101.それは、新たなる次への歩み
すわり心地の良い上質なソファに座り、まどろむように眺める視線の先には、華やかに笑いあう5人の女性がいる。
皆一様に笑顔を浮かべ、姦しくも雅やかな雰囲気がするのは、俺の贔屓目ってものだろうか。
少しばかり気を張ったせいか、俺は少々脱力してその様子を眺め、こちらにまで届く華やかな会話を何の気なしに聞いてる状態だ。
「……ではやはり、フローリア姉さまが第一王妃ですね」
「皆さんはそれでよろしいですか?」
「もちろん。というか、そうじゃないと対外的にもよくないんじゃない?」
「そうだね。だから問題ないと思う」
「そんなわけでフローリア様が、第一王妃という事となります」
……なんか序列みたいな事話してるな。なんか他人事みたいに聞いてるけど、あれって絶対俺に関係あるよね。
「とはいえ、これはあくまで外に対しての事です。私達の間では、順番とかそういったものは無しにしたいと思います。いかかでしょう、賛成の方挙手を願います」
そう言うと全員が挙手をする。なるほど、対面的な序列設定であり、仲間内では平等だと。いいんじゃないかな、うん。
「ありがとうございます。では満場一致で賛成でしたので、そのようにしますね。後の序列設定としましては、ミレーヌ、ミズキ、ゆき、エレリナという順でどうでしょうか?」
「え? 私が三番でいいの?」
「ミズキさんは一番長い付き合いをしてますし、本来なら一番でも良いくらいですよ」
「あのー、私がお姉ちゃんより上っていうのは、設定だけとはいえ……」
「エレリナが最後なのは、エレリナ自身の申し出なんですよ。だからいいのです」
なんか楽しそうに話しているなぁとしばらく眺めていたが、さすがに段々と気持ちが戻ってきて現状を把握してくる。……なんか目の前で話してる内容が、えらく気恥ずかしい事の気がしてきた。
「あー……、ちょっといいかな」
ついつい会話を止めてしまった。なんかこれ以上は居た堪れないような気がしたからだ。
とはいえ咄嗟に呼びかけたけど、話す事なんて……あっ!
「カズキ、どうしましたか?」
「実はだな、エレリナさんの件が重要すぎて、もう一つの話をすっかりわすれてた」
「もう一つの話って……ああーっ!」
俺の言葉を聞いて、ゆきもその事を思いだす。二人そろって失礼なことしてるよな。
「え、何? 何の話?」
「実は彩和の君主より、日程が取れそうなので面会をしたいとの言伝をもらってるんだ」
「ああ~」
俺の言葉にゆき以外の全員が、「そんな話もあったなぁ」という表情を浮かべる。ここにいる人間はもう、どいつもこいつも大概だな。まあ、エレリナさんとの婚約話に比べちゃうと、いくら彩和の君主が関わっていようが二の次三の次だよ。
「まあ、そんな訳で一度ここにいる全員で行きたいんだけど。予定としては明日すぐに向かうのであれば、俺が今から十兵衛さんに話しに行くけど」
「私はかまいませんが……皆さんの中で、明日は外せない用事のある方いらっしゃいますか?」
フローリアが全員を見るも、皆特に用事はないらしい。
「では明日、彩和の君主様へご面会に赴く事に賛成の方、挙手を願います」
先程と同様に皆が迷いなく挙手する。それを確認し「ありがとうございます」との言葉で手を降ろす。なんか知らない間に女子間に、統率教育が施されてるっぽいんだけど。そんな女性陣の元締めこと、聖王女フローリアが俺の方を見る。
「それでは明日、彩和へ行きたいと思います。ですが、たしか『時差』というものがあり、ここグランティルとは時刻がずれているのですよね?」
「そうだった。彩和は今夜だから、向こうの明日に合わせるとこちらは夜と言う事に……」
そう俺が言った瞬間、皆の目がキラーンと音がするほどに輝く。なるほど、わかりました。
「……なので、以前のように一度現実世界で時間調整をしてから、彩和へ向かうことにします。よろしいですか?」
俺の言葉に、全員がもれなく賛成したのは、言うまでもないことだった。
あの後、場の雰囲気が戻りまたまた王妃がとか、そういった話になりそうだったので俺だけ十兵衛さんに会いにいくと城を出た。すぐに戻るから二人はそのままここに居なと、ゆきとエレリナさんは置いてきた。 そしてささっとポータルで移動。
すぐさま狩野の屋敷へ向かおうと思ったが、丁度大衆食堂の前に十兵衛さんがいた。もしかして、待っててくれたのかな?
「十兵衛さん、もしかして待たせてしまいましたか?」
「おお、カズキ殿! いやいやお気になさらず。待っておりました」
……うん、言葉使い戻ってるね。やっぱこっちのほうが十兵衛さんらしいや。
「ではまず君主様への面会ですが、全員問題なく明日の午前にお伺いします」
「そうですか。それはよかった」
そう言った後、十兵衛さんは少し不安そうにこちらを見る。そして何か言いそうにしては、歯痒そうな表情をしたり。はっはっは、ちょっとイジワルだったかな。
「それともう一つの件ですが……」
「は、はい!」
「エレリナさん──ゆらさんとの婚姻話ですが……」
「……はい」
ちょっとばかりタメてみる。あ、十兵衛さん瞬きすら我慢して言葉を待ってる。
「正式に受けてもらえました。ゆらさんと結婚します」
「おおおおおおぉぉっ!!」
「うわ!?」
両手を広げたがばりと抱き着かれた。普段なら「お、俺にはそんな趣味は!」とか言ってはねのけるのだが──
「……ありがとう……ありがとう……っ」
強く抱きしめているはずの手が震えて、全然力が入っていない。気持ちが心にとられすぎて、感情も涙も制御できてないのだろう。
このがっしりした立派な大人の男が、まるで小さな男の子のように素直に只々泣いている。
嬉しくて、本当に嬉しくて。
だから俺もちゃんと返事をする。
「こちらこそありがとうございます。今後ともよろしくお願いします」
「ああ、こちらこそ、よろしく頼む……っ」
受け止めた想い形。俺は生涯忘れないと心に刻み込んだ。




