1.それは、はじまりの夢?
追記:現在本作は更新を停止しております。再開は未定です、申し訳ありません。
余所にて二次創作を書いたことはありますが、オリジナルを書いたのは初めてです。
不慣れな点も多々ありますが、どうぞよろしくお願いします。
「……よし、こんな感じでいいかな」
黙々と進めていた作業がようやく終わり、誰に聞かせるでもなく呟いたのは──俺、七尾和樹。
自宅のパソコンの一つをスタンドアローン化して、会社から持ってきたハードディスクを接続する。
……別に悪いことをしているワケじゃない。会社の機器を横領したとかじゃなく、不要になったからもらっただけの話。
だってその会社は……もう、なくなっちまったからな。まあ、いわゆる倒産ってヤツだ。不景気身に染みるとはまさにこれだね、くっ。
とはいっても、実はそこまで深刻に考えてはいなんだけどね。
その倒産した会社ってのが、いわゆるゲーム会社で、俺はそこでプログラムを組む仕事をしていた。時期がよかったのか、当時は世間のブームにも乗りゲームは飛ぶように売れた。
だが、そんな時期が永遠に続くわけもなく、いつしか衰退してかつての栄光を見ることは出来ないまでに下降した。
業績が目に見えて下がれば、それに伴って社員もどんどん減っていく。そして、いつしか片手でも余るほどの社員しか残らなかった。
そんなワケで、本日付けで俺がいた会社は倒産した。だが勤続時の蓄えがかなりあるのと、元々プログラムが好きでソフトやアプリを幾つか開発していたため、そちらの収入もかなりのものだった。
だからなのだろう。俺は会社から最後にもらうことができたハードディスク……これだけで十分に思えた。
「さてと……ちょっとエミュ鯖風味だけど、実働データだからな……ちゃんと動いてくれよ」
またまた独り言を呟きながら、パソコンの電源を入れる。……一人暮らしは独り言が多いって聞くけど、まあ仕方ないんじゃないかな。
などと言い訳じみたことを思考してる間にも、モニタにはサーバ状況を表示するプロンプトが表示され、内容がどんどんスクロール表示されている。
一見したところ大きな問題もなさそうだ。そう思っていると、画面中央に大きなウィンドウが出現する。その中に表示されているのは、
『Live on Universe』
──ライブ・オン・ユニバース。
俺がいた会社の主力商品であり、看板ゲーム……だった。
背景は3Dモデルにテクスチャを丁寧に貼り、画面中央に表示される自キャラは2D絵という組み合わせのMMOだ。
フィールドの描画にのみ3Dを生かし、他は優先度を考慮しての2D描画のため、GPU負荷を大きく減らすことが可能になっていた。
その為、俗に言う“低スペックパソコン”と言われる少し古くて描画能力が低いパソコンや、グラボ……グラフィックボードという、緻密かつ高速な描画を可能にする描画特化ボードを搭載していないパソコン──オンボードパソコンでも、区別なく遊べるのが大きなウリだった。
しかしパソコン業界の進歩は、残酷なほどに目覚しい。
今日買ったばかりの高性能なCPUもメモリも、明日になればどうなっているか予想もつかない世界。まあ、明日は大げさかもしれないが、一週間後ではどうだろうか? 半月では? 正直言ってしまえば、一ヶ月も経過すればほぼほぼ最新機種ではないだろう。
半年もすれば、すでに1~2世代ほど前のスペックだと言われても不思議ではないというのも、案外過言ではなく現実である。
特にオンラインゲームをするプレイヤー達は、ハイスペックなパソコンを欲する傾向にある。そうして、ハイスペックな──ハイエンドパソコンあたりを入手すると、「せっかくだから」とそれを存分に生かした別のゲームにも興味が沸くのもまたしかり。
そうなってくると最終的に響くのは、その会社におけるマンパワー。作業を受ける人材がいなければ、目まぐるしく進むゲーム業界では瞬く間に取り残されてしまう。
そして、その競争に……まあ、端的に言えば負けてしまったわけだ、ハイ。
サービス終了を迎えてしまった今でさえ、「ああすればよかった」という後悔と共に、「人手不足はどうにもならんな」という諦めの言葉が自分の中に残留している。女々しいとは思うけど、こればっかりは時間が解決してくれるしかない問題だろう。
…………いかんいかん、気持ちを切り替えないと。
画面はずっとライブ・オン・ユニバース……通称「LoU」のタイトル画面を表示して、メインテーマ曲を流し続けていた。画面をクリックすると、軽快なSEが鳴りIDとパスワード入力を促す。
IDとパスワードを入力して『START』と書かれたボタンをクリック。
画面下部にあるログ表示エリアにメッセージが表示されていく。
> IDとパスワードを確認中....OK
> アップデート情報を確認中....
「まあ、今後は普通のアップデートは無いけどね」
メッセージのアップデート確認ログを見て、思わず呟いてしまう。少し寂しい。
> アップデート情報を確認中....OK
> ゲーム開始準備が終わりました。
> それでは『Live on Universe』の世界へどうぞ!
