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私と魔法少女

 狙いのアニメ専門店には、早く到着できた。大きな文字で店の名前が書かれていたのも早く着けた理由になるだろう。


「ふむふむ、ほうほう」


 アニメ専門店の入口には、広告用のテレビが設置されていた。そこに映し出されている映像がどうにも面白いので、じっくり見てみる。


「ねっとわーく? れべるあげ?」


 テレビなどのワードはギリギリわかるのだが、専門用語はちんぷんかんぷんだ。


「えすえぬえす? ばーちゃるりありてぃ?」


 次から次へと、知らないことがテレビの映像に映されていく。ダメだ、見れば見るほど全然わからない。

 こういうよく分からない単語が並ぶといささか着いていけなくなる自分が恥ずかしい。いかん、勉強不足だ。メモしよう。


『ねっとげーむとは何か。れべるを上げるとはどういうことか。ばーちゃるりありてぃ、えすえぬえすとは』


 これでよし、満足。取り出したメモ帳をポケットに入れる。その時、テレビの映像も切り替わったらしく別の作品の広告が行われていた。うむ、気になるぞ。しっかりチェックしないと。


「魔法……魔法! ほう、魔法!」


 次の広告映像では魔法を操る少女が描写されていた。映像美もさることながら、人間文化にも魔法が浸透しているという事実に不思議と高揚感が湧いた。


「魔法、魔法……って、まほう、しょうじょ?」


 知らないワードが飛び出てきた。魔法に、少女で魔法少女なのだろうか、と思ったが映像内の文字に『魔法少女』と書いてあったので恐らく合ってるだろう。


「魔法少女かぁ」


 それは魔女と近い存在かという疑問が出てきた。私自身、老婆の見た目をした魔女でもないし、魔法を操る女の子だ。そういう意味では、私も魔法少女と呼ばれてもいいんじゃないだろうか、魔女だけど。でも、それはなにかしら違うような気がする。しかしそれでいて同じような、魔法を操るというニュアンスのワードに引っかかりを覚えた。


「まずは、メモかな」


 今日はメモ帳がよく仕事をする。持ってきてて良かったと改めて感じた。


『魔法少女と魔女の相違点または同一点』


 これもよし。しかし、このことについては人間に話を聞かないと答えが出ない問題だろう。魔女図書館にいる魔女に聞いても、それは私たちのことではないのか、と言われてしまいそうだからだ。だからこういう疑問は現地で調査せねばなるまい。蛇の道は蛇、人間の文化は人間に、だ。


「すみません、質問していいですか?」


 同じく映像を見ていた隣の男性に声を掛けてみる。私より身長は高いが、人が良さそうな顔をしていたし、そもそも熱心に魔法少女の映像を鑑賞していたから話が合うと感じたのだ。


「大丈夫だよ。魔法少女のことなら何でも聞いてくれ」


 問題なく承諾してくれた。ありがたい。


「その……魔法少女って、どんな存在なんですか?」


 まずは性質についてだ。魔女と異なる点が見受けられるかもしれない。考える男性の姿を見て、思わず私の知識を求める脳が刺激される。


「一概に言うのは難しいが……魔法を操る少女、というのが基本じゃないかな?」


 それは当然だ。名前からして。


「うーん、ほかにも特徴とかないですか? 何かのために戦うとか」

「魔法の力で正義のために戦うとか、そういうのかい?」

「そう、そういうのです!」


 正義のために戦う、かっこいいじゃないか。早速メモしよう。


「あと、そうだなぁ。非現実的な何かと一緒にいるとか?」

「ううん、精霊みたいなもの?」

「そうだな、そういうやつ。マスコットキャラクターが力を貸すパターンが多いな」

「なるほど……精霊契約」


 魔女が自分の得意分野ではない魔法を使う場合、精霊の契約を利用することが多い。魔法少女も似たようなものなのだろうか。そうなるとマスコットキャラクターと言われるものが精霊か。書き留めよう。


「あと、魔法にも種類があるかな。魔法少女ごとに特徴があって、使える魔法が違うのさ」

「ほう、種類」

「空を飛んだりとか、お菓子を作り出すとか。最近見たやつなら瞬間移動するやつとかもあったな」

「ん……魔女に似ている?」


 話を聞きながらメモを取っていた私の手が止まる。どうにも気になった。

 得意分野の魔法があって、多種多様。魔法にも種類がある。ここに来て魔法少女が魔女に似ている存在だという実感を改めて感じた。お菓子の魔女の魔法を私は使えないし、特製の鍋を召喚する魔法も使えない。けれども、私しか使えない魔法はある。

