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103.そして、君主とのご対面を

「また来てしまいましたね、彩和へ」

「そうですね……私達は一度往復した後、後日またやって来てるんですよね。ミスフェアを行き来する貿易船でも、そんな短時間では片道すら到達できません」


 フローリアの呟きに、ミレーヌが感慨深げにこの世界の常識を述べる。もちろん【ワープポータル】の恩恵だが、そもそもこの世界にはこの魔法を取得している人は少ないようだ。また、覚えている人も俺みたいに何ヶ所も無尽蔵に記録はできないとか、他人を何人も転送できないとか、魔法使用によるMP消費が半端ないとか、色々とやっかいな制限があるらしい。

 なので俺のこの手軽るにホイホイ使っているという事実は、信頼できる人物にしか教えてない。さすがに自信の婚約者の親族には、きちんと話してあるけど。おかげでちょっと連れ出すと、時々お土産を期待されたりなんかもする。まあ、それに応えるのも楽しいからいいんだけどね。


「まずは十兵衛さんに会いに、狩野の屋敷に……」

「おはようございますカズキ殿。お待ちしてましたぞ」

「…………」


 なぜここの人達は、こうもせっかちなんだろか。……いや違うな。多分相手を待たせたら悪いっていう、心情からの結果か。多少過度な気もするけど、日本人に久しく減ってきた気遣いってやつかな。


「どうされました?」

「いや、なんでもありません、おはようございます十兵衛さん。本日はよろしくお願いします」

「了解です。……では、いきましょうか」


 無言でエレリナさんを見て、少し表情を優しくゆるめたように見える。ちゃんと本人を見て安心したかったんだろうな。ついでといったらなんだが、エレリナさんを見てみると。


「……なんでしょうか?」

「いいえ、なんでもありませんよ」


 相変わらず無表情だが、婚約したという事実設定が影響したのか、以前よりエレリナさんの表情がわかるような気がする。ちょっとだけ優しい目で十兵衛さんを見てるようだ。


「はいはい! 婚約したてだからと、あまり見つめ合ってないで行きますよ。エレリナも、内心嬉しいのが全然隠せていませんよ」

「わ、私は別に……」

「いいから、いきましょうエレリナ」

「……はい」


 フローリアにちゃかされ反撃するも、ミレーヌに諭され大人しく歩き出すエレリナさん。なんか随分と可愛らしい面が、少しずつ見ててきてる気がする。

 これからこの地を治める君主と面会だというのに、軽くピクニックにでもいくような気軽さで俺達は十兵衛さんの後を着いて行った。




 賑やかな街並みを進む先に、そびえたつ城が見えた。日本人がよく知っている和式の城だ。

 この辺りの街が賑やかななのは、城下町として整備され栄えているためか。城へ近づいていくと、段々とその姿が見えてくる。周囲にお堀があり、城壁も備えてあり、まさしく典型的な日本の城って感じだ。ふと城を見上げると天守閣が目に入ったが、そこにある(しゃちほこ)は特に金色ではない。瓦の色合いも緑っぽくないし、これは現実(あっち)でいうところの名古屋城ではないようだ。じゃあ岡崎城かな? あんまり城は詳しくなんだよな俺。


 十兵衛さんの引率で、ずんずん進んで行き城内へ。途中の警備兵も、十兵衛さんを見るとすぐに姿勢を正して通してくれる。まあ、君主と直で話せるくらいだし、かなりの地位なんだろうなとは思ってたけど。

 ただまあ、少しばかり気になることもあり、ゆきに話しかける。


「十兵衛さんって忍者じゃないのか? 随分と城の人達に面識あるけど」

「ああ、忍者なのに忍んでないじゃないかっていう話? お父さんみたいに立場ある人間は、公の場にも顔を出すし皆ちゃんと知ってるよ」

「……そうなの?」

「すくなくともこの彩和ではそうだね。忍者だからって闇に生きるってことはないよ」


 言われてみれば転移先にしてる大衆食堂の庭。あの店って狩野一族がやってるんだっけ。まあ、あまり闇の稼業が捗るような世界は御免被りたいからいいのかな。

 答えながらも時々ゆきが、城の人達に向けて笑顔で手を振ったりしてる。それを皆にこやかな顔で答えて中には手を振り返してくれる人も。どうやら変に統率したりせず、和やかな雰囲気の城内だ。


 そして案内され着いた先、少し豪華な感じの扉の前に立つ。

 両脇を守備する兵により開かれた扉より、中へと入ると広い畳の部屋だった。畳の高さがいくつか段差があり、これは城主等に面会するための部屋だなと推測できた。自身の位により、どこまで進んで良いのか決まっているのだろう。


「カズキ殿、今回は特別な面会だ。君主のすぐ前まで進んでも構わないぞ」

「そうですか。では、いきましょう」


 部屋に入り、さらに先の座敷の間へ進む。そこで右へ向きを変えて初めて相手が正面になるのだ。

 一番下位の面会者は、相手の姿も見えない場所で声を届けることしかできないのだろう。

 ようやくと会えた私達の前にいるのは、いかも“戦国武将でございます”という感じではあるが、幾分若い感じであり、知略に長けた人間っぽい印象をうける男性だった。


「お初にお目にかかる。私は松平広忠(まつだいらひろただ)。この地を治める者だ」


 座った状態だが、姿勢を正ししっかりとこちらを見て挨拶をよこす。なるほど、確かに礼儀正しく誠意も籠っている。信頼のおける人物ではあるようだ。

 ──だが。

 俺が何人かに目配せをする。ミズキ、フローリア、ミレーヌの三人だ。やはり俺と同じようにあることに気付いている。そしてエレリナさんとゆきを見ると、エレリナさんは表情を変えないが、ゆきは何故か苦笑いをする。ふむ、確定だな。


「初めまして……という挨拶の前に、一つお伺いしてもよろしいでしょうか?」

「……はい、なんでしょうか」

「後ろの(すだれ)の奥にいる方は、誰でしょうか?」

「!?」


 俺の言葉に目の前の広忠と名乗る男性が、驚きの表情を浮かべる。十兵衛さんも驚きを浮かべるも、どこか納得したような表情も。


「……いつ気が付きましたか?」

「俺はなんとなくですが……そうだ、ミレーヌは?」

「はい。私は正面に立ちましたとき、奥の簾の向こうからとても強い光が溢れているのが見えました」

「この子は人が纏うオーラ……気質とか気配というものを、目で見ることができるのです。その簾の向こうから非常に強い力を持つ光が見えたそうです」

「……なんと、そのような」

「試すようなことをして、申し訳ありません」


 男性が驚きを口にした時、その奥から別の声が聞こえてきた。

 ただ、驚いたことにその声が女性……しかも、まだ幼いとさえ言えるほどの声だった。


「今の声は……」


 そう疑問を口にするが、男性はそれには答えず後ろの簾を持ち上げる。そこをくぐり一人の女性……いや、少女が前へ進み出てきた。ぱっと見の歳の頃は10歳前後で、ミレーヌと同じくらい若しくは幼いか。

 すすっと進み出て俺達の前まで来て、丁寧なお辞儀をする。そして──



「初めまして。この地を守護統括しています、松平広忠(まつだいらひろただ)と申します」



 堂々たる挨拶をしたのであった。



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