表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

君を幸せにする方法

作者: 雪平アズサ



 彼女はいつも、ギリギリのところで決断する。



「じゃあこっちの赤い椅子でいい?」

「うん」

「かしこまりました。では、こちらの赤色で」

「はい。カードで、お願いします」

「お預かり致します」


 カードを渡したその瞬間、隣にいる彼女が自分の左手首をぎゅっと握りしめた。


「…すみませんっ、やっぱりこっちの白いので!」


優柔不断な君は、家具とか引っ越しとか、大事なものを選ぶときほど土壇場で「ちょっと待った!」ってなるタイプだった。


 正直それで困ることも迷惑することもあったけど、本気で嫌になることはなかった。


 なにより、土壇場で選択を変えた彼女はそれによって後悔したことは一度もなくて、いつも幸せそうに「やっぱりこっちでよかった」って笑う彼女がかわいくて、大好きだから。


 結婚式の会場も、日にちも、ドレスも、散々悩んだね。だけど流石に土壇場で…ってことはなかった。やっぱり二人で一緒に話し合って考えた甲斐があったね。


 その証拠にほら、あれだけ悩んだウェディングドレス、すごく似合ってるよ。

 靴だってベールだって、まるで君のために作られたようだ。


 綺麗だよ。


 僕がそう言うと、君はありがとうと笑って、自分の左手首をぎゅっと握りしめた。


「…いいよ」

「え?」

「いつもみたいに、やっぱりこっち!って、言っていいよ」

「えっ…な、なんで」


 だって、左手首、握ってたから。その癖、自分では気がついてないんでしょ?



「わかるよ。だって、ずっと見てたんだから、隣で」



 だからわかってたよ、本当は。君の笑顔が、時々曇るのを。

 どうしようもなく泣きそうな顔をして、何かを僕に言おうとしては飲み込むのを、本当はずっと、気づいてた。


 だけど知らんぷりしてた。君を失うのが、嫌だったから。


「ごめん」

「うん」

「ごめんっ」

「うん」

「ごめんなさいっ…ごめん、」

「いいよ」


 今までずっと、繋ぎ止めてたのは僕だから。

 ここまで付き合わせて、ごめん。



「行って、いいよ」



 涙をぼろぼろ溢した君は何かを言おうとして口を何度も開いては閉じたけど、結局何も言わずにただ深く頭を下げた。

 顔を上げてからは一度も僕の目を見ることなく、ドレスを持ち上げて走っていった。



 ねえ、君を愛していたよ。

 いつもギリギリのところで選択を変える君は、後悔することがなかったね。

 「やっぱりこっちでよかった」って笑う君の顔が、大好きだったんだ。



 今回だけは後悔すればいいと願う僕を、どうか許して。




【 君を幸せにする方法 】




 「やっぱりあっちにすればよかった」と泣く君が、どうしても想像できないんだ。







評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