 どうにも、似ている。魔法少女は魔女であるという図式は短絡的ではある。しかし、これほどそっくりなことが多いと色々気になってくる。


「あの、質問していいですか?」

「あぁ、構わないよ」


 ありがたいことに男性は、私の疑問に対し、真面目に聞いてくれている。だから、安心して質問できる。


「魔女と魔法少女って私は似てると思うんですが、それについてはどう思いますか?」

「魔女と魔法少女……」


 質問を投げかけられた男性は、深く考えはじめた。

 さて、どう来るか。ストレートな質問だから、どう返されてもいいように覚悟をしなくては。


「似てると言うのは困難じゃないかな。魔女は悪い奴という側面が強いし、呪術的、悪魔的な要素が強い。一方魔法少女はヒロイックで、正義とか日常の面が強い。現に、魔法少女のアニメには魔女が敵役で登場することは多いだろう?」

「う、そ、そうなの?」

「最近やってた魔法少女のアニメでも、魔女は悪い存在として登場してたぞ?」


 そうだったのか。それは知らなかった。


「つ、つまり、同一視するのは良くないと?」


 男性は黙ってこくりと頷いた。自分の見解がバッサリと切られたのはショックだったが、新しい目線が提示されたのは良いことだと思いたい。

 しかし、やはり敵役か。どうにも頭が痛くなる。人間の歴史においてもやっぱり悪の側面が強いのか、魔女は。


「まぁ、魔女っ娘という概念もあるから、言い切れない点もある。色々な面で魔法少女は歴史が深いんだ」

「そ、そうですね、あはは……」


 また新しいワードが出てきたが、頭に入ってこなかった。それ以前にまたしても頭がパンクしそうだ。魔法少女は、魔女とは異なる歴史を歩んでいて、それでいて深い世界を持っている。一日で全て理解するには一日中ココアを飲まないと不可能に近い。若干侮っていた。


「今日はお話をありがとうございました」

「また、どこかしらで会ったら話をしたいね」

「は、はい! そう、ですね!」


 似たような回答を繰り返すくらいには知識量のギャップを感じた。このまま話すと、そのまま呑まれそうな気がしたので、そそくさと手を振り、会釈しながら、男の人から離れた。今の私では彼の話についてこれないだろう。まだまだ話したりないという男性の顔を見ていると、なんてバイタリティだと驚愕を覚える。

 このままでは気持ち的に燃え尽きて灰になりそうだ。せめて何か甘いものを食べないととてもつらい。

 そう考え、男性の目から離れながら、アニメ専門店の中に入ることにした。

 こうなったら、サクサクしたものを食べよう。気持ち的にそういうのを食べたい。クッキーでも買って食べようか。あと素晴らしい飲み物、ココア。





「なかなかに美味、癒されるし悪くない。好印象だ」

 残念ながらココアは売ってなかったが、ツンデレクッキーなるものを見つけたので早速購入してみた。いい具合にミルクの甘さがあっていい。由緒正しいミルククッキーだ。しかも、クッキーの表面に素直になれない女の子のセリフみたいなものが書いてあってこれもなかなか面白い。


『バカバカバカバカ! ……好きなんだからね』


 人間は馬鹿と言いながら好きと伝えることで自身の好意を伝えるものなのだろうか、とクッキーに印されているセリフを見て一瞬考えたが、これは流石に早とちりだろう。首を振って考えを振り払う。

 しかし、この『ツンデレ』のセリフというのはなかなか面白い。私も喋ってみよう。


「勘違いしないでよね、アンタのためじゃないんだからね。ぱくっ」


 ほう、恥ずかしいがこれはこれで悪くない。顔を背けて言ったりすると点数が高く付きそうだ。

 なお、今はアニメ専門店から抜けて、食べ歩きモードになっている。現在の目的は特にない。どうにも、頭をすっきりさせないと知識を蓄えられそうにもないし。


「にしても、面白いなぁ。好きなんじゃないんだからね、バカ。あむっ」


 しかし、セリフを喋りながら食べると、美味しさが二割増しな気がする。あと、通行人の男が振り向くのがなかなかに面白い。顔を真っ赤にしてドキドキしたぞ、という感じの顔で見つめてくるのは楽しい。ちょっとした悪戯心が働いて、遊びたくなる。


「大嫌いっ! う、うそ。だ、大好きだよ! ……ぱくぱく」


 今のは感情を入れすぎた。ちょっと恥ずかしい。だからワザとらしく擬音を混ぜながらクッキーを食べる。しかし甘ったるい、とにかく甘ったるい思いがクッキーに変化した感じがして、これはこれでありかもしれない。


「でも、これ以上はもういいかな……」


 耳に熱を感じる。楽しいけど、連続してセリフを言ってると恥ずかしくて辛い。一人のときにもっと研究してみるか。


『ツンデレクッキーの美味しい食べ方』


 ちょっとバカらしいが悪くない。これもメモしておこう。もしかしたら、本当にもっと美味しく食べれるかもしれない。にやにやしながら、メモ帳を閉じた。

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