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私の魔法と興味の扉

「ついたよーって、どうして死にそうな顔してるの?」

「魔女のこと、強く考えすぎ……」


 結局、腕に支障はなかったものの、痛みがジンジンと残っている。無理に引っ張られた影響だ。


「まぁ、どんまい! ここはすごく良い場所だから、ここで落ち着きなって!」

「そうさせてもらうわ……」


 リフィーの声を聴いて周囲を見渡して確認してみる。東京だというのに、木に囲まれている。後ろにはさっきのカフェが見えるが表からの風景とはずいぶん異なっている。今は客がいないが、風を浴びながら食事をするためか、外に何個かテーブルや椅子があって、そこにはティーポットが置いてある。自分の目の前にある木に囲まれている空間は庭のようなものでちょっとした泉や橋があり、自然的で静かだ。


「なるほど、綺麗でいい場所と言うのも頷けるかも」

「でしょ!? カフェの皆で作ったから、自信があったんだ!」

「それはなんだか素敵ね」


 一緒に協力しあえる人がいるというのは、素晴らしいことだと思う。思わず頷きたくなる。


「で、魔法! ここから見せれるんでしょ!?」

「一応やれるけど」

「じゃあ、お願いね! まーほーう! まーほーう! まーほーう!」


 なんだその手拍子付きの魔法コールは。プレッシャーを感じざるを得ない。キラキラとしたリフィーの目がきっちりうまく成功させないとと考えさせる。


「全く……外で使うとは思わなかった」


 リフィーの期待にはそれなりに答えないといけない。息を吸って、呼吸を整えて、魔法の準備をしよう。……あと、それから。


「何取り出してんの?」


 私がいきなりトートバックを漁りはじめたのが不思議だったのだろう。質問を投げかけてくる。


「袋よ、魔法使うときにあると便利だからね」

「袋が、便利?」

 リフィーが何を言っているのかわからないという目で見つめてくる。理解できないのもしょうがないと思う。

 袋の大きさを確認する。このサイズなら問題ない。

 そもそも、自分の魔法の性質は、誰よりも自分が理解している。効果的な使い方も熟知しているつもりだ。この袋はその成果の一つで、初見でこれの使い方を解られたら個人的に切なくなりそうだ。


「私のトートバック、持ってて。それから周囲から少し離れたほうがいいかも」

「そんなに危険な魔法なの?」

「危険でもないはず。多分」

「多分って……」


 やりすぎると危ないが、調整ができないわけではない。今回はしっかりと調整して行おう。今度は深く、深呼吸。人前で魔法を使う機会はあまりないので緊張は拭えない。


「さて、準備ができた」

「待ってたよ!」


 周囲に危険物は無い。巻き添えを受けるものもないだろう。魔法を発動しよう。

 まず、自分の掌に魔力を束ね、詠唱する。


「遍く星、流星の光、今、我が元に集え! 輝きの光を束ねて降り注げ!」

「おぉ、かっこいい呪文! 中二病っぽい!」


 なにか聞こえたが気にしない。まだ呪文は完遂していないのだ。

 魔法のイメージを行う。今回は安全を重視するべきだろう。それを念じ、言葉にし、呪文に昇華させる。


「降り注がれし流星よ、力を圧し、我が元へ集え! 収束せよ!」


 呪文全てを唱えた。調整はこれくらいでいいだろう。

 魔法を発動するための、言葉を今、解き放とう。


「コンフェイト・シューター!」


 私の言葉が呪文となって、魔法を発動させる。

 指を空に向けて、凝縮した魔力を解き放つ。


――さて、ここからが大変だ。


 唱え終わった瞬間、速攻で袋を大きく広げる。あと10秒でアレが降ってくる。


「え、なにも起こってないんだけど? 意味ありげに挙げた指とかなに?」

 9秒。

「どういうことなの?」

 8秒。

「まさか、なんちゃってとか?」

 7秒。

「いや、でもなんか凄そうだったし、違う?」

 6秒。

「……静かだね」

 5秒。

「そっち行ってもいい?」

「駄目っ、まだ、駄目だって!」

 カウントがずれた。 残り3秒。

「何が起こるの?」

 2秒。

「……来る!」

 1秒、空を確認する。よし、降ってきた!