見慣れたメッセージが表示されて画面がホワイトアウト。そして画面内にキャラ選択ウィンドウが表示される。そこにあるキャラは二つ。名前はどちらも『カズキ』なのだが、その性能はまったく異なる。
一つは俺が普通にLoUを遊んで育てた、いわゆる一般プレイヤーキャラだ。
ゲームの中ではよくある冒険者キャラで、剣を主体に戦うスタイルのキャラ。一応普通に遊んで育てているキャラなのだが、多少融通の利いたアイテムで強化してあるため結構強い。廃人キャラとか呼ばれてる人たちのキャラとPVPとかしても、そこそこいい勝負が出来るほどにはなっている。
そして、もう一人のカズキ。こっちは、前者以上にワケありな……というか、特異なキャラ。
ぶっちゃけると、アレだ。『GM』だ。
キャラステータスは無論、装備やスキルを特殊な物を持ち、ゲーム内での違反行為などを取り締まる為の機能や権限を有している存在。無論それを悪用するのは問題外であり、その施行は大きな責任と義務が付随している。
……とはいえ、今このゲーム内では犯罪行為など起こるはずもない。結果、ただただ行き過ぎたチート持ちキャラというポジションになってしまっているんだが。
ちなみにGMという性質上、正確な名前は『GM.カズキ』
「まあ、とりあえずはいつもので……」
カーソルをただのカズキにあわせてクリック。
『カズキ』でゲームを始めますか?
確認ウィンドウが出てきたので「はい」をクリック。
さあ、いよいよLoUの世界にインだ。自分も携わり、長年遊んだものだが、いつでもこのインの瞬間はドキドキするものだ。
だが、今日はどうにも様子が違った。
なぜか、画面が……いや、自分のまわりがやけに眩しく感じた。まるで瞳孔が開きすぎて、光源を強く見つめてしまったかのように周囲を白い光に覆われてしまったかのような。
なんだこれは、と考えるよりも先に、その光に包み込まれるかのように俺は意識を手放した。
「………………はっ!?」
長い一瞬の間を経て、思わず意識を取り戻す。いつのまにか、先ほどまでのまばゆいばかりの光は消えうせていた。
だが、問題はそこではない。
「どこだ、ここ?」
ポツリと呟いたのは、答えを求めての言葉というよりも、今自分がここにいるけれども……という気持ちをなんとか抑えようとした感情からの発言だろうか。
なんせ目の前にあるのは、俺のパソコンでもなければ、ここは自分の部屋でもない。
どこかで見たような村、草原、山々の風景。見覚えがあるような気がするものの、確実に訪れたことの無い場所に今立っている。というか、実際問題自分の部屋にいたのに、次の瞬間こんな場所に居ることがありえない。
ということは。
(まあ、夢だろう。ここ数日は会社も最後ということで、色々忙しかったからなぁ)
などと考え、側にあった岩に腰掛ける。お、なんかゴツゴツ感が妙にリアル。
とりあえず、ボー……と風景を見る。よくよく目を凝らせばこの世界は、LoUっぽい雰囲気で溢れている。
(つまり今俺は自室のPCの前で寝落ちしてるのか。まあ、前回のログアウト位置はフィールドじゃないから死に戻りもしてないからいいか)
今までなら街中でボケーと突っ立っている状態で、寝落ちや離席してるように見えていたかもしれないが、今このLoUに繋がっているプレイヤーは自分しかいない。そう考えたら、せっかくの夢世界を楽しんでおきたいという気持ちが湧いてきた。
(あっ、ログアウトはどうなってるのかな……)
そう考えた瞬間、今まで無意識に気にしてなかったものに気付いた。視界の周囲の色々な場所に、ゲージやらなにやらがあるのだ。左上にHP/MPゲージ、左下に幾つかのメニュー、右下にログ表示用らしく枠が見える。
試しに左下のメニューに視線を移すと、そこにある幾つかの項目が目についた。これって触れるのかな……と思った瞬間、目の前にスライドしながら大きくなって表示された。なにもない空中に、メニューが投影されているうような感じだ。
[装備][アイテム][パーティー][チーム][システム]
(ここもLoUと同じ感じか)
ならばと『システム』に指を伸ばして触れてみる。すると確かに触れた感触があり、続いてシステムメニューが展開された。
(一番下に……あった)
そこにある『ログアウト』の文字に安堵する。以前読んだことのある小説で、ゲームの中に囚われてしまう展開ではログアウトボタンが無い描写があったので、なんとなく気になったのだ。
(きっとこのボタンを押すと、夢から醒めるんだろうな……)
それはそれで残念だ。そう思ったので、メニューはさっさと閉じた。
(さて。せっかくの夢だし、時間は有限だからな。どうしようか……)
そう思って辺りを見渡そうとした、その時。
「あっ! お兄ちゃん、こんな所にいた!」
「は?」
驚いて声がしたほうへ顔を向けると、こちらを軽く睨むようにして女の子が歩いてくる。
その女の子は、レザーの軽防具を纏ったその15歳前後。だが、その顔に見覚えがあった。
何より俺こと『カズキ』を兄と呼ぶのであれば、確定だろう。
「……ミズキ?」
そこに居たのは、LoUでのカズキの妹『ミズキ』だった。
誤字脱字などで、今後修正していく事もあるかと思います。