿を消す機能だ。魔法とかではなく、LoUというゲームに実装されているGM専用機能の一つだ。

 おそらくフローリア様からは、一瞬で俺が消えたように見えているはず……


「…………? あの、GM.カズキ様、どうなさいましたか?」

「えっ!?」


 そういえばフローリア様が全然慌てた様子がない。というか、ずっと此方を見たままだ。


「もしかして……見えてますか?」

「GM.カズキ様のお姿がですか? そういえば、少し透けて見えておりますが……」


 なんですとぉ!? まさかのGM機能殺し? そんな恐ろしい能力持ってんの?

 俺が驚愕していると、その様子が少しおかしかったのか笑顔で話しはじめてくれた。


「おそらく私の“目”の力だと思います。この翠の目には、聖女の力があり、偽りの姿──ここではGM.カズキ様が姿をお隠しになっているという状態を見破ってしまっているのでしょう」


 ……なにそのチート。公式チート級のGM機能を破る能力って、どんだけだよ。あんまりにも深い仕様変更は、怖いからもうしたくないんだけど。

 とりあえず、早急にここかえら立ち去ったほうがよさそうだ。


「お見苦しい姿をお見せしてしまいました、申し訳ありません。それでは本当に失礼致します」


 改めて礼をして、俺はそのまま部屋の壁を抜けて外に──空に出た。

 城の窓からフローリア様が、今度こそ驚いた顔をしてこっちを見ている。……というか、驚きすぎて聖王女様として、絶対やってはいけないような顔になってる気がする。

 でもずるいよね。やっぱり顔の基礎がいいから、すごい表情なのに可愛いんだもん。


 ちなみに、今はグランティル王国の城下付近の上空にいる。これはGMの機能の一つで、地形などに影響されず自由に三次元移動できるのだ。主な用途としては、フィールドデータの隙間などに、キャラクターが間違ってはまりこんでしまった場合、そのキャラの所まで実際に出向くときなどに使用する。

 LoUのサービス開始直後はそこそこ出番のあった機能だが、フィールドデータの改善や修正が重ねられていくうちに、出番はほぼ無くなってしまった。

 時々、姿を消した状態でフィールドの上空からパトロールする時に使用する程度だ。


 だが、こうやって上空を移動している場合、見える景色は面白いのだが色々と不便なこともある。

 その中でもよく感じるのは、“上空に浮いている”という状況のため、結果として高低差が問題になる場合だ。


 例えば瞬時に移動する【ワープポータル】は、この状態では使えない。いや、正確には『使っても使えない』という事か。つまり【ワープポータル】の魔法使用は出来るが、それにより出現したポータルを活用することができないのである。魔法により出現するポータルは、目の前に出現すると思われているが、実際は少し異なる。キャラの立ち位置を3次元でとらえ、X軸またはY軸にすこしずれた場所=キャラの隣付近の、フィールド地形上に出るのだ。つまり上空で使用すると、そこから下の地面まで降りた場所にポータルが出てしまう。


 さらに問題がもう一つ。この自由に座標移動する能力だが、発動している間は障害物等のあたり判定がなくなるのだ。これが実はネックで、ポータルを発生させても、有効範囲に侵入したという判定が得られず、そのまま素通りしてしまうのだ。

 プログラム内で行う判定処理『ポータル位置の矩形領域内か?』という判定よりも、優先度の高い『座標移動中ならば判定しない』という処理ではじかれてしまうのだ。このあたりはプログラムの設計仕様に関わるので、単純に書き換えるのは以前やった魔法の追加よりも圧倒的に危険度が高い。


 そんなワケで、この移動手法中はポータルなどによる移動は出来ない。とはいえ、移動速度は普通に歩くはおろか、走るよりも速いのでそこまで苦になることはない。

 なのでまあ、直立姿勢のままスィーと滑るように移動している。……と、そろそろ目的の場所だな。


 ずっと空を滑ってきたが、そのまま地面に降り立つ。座標移動能力は停止したが、姿はそのまま隠してある。悪目立ちしたくないからね。

 俺は目の前の家を見る。そして、そのまま壁にぶるかる……ようにして、すり抜けていく。迷うことなどない。なぜなら、勝手知ったる我が家だから。そう、ここは俺ことカズキのマイホーム。

 両親がいる居間にたどり着いたとき、パタパタと足音がしてきた。そして、


「ねえ、お母さん。お兄ちゃん見なかった?」

「え? 自分の部屋にいるんじゃない?」

「ううん、いないよー」


 ミズキがいた。……ふむ、なるほど。確認完了だ。

 俺が今回、GM.カズキでインしたとき一番知りたかった事。それは、その間ミズキたちの時間経過はどうなるのか、だった。

 イン直後にフローリア様の部屋へ出てしまい、そこでのやりとりがあったから、普通に時間経過しているであろうと予測はしていた。そして、ここに来て実際にそうだと確信した。

 そうなるとGM.カズキの使用は、気をつけないと色々混乱を招きそうだと思った。少なくとも、ミズキにちゃんと理由を話さないと、GM.カズキでインできる時間が確保できそうにない。


 とりあえず、考えないといけない事はまだ多いな。一度出て、フローリア様やその辺りの仕様と、GMの機能などをおさらいしておくべきか。


「おかしいな、さっきまでいたのに……」


 とりあえず、忘れる前に入りなおしてミズキに会っておくか。

 どうやらミズキはお兄ちゃん子らしいからね、しょうがないなぁ。


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