「近寄らないで! ちょっとだけ危険だから!」

「えっ、うん! って、なにこれ!?」


 リフィーにとっては想定できないだろう。当然だろう。空から金平糖が降ってきているのだから。私の魔法は『空から金平糖を降らす』というもの。呪文を唱えると、この現象を引き起こせるのだ。

 初めて見た不思議な現象に感嘆の声を上げているリフィーを見るのは面白いが、今、私がやるべきことはリフィーの観察ではない。袋を広げて、金平糖を集めることが重要だ。


 私の頭に金平糖が次々と降ってくる。ちょっと痛いが別にたんこぶになることはない。追加の呪文によって、降ってくる速度などを調整しているから。問題は、金平糖をどれくらい回収できるかだ。せっかく降らした金平糖を地面に落としたままにするのはもったいないし、後片付けが面倒だ。

 私の元に収束させた金平糖を袋の中に入れていく。降らせる対象を私にしてあるから、ずれることはない。『我が元へ集え』という呪文の力は強いのだ。だから、私の元に確実に金平糖が集まってくる。


「その袋、破けたりしないの!?」

「大丈夫よ、耐えられるようにしたお手製のやつだから」


 どこでも使えるように強度が高く、手軽に持ち歩ける袋を用意してある。だから、取りこぼしはあり得ない。跳ねたりしない限りは。


「ん……そろそろ終わりかな?」


 空から降ってくる金平糖の勢いが弱くなってきた。そろそろ降りやむのだろう。呪文で事細かに設定すれば降ってくる時間も調整できるが、今回は面倒だったから、それはしなかった。そうした場合、金平糖の降ってくる時間は大体45秒から1分くらいになる。この時間を私が知ることはない。降らせる前に時間を設定したらきっちり時間を把握できるけど、そうでなければ適当な時間に降り止む仕組みなのだ。


「だったら、最後にやることはっと」


 上を向いて、最後に降ってきた金平糖を食べる。私に降り注ぐ時の圧力や引力は魔法によって、最低限に緩めているし、口に入れた瞬間、ゆっくりと下に乗るように事前に調節してある。だから、喉に詰まらせることはないのだ。


「ん、久しぶりに降らしたとはいえ悪くない味だ」


 金平糖をじっくり味わう。普段甘ったるいお菓子やデザートばかり食べているから、こういう甘さを忘れてしまいそうになるが、金平糖がもっているさくっとした中にある甘さというのはやはりたまらない。何個も連続して食べたくなる。


「っと、これがアル・フィアータの魔法、コンフェイトかな」


 リフィーに袋を見せながら言う。これなら満足してくれるだろう。


「すご……」

「すごいです! 今のなんなんですか!? 魔法少女さんですよね、魔法反応ありますし、サインください!」


 ……これはどういうことだろうか。リフィーの言葉を掻き消して別の人が私に向かって走ってきた。イノシシかと思うスピードで。


「い、いや魔法少女じゃないんだけど」

「いーや、魔法少女さんですよ! 間違いない! 私の魔法がそう訴えかけてきてますから!」


 話を聞かない、困った。魔法を使う前のリフィー以上にぐいぐい迫ってくるから反応に困ってしまう。

 ……とりあえず、少女の容姿を確認する。リフィーは青髪のショートヘアが目立つ、ボーイッシュなイメージだったが、今、私の目の前にいる少女は緑髪のロングヘアーだ。白を基準にしたワンピースを着こなしていて、全体的なイメージとしては、やはり魔法少女といった感じだが、どこかふんわりした印象を覚えた。


「アル・フィアータさんですよね!? 机に置いてあった紙に書いてあったから、わかりました! その名前、今日初めて聞いたんですけど、アニメ化してないですよね!?」

「リフィー、この子も魔法少女かな」


 体を密着させる勢いで接近してくるこの女の子は何者だろうか。魔法少女の熱狂的なファンなのだろうか? それとも魔法少女そのものなのだろうか。


「んー? あぁ、すみれちゃん! よく見ると、すみれちゃんじゃない!」

「あれ、そっちにいるのはリフィーさん! もう、新しい魔法少女の方を見つけたら私に声を掛けてって言ったじゃないですか!」


 ……私の疑問、質問をすっぽがしてリフィーが少女に向かって走っていった。結構酷い。私のことはスルーか。


「あぁ、ごめんごめん。てっきり忘れてたわー」

「で、アル・フィアータさんは魔法少女ですよね!?」

「本人に聞いたほうが早いと思うよ?」

「どうなんですか!?」


 興味あります、と訴えかけてくる瞳で私を見つめてくる。

 いや、いきなり話を私に持ってこられても困る。もっとも返答しないとすみれと言われた女の子は文句言いそうだから答えるけど。


「いや、魔女よ?」

「え!? 魔女なんですか!? リフィーさん、倒さないとやばくないですか!?」


 びっくりしたそうで、すみれはリフィーのほうに勢いよく振り向いた。

 今の返答には少し唖然としたが、逆に魔法少女っぽい人に倒さないといけないみたいに言われたのは、ちょっと感動を覚えた。私も魔女の歴史に乗るときはこういう風に言われるのかもしれない。もっとも、悪役にはなりたくないけど。


