106.それは、必然な偶然の寄り道
今度三人で、現実世界で遊ぼうという約束をした。エレリナさんとミレーヌは、他の三人よりもこちらで何かを楽しんだことが少ないので、いい機会になると思う。
さて、もう一つの課題だ。フローリアのアルテミスを大変気に入った様子の広忠に、何か鳥の召喚ペットをあげようという事になった。どんな鳥にすればいいのか、という相談をエレリナさんにしようと思う。
「そんな訳で、エレリナさんの意見を聞きたいんですけど……どうですかね?」
「そうですね……まず召喚獣の方向性は、どうなんでしょうか?」
「方向性?」
「はい。フローリア様のアルテミスのような愛玩系か、ミレーヌ様のホルケのような戦力兼用なのか。私やゆきの場合は特殊系なので今回は含まれませんけれど」
「戦力って……例えば?」
「ここ彩和でよく見る鳥で言えば、鷹や鷲あたりがそうかと」
「ああ、なるほど……」
一重に『鳥』と言っても、そういう方向もあるのか。たしかに鷹とか従えた巫女って、絵になるかもしれない。……どっかのゲームキャラっぽいかもしれんけど。
でもまあ、広忠の雰囲気からすると合うのは……
「やっぱり可愛い小鳥のほうがいいかな。どうだろう?」
「はい。私もあの方には、そちらの方が合っていると思います」
「じゃあそうしよう。となると、どんな鳥がいいかな……」
ネットに繋がっているPCを操作して、色々な小鳥を検索する。基本的に違和感がないように、日本に定着しているような小鳥を中心に調べてみる。
ジュウシマツ、シジュウカラ、ホトトギス等々。……なんか、徳川家でホトトギスってなると、違うこと思い出しちゃうな。でも徳川なら待とうって方針だからいいのか。家宝は寝て待てだな。
「………………」
「わっ、どうしましたエレリナさん」
「すみません、精密に描かれた鳥の絵が沢山並んでいたのでつい……」
沢山の鳥を画像検索して眺めていたら、いつの間にかエレリナさんが横から覗き込んでいた。どうやら鳥の写真が並んでいるPC画面に興味をもったようだ。
「そうだ。折角だからエレリナさん、何か気に入った鳥を選んで下さい」
「私がですか? それで選んだら……」
「俺も見て良さげならば、それを広忠様へ贈る召喚ペットにしようかと」
「それは……中々責任重大ですね」
そう言ってよりじっくりと画面を見るエレリナさん。その真剣な目は、画面にうつる写真を一枚一枚じっくりと吟味していく。そうしていくと、
「この絵の鳥、これはいかがでしょうか?」
「どれどれ。んー……ああ、ブンチョウ。これはシロブンチョウですね」
「シロブンチョウ……白くて、可愛らしいですね」
エレリナさんが選んだのは、日本ではポピュラーなペットであるブンチョウ。異世界ではそうでもないのかなと思ったのだが、調べてみると広まったのは江戸時代になってかららしい。ならばこれから広まっていくのかもしれないな。
「嘴が薄い桜色をしている以外、全身白いというのがいいかも。フローリアのアルテミスと並ぶとそれまた可愛いかも」
「それは是非見たいものですね」
楽しそうに微笑むエレリナさん。もしかして、こういった小動物結構好きなのかな。
さて。そうなるとブンチョウの構成データをLoU形式で用意したいところだが……あった。以前いろんな動物をペットとして登録することを見据えて、一般的なペット動物の画像データを用意しておいたのだ。そのデータと、簡単な特徴などを記したドキュメント形式の設定データ。これを専用のデータファイルに変換するツールに入れてゲームデータ化。
そして忘れてはいけないのは、召喚用の道具だ。皆には指輪の形をしたものを渡したけど、さすがに弘忠にソレはやめたほうがいいだろう。そんなつもりは毛頭ないが、やはり指輪はもう他の人には渡したくないってのが正直なところだ。
なので小型のコンパクトの中に魔石がはいったアイテムを用意した。ゲーム内にあった女性用の小物を少し手直しして作ったものだが、同様に設定を追加してこれもデータ化。
最後に2つのデータをダミーのパッチサーバ領域に置いて、適応用の累積パッチをあてて完了。そして一度LoUを再起動すればOKだ。
「…………よくわかりませんが、きっと凄い事をしているのですよね」
俺の作業をじーっと眺めていたエレリナさんが、再起動を実行して一息ついた俺に声をかけてきた。しまった、つい作業に夢中で彼女のことを忘れていた。
「す、すみません。作業に集中してエレリナさんの相手を……」
「いいえ、大丈夫ですよ。何かに夢中になっている時のミレーヌ様も、よくそんな感じですから」
「あ、そうですか……ははは。……すみません」
「ふふ。はい、許しますよ」
そう笑ってくれたが、やはりちょっと申し訳ない。本来ならこれでもう異世界へ戻るつもりだったが、もう少しだけ現実にいることにしよう。
「あの、エレリナさん。少し出かけませんか?」
「こちらの世界をですか? でも今はミレーヌ様は……」
「向こうへ戻る準備が終わるまで、もう少し時間がかかるんです。なのでちょっと……そうですね、ケーキでも食べにいきませんか?」
「えっ……そ、そうですね。それならば仕方ありません、お供いたします」
少し渋る様子をみせたが、一緒にケーキでもという誘いにすんなり乗ってくれた。まあ、半分は興味だろうけど、もう半分は誘った俺への配慮だろう。
とはいえ了承してくれたのだから、気が変わる前に出かけるようにしよう。
「それではエレリナさん、そのメイド服では少し目立つので着替えて下さい。以前来た時に使った部屋に、皆の背丈に合う服を幾つか用意しましたので」
「はい、わかりました。では失礼します」
そう言って部屋を出て別室へ向かうエレリナさん。さてさて、ちょっと楽しみだな。
今後も彼女たちが来た際、あまり目立たないようにと幾つかの着替えを用意した。とはいえ細かいサイズはわからないので、おおよその背丈に合うゆったりした服ばかりになったけど。
「カズキ様、着替えました」
「お、早いですね」
女性の準備は時間がかかる。そう思っていたのだが、思いのほかエレリナさんは手早く着替えてきた。気を使わせちゃったかな。
廊下にいるエレリナさんを見ようと、こちらも準備を終えて部屋を出る。
そこにいた彼女は、白いブラウスの上に淡いピンクのカーディガンを着て、下は蒼のロングスカートを履いていた。普段よくみるメイド服や、忍び装束とは全然違う落ち着いた女性の姿だ。
「どうされましたか?」
「あ、いや……ちょっと見惚れてました」
「ふふ、ありがとうございます」
もう一度じっくり見る。普段メイド服を着ているときには、まとめている髪もいまは背中にゆったりと流している。なんか、全然違う感じに見えるほどだ。……僥倖だな。色々な偶然に感謝、感謝。
「それじゃあ行きましょうか」
「はい。お願いします」
皆、少しだけ寄り道してくるけど許してくれ。