「待った。アルちゃんはアニメに出てくるような悪い魔女じゃないよ」

「え、そうなんですか?」

「私を信じて、すみれちゃん。少なくとも私の目に間違いはないわ」

「リフィーさんが、そういうなら信じます! と、言うわけでよろしくお願いします、アル・フィアータさん!」

「せ、せめてアルって呼んでほしいかな。よろしくね」


 からっと自分の意見を変えてもいいのかと突っ込みたくはなったが、面倒事になりそうだから控えておこう。


「すみませんアルさん! 私は春野すみれです! よろしくお願いします!」

 この子は元気、というより素直なのだろうか。敬語ではきはき喋るすみれの姿に、思わず苦笑したくなった。

「リフィーさんより、色々大きくて、スタイルが良くて、流石魔女って感じがします!」

「い、いろいろ? スタイル?」


 突然なに言ってるんだとは思ったが、そう言われると気にはなる。すみれから目を逸らしつつ自分の体を確認してみる。

 ……そんなにあるとは考えられないんだけどな。それに、みっちりとした体つきでもないし。そもそも、身長が若干高いのは、今の私の体の特徴かもしれないが、色々大きいというのはちょっと違うんじゃないだろうか。スタイルいいと言われるのも、なんか妙な感じがするし。


「ふーん。すみれちゃんも、師匠という目の上のたんこぶがいるのにそんなこと言うんだ。はしたないこと言ってたって、付け口しちゃおうかなー?」


 リフィーは先ほどのすみれの言葉に不満を抱いたようだ。負のオーラ的なものが溢れているのも感じる。笑っているような顔をしているが、声のトーンが低い。


「いやー! 師匠に言うのだけは言わないで! 師匠厳しいから、お仕置きされちゃうから!」


 一方、師匠というワードが出てきた瞬間、すみれはまるでネズミかなにかのように私の近くから離れ、近辺にあった木の陰に逃げていた。そんなに怖いのか、師匠と呼ばれた人は。興味深い。


「すみれもここまで言ってるんだから、拗ねるのはやめていいんじゃないかしら」

「いや、持ってる人に言われても、辞める気ないから! 私だってかっこいい女性になりたいのよ! 師匠がだめなら、私の手でぼこぼこにしてやるからな! すみれー!」

「きゃー! アルさん助けてー!」

「私そんなにスタイルいいのかなぁ……」


 多分二人の騒動は子供の喧嘩のようなものだろう。しばらくしたら収まる。私が介入する必要もないだろう。

 しかし、持ってる人か。私みたいな平均的なスタイルの女の子がそう言われるのなら、ナイスバディと評される、いわゆるグラマー系の魔法少女は案外少ないのかもしれない。研究対象として考慮しておこう。


『魔法少女の体型と魔女の体型。スリーサイズの平均値はどのようなものか』


 こんなものを調べる意味はあるのだろうかとも思ったが、女の子の体型というのは割と重要な要素だ。少し、変態っぽいことを言ってる気もするけれど、気にして然るべき問題だ。まだ会ったことはないが、『洋服の魔女』などがいたら、いい服を仕立てあげてくれるかもしれないし、書き留める価値は大いにある。ちゃんと残しておこう。


「にしても、可愛らしいかも……?」


 目の前でぽこぽこと力を入れてないパンチで服を叩き合っているリフィーとすみれを見て、ちょっと笑いがこぼれてしまった。じゃれあっているような行動を見ていると、魔法少女だって少女だな、と少し考える。見ていて微笑ましいものだ。


「もうちょい長引きそうかな?」


 でも、終わらないことには会話が出来ないので、とりあえず近くの自動販売機でアイスココアを手持ち用に買って時間でも潰しておこう。なんとなく、今はとびきり甘いアイスココアが飲みたい気分だ。すっぱいオレンジジュースもいいかなと一瞬考えたが、やっぱりココアだ。甘い一時には甘い一杯。これこそ至高なのだから。

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